死霊魔法使い vs チートスキルで除霊無双?
「・・・とぉ、これは・・ここ。よし、準備出来ました。さてと、それではクスノキくん達を呼んできましょうか」
円寿達が風呂場にいる頃、円寿の魔法適正判断の為の準備を終えたシフォン。
コンコンーーー
「シフォン、いるかい?」
「・・・(この声は・・・)はい、シフォンはここにいますよ、お兄様」
ガチャッーーー
「やぁシフォン」
「ドリュースお兄様、お勤めご苦労様です」
「そちらこそね・・・おや?これは、魔法適正審査の儀式かい?」
「はい、実は今日この寮にお客人が来てまして・・・」
「お客・・珍しいね」
「はい・・その子、獣人なんです。獣人ですが、魔法に興味があるみたいなんです。あたしが魔法適正をしてみないかと言ったら、その子目を輝かせながら了承してくれて・・魔法を使う獣人がまったく確認されていないのはお兄様も存じていますよね。巷では、そもそも獣人は魔法を使う事が出来ないという声もあるみたいですが・・・あたしは、そんな事は無いと思います。魔法は、種族関係無しに皆が使える平等な物だと信じています。たしかに、向き不向きはあるとは思います。それに、獣人の方々は身体能力が人間に比べて凄まじいのでそもそも必要無いのかもしれません・・・ですが、魔法のメリットは何も戦闘や労働に使う事だけではありません。強さや権力では繋ぐ事の出来ない絆の可能性・・それが、魔法にはあると・・あたしはそう思います。あぁすいませんお兄様。お兄様は、何か用があってこちらに来たのですよね。そうでなければ男子禁制の女子寮に堂々と入られないでしょう。それで、どんなご用件で?」
「ははははっ、これはこれは・・痛い所を突かれたね。たしかにわたしは男でこの寮には入っては駄目だ。しかし、わたしよりも先に・・男子の先客が来ているのではないかい?」
「・・・やはり、もうお気付きで?」
「あぁ、トゥモシーヌがクスノキ君を連れていった事はわたしの耳にも届いているからね。そっか、やはり・・・この寮に来ていたか・・・」
「?お兄様?」
「ん?あぁ・・いや、何でもないよシフォン。そうだね・・・シフォン、クスノキ君の魔法適正審査だが・・結果が分かったら知らせてくれるかい?」
「?えぇ、はい・・構いませんが・・・」
「うん、頼んだよ。それじゃ」
「お兄様、何処へ?」
「ん?何処へって、君の部屋だよシフォン。男子禁制の女子寮をウロつく訳にはいかないからね。近くの喫茶店で待ってても良いんだが、クスノキ君の魔法適正審査がどれくらい時間がかかるか分からない。あまり長居しても店員さんに迷惑だろう。ならば、妹の部屋でバレない様息を潜めてお茶でも飲んでいた方が良くないかい?」
「はっ、はぁ・・お兄様が、それでよろしいのでしたら・・・」
「うん、それじゃあ、待っているからね、シフォン」
「・・・」
一方その頃、時は戻り円寿・明奈・トゥモシーヌの三人がミサキリスの目の前で転移した頃の時間帯。魔導省本部の周りを囲む水堀の外側。猛烈な勢いで走ってくる褐色肌の女と、その後ろを何とかついて走る女達の姿があった。
ダッダッダッダッダッダッダッダッーーーキキィーーーーーズザザッーーー
「シャアッオラァッ!着いたぞぉ!」
サクネア・バサローその人である。長距離を走ってきてきたのに、その呼吸は一切乱れていない。
「あれか・・・あれが悪の総本山だな・・・」
サクネアの視線の先・・水堀の内側にそびえる城、魔導省本部。サクネアには、それが禍々しい妖気に包まれた魔物の城に見えていた。
「いやいや・・あそこにいる人達全員が悪者って訳じゃ無いでしょうよ」
少し遅れてやって来たのはチェルシー・モルガラ。彼女が左手で首根っこを掴んでいるのはナミミナ・カバック。
「・・・(チェルに引っ張ってもらったから楽できたわ)」
「何言ってんだチェル!あたしが見てきた魔導士共は全員がもれなく悪者だったぞ。一人いりゃ百人は悪者だ!剣山の一角だ!」
「そんなゴ○ブリじゃ無いんだからさ・・・あと、それを言うなら氷山の一角ね」
「そっちバージョンもあるな!」
「そっちバージョンしか無いよ」
「でさ~ぁ、サク姉~。水堀に囲まれてるけど~、どうやって向こう側まで行くの~?」
「んあ?何言ってんだナミ。んな物泳いで行くに決まってんだろ」
「うわ~、マジか~」
「いやいやサク姉、今さらこんな事言うのもあれだけどさ、あたしら獣人が泳げないて分かってるよね?」
「泳げないじゃなくて~、泳ぐのが下手なだけなんだけどね~」
「それが泳げないて言うのよ」
「大丈夫だ安心しろチェル!お前達獣人に無理に泳げなんて言わねぇよ。ここはあたし達・・人間が行くからよ」
「あぁ、そうなのね・・・ん?あたし達?」
「人間~?、あぁ~、そういえば~、ミョリンとケーギンは人間だったっけ~」
ラング・ド・シャットの面子は、チェルシー、ナミミナ、ウィネ他三名の獣人とリーダーであるサクネア、そしてミョリン、ケーギンの三人の人間・・計9名の構成されている。昔は20名程いたこのギルドだが、家庭を持った者、故郷に帰った者、独立した者、面子との折り合いが悪くなって去った者・・各々様々な理由でギルドを離れ現在の数になっている。ギルドに今も残っている面子と去った面子・・今を生きる場所は違えど皆共通しているのは理由は様々であるがサクネアに救われ彼女の人柄に惚れたという事。皆、サクネアの発言や行動にはなんやかんやあーだこーだ言いながらもなんだかんだついていってしまう。それがラング・ド・シャットである。
「ミョリン、ケーギン、サク姉からのご指名入ったよ」
「無理です」
「なぬっ!?」
即答したのはミョリン。実にシンプルな断られ方をされて驚くサクネア。
「え~とぉ・・・サク姉直々にご指名とか凄く嬉しいし、サク姉の言う事はなんでも聞いてあげたいけど・・ごめんサク姉。この水堀を泳いで行くのは流石にうちらの体力じゃきつい・・な。あっははっ・・・」
「むぅ・・・」
申し訳なさそうに答えたのはケーギン。ケーギンの表情を見て、こちらも困ったといった表情のサクネア。
「あとシンプルに濡れるのが嫌です」
「ミョリン~、それな~」
「あんたは今関係無いでしょ、ナミ」
「ぬぅ・・・たくっ・・しょうがねぇなぁ。わぁーたっ、わぁーたよ。あたし一人で行くわ。お前達はここであの城見張っててくれ。うっし・・・」
そう言うと魔導省本部を真っ直ぐに見つめて準備体操を始めるサクネア。これから長距離を泳いで行くのだ。大事な事である。
「・・・(あぁ、マジでサク姉で一人で行くんだ。こりゃもう何言っても聞かないだろうなぁ。あたしらも泳げたら良かったんだけど・・いやサク姉が泳いで行く事に心配してんじゃない・・あそこにサク姉を一人で向かわせる事が不安だ。魔導士嫌いなサク姉があんな所に行ったら、確実にもめ事を起こすに決まってる。物凄く不安だ・・・サク姉の世話、エンジュにシュリジュリとミサキリスちゃん、それとエンジュの先輩ちゃんに任せる事になっちゃうなぁ・・・あぁ、物凄く申し訳ない・・まぁ、エンジュがいればそんなに暴走しないと思うけど・・・ん?そういえば・・・)ねぇ、サク姉少し思ったんだけどさ・・・」
「なんだぁチェル。止めてもあたしは行くぞ」
「それは分かってるよ。そうじゃなくて、紙・・どうするの?」
「ん?紙?」
「うん。これから魔導士さん達に、あの顧客リスト見せに行くんでしょ?」
「そうだ!物的証拠だ!」
「泳いで行ったら、そのリスト・・紙だからふやけて駄目になっちゃうんじゃない?」
「?・・・ハッ!?」
「・・・(あぁ、やっぱ何も考えて無かったな)」
「・・・(サク姉、めっちゃアホ面っす)」
呆れてため息をつくチェルシーとウィネ。
「サク姉~、瓶にリストを入れて~、蓋すれば~、紙濡れなくてすむんじゃな~い?」
「ぬおっ!それだナミ!今日は冴えてるなぁ!褒めてやる!」
ぬっと出てきたナミミナに、ビシッと指を指すサクネア。
「あざ~す」
「よっしナミ!瓶寄越せ!」
「持って無いよ~」
「なぬっ!?」
「ナミあんたねぇ、持って無いのに提案したの?」
「持ってるとは~、一言も~、言ってないんだぞ~」
「ぐぬぬ・・お前らぁ!瓶!瓶持っている奴はいるかぁ!」
・・・・・
「持ってない・・か・・・まぁ、空き瓶持ち歩く事なんてそうは無いよね」
「だあぁ!!しゃあねぇ!街まで一っ走りしてくるしか無ぇか・・・くそっ、こんな事なら常に酒瓶持ち歩くべきだったぜ・・・」
「街の~、裏路地だったら~、ガラ悪いお兄さん達が捨てた奴が~、落ちてそうだよね~」
「んな汚ぇ物拾わねぇぞナミ!ちゃんと酒瓶買って、すぐ飲み干してそれを使う!」
「そこはちゃんとしてんのねサク姉」
「たりめぇだろチェル!よし・・んじゃ行ってくっか・・・くっすまねぇエンジュ・・少し時間かかっちまう、すまねぇ・・・」
サクネアが、無念そうに魔導省本部に背を向け街へ走り出そうとしたその時、手を振りながら近づいて来る人影が一つ。
「サクちゃ~~~ん・・みんな~~~・・・」
「あ?誰だ?あれ」
「あれは・・・おっ、女将さん!?」
「はあっ!?なんで女将がこんな所に?」
肩の高さで両手を振りラング・ド・シャットの前に現れた女将事アズリール。困惑気味の表情のラング・ド・シャットの面々の前でもいつも通りの笑顔である。
「お疲れ様~みんな~、間に合って良かったわ~」
「・・・(間に合った?)あぁ、女将・・その・・何か、ようか?」
「そうなの。サクちゃん、あなたに今必要な物を持ってきたわ」
「必要な物・・・もしかして、瓶持ってきてくれたのか?」
「瓶じゃ無いわ。」
「違うのかよ!」
「瓶では無いけど、瓶と同じ機能を果たしてくれる物よ。」
「それってぇ、何ですか?」
不思議そうな表情でアズリールに問いかけるチェルシー。
「じゃじゃ~ん!これよ~!」
「・・・・何だ、それ?」
「透明な・・袋・・ですか?」
「これはね、ファスナー付きのプラスチックバッグよ」
「ふぁ・・ふぁすなーの・・ぷら・・何て?」
アズリールが取り出した物・・いわゆるジッ○ロックである。
「サクちゃん、その紙・・貸してくれるかしら?」
「あ・・あぁ、雑に扱わんでくれよ」
「大丈夫よぉ、安心して。この紙を、このプラスチックバッグに入れて・・ファスナーを閉じます」
「ほぉほぉ・・・」
「そしてこれを・・・そこのお池にポチャン」
「!?!?」
「はぁあ!?ちょっ・・何してやがる!」
「あら、そう声を荒げないでサクちゃん。安心してて言ったでしょ?」
「いやでも・・・」
「紙~、濡れちゃってるんじゃないですか~?」
「あらあら、大丈夫よチェルちゃん、ナミちゃん。あの紙が大切な紙だって事はちゃんと分かってるわ」
そう言うと、水堀に浮かんでいるプラスチックバッグを拾い上げ手で軽く水を払うアズリール。
「さて、ファスナーを開けてと・・はいサクちゃん。触ってみて」
「・・・?・・!?濡れて・・ない・・・だと・・・」
「!?!?」
「このプラスチックバッグはね、水に強い素材でできているのよ。だから、これに入れておけば紙も濡れないですむわ」
「そっ、そうなのか・・・」
「女将さん・・なんで、そんな物持っているんですか?」
「お料理とかの保存の為に持っているのよぉ」
「あぁいやそういう事じゃなくて・・あたし達、今まで生きてきた中で、そんな素材の袋・・見た事無いんですが・・・」
「そりゃそうよ~、このプラスチックバッグ、この大陸には存在しないのだから。」
「???・・・存在・・しない?」
アズリールの返答に困惑するチェルシー他ラング・ド・シャットの面々。そんな中、渡されたプラスチックバッグに再びリストを入れ直すサクネア。
「へっ!まぁ、何だって良い!これでリストが濡れずにすむ訳だ。心置きなく、ぶち泳ぐ事が出来るぜ!ありがとな女将!このぷら何とか借りてくわ。この恩・・かならず返すぜ!」
「あらあら、サクちゃんたら。今まで通りお店に来て、沢山料理を食べてくれればそれで良いのよ」
「おう!しゃあぁっ!そんじゃまぁ・・一泳ぎしてくらぁ!」
そう言うとサクネアは、水堀に向かって走り出しそのまま華麗に飛び込む。10m位に潜水した後、クロールで魔導省本部まで猛スピードで泳いでいった。
「あら~、サクちゃん泳ぎ上手なのねぇ」
「前に海賊と戦った時も思ってたんすけど、何でサク姉・・服来たままあんな早く泳げるんすかね・・・」
頭に汗マークを流しながら、若干引き気味に話すウィネ。
「しかも~、あの時は~、そこそこ荒れてる海だったからね~」
「・・・あの・・女将さん。その・・聞きたい事があるんですけど・・・」
「あらチェルちゃん。何かしら?」
「その・・なんで、あたしらが魔導省の本部に来ている事を知っていたんですか?あと、リストが濡れてしまう事に困っている事も・・それと、この大陸に存在しない素材て・・・何でそんな物を女将さんは持っているんですか?」
「あら~、質問が沢山来ちゃったわ。そうね・・三番目の質問はね、シンプルに向こうの大陸に知り合いがいて、送ってきてもらっているのよ。それで・・一番目と二番目の質問の答えはね・・・」
「答えは・・・」
ゴクリと息を飲むチェルシー。ここでナミミナ何かに気がつく。
「・・・(あっ、あたし、この後女将さんが言う事分かる気がする・・・)」
「女神様の神託よ!」
「・・・・・へ?」
「・・・(やっぱそれか~)」
ワッシャワッシャワッシャワッシャワッシャーーー・・・
「~~~~~」
円寿くんをめぐるお風呂場の熱すぎる激闘を終えたあたし達は、アオイさんの部屋に戻っていた・・・激闘・・・そう、激闘だったんです。隙あらば円寿くんを誘惑しようとするアオイさん。無自覚に円寿くんに接近するトゥモシーヌさん。そして、不可抗力で鎧を着込んで無い我が双丘を円寿くんに披露しそうになったあたし・・・不可抗力です。不可抗力だったんです。円寿くんになら見せても良いと一瞬思ってしまいましたが不可抗力です。全部不可抗力が悪いんです。みっ、未遂に終わったんだから良いじゃないですか!・・・ふぅ・・あぁ、なんだか物凄く疲労感が・・疲れを取る為のお風呂なのに何故さらに疲労を蓄積せにゃならんのですか・・・
ワッシャワッシャワッシャワッシャワッシャーーー・・・
トゥモシーヌさんは本当にマイペースだ。部屋に戻ってきてからも、円寿くんに頭皮マッサージを行っている・・無表情で。円寿くんをリラックスさせる為の頭皮マッサージなのだろうが、おそらくもう円寿くんの緊張感は無くなっている・・と思われる。その証拠に、円寿くんは今とても気持ち良さそうにマッサージ受けている。お風呂上がりで血行が良くなっているからマッサージの効果がより出ているのだろうか?そんな円寿くんを無表情で黙々とマッサージするトゥモシーヌさん。なんだろうか・・円寿くんの頭を気に入ったのかなトゥモシーヌさん。それにしても・・・むむむ、もう結構長い時間円寿くんに触れている・・・羨ましい・・・まっ、まぁあたしだってお風呂に入る直前に円寿くんと手を繋ぐ事ができたし・・・そして、いつの間にか赤ワインを飲み始めているアオイさん。どこから出してきたのだろうか?冷蔵庫らしき物は無い・・まぁ、この世界の文明的に部屋に置く事の出来る冷蔵庫は無いか。あれかな、トゥモシーヌさんみたいに魔方陣からポワンと出したのかな?あれやっぱ便利だよなぁ・・・あたしも魔方の勉強が出来る様になったらあれを真っ先に取得しようと思う。
「・・・・はぁ・・・ふふっ・・・」
アオイさん、この人本当にもう何か・・・エッチ!ワインの飲み方までエッチ!お風呂上がりで火照ってるからより表情が色っぽくなってる!あたしが男の人だったらそりゃもう勘違いしまくりですよ!・・・その表情、僕を誘っているのかい?・・何て言ってね・・おっさんじゃん、あたし完全に思考回路がおっさんになってんじゃん。いやあたしがおっさんだろうがどうでも良いんですよ。そんなエッチな表情のアオイさんの視線の先・・・円寿くんがいるんです。さっきからマッサージ受けて気持ち良さそうな円寿くんを見ながらワイン飲んでるんですよこの人!円寿くんを酒の肴にしないで下さい!
「~~~~~」
でも良かったぁ、円寿くんアオイさんの前でも緊張しなくなってる。アオイさんに出会った時は、移動する時ずっとあたしの背後に隠れてアオイさんの視界に入らない様にしてたのに・・・可愛いかったなぁ、おどおどしながらあたしについて来る円寿くん・・あぁ、贅沢言わないから円寿くんみたいな義理の弟が欲しい・・・でも、今のあたしと円寿くんてまさに姉弟みたいじゃない?トゥモシーヌさんではなく、あたしの後ろについて来た・・あれはあたしの事を信用してくれてるて事で良いんだよね円寿くん・・頼りにしているて事だよね円寿くん!あたしだったら安心して側に入られるて事だよね円寿くん!!・・・う~~ふっふ~~ふ~~・・・
「・・・あっ、そうだエンジュくん。あたしね、エンジュくんに聞いてほしい事があるの。聞いてくれる?」
「!はいっ、何でしょうか?」
ん?アオイさんが円寿くんに聞いてほしい事・・・なんだろうか?
「うん、実はね・・エンジュくん達と会う前にね、この部屋で・・着替えてた時なんだけど・・・」
「!?」
ん?部屋でアオイさんが着替えていた?それって・・・
「服を脱ぎ終わった時かな、誰かが部屋に入ってこようとしてたの。失礼しま・・まで聞こえて、振り向いたら誰もいなくて・・・あたし、びっくりしてすぐに扉の外を確認したんだけど、誰もいなかったの。エンジュくん、あたしね・・魔法には様々な可能性があるから大体の事情は許容範囲なんだけど・・幽霊とか、この世にすでに存在していない者とか・・そういう生物の事情が通用しない存在が凄く苦手なの。あたし、もしかしたら幽霊に遭遇したのかなて思って凄く不安なのだけれど・・・エンジュくんは、何か心当たりがあるかな?」
あっ、アオイさん・・そっ、その話題は・・・円寿くんの様子はぁ・・・あぁ!焦りだしてるぅ!はわわわてなってるぅ!あぁもう、せっかく円寿くんか落ち着いてきたと思ったのに・・振り出しに戻っちゃったよぉ・・それに、アオイさんのその質問・・どっちですか?!本当に幽霊の可能性だと思っているのか、それともすでにそれが円寿くんだと気づいていて様子を伺う為に探っている・・・アオイさんのキャラ的に後者の可能性が高いよー!いや・・確実に後者!あぁどうしよう・・バレてたよぉ・・このままじゃ、円寿くん覗き魔のレッテルを貼られてしまう・・・違います!円寿くんはそんな不純な子じゃありません!女の人に軽蔑される様な事をする子じゃないんです!もし、円寿くんが周りから冷たい目で見られる様な事になっても、あたしだけは・・あたしだけは死ぬまで・・いや、死んでも円寿くんの味方でいる!いなくちゃいけない!・・・流石に、被害妄想が過ぎるか・・これは。いや、相手はアオイさんだ。もしかしたら、こんなパターンも。。。°°00○○
「ねぇえエンジュくん、もしかして・・その幽霊はエンジュくんなんじゃないかなぁ・・てぇ。そうだとしたら・・・うっふふっ、いけない幽霊さんだなぁ・・あたしの裸を見た事隠しているなんて・・どうしよっかなぁ。この事・・周りに教えちゃおっかなぁ・・・」
「!?ごっ、ごめんなさいアオイさん!かっ、隠すつもりは無かったんです!その・・・ぼく、アオイさんに許してもらえるなら・・なっ、なんでもやります!だから・・周りの人達に教えるのは・・・」
なんでもやります・・円寿のその言葉を聞き舌舐めずりをするアオイ。
「・・・ふ~ん、なんでも・・するんだ・・・そうね・・それじゃあ・・今日はあたしの部屋、あたしのベッドで、あたしと一緒に・・寝てもらおうかなぁ。それでぇ・・あぁんな事やぁ、こぉんな事・・ふふっ、してもらおうかなぁ・・・」
「いっ、一緒に・・・ね、ね・・///~~・・・あんな事や・・こっ、こんな事・・・//わっ、わかりました・・・ぼく、アオイさんと・・一緒のベッドで・・ね・・ね、寝まs・・・」
嫌あああああぁああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!円寿くんがエッチな目にあっちゃううううううううぅぅぅぅぅ!!!!!駄目ぇぇ!そんなの絶対に駄目ぇぇ!!仮に・・えっ、円寿くんがそれを望んでいたとしても・・・駄目ぇ、そんなのあたしが耐えられないぃぃ・・・守らなくちゃ・・円寿くんの純情を・・円寿くんの貞操をぉ!あたし・・・
「あっ、アオイさん!!」
「!・・?」
がっ!?えっ、円寿くん!?その顔を赤くしながらも一生懸命勇気を振り絞っている表情・・トゥモシーヌさんもマッサージ止めて不思議そうな顔してるけど・・もしかして、円寿くん・・・
「ごめんなさいアオイさん!その・・その幽霊というのは・・・ぼっ、ぼくです!本当に・・申し訳ありませんでした!!」
言っちゃったあぁ!!円寿くん自ら言っちゃったよぉ!!ああああぁ、どうしよう・・このままだと、円寿くんがエッチな目にぃ・・あんな事やこんな事されちゃうぅ・・・
「・・・・・」
「あっ、あの・・アオイさん、これは・・ですね・・決して円寿くんは悪い訳ではなく・・あぁあたしが・・・」
「はあぁ~、良かったぁ~!」
「!」
「えっ?よっ、良かった?」
「うん・・だって、この寮に幽霊がいるて思ったら気が気じゃなくなっちゃうもの。不安で夜も眠れなくなるわ。はぁ、エンジュくんだったのね、安心したわ」
こっ、これは・・セーフ?結果オーライ?まっ、まぁ円寿くんが咎められもせずエッチな目にあいそうもないから良かったのかな。ていうかアオイさん、本当に幽霊とか苦手なんだ。なんか意外・・・
「ふふっ・・ん?て事は、エンジュくんあたしの部屋に間違って入りそうになったて事よね・・こ~らぁ、女子寮に男の子が一人で出歩くのは駄目ていったでしょ。気をつけなきゃ駄目でしょ」
「!?もっ、申し訳ありません!」
スッーーーナデナデーーー(円寿の頭を撫でる)
「トゥモ~、気にしなくていいよて言う意味でエンジュくんの頭撫でてるけど、そもそもトゥモが一番気をつけなきゃいけないのよ。エンジュくん連れてきたのはトゥモなんだから。まったく・・・もぉっ、あたしにもエンジュ君撫でさせて!」
「!・・~~~~~」
はっ!?美女二人が円寿くんを撫で回している!?トゥモシーヌさん頭をアオイさんに取られたから、今度は頬っぺた揉み始めた・・・羨ましい・・二重の意味で・・・でも良かったぁ~、円寿くんのアオイさんへの問題が解決できて・・・
コンコンーーー
「アオイ、入りますよ」
ガチャーーー
「!シフォンさん!」
「ふふふっ・・クスノキくん、魔法適切審査の準備が出来ましたよ」
「!分かりました!今向かいます!」
つっ、遂にこの時が来てしまった・・この審査の結果で、円寿くんの今後この世界で生きて行くモチベーションが決まる・・・かもしれない。まぁ多分、円寿くんの事だから仮に魔法が使えないて分かっても、それはそれでしょうがないと割り切ってくれるかな?いやでも、やっぱし少しは落ち込むかな?落ち込んでいる表情の円寿くんも可愛いんだよなぁ・・耳がさ、へにゃんてなるんですよ。脳に一番近い部位だからかな、円寿くんの感情によく反応するんですよ・・可愛いなぁもう・・・いやいやいやっ!落ち込んでいる表情よりも、魔法を使えると聞いて喜んでいる表情の円寿くんの方が良い!そっちの方が良い!目と顔の周りをキラキラさせている円寿くんの方が可愛いに決まっている!!ピコーンてなってピコピコで動き出す耳が見たい!!頼みますシフォンさん、円寿くんを・・何卒円寿くんを笑顔にしてやって下さい・・・てな訳で、不安な気持ちのあたしに反して期待に胸を膨らませワクワクと音が出そうな表情の円寿くんとしれっとついて来ているトゥモシーヌさんとアオイさんと共にやって来ましたこのお部屋。いかにも占い師の館みたいなこの空間。壁にかけられている蝋燭の光がどこか妖しい雰囲気を醸し出している。テーブルにはデカデカと魔方陣が書かれており、水晶玉が置かれている。トゥモシーヌさんが見せてくれた水晶玉よりも少し大きめだ。
「さぁ、クスノキ君。こちらに座って下さい」
「!はいっ!」
案内された入口側から見て手前の椅子にシュバッと座る円寿くん。背筋をピンとさせ、手は膝の上、足はしっかり閉じて非常にお行儀良く座った。そして、テーブルを挟み対面に座ったシフォンさんと向かい合う形になる。そんな円寿くんの後ろに、シフォンさんから見て左からあたし、トゥモシーヌさん・・そして、部屋に最後に入り扉を閉めたアオイさんの順に立ち円寿くんを見守る。
「さて・・それじゃあ早速始めたいと思います。クスノキ君、この魔方陣に手を置いてくれますか?」
「はいっ!置きます!」
凄く返事の良い円寿くん。ワクワクした感情がとても伝わってくる。なんと微笑ましいんだろうか。それにしても円寿くん、その如何にも怪しげな魔方陣に躊躇無く手を置けるの凄いな。あたしだったら疑っちゃって手置くの躊躇すると思う・・・ん?・・おぉ、魔方陣がスゥーと光出しましたよ!円寿くんもちょっと驚いている。こっ、これで円寿くんに魔法が使えるかどうかが・・今後の異世界ライフが輝かしい物になるかどうかが・・あぁヤバい、滅茶苦茶緊張して来たぁ・・・お願いします!神様仏様女神様、シフォン様!円寿くんに・・推しに希望を・・魔法を与えてやって下さい・・南無南無南無南無南無・・・
「・・・!・・これは・・・」
水晶玉を覗くシフォンさんが何かに反応する。これは!?これはなんなんですかシフォンさん!?その反応は・・どっち!?どっち何ですかシフォンさん!!
「・・・クスノキくん、結果が出ました・・・」
「はっ、はいっ!」
「単刀直入に言いますね。魔法適切審査の結果、クスノキ君・・あなたは・・・」
「・・・」
ゴクリと音が鳴るかの如く息を飲むあたしの喉。あぁやばいどうしよう、めっちゃ吐きそう・・・
「水属性です。」
「!!水!・・・属性?」
「あっ・・えと、つまり・・円寿くんは魔法を使えるんですか?」
「はい、クスノキくんには魔法を使う事が出来る魔法神経がしっかり開いています。おめでとうございます、クスノキくん!」
「・・・はあぁぁあ!ありがとうございます!ぼく、魔法使えるんですね!先輩!ぼく、魔法使う事が出来ます!まほう・・しんけい・・が、開いているみたいです!嬉しいです!!」
「はひっ・・・よっ、良かったね円寿くん・・あぁあたしも、凄く嬉しいよ・・・」
「はいっ!!」
スッーーナデナデーーー(円寿の頭を撫でるトゥモシーヌ)
「ふふっ、良かったね、エンジュくん」
ぷにぷにーーー(頬をつつく)
「~~~~」
あ"ははあ"ぁぁぁぁ・・良かったぁ・・円寿くん魔法使えるよ"おぉぉ・・嬉しい・・自分の事の様に嬉しいよ"おぉぉ・・しかも真っ先にあたしに向かって振り向いてくれたよ"おぉ・・不意打ちだったよ"おぉぉ・・不意打ちで推しの満面の笑顔の輝きを食らっちゃったよ"おぉぉ・・あたしの心にクリティカルヒットしたよ"おぉぉ・・あはぁもう・・尊い・・尊いよ"おぉぉ・・・
「ていうかシフォン、あなた単刀直入て言ったのに先に属性言ってるじゃない。まずは魔法が使えるかどうかでしょ」
コクッーーー(頷くトゥモシーヌ)
「えっ?あぁすいません、あたしときたら・・遂テンションが上がってしまい伝える順番を間違ってしまいました。申し訳ありません・・あはは・・・」
なぬっ!?シフォンさんのテンションが上がったですと?やっぱし、それ位獣人の円寿くんが魔法を使える事は珍しいて事なんだ。しかも、水属性て・・・これまたトリッキーな属性を引いたな円寿くんは。
「あのぉ、シフォンさん。その・・属性て、何ですか?」
「?あぁそうでしたね。クスノキくんには魔法について一から教えないといけませんね。それでは、長話しになりますので・・トゥモシーヌ、三人分の椅子を出してもらって良いですか?」
コクッーーー
ブオンーースゥーーカァーーパッーーー
あっと言う間に三つ椅子を出して見せたトゥモシーヌさん。ん?あぁこれに座って円寿くんと一緒にシフォンさんの魔法に関するお話しを聞けて事ですね。そういえば、あたしも一応魔法が使えるけど・・デメティールさんに使える様にしてもらった充電魔法・・もとい電力操作しか出来ない・・てかそもそも本来魔法てどうやったら使える様になるのかすら知らないしなぁ。あたしもしっかり聞いておこう!
「さて、まずは魔法の属性から・・と、言いたい所ですが・・先にどうしたら魔法が使える様になるかを説明したいと思います。属性は、その後に話しますね」
「はいっ!よろしくお願いいたします!」
「ふふふっ、それでは説明しますね。魔法を使える様になるには、まず体内にある通常の中枢神経と末梢神経とは別に存在する魔法神経が開いているかどうかを知る所から始まります。この神経が開かれていないと、魔法を使うのが難しくなります。つまり、魔法神経が魔法を使う為のスタート地点な訳です」
「エンジュくんはぁ、スタート地点に立てたって事だよ」
「!?はっ、はいっ!//立つ事が出来ました!//」
「スタート地点に立てたら、次は魔法を出す仕組みです。魔法は、魔法神経から生み出されるオドと、自然界に存在しているマナを制御・増幅させ、生み出した魔力を使う事により魔法を発動させる事が出来ます」
あっ、オドとマナ・・それ知ってる!ファンタジー系の作品でよく聞く奴!へぇ・・やっぱりオドとマナて全世界共通の存在なんだぁ・・・あっ、円寿くんキョトンとしている。頭に?マークが浮いてる。オドとマナて聞いた事無いのかな?よしっ、オドとマナの説明だったらあたしでも出来そうだから円寿君に教えてあげよう!
「あっ・・円寿く・・・」
「エンジュくん」
「はうっ!?」
あっ、アオイさん・・速いぃ・・・
「!」
「オドもマナもね、簡単に言うとエネルギーみたいな物でぇ、自分で出せるか自然界の力を借りるかの違い・・て、覚えておけば良いと思うよ」
「!なるほどっ」
ぐぬぬぬっ・・・アオイさんに持ってかれてしまった。なんだろう、あたしがどんくさいのかな?それともアオイさんのシュバり具合が凄いのか・・・とにかく円寿くんに近づくスピードが速い・・・
「説明ありがとうございますアオイ。そして、生み出したを魔力を使い魔法を発動させる方法が二つあります。一つ目は、発動させる魔法を自身の口で唱える方法・・詠唱です」
「えいしょう・・・」
詠唱キターー!魔法と言えば詠唱ですよね!クールにカッコ良く、良い声で魔法を繰り出す・・憧れるぅ~!
「魔法は自身が思い浮かべた想像を現実に発生させるのですが、その際詠唱を唱える事により、より鮮明に自身の想像を生み出す事が出来る。強力な魔法ほど、唱える詠唱も長くなります・・いわば詠唱は魔法の補助装置ですね」
へぇ・・魔法は想像か。たしかに、頭の中だけ想像するよりもその想像した物を口に出した方が分かりやすいもんね。むむ、つまり日頃から妄想に妄想重ねているあたしはもしかしたら凄い魔法を使う事が出来るのでは?むほほほっ、これは夢が広がりますなぁ。
「二つ目は、予め魔法に使う詠唱を文字に書き出し、その書き出した詠唱をなぞって魔法を発動させる方法です」
「詠唱を文字に・・・書き出す?」
「ええ、そもそも魔導士は魔導書を使って魔法を学ぶんですが・・この魔導書には書物によって様々な詠唱の文も書かれています。魔導士は、この魔導書に書かれている詠唱文をそのまま使ったり、参考にして自身オリジナルの魔法の為の詠唱を作ったりするんです・・そんな魔導書ですが、自身の魔力を魔導書に流し発動させる魔法の詠唱文を指等でなぞる事により、詠唱せずに魔法を発動させる事が出来るんです」
「!・・・?シフォンさん、えいしょうを読むのと、文字をなぞるで、何か違いがあるんですか?」
「ふふふっ、クスノキくん良い質問ですね。たとえばこちらの詠唱文・・・ーー風よーー荒れ狂うその身はーー龍が如し天を舞いーー暴風となりこの大地にーーさんざめけ!ーーー・・・という詠唱文の場合ですね・・あっ・・・はははっ・・申し訳ありません。魔力は込めてませんので、実際には出ませんよ。驚かせてしまいましたか?」
びっ、びびったぁ~・・一瞬このそこそこせまい部屋で魔法を出すのかと。暴風・・とか龍・・とか言ってたから、多分竜巻を生み出す魔法だと思うんだけど、そんなのこの部屋で出したらとんでもない事になるよ!?円寿くんもびっくりしてるし・・シフォンさん、急な詠唱は心臓に悪いですよ!
「それではクスノキくん、先程の詠唱を唱えましたが・・文字を口にした時に発生するデメリットはなんだと思いますか?」
「デメリット、デメリット・・ですか?う~~ん・・・!文を読んでいる最中に、噛んでしまう・・とかですか?」
「詠唱文を噛んでしまう・・そうですね、それも正解です」
「!」
スッーーナデナデーー(円寿の頭を撫でるトゥモシーヌ)
「口が回らず詠唱を口に出して言えなかったり、そもそも詠唱がうろ覚えで最後まで言いきれない・・これが詠唱を口にする時のデメリットです。とくに、長い詠唱が必要な魔法だとより大変になります。しかし、予め書いてある詠唱文をなぞるだけなら、詠唱がうろ覚えでも滑舌が悪くても問題無く魔法を発生させる事ができますね」
「なるほどっ!・・・?シフォンさん、魔法を発生させる方法て、その二つだけですか?」
「はい、そうです」
「・・・トゥモシーヌさんが使う、てんいまほう・・は、詠唱も口にしてないし、文をなぞっている仕草も見られ無いんですが・・・」
「ふふふっ、クスノキくん、そこに気がついてしまいましたね」
「!」
おっ?シフォンさんの眼鏡がキラーンと光った?たしかにトゥモシーヌさん円寿君の言った通り無動作で魔法使ってる。口を開く処か微動だにせず、いきなり魔方陣が出てその瞬間に転移しちゃってるんだよなぁ。
「トゥモシーヌが詠唱もせず、詠唱文をなぞる仕草もせず魔法を使う事が出来るその理由ですが・・・」
「・・ですが・・・」
「・・・分かりません」
「・・・!?」
「・・・(ガクッ!)わっ、分からないんですか?!」
「そうなんです、分からないんです。なんせトゥモシーヌは、多くの魔導士達が取得しようと懸命に学び一生懸命に修行し、それでも取得出来ずもがき苦しみ・・千年もの間扱える者がいなかった転移魔法を、感覚だけで取得してしまった類を見ない天才魔導士なんです。無詠唱無動作で魔法を扱えるなんてトゥモシーヌにとっては瑣末な事なんですよ。あっ、ちなみにトゥモシーヌ自身は感覚で出来てしまっているので、転移魔法を教えたり伝える事は出来ないみたいです」
「・・・・・」えっへんっ!
トゥモシーヌさん、腰に手を当てて胸を張ってる。無表情のままなのにもの凄くドヤァ・・感が伝わる顔してる。でも教える事は出来ないんだ。プロのアスリートの人達にもいるよね、自身のパフォーマンスは凄いんだけど、そのパフォーマンスを説明する事が出来ないから教えるのが下手て人達が。トゥモシーヌさんはまさにそのタイプて事か。
「トゥモシーヌさん!凄いです!カッコ良いです!」
「!・・・///」
スッーープニィーーー(円寿の頬を指で押す)
真後ろに顔を振り向かせる円寿くんの言葉に、照れ隠しなのか円寿くんの頬をつつくトゥモシーヌさん。何か言いな・・・
「ふふふっ、あらあら・・・(トゥモシーヌが頬を赤らめるなんて・・本当にクスノキくんの事を気に入っているのですね。トゥモシーヌ・・・)さてさて、それではお待ちかね・・属性の話しをしたいと思います」
「はいっ!お願いします!」
「はい、魔法にはですね、それぞれ・・火、水、風、地、雷、氷、空の七つの属性があります。クスノキくんは、先程も言った通り水属性です。この属性は、あたし達人間や獣人・・その他の種属一人一人に生まれた時から備わっており、魔法の学び始めた初期の段階では、この生まれもった属性を中心に魔法を学んでいきます」
「なるほどっ・・・あっ、氷属性の魔法・・交流会の時にドリューズさんに見せてもらいました!あと、ミサちゃんが珍しい魔法だって言ってました」
「あら、兄さんがそんな事を・・・」
「ふふっ・・ちなみにねエンジュくん、水属性もね・・珍しい属性の一つなんだよ」
「!?そっ、そうなんですか?//」
「そうなんです。属性には、下から地、風、火、雷、水、氷、空の順に希少価値が上がっていきます。地、風、火は持つ者が多く・・空、氷、水は持つ者は比較的少ないんです。クスノキ君の水属性は三番目に希少価値が高い属性なんです」
「水属性・・・珍しい・・・はあぁあ~!」
あっはっはぁ~・・円寿くん目を輝かせて喜んでる~。嬉しいよね~珍しい属性で~。あたしも嬉しいよ~・・・うっうん・・にしても、属性には希少価値があるんだ。血液型でA型が多くてAB型が少ないみたいな・・あたしの雷属性は丁度真ん中か。ゲームで言う所の、地がC、風と火がUC、雷がR、水がHR、氷がSR、空がSSR・・・みたいな感じかな?勝手に雷属性をR扱いしちゃっているけど・・まぁ良いよね。
「ちなみに、あたしが風・・トゥモシーヌは雷でアオイが氷属性です」
えっ?トゥモシーヌさん雷属性なの?!ここここれはチャンス!
「あっ、つっ・・あのっ、トゥモシーヌさん!」
「?」
「あぁあたしもっ!実は、雷属性でして・・おぉ同じっ、何ですね!もっ、もし良かったら・・雷属性の魔法の事、教えてもらってもよろしいでしょうか・・・?」
「・・・・・」
良かった、何とか伝えられた・・・はっ!?いっ、いきなり魔法教えてくれなんて・・図々しかったかな?あぁああどうしよう~こいつウザいとか思われたかもしれない~・・トゥモシーヌさ~ん・・・
「・・・・・」
グッ!ーーー(サムズアップ)
「!・・・そっ、それは・・教えても良いて事ですか?」
コクッーーー
「!!あぁあありがとうございます!トゥモシーヌさん!よっ、よろしくお願いいたします!」
「先輩!良かったですね!」
「うっ、うん・・ありがとう、円寿くん・・・ん?あれでもたしかトゥモシーヌさんて、さっき魔法教える事が出来ないて・・・」
「そこは大丈夫よアキナちゃん。転移魔法だけが規格外で説明が難しいてだけで、普通の魔法だったらトゥモでも問題無く教える事が出来るから。そうでしょ、トゥモ」
コクッーーー
「そっ、そうなんですね・・良かったぁ・・・」
「・・・先輩とトゥモシーヌさんが雷・・アオイさんが氷・・シフォンさんが風で、ぼくが水・・他には地と火と、たしか空・・・空?・・・(空・・空?空気?空て何だろう?)シフォンさん、空属性て・・具体的にどうゆう魔法何ですか?他の属性は、何となく分かるんですが・・・」
「空属性ですね。空属性の空は、空間の空です。」
「空間の・・空?」
「はい、空間を司る全ての魔法が空属性の魔法です。そうですね・・・例えば、今日クスノキくん達も見た魔導省本部の水堀を渡る際に乗っていた足場で、クスノキ君達を囲っていた質量のある結界・・・あれが、空属性です」
質量のある結界・・・あぁ、バリアの事ですね。円寿君、実在するバリアが見れて凄く喜んでたっけ。まぁ、あたしも生バリアには興奮しましたねぇ。
「そもそも、あの空飛ぶ足場も空属性である飛行魔法の応用の産物なんですよ」
「なるほどっ!バリアも、空を飛べるのも・・たしかに空間に関わっていますね。」
「そうなんです。そして、そんな空属性魔法の最高点が・・トゥモシーヌの転移魔法なんです」
えっへん!ーーー
トゥモシーヌさん本日二度目のえっへんいただきました。無表情だけど凄く得意気な顔してます。
「トゥモシーヌさんカッコ良いです!」
「!///」
スッーープニィーーー
「~~~・・・?シフォンさん、質問があります」
「はい、何でしょうか。」
「てんいまほう・・は空属性ですが、トゥモシーヌさんの属性は雷属性ですよね?自分の属性以外の魔法も使えるんですか?」
「そうなんです。あくまで、生まれもった属性は扱いやすいというだけなので、他の属性の魔法も鍛練次第で使える事が出来る様になるんですよ」
「!・・て事は、ぼくもこれから魔法の勉強をして鍛練を続けていけば・・・水属性の他にも、火や風・・空属性の魔法も使える様になるて事ですね!」
円寿くん、広がりまくる魔法への期待が溢れ出ているぅ。ワクワクとした気持ちが抑えきれないて顔してるぅ。可愛い・・・そんな円寿くんのキラキラ笑顔を真正面から食らっても優しい表情でいられるシフォンさん・・・凄い。円寿くんのあの表情を向けられたら、あたしだったら可愛い過ぎて過呼吸になってまともに会話出来ない・・・
「ふふふっ・・さてクスノキくん、ここまでで何か質問はありますか?」
「え~と~・・・!魔法を、今すぐこの場で使ってみたいのですが、出来ますでしょうか!」
「今すぐに・・ですか?」
ふふふふふ・・もぉ、円寿くんたら・・そんなに急いじゃって。可愛いんだから!でも・・ふふっ、分かるよぉ。例えるなら、買ったばかりのゲームソフトを早くプレイしたいと言う気持ち・・家に帰る時間すら惜しくて、携帯ゲーム機だったらすぐにプレイしちゃう・・・円寿くんは今、そんな気持ちなんだよね、そうだよね!あたしもどれだけ魔法が使えるか試してみたいし・・・どうなんでしょうか!シフォンさん!
「・・・そうですねぇ・・魔法初心者のクスノキくんが、今すぐに魔法を使うとなりますと・・・魔道書と、マツギョが必要ですね。」
魔道書と・・・ん?まっ、まつぎょ?この世界の魚・・かな?
「まつぎょ・・・!ぼく、まつぎょ知ってます!ミサちゃん達が使っていたんですが、丸い宝石みたいなので・・キラキラ光って連絡を取り合う奴ですよね!たしか・・・まつうぎょく?て、名前だったと思います。」
「あらクスノキくん、魔通玉を知っていたんですね。その通りです。魔通玉は、魔導士以外の人達も持っていまして、おもに連絡を取り合う手段に使われたりしますが・・本来魔通玉の役割は、魔法を発動させる為の発生装置なんです」
「はっせい・・そうち?」
「はい・・魔通玉には、先程も言ったオドやマナを溜め込み留め、魔法を発動させる時に魔力の出力の調整し、任意の場所に魔法を発動させる等の機能があります。魔通玉を持って無くても魔法は発動出来ますが、その場合は魔法が暴走したり・・まともに発動すら出来ないのが殆どです。本来魔法は、超自然的で強大な力であり個人が扱える様な物では無かったんです。そんな魔法を、一個人が扱える様にしたのが魔通玉なんです」
なるほど・・魔通玉は、魔法に関するアンテナでありコントローラーて事か。それに、魔法は超自然的で強大・・か。たしかによくよく考え無くても、いきなり炎を出したり風を巻き起こす事が出来るなんて危ないよね。それこそ人によっては、犯罪に使ったり戦争の道具とかに使ったりしそう・・・そういう魔法を悪い事に使おうとする人達に魔通玉を持たせないだけで魔法を封じる事が出来る・・て事かな。魔通玉、大事。
「・・・て事は、シフォンさん達も、まつうぎょく・・を今も持っている・・て事ですか?」
「はい、持っていますよ。あたしは・・これ。指輪に魔通玉を入れています」
「!・・・(緑色・・翡翠の宝石だ!綺麗・・・)」
「ちなみに、アオイはイヤリングに・・トゥモシーヌはペンダントにそれぞれ魔通玉を入れていますね」
「これだよエンジュくん」
スッーーー(ペンダントを持って見せるトゥモシーヌ)
「!・・・(アオイさんのは髪の色と同じ瑠璃色、トゥモシーヌさんは紫の宝石だ!どっちも綺麗だなぁ・・・)」
「それと魔道書ですが・・これは単純に魔法の仕組みや詠唱が書いていますので持っておいた方が良いですね。それに、魔道書には自身の魔力を一時的に高める効果もあります。魔法初心者は、まず魔道書と魔通玉を使って自身の身体に魔力が流れる感覚を覚える所から初めます。ですので、この二つが必要という訳です」
「なるほどっ・・・あっ、あの・・・シフォンさん・・その・・・」
「?どうしましたかクスノキくん」
むむむっ?どうしたのかな円寿君?頬を赤くして、何だか何かを言いたいんだけど言いづらい・・みたいな・・・とりあえず何か可愛い。
「・・・まっ、魔道書と!まつうぎょく・・て、おいくらでしょうか?!」
「おいくら・・ですか?」
「はい・・その、トゥモシーヌさんの部屋で魔道書を見たのですが・・分厚くて、表紙のデザインも良くて、紙の肌触りも凄く良かったので・・おそらく、それなりの値段のする本なんだろぅなって・・それと、まつうぎょく・・は宝石みたいで見るからに高そうと言いますか・・・はたして、ぼくの収入だけで買える事が出来るのか不安でして・・・」
「エ~ンジュくん」
「!?はっ、はい・・///」
「魔道書も・・魔通玉も、あたしが買ってあげても良いよ」
「!ほっ、本当ですか?」
「うん。一冊でも二冊でも・・一つでも二つでも、エンジュ君の為なら買ってあげられるよあたし・・ふふっ、でもぉ・・その代わりに・・・」
「代わりに?」
あれ?これ何だか凄く嫌な予感が・・・てかアオイさんてそんなにお金持っているの!?あぁ、そういえば魔導省てたしか羽振りが良いんだっけ?そこに所属してる魔導士の人達もやっぱりそれなりに貰っているて事なのか。いやいや、今はそうじゃなくて・・円寿君を見るアオイさんの目が!凄く・・エッチい!
「エンジュくんの都合が良い日で良いんだけどぉ・・1日エンジュくんの時間を・・あたしにちょうだい」
「ぼくの時間を・・ちょうだい・・・?」
あわわわわわわわわこここここれはぁ・・つまり・・・魔道書と魔通玉を買ってあげるから1日円寿くんと・・・デートさせてくれて事だあぁ!?そそっ、そんなっ・・物で釣ってデートしようだなんて・・・ふっ、不埒です!不純です!デートてのはもっと、こう・・純粋で!お互い対等な立場で!お互いを思いあいながらする物じゃないんでしょうかぁ?!・・・あたしはデートなんてした事ありませんけどね!・・・それはいいとして・・アオイさんやり方はあたし達の世界で言う所の、パパ活!いやママ活?いやアネ活か?とにかく悪いデートの仕方だど思います!
「どうかな?エンジュくん」
「・・・うーん・・・」
円寿くんもの凄く悩んでいる顔してる・・もっ、もしかして・・アオイさんの提案受け入れちゃう!?アオイさんとデートしちゃうの!?そんなの嫌だよ円寿くん~~・・・うぅ・・でも、円寿くんがその選択をしたのなら黙って見届けるのが・・ファンて物なのではないのだろうか。選んだ相手がたとえどんな相手であろうとただただ祝福するのがファンではないのか・・・いや別にアオイさんが悪いて訳ではないけど。むしろ滅茶苦茶優良物件だけど。美人、スタイル良い、仕事が出来そう、お金持ってる・・・ただ、ただなぁ・・円寿くんの(おそらく)初デートの相手て考えるとアオイさんは・・・なんかぁ、こう上手く言い表せられないんだけど・・もの凄く・・・如何わしい関係みたく見えてしまうと言いますか・・・とてつもなくアウトな香りがすると言うか・・・
「・・・」
「エンジュ・・くん?」
「・・・あの、アオイさん」
「な~にぃ、エンジュくん」
「その・・・時間をちょうだいとおっしゃりましたが・・・時間て、あげられる物なのでしょうか?」
「・・・え?」
「プッ・・・」
えっ、円寿くん・・・なんという天然ぷり!!あまりの天然具合にシフォンさんが笑っている。顔を後ろに向けて笑いを堪えている。トゥモシーヌさんは・・・いつも通り無表情のままですか。ちなみにあたしはと言いますと、安心したのとやっぱり円寿くんはこういう所が推せるんだよなと再認識して頬を緩めています。
「時間て、手に触れられる物じゃないですよね?その時間をあげるのてとても難しい事なのでは・・・!?もっ、もしかして・・・」
おっとぉ!?安心したと思ったら、円寿君もしかして時間をちょうだいの意味に気づいちゃった!?駄目~、円寿くん気づかないで~・・・
「もしかすると、魔法で・・時間を手に触れられる物に・・・物体化させる事が出来るんですか?!だとしたら・・・はぁああ!凄いです!魔法の可能性は無限大なんですね!」
円寿くん~♡そっか~、時間の物体化か~。円寿くんは想像力が豊かだな~。自分で想像して自分で喜ぶ円寿くん可愛い~なぁ♡
「・・・ぷっ、あはははははは」
「!」
「シフォン笑いすぎ・・はぁ~あ、もうエンジュくんたら・・・エンジュくんは本当に、可愛いなぁ」
プニィーーー
「ふふふっ・・アオイ、あなたの企みは・・どうやらクスノキくんには通用しないみたいですね。それにしても・・・ふむ・・なるほど時間の物体化・・ですか。その発想はあたし達魔導士にも無かったですね。ふぅむ・・・トゥモシーヌは、どう思いますか?」
「・・・ゲッシュを・・・応用すれば・・・出来る・・・かも・・・」
「ゲッシュ・・ですか。制約に使われる魔法を使うと・・・なるほど、良い観点ですね」
てぇ・・出来るんですか!?円寿くんの想像が本当に出来てしまう可能性があるとは・・・魔法恐るべし。
「あっ、それとですねクスノキくん。別にアオイに買ってもらわなくても、魔道書も魔通玉も用意できますよ」
「!そうなんですか?」
「ええ、魔道書はトゥモシーヌが沢山持ってますし、魔通玉は魔導士学校で貸し出ししている物がこの寮にもあります」
「もう、それ言わないでよシフォン。せっかくエンジュくんとデート出来ると思ったのに」
「!?でっ、デート・・ですか?///」
むふふふふ、アオイさん・・残念でしたね!邪な考えを円寿くんに持っては駄目なのですよ!あたしの場合は・・その・・・推しへの気持ちが、たまに・・暴走しちゃうだけです、はい・・・
「それで・・シフォンさん。結局の所おいくら何ですか?」
「はい、まずは魔道書ですが・・物にもよりますが、一冊平均銀貨一枚ですね。」
銀貨一枚・・・たしか、デア・コチーナで1日事務作業をして銀貨一枚と銅貨五枚貰えたっけ。これが、この世界の平均的な労働の対価なのかな?それとも、デア・コチーナだからなのかな?何にせよ1日働いた分に近い価値が魔道書にはあるって事か。
「そして、魔通玉ですが・・・安い物でも金貨一枚はしますね」
「金貨!」
「高額な物だとぉ、金貨十枚はするよ。ちなみに、あたしのは金貨三枚」
「!そうなんですか?!」
金貨か・・・てぇ、金貨て具体的にどれ位の価値が有るんだろうか?とりあえず銀貨よりは確実に価値は有るんだろうけど・・・
「ふふふっ、それではクスノキくん。トゥモシーヌに魔道書と魔通玉を用意させます。その二つを持って、この寮の裏庭で魔法のお試し体験をしましょう」
「!魔法のお試し体験!」
「シフォン。お試し体験は構わないけど、それだと他の寮生にエンジュくんがいる事バレないかしら。裏庭はたしかに殆ど人が来る事は無いけど・・見つかる可能性だってあるでしょ」
「ふふふっ、アオイ・・その為のあなたとトゥモシーヌです。あなた達二人には認識阻害の結界を張っていただきます」
「あぁ、そういう事ね。分かったわシフォン。ふふっ、それじゃあエンジュすん。これから裏庭に案内するわね。あたし達がついてるから多分大丈夫だと思うけど・・他の寮生に見つからない様エンジュくんも気を付けておいてね」
「はい!ぼく、目と耳と鼻が良いので、人が近づいて来たらすぐ気づく事が出来ます!」
スッーーナデナデーーー(円寿の頭を撫でるトゥモシーヌ)
「うん、頼りにしてるからねエンジュくん。それじゃあ行きましょうか」
「あっ、あの・・シフォンさん」
「!はい、どうしましたかミズツラさん」
「シフォンさんは、あたし達と一緒に裏庭に来ないんですか?」
「ふふふっ、大丈夫ですよミズツラさん。あたしもついて行きますよ。クスノキくんが魔法を使う所を、しかとこの目に焼きつけないといけませんからね。この部屋の片付けが終わりましたら向かいますので、先に行ってて下さい」
「分かりました。それじゃあ・・お先に」
「シフォンさん!お待ちしてますね!」
「ふふふっ、なるべく早く向かいますね」
肩の高さで右手を振り、円寿達を見送るシフォン。扉が閉まるのを確認すると手を下ろし部屋の片付けを始めようとする。
「さてと・・パパッと終わらせてしまいましょう」
片付けを始めたものの、直ぐにその手を止め、ふととある言葉を思い出すシフォン。
『クスノキ君の魔法適正審査だが、結果が分かったら知らせてくれるかい?』
兄、ドリューズの言葉である。その言葉に、少し懸念の表情を見せるシフォン。
「・・・いやいやいや、そんなはずは無い。お兄様が、そんな事を・・・」
話しはまた戻り場所は魔導省本部。交流会が終わり、戦乙女騎士団一行は帰路につく為水堀の前に待機していた。
「ミサキリス隊長、準備出来ました」
「うん、ありがとうリンジア・・・うっ・・あぁもう!さっきからニヤニヤと・・・何よ!何か言いたい事があるなら言えばいいでしょ!」
帰路の支度を始める前、さらに言うなら交流会がお開きになる直前から、ミサキリスはどこか悩ましい表情をしていた。そんなミサキリスから、悩ましい表情になる原因となったとある事情を聞いて以来、そんな彼女の不安をよそに彼女をニタニタとした目で視線を送る二人の美少女騎士。
「いんやぁ~、べっつに~」
「何にも言う事はありませんよ~」
わざとらしく語尾を尻上がりに話す双子の騎士、シュリナとジュリアである。
「じゃあさっきからあたしを馬鹿にしてる様な顔をするんじゃありません!」
「えぇ~、ミサ、あたし達は今までミサの事を馬鹿にした事なんて無いよ-」
「小馬鹿にした事はあるけどぉ・・・」
「あんた達・・・頭にでっっっかいコブを作る覚悟は出来てるみたいね・・・」
「だあぁ~ちょちょちょちょっ!ストップ!ストップミサ!あたしは、小馬鹿に何かしてないから!だから、ぶつのはジュリだけにして」
「あぁー!裏切ったわねシュリ!シュリだって、行く場所行く場所でエンくん持ってかれるなんて・・・だからミサはいつもここぞという時に男を取られるんだよね~・・・てぇ、言ってたじゃん!」
「うおっちょい!それミサの前で言っちゃ駄目な奴~」
「・・・なるほどなるほど。あんた達の思っている事はよぉ~く分かりました。そんなにコブの数を増やしたいのね・・・」
「だあぁっは~!まってまってまって!落ち着いてミサ!いや、ミサキリスさん!」
「気になってる男の子、皆他の女の子に取られる男運の無い女なんてあたし達思って無いよー!」
「ちょぉっジュリそれは・・・」
「あんた達!!!」
「ぎゃあぁーーーー!!!」
「あっ、あの・・先輩方、お取り込み中申し訳ないのですが、報告したい事が・・・」
「たくっ・・ん?あぁごめんリンジア。報告て・・何?何かトラブル?」
リンジアの視界には、ミサキリスの後ろで頭にコブを作り地面に伏している双子二人の姿が写っていた。そんな二人を見て、頭から汗マークを流しつつもリンジアは報告するべき内容をミサキリスに伝える。
「あぁはい。それなんですが、水堀の・・向こう岸の方から、何やら物凄い勢いで、こちらに向かって泳いで来る物体が見られまして・・・」
「こっちに・・・泳いで来る?」
「いやいやいやぁ何言ってんのリンジア。もしかして、ボケ?」
「日頃からリンジアは真面目過ぎるから、1日1回はなんかしらボケなさいて言ってるけど・・・今のボケはリアリティが無くて面白くなかったぞ」
ヒョコッとミサキリスの後ろから顔を出す双子二人。
「待ちなさいジュリ。あんたリンジアにそんな事言ってたの?・・・」
先程のミサキリスに対する発言に加え、新人騎士リンジアに対するパワハラも自ら口にして墓穴を掘る形になったジュリア。そんなジュリアをギロッと睨み付けるミサキリス。
「えっ?あ・・あぁ、うん。いや、これはですねミサキリスさん、新人への教育の一環と言いますかぁ・・・これ位出来ないと、立派な騎士になれないぞという先輩からのアドバイスと言うか・・・」
「ジュリは帰ったら説教」
「そんなぁ~・・・」
「あっ、いやその・・ボケでは無くてですね、本当に泳いで来ている物体が・・・」
「もお、しつこいなぁリンジア。この巨大な水堀を泳いで渡ってくるなんて・・そんな無蓄蔵の体力馬鹿がいる訳ないでしょ・・・あっほんまや」
「えぇ・・いやシュリあんたまでボケに乗っかんなくても・・・てっほんまや」
「てかあれ・・どこかで見覚えが・・・」
よくよく目を凝らすミサキリス達。次第に、その姿が鮮明になってくる。
「・・・てぇ・・サクネア!?」
ミサキリスがその爆速で泳いでくる姿の主を確認した瞬間、ドプンと一旦潜ったかと思うと・・・
ザバーーーーン!!!
水の中から勢いよく飛び上がる。水飛沫が巻き上がるその光景に唖然とする戦乙女騎士団一同。そして、そんな一同の前にシュタッと着地し顔を二回フルフルと左右に振り水を飛ばす。
「しっっ!・・あ?・・んだよ、お前らか。こんな所に集まってどうしたんだ?・・・あぁ、もう終わっちまったのかなんちゃら会」
「どっ・・・どうしたんはこっちの台詞ですサクネア!!あっ、あなた・・この水堀を泳いで来るなんて・・・」
「いやあの・・・サクネアさん、なんかその・・ちょっと引くわ・・・」
「もの凄い体力ばk・・体力お化けて知ってるけど、流石に・・なんか・・ねぇ」
「あぁ?!なんでお前らに引かれなきゃなんねぇんだ!あと今馬鹿て言わなかったか?!」
「きっ、聞き間違いですよサクネアさん・・・」
「おぅそうか、聞き間違いか」
「・・・(素直に納得した)」
「・・・(アホで良かった)」
「というかよぉ、エンジュは何処にいんだよ。エーーンジュ!エンジュどこだぁーー!エンジュエーーンジュ!」
「・・・」
「・・・(ありゃりゃミサ。滅茶苦茶気まずそうにしてる)」
「・・・(どうするシュリ。あたしらでフォロー入れとく)」
双子二人がアイコンタクトで会話していると、すぅーと息を深く吸い込み軽く吐きその瞬間キリッと表情を引き締めるミサキリス。その表情は何か決意を固めた様であり、はたまた覚悟を決めたかの様であった。
「サクネア」
「あ?んだよ」
スッーーー(頭を下げるミサキリス)」
「ミサ!?」
「・・・(ん~、これは・・・)」
サクネアに頭を下げたミサキリスの姿を、双子二人は勿論周りの戦乙女騎士団の面々もこれに驚く。
「・・・なんの真似だ」
「申し訳ありませんサクネア」
「あ?」
「エン君は・・ここにはいません」
「・・・そうか・・・」
「・・・(おっとサクネアさん。これは・・怒ってないか?)」
「・・・(セーフ・・・じゃない!顔が怖い!怒ってる!怒ってるって!)」
「・・・とりあえずよぉ、なんでエンジュがここにい無ぇか状況説明してくんねぇか」
「・・・はい。」
顔を上げ、業務連絡をするかの様に淡々と円寿が魔導省本部から姿を消した経緯を話すミサキリス。その状況を、気が気じゃない思いで見守る双子二人。
「・・・なるほどな・・転移魔法使い・・か。チッ・・よりにもよって魔導士かよ・・・」
「本当に、申し訳ありません」
再び頭を下げるミサキリスを睨み付け、バキリボキリと指の間接を鳴らし始めるサクネア。
「エンジュには細心の注意をはらえて言ったよな・・・」
「・・・はい」
「何か言い分は・・・」
「いえ、ありません」
「そうか・・・おぅ、顔上げろ」
「・・・」
サクネアの言う通りに顔を上げるミサキリス。その視線は、一点にサクネアの顔を・・目を見つめており、その表情は顔を下げる前同様一切の動揺も無いキリッとした表情であった。
「覚悟は・・出来てんだろうなぁ」
「はい、どんな理由であれ、サクネアとの約束を破ってしまった事に変わりはありません。完全にあたしの落ち度です。サクネア、あなたに殴られても文句は一切ありません」
「そうか、そんじゃあ・・歯ぁ食いしばれ・・・」
「・・・」
「ちょちょちょちょちょっ、まったまった!待って下さいサクネアさん!」
「サクネアさん落ち着いて下さい!ミサも、少し位弁解しなよ!サクネアさんに殴られたら、ただじゃすまないて知ってるでしょ?!」
慌てて二人の間に割って入る双子二人。そんな双子二人に、ミサキリスは少し口角を緩めて話す。
「シュリ、ジュリ、ありがとう。でも、あたしがサクネアとの約束を破った事は事実だからさ・・これで良いんだよ」
「ミサぁ・・・」
「あぁもう・・よくないよくない!分かった!じゃあこうする!サクネアさん!サクネアさんの怒りが篭ったそのパンチ・・・ミサだけじゃなくあたし達も受けます!」
「・・・は?」
ジュリアからの予想にだにしなかった言葉に意表をつかれ、思わず上げた拳を一旦止めるサクネア。
「ジュリ・・・あんた・・・」
「え?まってジュリ、あたし達て言った?えっ、あたしもサクネアさんに殴られるの?・・・いやぁ、それは少し話しが変わってくるなぁ・・・」
「シュリ!シュリも覚悟決めてよ!そうじゃないと・・うっ・・・あたしも覚悟決まんないでしょお・・・」
「えっ、ちょっなんで泣くのよジュリ!?ジュリが泣くと・・・あたしも涙出てくるじゃあぁん・・・」
「うぅ・・だって・・・サクネアさんのパンチ・・・絶対痛いもん・・マジ怖い・・・」
「たしかに・・・痛いの超怖い・・マジ無理・・・」
グスグスと泣き始める双子二人。そんな双子二人に呆れながら話しかけるミサキリス。
「はぁ、あんた達・・・殴られるの嫌なら最初から言わなきゃいいでしょ」
「だってミサが目の前で殴られるのなんて見たくないし・・・あと殴られるて言ったのはジュリ。あたしは言ってない」
「だって・・・ミサ一人が殴られるよりも三人で一発のパンチを受ければ負担も減るかなて思って・・・」
「・・・はいはい、シュリも、ジュリも、心配しなくて良いから・・もう泣かないの」
ポンポンと双子二人の頭を撫でるミサキリス。
「うぅ・・・ぐすっ・・・ママぁ~~!」
「ママぁ~~!」
「てぇっ、誰がママだ!」
ミサキリスに泣きつく双子二人。その光景を、何とも言えない表情で見つめるサクネア。
「・・・はぁ・・チッ・・あぁもういいわぁ」
「!サクネア?」
「んだよその茶番、殴る気力失せたわ」
呆れた表情で後頭部を撫でるサクネア。
「あぁ!茶番て言ったぁ!」
「あたし達本当に怖かったんですから!」
まだ涙を浮かべながら、ワァーとサクネアに詰め寄る双子二人。
「あぁるっせぇ!よるなっ、うっとぉしぃ!」
「サクネア・・その、よろしいんですか?殴らなくて・・・」
「あぁ?・・・うんまぁあれだ、お前がよ、自分の身可愛さに言い訳をつらつらしくさりやがったらよぉ、その瞬間にでもぶん殴ってやろうと思ってたんだが・・・チッ、潔く頭を下げやがって・・・その時点で正直殴る気無くなったわ。んでよ、ちっとばかし冷静になった。あたしも頭に血が登ってたわ、悪いな」
「そっ、そうですか・・・(そのわりには顔が本気だったけど・・・)」
「それによ、気づいちまったんだ」
「?何を・・ですか?」
「・・・あぁ、お前を殴ったてエンジュが知ったら・・エンジュの奴、悲しむと思ってよ・・・エンジュを悲しませる事・・したく無ぇし・・・」
少し気まずそうに視線を横に流すサクネア。
「・・・サクネア、エンくんの事は、本当に申し訳ありません。ですが、先程経緯を話した通りアキナさんがエンくんについてくれています。その・・・アキナさんを、信用してみませんか?」
「アキナ・・か・・・なぁミサキリス。あいつは強ぇのか?」
「!・・えっ、と・・・ごめんなさい。あたしもアキナさんに会ってまだ日が浅いので、アキナさんがどれ位強いのか・・そもそも戦えるのかも分かりません・・・(なんとなくだけど、アキナさんはそもそも戦うとか以前に喧嘩すらした事なさそう・・・)」
「へっくしゅ!」
「!先輩、寒いですか?もしかして、湯冷めしましたか?」
「ああぁん~ん、平気平気。少し、鼻がムズムズしただけ・・・(あれ?誰かあたしの噂してる?)」
「あぁ?!それだと、いざって時にエンジュ守れねぇじゃねぇか!」
「そうですけど・・・戦えなくても、エンくんがトラブルに巻き込まれない様に上手く立ち回っているて場合も考えられますよ」
「んだよそれ・・・たくっ、やっぱエンジュをほおっておくなんて出来ねぇ。ミサキリス、その魔導士の女子寮てのはどこだ?」
「どこて・・・まさかサクネア・・あなた、そこに向かう気ですか!?」
「たりめぇだぁ!エンジュが心配だからなぁ!」
「一応聞きますけど・・どんな方法で向かうんですか?」
「んなもん、走って行くに決まってんだろ」
「・・・サクネア・・あのですね、この交流会であたし達を案内してくれたシフォンさんという魔導士の方から聞いたのですが、ここからその女子寮は馬車で3~4時間位かかると言っていました。流石のあなたでも、その距離を走るのは厳しいと思いますが・・・」
「馬車で3~4時間だぁ~・・・関係無ぇ!エンジュの為ならそん位、秒で走ってやる!一瞬だ!」
「・・・(サクネアさんの思考回路て小さい男の子と同じ思考をしてるよね)」
「・・・(物凄く発言が馬鹿っぽい。いや、馬鹿だった)」
生暖かい目でサクネアを見る双子二人。
「サクネア・・その、もう少し現実を見ましょう。それと・・・」
「あぁ?んだよ」
ミサキリスの視線がサクネアの胸部分に向けられる。ミサキリス達の前に来てから今にいたるまで、胸の谷間に何かを挟んでいるサクネア。透明な袋の様な物を筒上に丸めており、その先端が胸の谷間から顔を見せていた。
「その・・むっ、胸に・・何か挟まってますよ」
「ん?・・あぁ、これか」
胸の谷間からヌッとそれを取り出すサクネア。
「ヒュ~!サクネアさん、セクシー!」
「いよっ!巨乳だから出来る特権!」
「へへぇ!ここに入れときゃ泳ぎの邪魔にならねぇからよ。便利なんだぜ」
得意気な表情のサクネアに対して複雑な表情のミサキリス。だが、決してサクネアの豊満な胸への嫉妬ではない。ミサキリスのバストサイズは推定Eカップ。決して小さくない。(ちなみに双子二人も同じEカップ)それに対して、サクネアのバストサイズは推定Hカップ。ミサキリスよりも3サイズ上である。
「あのですねサクネア。そのですね・・・その、胸に何か入れる行為ですが・・下品なので、人前ではしない方がいいですよ。特に、エンくんの前では辞めて下さい」
「ああぁ?!何が下品だぁ?!それに何でエンジュの前じゃ駄目何だよ?!」
「駄目な物は駄目何です!それより、その・・何ですかその透明な袋・・みたいな物は。中には・・それは、書類ですか?」
「あぁそうだった。お前ら、この書類をだな、ここにいる魔導士共に叩きつけろ!」
そう言って中の書類を出しミサキリスに渡すサクネア。
「これは・・・!?待って下さい、これって・・・」
書類に目を通し、その内容に驚くミサキリス。」
「それ・・お前らに任せるわ。本当はよ、それ持って魔導士共を狼狽えさせて、エンジュにあたしのカッケェ所を見せてやる予定だったんだが・・・エンジュがいねぇならいいわ。お前らにやる」
「エンくんにカッコ良い所て・・・」
ミサキリスが書類を確認していると、ヒラッと小さいサイズの紙が一枚落ちていく。
「!ミサ~、何か落ちたよ~。これは・・・手紙?ん~なになに・・え~、ーーサクちゃんへ、エンくんとアキちゃんの事が心配かと思いますが、二人は無事です。ですので、サクちゃんはサクちゃんのすべき事を成して下さい。頑張ってね。みんなのアズさんより。ーーこれアズさんの手紙だ。ですってサクネアさん」
「あぁ?・・・(女将の奴、何でそこまで知ってんだよ。チッ、全部お見通して奴かよ。たくっ、適当な言ぬかしやかったら女将といえど承知しねぇからな。あとアキナの心配はしてねぇ)はぁ・・分あった分あったよ」
「それじゃあ、エンくんの所には・・・」
「あぁ。女将がわざわざ手紙をよこしてまで言いやがったんだ。先にこいつを片付ける・・・エンジュの事は滅茶苦茶心配だが・・・(すまねぇエンジュ。これが終わったらすぐにそっちに行くからよ・・・)くそっ!あぁもう、あたしのカッケェ所がぁ~・・エンジュに見せられない~・・・」
「・・・(物凄く悔しそうだ)・・・行かないのですね・・・」
「行く!!」
「えっ!?」
「ここでやる事が終わったら行く!!」
「・・・結局行くんですね・・・」
「たりめぇだぁ!エンジュをほおっておくなんざあたしには出来ねぇ!つぅ事でなぁ・・ちゃっちゃと終わらすぜぇ・・・」
魔導省に入る為の巨大な門に歩いて行くサクネア。そんなサクネアが何をしでかすか分からないので、仕方がなくついて行く事にするミサキリス。と、その前に・・一旦後ろを振り向きリンジアを呼び出す。
「リンジア、ちょっと」
「はい、何でしょうか?」
リンジアの耳元に顔を近づけるミサキリス。
「(もしかしたら逮捕者が出るかもしれないから、他の騎士団に連絡して、念のためこの城の出入口、抑えておいて)」
「(分かりました。それでは・・・)」
「(うん、お願いね・・・)さてと・・・」
再度振り向きサクネアを見つめるミサキリス。
「・・・(サクネア・・改めてあなたのやり方、見させていただきます)」
堂々とした歩きで巨大な門を潜るサクネア。広場に出ると、そこにはまだ交流会終了直後でまだ余韻を楽しんでいる魔導士達が多く残っていた。
「けっ・・どいつもこいつも・・気に食わねぇ面してやがる・・・」
あきらかに魔導省の雰囲気にそぐわない風貌の女が一人現れた事に魔導士達も気づき初め、多くの魔導士が彼女に視線を送る。
「わーお、サクネアさんここにいる人達の視線一人占め」
「さてさて~、サクネアさんの第一声は・・・」
「あんた達、なんでそんなワクワクしてんのよ・・・」
場が静まり返り、スゥーと息を吸い込むサクネア。
「ウェザーコック!!」
「?」
「!」
「!?」
サクネアの声が広場中に響き渡る。サクネアのその言葉に、それぞれ不思議そうな表情をしたり声の大きさに驚く者・・そして、言葉に心当たりがあるのか額から汗を流す者、サクネアから視線を反らす者がいた。そして、その一瞬目を泳がせた数名の魔導士達をサクネアは見逃さなかった。そんなサクネアの後ろで、ミサキリスと双子二人が話し始める。
「ウェザーコックてたしか・・・」
「トレイターと同じ児童獣人誘拐組織・・だよね。」
「そうか・・サクネア達ラング・ド・シャットの今日の仕事て、ウェザーコックの討伐以来だったんだ」
「なるほどぉ・・んでぇ、そこで顧客リストを手に入れたと」
「そんでサクネアさん、お次は?」
「ぐだぐた話し込むのは性に合わねぇんだ。単刀直入に行くぜぇ。今!あたしが持っているこいつはぁ!そのウェザーコックの顧客リストだ!この顧客リストには、客の個人情報がバッチリ書かれている。もちろん!そいつの職業もだ・・・ここに名前があるっつぅ事は・・・言わなくても分かるよなぁ・・・今から!この顧客リストに書かれている名前を読み上げる。耳の穴かっ開いてよく聞きやがれ!・・えぇ~とじゃまずは・・・タムケr・・・」
「炎よ!火球となれ!」
サクネアが名前を読み上げ様としたその瞬間、サクネアから少し離れて位置にいる魔導士が、突如詠唱を初めサクネアに向かって火の玉を放つ。
「あぁ?」
「槍に纏え!旋風!」
火の玉がサクネアに当たる瞬間、風を纏わせた槍でその火球を叩き消すミサキリス。
「なっ!?」
ジャキッィーーー
火の玉を消され動揺したのも束の間、首元には双子二人の構えた槍の先端が向けられていた。
「チッ・・ミサキリス、守ってくれなんて頼んでねぇから礼は言わねぇぞ。たかが火の粉の一発や二発、食らった所で大した事無ぇよ」
「そう強がって・・火傷した肌なんか見たら、エンくんが心配しますよ。それと、礼ははなからいりません」
「エンジュ!?・・・あぁそうだな。エンジュに心配かけんのは駄目だな」
「・・・(エンくんの名前出すと妙に素直になるな・・・)」
頭から汗マークを流すミサキリス。その横で、火球を放った魔導士に双子二人かジリジリと迫っていた。
「ひぃぃっ・・まっ、待ってくれ!わっ、わたしは・・・」
「はいは~い、言い訳は後でゆっくり聞くからねぇ・・・て、お兄さん交流会で約束したイケメンさんじゃん」
「本当だ~。あぁあ~、せっかく良い思い出作れると思ったのに~」
嘆く双子二人の後ろから、サクネアが顔を除かせる。
「タムケル・ポッタルだな。あぁ間違いねぇ。この顧客リストなぁ、ご丁寧に人相書きまでされてんだよ。ハハッ、この人相書き・・無駄に上手なぁおい。まじウケんなぁ・・・つう事だぁ魔導士さん達ぃ!恥かきたくなきゃ、さっさと名乗り上げちまった方が良いぜぇ!それとも・・・こっちから呼んでやろうか?」
「・・・(サクネア、なんて悪い顔してるのだろうか。これじゃあ、どっちが悪者か分かんないな。あと物凄くイキイキしている・・・悪い魔導士を成敗できて嬉しいんだろうなぁ)」
サクネアの邪悪な笑みを見て、汗マークを流すミサキリス。
「・・・!大臣!」
広場が騒然とする中、一人の魔導士が気配を感じて後ろを振り向き声を上げる。そこには、立派な白い髭を蓄え鋭い眼孔をした老人と彼の側近らしき中年の魔導士がいた。
「だっ・・大臣・・・」
手首を縄で縛られ膝をつくタムケルに近づく大臣と呼ばれる老人。
「あぁ?誰だぁおっさん」
「貴様!誰に向かって口をきいているのだ!この礼儀を知らない野良犬めが!」
「あぁ?んだてめぇ、喧嘩売ってんのか、あぁっっ!!」
老人の隣にいる中年の男に喰ってかかるサクネア。
「さっ、サクネア!落ち着いて下さい!この人は、魔導省大臣のドミニック・ハウンセン様です。それと、もう一人のこの方は魔導省大臣補佐のソラティア・エンプティ様です。もっ、申し訳ありません大臣、大臣補佐・・あたしの知り合いがとんだご無礼を・・・」
「いやいや構わんよ。こちら側にも非があるのでね。ソラティア君、君の先程の言葉・・とても棘のある言葉だった。反省したまえ」
「・・・申し訳ない」
「うむ・・・さて、サクネア・バサロー君だね。君の活躍は聞いているよ。この度は、よくぞ魔導省本部まで足を運んでくれた」
「・・・別にこんな所、来たくて来たんじゃねぇよ。んでよぉ大臣さん。大臣て事はここで一番偉いんだろ。なら手っ取り早ぇや。こいつ・・どうすんだよ」
下を指差すサクネア。そこには怯えた表情でドミニックを見るタムケルがいた。
「だっ、大臣!聞いて下さい!わたしは・・・」
「タムケル君」
「!?」
「将来を期待されている君が何故この様な事を・・・本当に残念だ。然るべき場所で、反省するがよい」
「へぇ・・・」
「まっ、待って下さい大臣!こっ、これは!ほんの・・出来心で・・・気の迷いだったんです!だから・・・」
「連れて行ってくれ」
「いぃ嫌だぁ!離してくれぇ!わっ、わたしの・・わたしの人生がぁ・・・」
「あぁ?んだよあいつ。いくらなんでも喚き過ぎじゃねぇか?これから処刑上に連れてかれる訳でも無ぇのによ。ゆって檻ん中だろ。まっ、あたしからしたらこの場で首跳ねても構わねぇ事したんだがよ」
「魔導省所属の魔導士の殆どがエリートなんです。家も代々エリート家系で裕福な所が多いんですよ。その様な人達です。家の者が罪を犯したなんてなったら・・・家に傷をつけたとして勘当される場合もあるんでしょお。まぁ、それだけプライドの高い人達て事ですね」
「かっ、クソみてぇな理由だな。ふっ、まぁ・・どっちみち良い気味だがよ」
「お待ち下さい」
「!」
「あぁ?」
タムケルを連れて行く騎士が動きを止める。ミサキリスとサクネアが待てと言った言葉の主に視線を送る。止めたのは、ソラティアだった。
「うむ、どうしたのだね、ソラティア君」
「その者が持っているウェザーコックの顧客リストとやら・・・はたして本物でしょうか?」
「えっ?」
「あぁ?」
「うむ・・何故、そう思ったのかね?ソラティア君」
「はい・・そのサクネアなる女、我々魔導士を陥いれようとせんが為・・その顧客リストとやらを自ら作ったのではないでしょうか。」
「ふむ」
「(えっ?何言ってるのこのおっさん)」
「(単細胞のサクネアさんがそんな回りくどい事する訳ないじゃん)」
ソラティアの言葉にヒソヒソ話しをする双子二人。ここで、サクネアが一言・・・
「聞こえてんぞ」
「ひゃい!すいません!」
「・・・ソラティア君、何故サクネア君が、その様な行いをすると思ったのだね?」
「はい・・ちまたでは、魔導士が獣人に対し人体実験を行っているという根も葉も無い噂があります。この女は、その噂を鵜呑みにして我々魔導士を陥れようとこの様な行いをしたのです。つまり、タムケルは免罪です。その顧客リストとやらも、今この場で燃やしてしまいましょう」
「あぁ?おいてめぇ・・さっきから言ってる事滅茶苦茶だって事、分かってんのか・・・」
ソラティアに詰め寄ろうとするサクネアに、腕を出し首を左右にふるドミニック。
「ソラティア君、君の言いたい事は分かる・・・だが、どの道このリストを確認しなくては、これが本物か偽物か判断が出来ないであろう。サクネア君、そのリスト・・見せてくれないか?」
「・・・お得意の魔法で消したら速攻殴るからな」
「!?大臣!何故わたしの言葉を信じないのです!20年付き従えたわたしと、その女!どっちの言葉が正しいのか・・お分かりでしょう!」
頬に汗をつたわせながら声を張り上げるソラティア。
「・・・ソラティア君、君は・・何をそんなに焦っているのだね?」
「!?大臣!お願いです・・わたしの言葉を・・・」
「今・・少しリストに書かれているのが見えたのだがね、紙の右下にサインが書かれているのが見えた。わたしは、この魔導省に所属する魔導士のサインは全て記憶している。もちろん、君のサインも覚えているよソラティア君。仮に、この顧客リストがサクネア君が作った偽物だったとして・・サインまで真似をする事が出来るのと思うかね?ソラティア君、君を信じているからこそ・・わたしはこのリストを確認する義務があるのだ。しばし、そこで待っていてくれたまえ」
「ぐっ・・・」
「(今さっき、しれっと凄い事言わなかった大臣のお爺ちゃん)」
「(それ位出来ないと大臣にはなれない!て事だね)」
再びヒソヒソ話しをする双子二人。
「話しは終わったのかよ大臣さんよぉ」
「あぁ、待たせてすまないね」
手を差し出すドミニックに、サクネアかリストを渡そうとしたその瞬間・・・
「くぅうっ・・・業火よ!我が手より・・・ぶっ・・・」
バキィーーヒューーードゴーーーンーーー
「へっ・・この距離ならよぉ、てめぇが魔法を出す前に殴る事が出来んだよ・・・大臣さんよぉ!今ので、完全に黒だろあいつ!」
周りにいたギャラリーには、ソラティアがオレンジ色の魔方陣を出した瞬間突如吹き飛び、後方にある壁に叩きつけられ白目を向いている・・と言う様に写っていた。
「あぁ・・今しがた確認したよ。ソラティア・エンプティ・・彼の名がこのリストに書かれている事を。サインも彼の物だ、間違いない」
「ミサ・・サクネアさんのパンチ、受けなくて良かったね」
「あれ下手したら死ぬよ・・てか、あのおっさん大丈夫?」
「下手しなくても死ぬわよ・・てぇ、サクネア、まさか・・・殺してませんよね?」
「ああぁ?殺してねぇよ、あたしが悪者になっちまうだろうが」
ひびの入った壁にもたれ掛かるソラティアに、ゆっくりと近づくドミニック。
「うっ・・・大臣・・・わっ、わたしは・・・」
「ソラティア君。20年もわたしを支えてくれた事・・感謝するよ。だがねソラティア君、だからこそ、君の行いを・・わたしは許す事は出来ない」
「・・・わっ、わたしは・・・この世界の魔法の為になるならと・・・」
「そうだねソラティア君。たしかに、我々魔導士はこの世界に存在する魔法の更なる発展を望んでいる。我々魔導士が何よりも優先すべき事だ・・・だがねソラティア君、君は我が国の・・ティリミナ王国、ナンシェーヌ女王陛下の理念に反する行いをしたのだ。その理念に反した先にある魔法の発展等、この世界には必要無いのだよ!・・・すまないソラティア君、君が影で行っていた事に早くに気づけていれば・・良かったのだがね・・・わたしも未熟だな」
「くぅ・・うぅ・・・大臣・・・ドミニック様・・・」
「さよならだソラティア君、然るべき場所で、己が罪を償いたまえ」
「・・・くっ・・・」
騎士が持ってきた担架に乗せられ運ばれて行くソラティア。
「おぉい!そんな奴、紐で括って引き摺っていきゃ良いだろうが!」
「せめてもの情けですよサクネア」
「チッ、情けなんざいらねぇだろぅが。あのゴミ共が獣人のガキにした事を考えればよ・・・おい大臣さんよぉ!まだ終わって無ぇからなぁ!そのリストを見ると、あと四人はいるはずだぁ!」
「分かっているとも・・・(一人はすでにこの場を去っているか。サクネア君が来る事を見据えていたのか、それとも・・・)ヨーキ・フリューチ、ケイン・カシューマ、ユーリッチ・ソーヤー、無駄な抵抗はせず、おとなしく投降しなさい!」
ドミニックの声が広場に響く。広場や城内から事の様子を見ていた魔導士達がざわつき始める。
「ヨーキ、お前・・一体何を・・ぐはっ・・・」
城内から広場を見ていた魔導士の一人が、側にいた魔導士を気絶させ逃亡をはかる。
「・・・(くそっ、ソラティアの奴しくじりやがって!いや、それよりもウェザーコックの連中だ!あいつら・・何が商売は信用が命だ。サインに加えて人相書きまで書きやがって・・・おかげで今こんなザマじゃないかっ・・・)」
「おい、明らかに城ん中が騒がしくなってんぞ。これぜってぇ逃げてんだろ。あたしが追いかけるか?」
「いや、大丈夫ですサクネア。すでに・・連絡は来ています」
息をきらしながら城内を走るヨーキ。しかし、その先にはこの事態を想定して動いていたリンジア達戦乙女騎士団の姿があった。
「なっ!?・・・くそぅ!そこをどきたまえ!雷よ!空を駆けろ!」
ヨーキの魔方陣から雷が放たれる。しかし、リンジアは避ける体制をとらず、槍を身体の周りで回転させそのまま構える。
「!・・・槍に纏え!雷!」
「!?」
避ける所か雷に向かって走り出すリンジア。そして、雷を纏った槍でヨーキの雷を弾くと、槍を回転させ槍の石突でヨーキの腹を突く。
「がっはっっ・・・」
白目を向き、床に仰向けに倒れるヨーキ。
「ヨーキ・フリューチ、確保」
城内の騒ぎが収まると、ミサキリスの持つ魔通玉が点滅しだす。
「おっ・・・ヨーキ・フリューチはリンジア達が確保したって」
「おぉー!流石リンジア~」
「優秀な新人がいると、先輩として鼻が高いねぇ~」
「さてと・・ケイン・カシューマは素直に投降して来たし、あとは・・ユーリッチ・ソーヤーと・・・あれ?もう一人誰だっけ?」
「おう、こいつだ」
ミサキリスに、ヨーキ、ケイン、ソーヤーともう一人の魔導士のリストを見せるサクネア。
「大臣のおっさんに聞いたらよ、何でも急用ができたから何とか言って交流会が終わる間際にどっか行っちまったんだとよ。くそがっ。まぁ、顔は割れてんだ・・必ず見つけてボコボコにしてやる。」
そのリストに書かれている魔導士の名前に驚愕するミサキリス。
「・・・」
「あ?どうしたんだよ。んな怖ぇ顔してよ」
「ミサ?」
「ん~?この人て・・・どなた?」
「そっか・・・シュリとジュリは、この人と顔合わせて無いんだよね・・・」
「おいミサキリス、こいつの事知ってんのか?」
「はい・・この人は・・・(どうして?どうしてこの人が?だってあの時・・あんな優しくエンくんに・・・どうして・・・)」
場面が変わり魔導省女子寮。魔法適正審査の儀式の片付けを終え、自身の部屋へと戻るシフォン。
「・・・」
神妙な面持ちでドアノブに手を乗せるシフォン。心を落ち着かせる様、胸に手を当て意を決してドアを開く。
「戻りましたよお兄様」
「やぁシフォン。お帰り。儀式は無事済んだかい?」
「・・・はい、おかげ様で・・・」
「そうか・・それでぇ、早速何だが・・クスノキ君の魔法適正審査の結果は・・どうだったんだい?」
「はい・・クスノキくんの結果ですが・・・」
「・・・どうしたんだいシフォン?」
言葉を詰まらせるシフォンを不思議そうに見つめるドリュース。
「・・・」
「・・・?」
「・・・クスノキくんには、魔法神経が有りました・・・彼は、魔法を使う事が出来ます・・・」
「・・・」
「・・・(お兄様、どうか・・あなたを信じさせて下さい・・・)」
「・・・そうか・・・そうかそうか!はははっ、これは・・・何て喜ばしい事なんだ。はははっ・・・」
「お兄様・・・」
「魔法を使える獣人の子、クスノキ君は魔法と獣人を繋ぐ架け橋となる!ありがとうシフォン。君がクスノキ君を導いてくれたおかげだ!シフォン、君が言った通り・・まさに魔法は絆だ。本当にありがとう、シフォン」
「いっ、いえ・・そんな、導いたなんて・・・あたしは、ただクスノキくんの純粋な魔法への好奇心に手を添えただけですよ。」
「そうか・・・そうだシフォン。クスノキ君は、今何処にいるんだい?」
「クスノキくんなら・・寮の裏庭で、トゥモシーヌ達と魔法の練習をしています。お試し体験ですね」
「・・・なるほど、トゥモシーヌ・・達、か・・・そうかそうか。シフォン、少し・・お願いがあるんだ。」
「はい・・どのような要件で?」
すると、ドリュースは懐から何かを取り出す。
「・・・これは、香水・・でしょうか?」
「そう・・これはね、速効性の睡眠薬だ」
「・・・睡眠・・薬?」
「あぁ、これはね・・少量でも吸うと、たちまち眠気を催しやげて静かに眠りつく協力な睡眠薬の入った香水だ」
「・・・」
「これをね、シフォン。そうだな・・・裏庭に行って、クスノキ君だけを呼び出し、この香水を使ってクスノキ君を眠らせてきてくれ。あぁ、もちろんトゥモシーヌ達にはバレない様にね。そして、眠らせたクスノキ君をわたしのいるここ・・・シフォンの部屋まで連れてきて欲しいんだ。お願い出来るよね、シフォン」
「・・・あっ、あの・・お兄様・・・」
「ん?何だいシフォン。」
「・・・何故、お兄様の所に連れて行くのに、クスノキくんを眠らせる必要が・・あるんでしょうか・・・」
「・・・う~ん・・・そうだね・・・必要があるか無いかと言われると・・・それはクスノキ君次第になってしまうんだが・・・」
「それは・・どういう事でしょうか・・・」
「それはだね、シフォン。これからの魔法の発展の為に・・クスノキ君が己が身を素直に捧げる事が出来るというのなら・・まぁ、眠らせる必要は無いのかもしれないね」
「・・・」
「まぁ、眠らせるのは念のため・・て奴だ。さぁ、シフォン・・これを・・・」
「・・・お兄様・・・」
「?」
「・・・あたし・・あたし知っています・・・」
「?・・何をだい?」
「・・・おっ、お兄様が・・如何わしい組織から、獣人の子供達を買って・・その子達を・・・魔法の研究の為の実験台にしていることをです・・・」
「・・・ふむ」
「ですが・・お兄様・・・」
「?」
「あたしの愛するお兄様が・・・そっ、その様な卑劣な行いをしているなど・・・そんな事、あってはなりません!ですので、お兄様・・・否定・・して下さい。そんな事はしてないと、獣人の子供達を傷つける様な事などしていないと・・・否定・・なさって下さい。」
震えるながら声を絞り出す様に兄に訴えかけるシフォン。対するその兄ドリュースは、妹であるシフォンに反してどこか余裕のある表情のままでいた。
「・・・シフォン」
「・・・はい」
「わたしは・・・獣人の子供達を、魔法の研究の為の実験台には・・・して、いない・・・」
「!」
「と・・・言えば良かったのかな?」
「!?・・・おっ、お兄様・・・どうして・・どうしてですか?どうしてそんな事を・・・お兄様は!・・お兄様は、そんな・・事をする様な方では・・・」
取り乱し始め、思わず声を荒げてしまうシフォン。そのシフォンを前にしても、ドリュースの表情は変わらない。
「シフォン・・実はね、わたしも・・知っていたんだよ」
「?・・・何を・・ですか?」
「わたしが魔法の研究に獣人の子供を使っている事に・・・シフォン、君が気がづいていた事に・・ね」
「・・・えっ・・・」
「わたしはね、シフォン。わたしの実験に気がづいているのに何も伝えてこないという事は、君がわたしの実験に賛同している物だと思っていたのだよ。でも・・そうか、そうでは無かったのだな・・・まさか、わたしの理想像が崩れるという現実逃避だったとは・・・いやはや、これはこれは・・我が妹ながら嘆かわしい・・・」
シフォンを嘲笑うドリュース。
「・・・おっ、お兄様の行いは、ナンシェーヌ女王陛下の理念に反する行いです!いわば反逆行為その物です!どうしてですかお兄様!お兄様だって、昔は陛下の理念に賛同していたではありませんか!それなのに・・どうして・・・」
ナンシェーヌ女王陛下の理念・・この言葉に、それまで余裕だったドリュースの表情が少し険しい物になる。
「・・・そうだね。たしかに、わたしも陛下の理念は素晴らしい物だと思っていたよ、最初はね。だけどねシフォン。その理念に従ったままだと、この国の・・いや、この世界の魔法は停滞したままになってしまうと気がついたんだよ。どれだけ真っ当な手段で研究を重ねていっても、突然変異の如く現れた才能て奴に簡単に追い抜かれてしまうと言う事にねぇ!」
徐々に言葉に感情がこもり出すドリュース。その感情とは、悲観か・・それとも嫉妬か。
「・・・その才能とは・・トゥモシーヌの事ですか?」
「!・・・トゥモシーヌ・・・そうだね、彼女も実に忌々しい存在だ。だが、それ以上に忌々しいのは・・・はぁ・・・いけないいけない、わたしとした事が・・少し取り乱してしまった」
何かを言いかけたものの、息を整え再び余裕のある表情に戻るドリュース。
「おっ、お兄様・・・」
「シフォン。そもそもこの国の魔導士の頂点たる魔導省大臣が、陛下の腹心たるドミニック殿だという事が間違っているのだ。わたしはね、シフォン・・いずれあの老骨が朽ちた時、大臣の席にわたしが座ろうと思っている、いやそうする。そして、この国の・・この世界の魔法の発展の為、ありとあらゆる手段を用いられる最高の環境を用意する。獣人だけではない・・鬼人、翼人、陽精、陰魔、人間意外のあらゆる種族が魔法の発展の糧とされる魔導士にとって最高の環境を!・・・それでだシフォン。わたしと共に魔導士の理想の世界へと歩んでくれないか?歩んでくれるなら、先程君を嘲笑った事を謝ろう、本当に申し訳なかったと・・・さぁ、シフォン。理想の世界の為の最初の一歩だ。この香水でクスノキ君を眠らせ、わたしの元に・・・」
「できません」
「・・・」
「お兄様の言う魔導士の理想の世界・・・それは、魔導士の理想ではなくお兄様の理想です。そんな人間以外の種族を生ある者と思わないお兄様の理想には・・ついていく事は出来ません。お兄様、あたしは目が覚めました。お兄様の事を信じる事が間違っていた事を。信じるあまり現実に目を背けていた事を。あなたのその理想はこの国とって危険な物です。あなたの事を魔導省に報告させていただきます。もちろん、お兄様の行いを気がつきながら見ないふりをしていたあたしも同罪です。あたしも共に罪を償います。よろしいですね、お兄様」
「・・・ふむ・・そうか・・・君はそうなのかシフォン。ならば、仕方がないね・・・」
「お兄様?・・・ハッ!?しまっ・・・」
スウォンーーー
シフォンが気がついた頃には時すでに遅く、シフォンの足下に魔方陣が現れたちまちシフォンの身体が氷付けになっていく。
「・・・お兄様・・・(氷魔法の詠唱を、眼鏡のフレームに書いていた・・・眼鏡の位置を直す動作のまま詠唱をなぞる・・・くっ、油断しました・・・)」
パキパキパキパキーーー
氷付けになったシフォンに近づくドリュース。
「ふふふっ、安心したまえシフォン。志しが違えど、我が妹だ・・殺しはしないよ。身体は動かせないだろうが、意識はあるね・・それで良い。シフォン、君はここで待っていてくれ。少ししたら、君を我が工房までこのまま運んであげよう。そして、見ていてくれ。クスノキ君が魔法の未来の為の糧となる所をね・・・大丈夫だシフォン。きっと君も分かってくれるはずだ・・・我々魔導士にとって魔法の発展がいかに尊き物なのかを・・ね。ふふふっ・・・」
「・・・(お兄様!行っては駄目ですお兄様!!・・・あぁ・・ごめんなさいトゥモシーヌ、アオイ、ミズツラさん・・・ごめんなさい・・クスノキくん・・・お兄様を・・兄を止める事が出来ず、申し訳ありません・・・)」
氷付けになったシフォンを残し部屋を後にするドリュース。部屋の扉が閉まる瞬間、シフォンの視界には邪悪な笑みを浮かべる兄の表情が見えた。暗くなった部屋の中で、シフォンの瞳は浮かばす事の出来ない涙が浮かんでいた。
「ええと・・・したたれ!みずよ!」
ブオンーーススススッーーポヨンーーフヨフヨフヨーーパシャンーーー
・・・・・
「!!でっ、出ました!水が!水の球が出ました!先輩!ぼく魔法を出す事が出来ました!」
「うっ、うん!良かったね、円寿くん!」
スッーーナデナデーーー(円寿の頭を撫でるトゥモシーヌ)
あ"は"ぁ"~~ん"は"ぁ"~良"がっだね"ぇ~~円"寿"く"ん"~~・・良かったぁ、円寿くんが魔法を使う事が出来て本当に良かったぁ・・嬉しいよぉ・・円寿くんが魔法使えて喜んでいる所が見れて嬉しいよぉ・・円寿くんも魔法が使えて凄く喜んでる・・・それで、肝心の魔法はと言うと・・円寿くんの手の平から魔方陣が出て、そこから小さな水の球がゆっくり現れてぇ・・・う~ん・・果たして何に使えるのか分からないけど・・・でっ、でも!これからどんどん凄くなっていくはず!こぉ・・水飛沫がドバァー!と出せる様になれる・・はず!円寿くんは将来性の有る子だから!
「う~ん・・とぉ・・・よしっ!わきだせ!みずよ!」
ん?円寿君、両手で器を作ってその上に魔方陣を?それでそれで・・・
バシャーーーー
「!・・・(うん、丁度良い冷たさだ)んぐ・・んぐ・・・ぷはぁー・・・!先輩!魔法で出したお水、冷たくて美味しいです!」
「そっ、そうなんだ」
あっそれ飲める水なんだ。円寿くん、早速少量の水を出す魔法を有効活用している。魔方陣から蛇口をひねって出した水みたいにチョロチョロて手に収まる分の水を出して飲む。水筒とかを持たなくても、いつでもどこでも美味しい水が飲める・・と。もしかしたら今後この世界でサバイバルをせざる終えない状況になったり、水が不足してる土地に行く事があるのかもしれない。そんな時に、水属性の魔法があれば大いに活用出来る。なるほど・・水属性魔法が珍しいと言われているのもそういう所も含めてなのかもしれない・・・
「先輩!喉乾いていませんか?もし良かったら、お水出しますよ!」
「えっ?いっいぃい良いの?あっと・・それじゃぁ、貰おうかな・・・」
「はい!よし・・滴れ!みずよ!」
バシャーーーー
「わっ・・・(あっ、丁度良い冷たさ・・・)いっ、いただきます!」
「どうぞ!」
「んぐ・・・はぁ~・・・本当だ、軟水で飲みやすい」
「!本当ですか!良かったです!」
うふふふふふふふ~・・円寿くん嬉しそう・・もう、そんなにしっぽブンブン降っちゃって~可愛いなぁもぉ~。あぁ~、円寿くんの作ってくれたお水が身体中に染み渡る~。何だか凄く神聖な味がする・・神聖な味て何だと言われても説明は出来ないけど・・とにかく神聖な味・・・あっ、トゥモシーヌさんも両手差し出した。そうですよね!円寿くんの魔法で作られたお水・・飲みたいですよね!円寿くんのお水・・・この水て、円寿くんの身体で生成された魔力が水になっているて事だよね・・・つまり、この水は円寿くんの身体の一部だった物・・・円寿くんの身体の一部があたしの身体に・・・ふへっ、ふへへへ、ふへへへへへへへへ・・・
「・・・ふふっ・・・」
ふへへへ・・・ん?何やら視線を感じる・・・
「はっ!?あっ、アオイさん!?なななななな何ですか!」
「ふふっ、アキナちゃん・・今さっきいやらしい事考えてたでしょう・・エンジュくんが出したお水飲んでから、何か面白い顔してたし。」
「いいぃいやらしい!?ああぁあたし、そんなに変な顔してましたか!?」
「!先輩、何かありましたか?もしかして・・・ぼくのお水飲んで体調が悪くなりましたか・・・?」
「!?ちちちちちちち違うよ円寿くん!!そんな事無い・・そんな事無いよ!!むしろ元気!元気いっぱい!疲れもぶっ飛んだ!円寿くんの出してくれたお水があまりにも美味しくて、思わず・・・にっ、ニヤけちゃっただけだよ!だっ、だから円寿くん!おおお落ち込まないでぇ!!」
あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"円寿くんーーーー!!そんな顔しないでぇーーーー・・・不安そうな顔であたしを見ないで~・・・ぐぬぬぬぬ、アオイさんめ~・・・あぁ!そこぉ!笑っているな!笑いを堪えようと後ろ向いて誤魔化しているな!円寿くんに変な誤解されたらどうしてくれるんだ~この~・・・
「ふふっ・・・ん?・・・(結界から気配が?誰か近づいている・・・)エンz・・・」
「!みっ、皆さん!誰か近づいて来てます!どうしましょうか?ぼく、隠れた方が良いですよね?」
「!・・・(流石エンジュくん、獣人の五感は鋭いわね)うん、そうしようかエンジュくん。そうね・・・そこの茂みに隠れていようか」
「はいっ!」
ザッザッザッザッーーー
「・・・(ふむ、認識阻害の結界か・・・アオイと・・トゥモシーヌか。本来なら結界魔法は解除するのに少し時間がかかるのだが・・・わたしのこの魔法ならば・・・)」
グニャアーー・・・サァーーー・・・
「!」
「!?・・・(結界が・・破られた?)」
えっ?なになに?何が起こってるんです?トゥモシーヌさんとアオイさんは何に気がついたんですか!?・・・てぇあれ?人影が・・・結界はどうなったの?・・・てぇ、あれ?この眼鏡イケメンお兄さんは、たしか・・・
ガサッーーー
「ドリュースさん!」
「!やぁクスノキ君。おやおや、そんな茂みの中にいたのかい?はははっ、クスノキ君は面白い子だ」
あっ、茂みから円寿くんがヒョコッて顔を出した。それでこの人は、シフォンさんのお兄さんのドリュースさんだ。円寿くんに氷魔法を見せてくれた優しい魔導士さん・・・がぁ、何故ここに?
「あっ・・・これはこれは、トゥモシーヌにアオイじゃないか。それと・・・そこの彼女は、たしか・・・」
「えっ?あっ、はい!アキナ・ミズツラと言います!」
「あぁそうだった、クスノキ君と一緒に交流会にいた彼女だね。改めまして・・よろしく、ミズツラさん。見た所・・・トゥモシーヌとアオイが、クスノキとミズツラさんに魔法を教えている・・・と、言っ所かな?」
「はい!そうなんです!ドリュースさん!ぼく、今さっき魔法を使う事が出来たんですよ!」
「ほぉ・・・それはとても素晴らしいね。良ければ、わたしにもクスノキ君の魔法を見せてもらえないかい?」
「はい!」
ふふふふ・・円寿くんはしゃいでいる。魔法が使えて本当に嬉しいんだね。今の円寿くんは、覚えたてのマジックを早く他の人に見せたいみたいな気持ちなんだろうなぁ・・・可愛い・・・♡
「・・・ドリュース」
「ん?なんだい?アオイ」
ん?どしたどした?アオイさんの表情が、何やら少し険しい物に?あれ、でもたしかに何か違和感が・・・よく分からないけど何か不穏な気配が・・・トゥモシーヌさんも何か気がついて・・・うん、いつも通りの無表情だ。というかドリュースさんじゃなくて円寿くんの方に顔を向けてる。
「あなた、どうしてここにいるの?ここ、女子寮何だけど」
「うむ、そうだね・・たしかにここは男子禁制の女子寮だ。でもまぁ、何か用事がある場合は、手続きをすれば入れる事は君も知っているだろうアオイ。それに、この寮には我が愛しの妹もいるのだ。その妹に兄であるわたしが会いにこの寮に来るのは、間違っているかい?」
「・・・それじゃあ、シフォンの所に行けば良いでしょう。何故わざわざこんな裏庭に来たの?」
「シフォンの所にはもう行ったさ。それで、シフォンにクスノキ君が魔法を使える事を聞いたんだ。魔法が使える獣人はとても珍しいからね。一魔導士として、とても興味が湧いたんだよ」
「・・・そう」
「はははっ、アオイ。そんな非難する様な目でわたしを見ないでおくれよ。この女子寮に男の子であるクスノキ君がいる事には、はなから気にしていないよ。安心してくれたまえ」
険しい表情のアオイさんに対して余裕の表情のドリュースさん。アオイさん、ドリュースさんに対して当たりが強いけど・・・えっ?えっ?もしかして、この二人仲が悪い?というかアオイさんがドリュースさんの事を嫌っている?これはもしや・・・二人は昔恋人関係にあって、アオイさんが酷いフラれ方をしたとか!?痴情のもつれ、なのか?あわわわわ、修羅場じゃあ・・・修羅場か始まってしまう・・・
「さてクスノキ君。それでは魔法を見せてくれるかな?とぉ、その前に・・・クスノキ君、君に渡したい物があるんだ。こっちに、来てくれるかな?」
「はいっ!」
すたたたたっと、円寿くんがドリュースさんに近づいていく。あっ・・円寿くん、頭に蜘蛛の巣がくっついている。茂みの中にいた時についてしまったのか。取ってあげないと・・・
「ドリュースさん、渡したい物て・・もしかして香水ですか?」
「!・・・」
えっ?香水?なんで、香水をドリュースさんが円寿くんに?魔法か何かに関係がある・・のかな?
「・・・はははっ、流石クスノキ君。獣人の五感・・嗅覚は鋭いね・・・」
「えっ、円寿君~・・蜘蛛の巣が頭についているよ~・・とっ、取ってあげるね~・・・」
「!蜘蛛の巣ですか?」
スッーーー
「・・・!?エンジュくん!離れて!」
「?」
ブオンーースゥーーー
「!」
アオイさん?離れてって・・えっ?トゥモシーヌさん?どうして転移魔法で円寿くんの目の前に・・・
プシュッーーー
カァーーパッーーー・・・ブオンーーー
ズザッーー・・・
「エンジュくん!トゥモシーヌ!」
あぁあれ?ちょっとだけ転移した?あたしも、円寿くんの頭に触れてたから一緒に移動している。ドリュースさんから少し離れた位置に何でわざわざ・・・アオイさんもこっちに来たくれた。てかドリュースさん、香水を・・振りかけた?円寿くんに?なんで?でも被ったのはトゥモシーヌさんだ。まるで、円寿くんを庇う様に・・・
「・・・・・」
「!?トゥモシーヌさん!大丈夫ですか?!」
あれ?トゥモシーヌさん瞼を凄く重たそうに・・眠たそうにしている?えええぇ!?もしかして、もしかしなくてもあの香水のせいですか!?
「・・・ふむ、流石トゥモシーヌ。実に素晴らしい反応速度に転移魔法の起動の速さだ。恐れ入ったよ。しかし・・・この香水をクスノキ君に変わって被ってしまったね」
「どっ、ドリュース・・さん?」
「ドリュース・・あなた・・・(トゥモが寝てしまった。これは・・結構まずいわね)」
「はははっ、嬉しい誤算だ。一番厄介なトゥモシーヌを排除する事が出来た」
はっ、排除?排除するて言ったあの人?なっ、なんで?どうして?どうしてこんな事を?というか今何が起こっているの?トゥモシーヌさん寝ちゃったし・・・どういう状況!?これぇ!?・・・まっ、まさか・・いやそんな・・そんな馬鹿な・・あの人が・・ドリュースさんが・・サクネアさんの言っていた・・・
「ドリュース!あなたの持っているその香水・・・睡眠薬ね」
「!?すっ、睡眠薬?」
「どっ、どどどどどどどうして!こんな事をするんですかドリュースさん!あぁ、あなたは!初めて円寿くんに会った時、あんなに優しくしてくれたじゃないですか!」
「?先輩?」
「ふふふっ、何を言っているんだいミズツラさん。初めて会った子供を不安にさせない様、優しく接するのは当たり前じゃないか。そうしておけば、その後スムーズに事が進むからね。特に、獣人の子供はね」
「・・・噂には聞いていたけど、まさか本当だったとはね。ドリュース・・あなた最低だわ」
「ふふふっ、おやおや・・これはこれは辛辣だ。しかし・・わたしとした事が、シフォンに加えてアオイにも気づかれていたのか・・これは、管理局の手が来るのも時間の問題かな・・・」
「?・・?・・あぁあの、先輩、アオイさん、ドリュースさん、一体なんの話を・・・」
「ドリュース!あたしはあなたを拒絶するわ!あなたみたいな外道なんかと、同じ魔導士と思われたくないの。この魔導士の面汚し!」
ピクッーーー(ドリュースのこめかみが動く)
「ふふふっ、魔導士の・・面汚し・・か。言ってくれるじゃあないか。なぁ、アオイ・・・」
スッーーー(自身の眼鏡のフレームに触れるドリュース)
ブオンーースゥーーー
「!」
おわっ!魔方陣があたし達の足下に!?凄い嫌な予感・・・
「させないわよ」
スッーーパリーンーーー
えっ?ええええっ?無事?あたし達無事?アオイさんが眼鏡のフレームに触れたと思ったら、魔方陣が・・割れた?これも魔法なの?
「ふむ、退消魔法か・・・(相手の魔法に自らの魔法を被せ相殺する。アオイ、厄介な女だ)流石はアオイ。君も眼鏡のフレームに詠唱文を書いていたんだね。実に・・癪に触る」
「ドリュース!トゥモシーヌを排除して油断しているみたいだけど・・・あなた、そんな態度だと痛い目見るわよ」
「ふふふっ、安心したまえアオイ。油断なぞしていないさ。そもそもアオイ・・わたしはね、別に君達と争いに来た訳ではない・・・クスノキ君、君にわたしが行う魔法の研究の手助けをしてもらう為にお願いしに来たのだ。クスノキ君、君の手を借りたい・・協力してくれるかい?」
「魔法の・・研究の・・手伝い・・ですか?はっ、はい・・僕に出来る事があるなら、協力しm・・・」
「!?だだだだだだだ駄目だよ円寿くん!!協力なんかしちゃ駄目!!」
「!?どっ、どうしてですか?先輩?」
「そっ、それは・・・」
「はははっ、教えてあげたら良いじゃないかミズツラさん。獣人であるクスノキ君に・・わたしの行っている研究がどんな物かを・・ね」
「ぐっ、ぐぬぬぬ・・・」
くっ、くっそぉ~・・この腐れ外道眼鏡イケメンがぁ~・・・円寿くんはまだいまいち現状を理解していない。でも凄く不安な表情をしている。ぐぅ~、そんな円寿くんに・・・言えない・・言える訳ないよぉ・・・
「ふふふっ、まぁわたしとしては、研究の事をいまさら隠す必要はないのでね・・せっかくだ、クスノキ君。わたしがどんな研究をしているのか・・そして、今その研究の成果を見せてやろうではないか!」
けっ、研究の・・成果?それって・・・!ドリュースさんの足下に魔方陣が展開された。魔法をこちらに放ってくる気なの?何だか凄く協力な魔法予感が・・・
「顕現せよ魂よ・・禍々しき恩讐を纏い・・いざ我が下に集え!汝らの怨恨により・・この世を冥府|とせよ!」
シュ~~ーー・・・ドロドロドロドローー・・・コォワーーー・・・
えっ・・・えっ?・・・ええええぇーーーー!?!?!?おぉっ、おばっ・・おばおばおばお化け!?幽霊!?怨霊!?どれでも良いんだけど・・・お化けが出たぁーーー!?下半身は煙みたいにフワフワしてて、上半身は骸骨・・・無造作にドリュースの周りを漂っている。数はぁ、えぇと・・・十体は以上いる。魔法でお化けを操っているて事?使役している?あたし今までお化けなんて見た事無かったけど、お化けてやっぱ存在するんだ。流石は異世界・・・てぇ、感心している場合じゃない!あのお化け達がどんな力を持っているか分からないけど、とにかくヤバいてのは伝わって来るぅ・・・
「先輩!ぼく、お化け・・幽霊?とにかく初めて見ます!凄くおどろおどろしいです!」
「そっ、そうだねぇ円寿くん~・・でっ、でも今は感動してる場合では・・・」
「・・・ひっ・・・」
「?」
「アオイ・・さん?」
「嫌あぁーーーーーーー!!!!・・・」
「!?」
ああああああああアオイさん!?どうしたんですか!?そんな女の子みたいな悲鳴をあげて・・・!そうだった・・アオイさんたしか幽霊が苦手って言ってた・・・わぁーー!!どーしよぉう~・・アオイさん、腰が抜けて地面に経たり込んでブルブル震えちゃっている~・・・
「あっ、アオイさん!大丈夫ですか?!」
「嫌ぁ・・嫌なの・・幽霊は・・怖い・・嫌ぁ・・・」
「おや・・おやおやおやおやおやぁ?ふふふっ、これはこれは・・・トゥモシーヌに続きまた嬉しい誤算だ!いやはや・・今日は実についている!いや・・アオイのその反応・・もしかしたらこれは演技なのかもしれないねぇ。わたしを油断させる為の・・・ふん、まぁ良い。わたしのこの死霊魔法に死角無し。この魔法を出した瞬間、君達はすでに詰みだ」
「どっ、ドリュースさん!アオイさんが脅えていますので、その・・しりょうまほう?とやらを、止めてもらえますか?」
「う~む・・クスノキ君。君は五感は鋭いのにこういう所は鈍いのだね。まぁその方がこちらもやりやすいからかまわんのだが・・・さてクスノキ君、ミズツラさん・・トゥモシーヌ、そしてアオイを実質排除した今・・君達を守る者はいなくなった。という事なので、ここらで少しわたしの話しを聞いていただこう・・そもそも魔導士とは何なのか、わたしが行っている研究の内容・・そして、この死霊魔法の恐ろしさをね・・・ふふふっ」
「・・・」
「さて、まずはわたし達魔導士達の目的を話そう。我々魔導士は、日々魔法を研究し解明・・そして魔法の発展、そしてまた新たな研究を繰り返し行っている。この世界の魔法はまだ未解明の物が多くてね・・我々魔導士は膨大な量のまだ見ぬ魔法を探し求める為に日々研究・実験をしている。その研究・実験の方法は人其々でね・・真っ当な方法を行う者もいれば、人道に背いた方法を使う者もいる。わたしもその一人なのだがね。まぁ・・中には自分が人道に背いている事に気がついていない狂った者もいる。あっ、ちなみにわたしは自分が行っている方法は少なからず人道に背いている物だと思っているよ。ただ、魔法の発展の為の必要不可欠な犠牲だと割りきっているだけだ。けれど、時々思うのだよ。自分もはなから人道等気にしない狂った者であったなら、より新たな魔法を見つける事が出来たのではないのかと・・狂っていたのなら、今よりも気楽でいられたのではないのかと・・まぁ、少なくともまだわたしにも良心という物があるのかもしれない。実際に、魔導士で無かったのなら・・この様な行い等しようと思わないのだからね・・・」
なっ、なにがわたしにも良心がある・・だとぉ~・・くぅ~・・何て白々しいんだ、このぉ~・・・
「おっと、話しが逸れたね・・わたしもね、最初は真っ当な方法で魔法を研究していたんだ。そして、とある新月の日の夜・・わたしはこの死霊魔法を生み出した。一応、基盤となっているのは氷魔法なのだが・・それでも、この世界に唯一の魔法を生み出し瞬間・・わたしは歓喜したものだよ。おっと、勘違いして欲しくないのだが・・この死霊魔法の完成には一切の犠牲を払っていないよ、完成にはね・・・この死霊魔法、見ての通り死者の魂を現世に顕現させ、人の眼にも見える様姿を与える魔法だ。この魔法・・当たり前だが死した者の魂が必要だ。生ある者の肉体に宿る魂・・この死霊魔法を活用するには、その魂を集める必要があるんだ・・・」
まっ、まさか・・魂を集める為に獣人の子供達を・・・
「ミズツラさん、今その魂を集める為に獣人の子供を・・・という顔をしたね。勘違いして欲しく無いのだが、別に魂を集めるのに獣人の子供にこだわる必要はそもそも無いのだよ・・・まっ、結果的には獣人の子供の魂も今もここに漂っているのだがね・・・」
「!?」
漂っているのだがね・・じゃあ、ありませんよ!結局子供達も犠牲になっているんじゃん・・うぅ、円寿君もびっくりしている。こんな話し円寿君に聴かせたくなんか無いのにぃ・・このぉ、外道マッドサイエンティストめぇ・・・
「この魔法を完成させた当初、わたしはいかに魂を効率良く回収出来るのかを考えていたよ。わたしの研究によると、生物の魂は肉体が生命活動を終えた後、約1週間で肉体を離れてしまう事が分かった。肉体を離れた魂はその後、その大部分が死者の世界・・冥府へと行くのだが、中には未練がましく現世をさ迷う魂もある。つまり・・魂を回収するには、この現世をさ迷う魂を回収するか、死後一週間以内の肉体を回収してそこから魂を取り出すかのどっちかなのだ。幸い、この大陸では半年前までは戦争があったからね。現世を漂う魂にも死者の肉体を集めるのに困らなかった。しかし、魂はともかく死者の肉体となるとわたし1人では少し骨がおれる・・そこで、わたしは人を雇う手段を使った。雇うのはいわゆる裏稼業を生業とする者達だ。雇った者に死者の肉体をわたしの研究の為の工房に運ばせ、魂を取り出した後の空になった肉体の処分も行わせた。ずっと死体を工房に置いておく訳にはいかないからね。当初はこの方法で魂を集めていたのだが・・とある日、雇った者の1人からある話しを聞いてね。あんたは奴隷市場の事を知らないのかと。その者に案内され、わたしは隣国バルニオン西部領に足を運んだ。バルニオン西部領は、領主が人身売買に力を入れていてね・・売られているのは主に人間・翼人・鬼人、そして獣人の子供だ。成長した身体つきの者達もいたがね。やはり無垢な子供の方が拐ってきやすいのであろう。まぁわたしとしては、魂さえ回収出来れば良いから、どんな種族であろうとどんな体格であろうと買えれば良かったのだが・・奴隷の売人からね、面白い話しを聞いたのだよ。『あんた魔導士か?魔導士が買うなら獣人がオススメだ。何故かって?知らないのか?獣人てのは魔法細胞が殆ど無い。あってもまともに機能しないから、獣人は魔法を使う事が出来ない・・だがしかし、その昔この大陸には魔法を使える獣人は存在していた。その獣人は、何故魔法を使う事が出来たのか・・・それは、魔法細胞を覚醒させる方法を使ったからだ』・・・とね」
ズキッーーー
「あっ・・・」
「!?どどどどうしたの円寿くん!あっ、頭が痛い?大丈夫?!」
「・・・はい、大丈夫です。急に頭痛が来たのですが・・・今はもう痛く無いです」
うぅ・・円寿くん。この世界の残酷な現実の話しをされたショックで頭が痛くなっちゃったのかな?て言うか、さらっと言っていたけど・・半年前まで戦争?戦争て・・そんな・・・戦争があったて事は、今はもう戦争は終わっているて事で良いんだよね?それにしても、この世界獣人に対して厳しくありませんか?魔法細胞が無いから実験台にされるなんて・・獣人の円寿くんにとってハードモード過ぎるでしょ!うわわあぁん!デメティールさんの馬鹿ぁーーー!なんで獣人に厳しい世界にわざわざ円寿くんを獣人にしたのよーーー!!
「わたしはね、興味を持ってしまったんだ。獣人は魔法を使う事が出来ない・・しかし、魔法細胞を覚醒させれば魔法を使える可能性がある・・高い身体能力に加えて魔法を使う事が出来る獣人を生み出せる事が出来ると・・その魔法を使える獣人を研究すれば、わたしの魔法が・・この世界の魔法が更なる発展を遂げるのではないのかと!ふふふっ・・・その魔法細胞を覚醒させる方法というのがね・・雷魔法による電磁波を直接脳に当て刺激を与え覚醒させるという物・・いわゆるショック療法だ。わたしは決めたよ・・奴隷の獣人を買う事を・・買った獣人に実験を行う事をね・・そして始めた電磁波による実験だが・・・これがとても難しくてね。弱すぎると何も反応が起きない、強すぎると脳への負荷が強すぎて死んでしまう・・・まぁ、死んだら魂を回収すれば良いから、わたしとしてはどっちに転んでも良かったのだが・・・やはり、やるからには成功する瞬間も見たい。しかし、なかなか成功しない・・・あの手この手と尽くしたが、これが上手くいかない。そもそも魔法が使える獣人など本当に存在したのか?あの売人が、わたしに獣人を買わせる為の方便だったのではないか?疑念と実験の放棄を考え始めた時に・・クスノキ君、君が現れた」
「!」
「魔法を使う事の出来ない獣人が、魔導省主宰の交流会に来てくれた。魔法に興味がある・・その言葉に、わたしは驚いたよ。何故ならねぇクスノキ君・・わたしの実験台になった獣人の子供はね、皆口々にこう言うのだ。『魔法なんて興味が無い、むしろ嫌いだ』とね。まぁ、その魔法の実験台にされてるのだから無理もないのだが・・だからねぇクスノキ君、君が交流会に現れた事にわたしは運命を感じた!そして・・一縷の望みを抱いた。神の気まぐれで、この子は魔法が使えるかもしれない、と・・・ふふふっ、クスノキ君・・わたしが感じた運命はたしかだった!シフォンから君に魔法細胞が存在し魔法が使える事を聞いた時は、とても嬉しかったよ。魔法を使える獣人は本当に存在したと!これで・・わたしの魔法が、この世界の魔法が更なる発展を遂げると!クスノキ君・・君の身体を調べ研究する事は、この世界の魔法にとって必要な事なのだ。魔法はね、この世界の真理なのだ。君の身体を研究した先に、輝かしき魔法の・・魔導士の未来があるのだ!その輝かしき未来の為に・・クスノキ君、君には人柱になってもらう・・・」
「人・・・柱?」
「ああ。具体的に言うとね・・君には魔力で満たされた液体に浸かり、一生そこで寝ていてもらう。そこで我が生涯をかけて君を調べつくす!君は痛みも感じず、死ぬ事もなく・・幸せな夢を見てれば良いのだ」
魔力で満たされた液体?それってもしかして・・あたし達の世界で言う所のホルマリン漬けの事?一生寝るて・・・それ実質死んでる様な物じゃん!そんな事・・そんな事を円寿君にしようとしてるのか、あいつは~・・・
「さぁクスノキ君、わたしには・・この世界には君が必要だ。わたしの手をとっておくれ・・君はとても素直だ・・おとなしくわたしの下に来てくれるのであれば、君の側にいる彼女達を傷つける必要はなくなるのだが・・・」
「!?それは・・・どういう意味でしょうか?・・・」
「ふふふっ、どういう意味か・・・本当に君は鈍いねぇ、クスノキ君。あぁそういえば、この死霊魔法の恐ろしさをまだ全て話していなかったね。この死霊魔法・・魂を人の目にも見える様姿を与え、そこで震えているアオイみたいな者を驚かすだけでは無い・・・この死霊達はね、生ある者に憑かせる事が出来るのだよ。憑依とも言うね。この死霊達に憑かれた者は、憑かれた瞬間に意識を死霊に乗っ取られる。そして、死霊が身体から離れないかぎり・・憑かれた者の意識はずっと身体の奥底で眠ったままだ。この死霊達はわたしの意のままに操る事が出来る。わたしの魔法だからね、そんなの当たり前なのだが・・・ふふふっ・・つまり、死霊に憑かれた者はわたしの支配下に置かれるという事だ。しかしこの死霊達・・肉体無き故か、思いの外脆い。先ほどアオイが使った退消魔法や、魔法障壁・・聖別された水等で簡単に消されてしまう。だが、魔法を使い始めたばかりの君では・・この死霊達を防ぐ手段は無い。しかし君は獣人だ。獣人の身体能力ならこの死霊達から逃げ切れる事が出来るだろう。それなり調整はしているが、死霊達の動くスピードでは獣人の速さには追いつけないだろうからね。だが・・君は逃げ切れるかもしれないが、彼女達はそうは行かないだろう?」
「!?」
「1人は寝ており、1人は脅え震えて動けない、1人は見るからにどんくさそうだ。クスノキ君・・君には彼女達を置いて自分だけ逃げる等という薄情な行いが出来るかい?」
「・・・」
こぉっ、このぉ~・・・誰がどんくさそうだってぇ~・・・くっそぉ~・・間違っていないけど~・・でもこの人に言われると凄く腹が立つ~・・おぉ、怒ったぁ!あたしは今怒りましたよ!みっ、見てろよぉ・・あたしだってさっきトゥモシーヌさんに少し魔法を教わったんだ。こう・・電撃を・・バチバチッてしてやるからなぁ~・・あたしを馬鹿にして、挙げ句の果てに円寿くんに酷い話しを聴かせた事を後悔させてやるぅ~・・・
スッーーー
「ん?・・・(あれは・・・貸し出し用の魔通玉か。ふむ、わたしに向かって魔法を放つ気か・・・)」
「くっ、くらえ!トゥモシーヌさんとアオイさんの仇!はっ、走って!稲妻よ!」
ビリリッーーー
やっ、やった・・・魔法を・・電撃を出す事が出来た!あたしも魔法が使えた!あたしの手から魔方陣が現れて、そこから一筋の稲妻が飛び出したよぉ・・・よっ、よし!そのまま、あの外道マッドサイエンティストに当たって痺れさせちゃえ!
パチッーーー
「・・・ふむ・・・」
「あっ、あれ?」
んんんんん?きっ、効いていない?あれ、おっ、おかしいなぁ・・なんか電撃が当たった時の音も凄くショボかったし・・・今のパチッて音、なんだか普段の日常で聴いた事がある音だったな・・たしか・・・
「先輩、静電気みたいな音がしました。あれ、結構痛いんですよね」
「!そっ、そうだね・・静電気・・・そっかぁ・・静電気、だね・・ははははは・・・」
「・・・ふむ、なかなかの魔法の精密さだね。コントロールの難しい雷魔法をしっかりとわたしに当ててくるとは・・・しかし、精密さが良くても肝心の出力が弱すぎる。これでは、相手を攻撃するのにはかなり心細いね」
がっ、ガーーーン・・・出力が、弱すぎる・・ですと?攻撃には使えない・・・うぅ、せっかくの初魔法が・・こんなショボ過ぎる結果になるなんて・・・やっぱりあたしじゃ駄目だったよぉ・・・
「ふふふっ・・クスノキ君、見ての通りミズツラさんではわたしを打ち倒す事は出来なかったみたいだ。さてさてクスノキ君、そろそろ鈍い君でも事の状況が理解出来てきたのではないかな?君の選択肢は限られているのだよ。まず1つ目の選択肢は・・おとなしくわたしに協力し、魔法の発展の為にその身を捧げ一生の眠りにつく・・2つ目の選択肢は・・わたしの協力を拒み我が死霊魔法の恐ろしさを身をもって味わい、そして一生の眠りにつく・・そして3つ目の選択肢・・わたしの協力を拒みこの場を逃走する。ただし、その場合彼女達が君に代わり一生の眠りにつく・・だ。あぁ、1つ目と2つ目を選んだ場合はもちろん、彼女達には手を出さないよ。クスノキ君、わたしは君を恨んでいる訳ではないからね。もし君の事をわたしが恨んでいた場合、君を絶望させる為に・・彼女達を葬りその魂を回収するという方法を取っていたかもしれないし・・彼女達には手を出さないと言いつつ、君が眠りについた後に彼女達を死霊の餌食にしていたかもしれない・・ふふふっ、まぁそんな事はしないさ。君が正しい選択肢を選んでくれるならば・・ね。ふふふっ・・・さてぇ、それではクスノキ君・・君の返事を聞かせてもらおうか?」
「・・・」
「えっ、円寿くん!お願い・・円寿くんは・・逃げて・・・」
「!?先輩・・・」
「あっ、ああ・・あたしの・・あたし達の事は、気にしないでいいから・・・どっ、ドリュースさんの目的は・・あぁあくまで、円寿くんなんだから・・円寿くんはここから逃げて・・そして応援を呼んできて・・そうすれば、ドリュースさんを・・捕まえられると、思う・・から・・・」駄目・・駄目だよあたし・・声が、声が震える。あぁもう、怖いけど震えないでよ!円寿くんを余計に不安にさせちゃうじゃん!
「うぅ、ごめん円寿くん・・あたし役立たずで・・・円寿くんにそんな悲しい顔させちゃって本当にごめん・・・だけどお願い・・円寿くんには逃げて欲しい・・・自分勝手かもしれないけど、円寿くんがもう二度と目を覚まさないなんて事、あたしにとっては自分が死ぬよりもつらい事だから・・もう二度と円寿くんの色々な表情が見れない世界なんて・・そんなの絶対に嫌ぁ!・・・だっ、だから・・・逃げて・・円寿くん・・・だっ、大丈夫!トゥモシーヌさんと・・アオイさんは・・あっ、あたしが・・あたしが、何とか・・守る・・から・・・だっ、だから・・ね・・お願い、円寿くん・・・」
「先輩・・・」
「ふむ、応援を呼ぶ・・か。ちなみにねクスノキ君。わたしの死霊魔法だが、死霊達を憑かせた後にわたしに何かあっても・・死霊が憑かれた者からは離れる事は無いよ。あくまで、わたし自らの指令がないと死霊達は憑かれた者から離れる事はしないのだからね。ふふふっ、言っただろう・・君が逃走した場合、彼女達は一生の眠りにつくと。わたしはねクスノキ君・・逃走という選択肢を選んだ君を後悔させる為に、わたしは彼女達を死霊から解放なぞさせないからね・・・ふふふっ、クスノキ君・・君はこの話しを聞いた上で、彼女達を置いて逃げる選択肢を選ぶのかい?それとも・・・」
「・・・」
「えっ、円寿くん・・・」
「・・・ドリュースさん・・・」
「ん?」
「ドリュースさん・・ぼく、ドリュースさんに聞きたい事があります。」
「・・・ふむ、何だい?」
「・・・ドリュースさんは、悪い人なんですか?」
「・・・ふむ、なるほど・・悪い人、なんですか・・か・・・ふむ、そうだね・・クスノキ君、わたしはね・・自分の事を、悪い人間だと思っている・・いや、思っていない・・思っている訳が無い。そもそもわたしの行いを善や悪で判断した事が無い。たしかに、君達から見たらわたしは悪に見えているのかもしれない。しかし、歴史と言うのは犠牲なくして進歩を望む事は出来ない・・そう思っている。わたしはねクスノキ君、魔法の研究の為とはいえ・・多くの命を犠牲にしている事に、多少なりとも胸を痛めているよ。しかし、その犠牲の果てに魔法の・・この世界の輝かしい未来に繋がるのであればこの犠牲もやむ終えないと・・魔法の発展の末、この様な犠牲を出す必要が無いほどに世界が発展していれば・・・犠牲になった子供達も、救われるはずだ。そう、わたしは信じている。」
「・・・ドリュースさん」
「何だい?クスノキ君?」
「ドリュースさんは、それが、正しいと・・そう、信じているんですね」
「あぁ、勿論そう信じているとも。ふふふっ・・クスノキ君、もう質問は無いかい?無いのであれば・・改めて、君の返事を聞かせておくれ」
「・・・ドリュースさん・・ぼくは、この世界に来てまだ日が浅いので、この世界の闇の事とか・・戦争の事とか、実感はありません。獣人であるぼくがどういう立場なのかもいまいち把握出来ていません。価値観て、人や地域・・国、世界によって違うと思います。もしかしたら、ドリュースさんの言っている事が本当にこの世界にとっては良い事なのかもしれない。ドリュースさんを一概に間違っていると言う事も出来ません。でも、だからと言ってドリュースさんのしている事・・魔法の未来の為とは言え、子供達の未来を奪うドリュースさんに協力する事は・・ぼくには出来ません。そして、トゥモシーヌさん、アオイさん、先輩を置いて僕だけ逃げる事も僕には出来ません」
「ふむ、つまり2つ目の選択肢・・死霊に憑かれ一生の眠りにつく・・を、選ぶんだね。」
「・・・はい、そういう事になります」
「ふふふっ、クスノキ君、君は見た目以上に肝が座っているね。実に潔し。誇りに思いたまえ」
「・・・ありがとうございます・・・あの、約束して下さい。先輩、トゥモシーヌさん、アオイさんには手を出さないて・・・」
「あぁ、勿論だとも。君の勇気は称賛に値する。そんな君の覚悟を踏みにじる様な事はしないよ」
「・・・先輩」
「!?・・・」
「短い間でしたが、大変お世話になりました。ぼく、先輩に会えて凄く楽しかったです。先輩・・ぼく、この世界に来た時・・実は少しだけ不安だったんです。知らない世界・・知らない土地で知らない人達と上手くやっていけるだろうかって。まぁそれは、杞憂に終わったんですが。でも、同じ世界から来た明奈先輩が、同じデアゴ・コチーナに住んでいるて知った時・・ぼく、凄くホッとしたんです。同じ世界の人・・しかも、同じ大学!先輩が側にいてくれるだけで、凄く心が軽くなったんです。もし、ぼくがこの世界で成すべき事を成して、元の世界に帰るてなった時・・一緒に帰る事が出来たら良いなぁて思っていたんですが・・・ごめんなさい先輩、一緒に帰れなくなっちゃいました。先輩には凄く感謝してます・・だから・・・その、先輩・・・泣かないでくれますか?」
「うっ・・えぐっ・・・いっ、嫌・・・嫌だよ、円寿くん・・・ひっく・・やだぁ・・・」
嫌ああぁぁぁ・・・お願い円寿くん・・お世話になりましたなんて言わないで・・・あたし・・あたしだって円寿くんとこの世界で会えて凄く嬉しかった。この世界で円寿くんと・・この世界の人達と沢山楽しい思い出作るはずだったのに・・・それが・・・こんな形で終わりだなんて、そんなの嫌だよおぉ・・・
「・・・ふむ、クスノキ君・・お別れの挨拶は済んだかな?」
「・・・はい・・・(シュリちゃん、ジュリちゃん、リンジアさん、戦乙女騎士団の皆さん、チェルさん、ナミさん、ウィネさん、ラング・ド・シャットの皆さん、ナタリーさん、デア・コチーナのスタッフの皆さんとお客さん、トゥモシーヌさん、アオイさん、今日少しお話しした魔導士の方々、さよならも言わずいなくなってしまい申し訳ありません。アズさん、毎日美味しい料理を作ってくれてありがとうございました。ミサちゃん、サク姉、この世界でまだ泣いている獣人の子供達を1人でも多く助けてあげて下さい。デメティール様、せっかくこの世界に送り出してくれたのに、期待を裏切る形になってしまい申し訳ありません。元の世界のぼくの友達、知り合いの方々、そして・・父さん、母さん、兄さん、姉さん、勝手に自分の人生を終わりにしてしまい申し訳ありません。悔いは無いかと言われたら・・沢山ありますが、それでも、ぼくと縁のある人達を見捨てて自分だけ逃げるなんて・・ぼくには出来ません。勝手なぼくを許して欲しいなんて言いません。そして・・先輩、先輩に悲しい思いをさせて申し訳ありません・・・あぁ・・ここで終わりか、ぼくの人生。もう皆と会えなくなるのは寂しいなぁ。そうだな・・もし、最後にもう少しだけ時間があったら・・この世界に来てからの沢山の思い出を、姉さん兄さん・・母さん父さんと、この世界で出会った人達皆と同じ食卓を囲んで・・・色々な話しをしたかったなぁ・・・)」
「さて・・さよならだクスノキ君。まぁ安心したまえ、死霊に憑かれる瞬間に痛みは無いよ。君は一生・・暗い夢の中を彷徨う事になるがね。いや・・もしかしたら明るい夢かも・・まぁわたしにとってはどうでもいいか。それじゃ・・・お休み、クスノキ君。」
ゴォワッーーー
「・・・(皆さん・・本当に・・ありがとうございました・・・)」
「あっ・・・あぁ・・円寿くんっっっ!!!!・・・」
ゴォワッーーー・・・・
ーー禍々しき姿の死霊の一体が、円寿に取り憑かんと空を走り迫りくる。その死霊に対し小さき身体で両手をいっぱいに広げ自身の背後にいる自身と縁を結んだ才女三人守ろうとする円寿。その右目からは一滴の涙が頬をつたいこぼれ落ち少年はスッと瞼を閉じる。この瞼を閉じたら自分は二度とこの瞼を開ける事は無いだろう。少年は刹那の瞬間そう思っていた。そんな円寿に向かって涙混じりの声で彼の名を必死で叫ぶ明奈。彼女の声が微かに耳に入り今まで出会ってきた人達の様々な顔と表情が少年の脳裏を駆け巡っていた。もう会えなくなるのは寂しい・・そう思っていたその瞬間ーーー
「・・・安心して下さい・・楠木円寿。あなたの人生は・・こんな所で終わる訳が・・終わらせる訳がありません・・・」
「!!デメティール・・・様?」
パァシュウゥンーーー・・・
「・・・んっ・・・?」
「・・・えっ?・・ひっくっ・・・あれ?」
「・・・?・・・(何だ・・何が起こった?・・消えた?わたしの死霊が?何故?何故消えた?魔法の出力不足か?出力の調整を間違えたか?いやそんな筈はない。わたしの魔法だ、わたしが生み出した魔法だ。わたしに限ってそんなへまはしない・・・ならば、何故・・・)ふむ・・・ふふふっ、クスノキ君。君は運が良いね」
「!運・・・?」
「ふふふっ・・・(あぁ、そうだとも。たまたまだ。たまたま運良く死霊が消えたのだ。そうだ・・そうに違いない。わたしとした事が・・少し気がゆるんでいた様だ。次は確実に仕留める。魔力の出力を上げておこう。もしもの場合がある。さらに・・・)念には念をだ。今度は・・・この数で行く!」
「!?」
「ふふふっ・・・(十体まとめてだ。流石にこの数なら、たとえクスノキ君の運が良くてもたまたま消えるなんて事は無いだろう。)今度こそ眠りたまえクスノキ君!!」
「っ!・・・」
「えっ、円寿くん!!」
ゴオゥワアァアァーーー
パァシュウゥゥゥンーーー・・・
「・・・んっ・・・?」
あっ、あれ?消えた?また消えた?最初消えた時、何が起こったのか分からなくて、あたし何もリアクション出来なかったんだけど・・・死霊が円寿くんに触れる瞬間、煙の様に・・消えている?二回目の複数まとまて来た時も、やっぱり円寿くんに触れる瞬間に消えている。まるで・・円寿くんが何かから守られているみたいに・・・いや・・いやそんな事より!・・・
「えっ、円寿くん!いいい意識っ!意識あるよね?!円寿くん、幽霊に憑かれていないよね?!あたしの知っている円寿くんだよね?!」
「!?はっ、はい!意識はちゃんとあります。ちゃんとぼくです。ちゃんと楠木円寿です」
「・・・は・・はあぁあぁあぁ・・・良かったぁ・・ちゃんと円寿くんだぁ・・・」
「・・・は?」
「!・・ドリュースさん?」
「は?・・・はぁ?・・・・・はああああああぁぁぁぁぁぁ!?・・・(何故だ!?何故だ何故だ何故だ何故だ何故だぁ!?何故消える!?出力も安定していた・・制度も完璧だ・・十体全て当てた筈だ!なのに・・なのに何故・・・何故消える!?何が・・何が起こっている?魔法か?退消魔法を使ったのか?いや違う!詠唱も口にしていない、詠唱文をなぞる仕草もしていない・・そもそも今日魔法を使える事を知った者が使用できる魔法ではない!それでは何故?・・・まさか・・まさか無詠唱か?トゥモシーヌの様に感覚で退消魔法を?いや・・そんな・・馬鹿な・・・)ぐっ・・・ぐっぎっぎっぎっ・・・」
うわぁ・・ドリュースさん滅茶苦茶混乱してますて表情している。あんなに青筋立てて。さっきまであんなに勝ち誇っていて余裕そうだったのに。完全に予測の範囲外の事情なんだろなぁ。
「あっ、あのね円寿くん。円寿くんが無事で凄く良かった。良かったんだけど・・・円寿くん何かしたのかな?幽霊達・・何か消えてるけど・・・」
「う~ん・・・!あっ、そうでした」
ん?円寿君、手をポンと叩いて・・何か思い出した感じ?
「これ、女神様のご加護です!」
「女神様の・・ご加護?」
「はい!ぼくにもしもの時があった時に、女神デメティール様が守ってくれるみたいです。どういう原理かは分からないんですが・・とにかく守ってくれるみたいです。アズさんが言ってました!」
「もしもの時に・・デメティールさんが守ってくれる?」
そっ、そんな力が・・円寿くんに?それはつまり・・円寿くんに対するあらゆる攻撃を無効化するて事?だから、円寿くんにとり憑こうとする幽霊達が消えていったと・・・えっ何その反則技能。円寿くんの口ぶりからして、すでに一回経験しているみたいだけど・・・まっ、まぁこの獣人に対してハードな世界に円寿くんを獣人として送り出したんだもの。デメティールさんからそれ位の贔屓があっても何の文句もありません。むしろ当たり前です!その位守られて当然なんですから円寿くんは!あっ、でもさっき馬鹿て言って申し訳ありません、これからも円寿くんをよろしくお願いいたします!
「・・・女神の・・加護・・だと?・・・くっ、そんな物・・そんな物で・・・」
「?」
「わたしの研究の成果を・・否定されてなるものくぁあぁぁぁぁぁ!!!」
ゴォウワッーワッーワッーワッーワッーワッーワッーーー・・・
「!!・・・(デメティール様・・お力・・お借りします!)」
ーー円寿は確信したいた。デメティールから授かった女神の加護があれば、原理は不明だがとにかく自分に触れた死霊は消滅する。自分が触れさえすれば消える・・霊が消える事=成仏。自分は暴力をふるっているのではない、お祓いをしているのだという事をーーー
バシュバシュバシュバシュバシュバシュバシューーー・・・
おおおおおおぉぉぉぉ!!幽霊達がまるで吸い込まれる様にどんどん消えていっていく。すっ、凄い円寿くん・・いや、凄いのはデメティールさんの加護の力?いやっ、円寿くんが凄い!幽霊が自分に触れれば消えるて分かっていても、あんな機関銃の如く放たれてくる幽霊達相手に真っ直ぐ前を向いて立ち向かう事なんて出来ないよぉ。両手を前に出して構えている円寿くんの背中が、こんなにも頼もしく見えるなんて・・・
「くぅっ・・かくなる上は・・これでどうだぁ!」
「!」
ん?幽霊達が真っ直ぐ円寿くんに飛んで行かず・・まるで変化球の如く弧を描いて色々な角度からあっちにこっちに・・・て、あたし!?いやあたし達!?わああぁぁぁドリュースさんあたしやトゥモシーヌさんアオイさんを狙ってきているぅ!?
「!させません!」
パシュウゥンーーズザッーーグルグルングルンーーバシュパシュウゥンーーー
ーー振り向き様に右腕を振り下ろし明奈に牙を向く死霊を霧散させ、そのまま左に錐揉み回転(三回転半)しながらアオイ・トゥモシーヌに襲いかかる死霊を自身の身体に当てさせ霧散させていく円寿ーーー
に"き"ゃ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!円寿くんカッコいいいいいぃぃぃ!!!♡♡♡見ました?今キャプテンア○リカみたいなカッコいいアクロバットアクションしましたよ!着地した時の円寿くんの凛々しい表情・・・はぁ・・素敵♡♡こんなにカッコいい円寿くんが見れるなんて・・・数分前のあたしに言ってあげたい・・『泣かないであたし!そして安心して!円寿くんは無事だから!なんなら円寿くんのカッコいい所がこれでもかと言う位見れるから!』て、言いたい・・・
「!?ぐぎぎぎ・・おのれ・・・」
「ドリュースさん!」
「!・・・」
「全部出して下さい。ドリュースさんが集めてしまった魂を・・囚われている幽霊達を!ぼくが全て、成仏して差し上げます!」
「くぉ・・のぉ・・・」
バシッッッ・・とおぉ!はいっ!決まりましたぁ!円寿くんの台詞がぁ!ドリュースさんに人差し指をズガッと向けてぇ!くうぅぅぅ、カックいいぃ!
「おのれクスノキ君・・・いや、エンジュ・クスノキぃい!よくも・・よくもわたしを・・よくもわたしの研究を虚仮にしてくれたなぁ・・・許さん・・許さんぞ・・・ふふふっ、いいだろう・・お望み通り、全てぶつけてやる!」
シュンーーシュンシュンーードロドロドロドロロロロローー・・・ゴオォォウワアァァーーー
あわわわわわ・・デカい!ゆっ、幽霊が一つに集まって・・巨大な一体の幽霊に!?ゲームでよく見る巨大ゴーストだぁ!・・・
「これでいい加減眠りたまえぇぇっっ!!!」
ゴオォワッーーー
「!」
ッッッッバァッ・・シュウゥゥゥゥンンンーーー
けっ・・消したあぁ!!あの巨大幽霊も女神の加護を撃ち破る事は出来ない!にしてもこの場面、汗を流し必死なドリュースさんと息一つ乱れず凛々しい表情の円寿くん。良い感じに対になっている。むふふっ、どうだぁドリュースさん!恐れ入ったかぁ!そろそろ負けを認めますかぁ?
「・・・くっ・・おのれ・・・」
「・・・エンジュ・・くん・・・」
「ん?・・あっ、アオイさん!」
良かった、震えが止まって落ち着いてきている。
「みっ、見て下さい!円寿くんのおかげで、ほら!幽霊皆いなくなりましたよ!もう大丈夫です!安心して下さい!」
「うん・・気をつかってくれてありがとうアキナちゃん。あたしも見てた。エンジュくんが死霊達を消していく所・・・」
「・・・くそっ!」
ん?あぁ!?ドリュースさん逃げ出した!?負けを認めず逃げるのかぁ!この卑怯物!
「!逃がしません!」
流石円寿くん、反応か速い!そして足も速い!獣人である円寿くんの速さから逃げられると思うなよぉ!
ヒラッーーー・・・
「!・・・(なんだろう?ドリュースさん、何か落とした。紙?みたいな・・・)」
あれ?円寿くん、足止めちゃった。それで何か拾った。あれはなんだろうか?
「!?・・・(まさか、あれって・・・)駄目!エンジュくん!それを見ちゃ駄目ぇ!!」
「?」
あっ、アオイさん!?見ちゃ駄目てそれは・・・て、ああぁ円寿くん!もう見ちゃってる!?
「・・・ふふっ、ふふふっ・・ふふふはははははははは!見た!見たな!その呪符を見たなエンジュ・クスノキ!ふふふっ・・ふはははははは!」
えっ?呪符?呪符て言いましたかドリュースさん?なっ、何か凄くヤバ気な予感が・・・
「ふふふっ、その呪符はぁ!その呪符に描かれている模様を視界に写したその瞬間に対象者を瞬時に呪うという代物だ!呪われた者は瞬く間に身体が衰弱して行き、苦しみもがきながらやがて死にいたる!ふふふっ・・エンジュ・クスノキ・・わたしの計画を・・魔法の未来を台無しにしてくれた罰だぁ!君の死をもって償ってもらう!本来ならば殺す必要は無かったのだが・・ふふふっ、なぁに・・君の遺体はしっかりと我が研究の糧にしよぉ・・魂も回収できる事だしねぇ・・ふふふっ・・ふはははははは・・あーっはっはっはっはっ・・・はぁ・・は・・・?」
「・・・?」
あれ?円寿くんキョトンとしている・・可愛い・・て、今はそうじゃない。瞬く間に衰弱して行くて言っていたけど・・円寿くんなんともなさそう?
「えっ、円寿くん!だだっ大丈夫?身体!おかしな感じとか無いかな?!」
「!はい!大丈夫です先輩!どこも異常はありません!元気です!」
はぁあぁ・・良かったぁ。円寿くん無事だぁ・・・
「なっ!?・・・そんな・・馬鹿、な・・のっ、呪いも・・通用しない・・だと・・・(えっ、エンジュ・クスノキ・・なんだ?なんなんだ君は?!君は一体、何者なんだ!?・・・女神の加護・・・!?そんな・・もしや・・彼は・・・)神の・・使い・・なのか?」
「?ドリュース・・さん?」
「ふふふっ・・ははははは・・そうか・・やはり、そうだったんだな・・神の使いだったか。ふふっ、どおりで・・他の獣人達と異なる訳だ・・・我が非道なる行いに罰を与える為に・・君は使わされたんだね・・クスノキ君・・・そうか・・そうだったのか・・・神は・・何もかも見ていたんだな・・・」
「・・・ドリュースさん・・・」
目を虚ろにしながら力無く笑うドリュースさん。円寿くんが神の使い・・たしかに、別の世界から女神デメティールさんの導きでこの世界にやって来た円寿くん(と、あたし)をそう思うのもあるのかもしれない。魔法や呪いが一切通用しない女神の加護なんか持っていたら尚更だ。
「・・・顕現せよ・・死霊よ・・・」
「!?」
「ひっ・・・」
ちょっ!?ドリュースさんまた幽霊出してきた!?アオイさんがまた脅えてしまっているでしょおがぁ!円寿くんには通用しないて理解したはずなのに・・最後まで悪あがきするつもりですか!?
「・・・クスノキ君」
「!」
「わたしの負けだよ。間もなくここに魔導省管理局がやって来るだろう。わたしの行いはおそらく管理局には全て知られているだろうからね。本来なら、君を捕獲した後隣国に渡り研究を続けるつもりだったのだが・・・それも出来なくなった。管理局が来たら、そのままわたしは捕まるだろう。そしたらわたしは一生檻の中だ。魔法の研究も出来なくなる。そんなの、魔導士として死んだ様なものだ。そうなる位なら・・・」
「!?」
あっ、あれ?幽霊があたし達の方に向かずドリュースさんに顔を向けてる・・・まっ、まさかドリュースさん・・自分に幽霊をとり憑かせるつもりなんじゃ・・とり憑いた幽霊はドリュースさんだけが解除出来る。その幽霊をドリュースさん自ら自分に憑かせるて事は・・ドリュースさんは解ける事の無い永遠の眠りにつく・・つまり、それは死と同じ・・・ドリュースさん自害するつもりだ。たしかにドリュースさんは、これまで多くの獣人の子供達の命を奪ってきた。ドリュースさんの死を当然と思う人もいるかもしれない・・いや、むしろ沢山いる。でも・・なんだろう・・本当に、それで良いのかな?
「この死霊はね・・わたしの研究によって犠牲になった子供の獣人の一人だよ。ふふふっ・・自分を殺めた男の意識を奪う事が出来るのだ。この死霊も本望だろ・・まぁ、死霊に意識は無いのだがね。さぁ魂よ・・お前に我が身体をやろう・・・」
ゴォワッーーー
ダダダダダダダーーー・・・
バシュウゥゥンーーー
「・・・なっ・・・」
えっ、円寿くん!?ドリュースさんのとり憑こうとした幽霊を・・消した?右手をおもいっきり振りかぶって。ドリュースさんを・・助けた?
「・・・クスノキ・・君・・・君は・・どうして・・・」
「・・・ドリュースさん・・・」
「・・・?」
「ズルいですよドリュースさん・・・」
「ズルい?」
「はい、ズルいです。ドリュースさん、今生きる事から逃げようとしましたね」
「・・・生きる事から・・逃げる。それは・・駄目なのかね?」
「駄目です」
「・・・何故だクスノキ君。鈍い君でも分かるだろう。わたし自らに死霊をとり憑かせるという事は・・事実上の死という事だ。わたしは今、死のうとしたのだ!魔法の研究が出来なくなるという魔導士としての死を迎える位なら・・研究の犠牲になった子供の獣人への償いとして、わたしの死を捧げられるのなら・・それで、それで良いじゃないか。それにクスノキ君、わたしは君を今さっき殺そうとしたのだよ。君に殺意を向けたのだ。君の死を望んだ。それ以前に、研究の為の糧にしようと君の人生を奪おうとしたのだ!何故そんな男を・・助けたというのだ。クスノキ君・・わたしはね、死ななくてはならないのだ。生きる事から逃げるんじゃあない。君に負けた時点で、わたしの死は確定しているのだよ。子供達の魂も・・わたし自身も・・それを望んでいる」
「僕は望んでいません!!」
「!?」
「良いですか?全部良いますよ。まず・・死霊を自分に憑かせる事が事実上の死だという事位・・そんな事、ぼくだって分かっています!」
「そっ、そうかい・・・」
「ドリュースさん・・死にたいのなら、魔導士として死ぬだけで十分です!人としての死ぬのは許しません!死ぬ事が償いですって?ドリュースさんは随分傲慢なんですね」
「ごっ、傲慢・・・」
「償うと言うのであれば・・死ぬのではなく、生きて償って下さい!」
「いっ、生きて・・償う・・だと・・・」
「はい、死は一瞬です・・死んでしまっては、そこでドリュースさんの償いはおしまいです。そんなのは駄目です!本当に償いたいのであれば、生きて・・生きて償って下さい。子供達が歩むはずだった人生の分・・いや、その何倍の時間をかけて・・一生をかけて・・ずっとずっと苦しんで、もがいて後悔して泣いて叫んで・・心が折れて立ち上げれなくなる位になって、ずっとずっと償って下さい。死ぬという事は、それから逃げるという事です!生きる事から逃げる・・後悔する事から逃げる・・そんなのはズルいです!逃げないで下さい、ドリュースさん!」
「・・・」
「それと・・ドリュースさんがぼくを殺そうとした事ですが・・・たしかに、あんなにもはっきりと死を望まれたのは初めてです。殺意を向けたのはあの一瞬だけだったと思いますが、とても怖かった・・と、思います。人から殺意というあまりにも大きな感情を向けられるのって、こんなにも心が痛む事なんだなと・・そう感じました。でも、子供達はもっと怖かった。いや、怖いなんて言葉じゃ表せられない位の感情を感じたはずです。結果的には、子供達が亡くなって・・ぼくが生き残っている。ぼくはたまたま女神様のご加護を与えられただけで、本当だったらぼくも死んでいたかもしれない・・別の子供が女神様の加護を与えられていたかもしれない・・本当に・・本当にたまたま運命の糸がぼくに向いてくれただけなんです。だから・・だからぼくは、生き残った者として、ドリュースさんに伝えます。生きる事から逃げず、一生かけて罪を償って下さい!お願いします!!」
「・・・(クスノキ君、君はたしか・・わたしが最初に死霊を放った時、事実上の死を覚悟したのか涙を一滴流していたね。小さな粒が頬を伝っているのが見えた・・その時よりも・・その死を覚悟した時よりも・・・クスノキ君・・君はそんなにも、大粒の涙を流すのか・・・)ははっ・・説教をする方がそんなに泣いていては・・締まらないではないか、クスノキ君」
「うっ・・ぐすっ・・だっ、だから・・嫌なんです、怒るの・・感情がぐちゃぐちゃになって、溢れだしてきて・・涙が止まらなくなる・・ぐすっ・・怒るのは嫌いです・・・えっぐっ・・・」
円"寿"く"う"う"う"う"う"う"う"う"う"う"ん"ん"ん"ん"ん"ん"・・泣"か"な"い"で"え"え"え"え"ぇ"・・ううぅ・・円寿くんが泣いちゃうとあたしまで涙が止まらなくなるぅ・・いいんだよ円寿くん・・こんな悪い人の為にそんなに泣かなくてもぉ・・ううぅ・・円寿くんが優し過ぎる・・自分を殺そうとした相手に生きろだなんて・・あたしだったら即刻死刑とか言っちゃう・・・あたし幼稚、円寿くん大人・・ホント好き・・・
「・・・はぁ、なんだろうね・・魔導士として人生が終わったというのに・・どこか心が軽くなった気がするよ。そして、今さら遅すぎるかもしれないが・・罪悪感が波になって押し寄せてきたよ。本当に・・愚かな行いをしたとね・・・ん?あぁ・・どうやら・・お迎えが来たようだ・・・」
「!お迎え・・ですか?・・・(なんだろう?ドリュースさんは子供達の命を沢山奪ってきた。それで幽霊を操る・・・!?まっ、まさか・・・)もっ、もしかして、ドリュースさんの命を奪う為にやって来た・・死神が、迎えに来たんですか?!」
「死神・・・ふふふっ・・はははっ、いや、そっちではないよクスノキ君。ほら、上を見たまえ・・・」
「!上・・・!?」
ドリュースさんが自身の上に指を指したのに合わせて、円寿くんとあたしは顔を上に向けてみた。すると・・・!?とっ、飛んでいる!人が!いや浮いている!?それも沢山・・・あぁ、箒に上に乗っているんですね。なるほど、箒の上に立って乗る・・これがこの世界の魔導士のスタイルなんですね。カッコいい、スタイリッシュ・・・ん?誰か一人降りて来た。軍人さんみたいな・・バンカラマントみたいな服を来た、ゆるふわパーマで水色髪のイケメンが一人。ドリュースさんの前に降り立った。
「・・・マイラス・・君程の魔導士が、わざわざこんな所まで来るとはね・・・まったく・・魔導省管理局局長というのは・・意外と暇なのだね」
「・・・ふむ・・減らず口をきけるということは、まだ余裕という事だねドリュース。僕達、管理局が来たという事の意味・・分かっているよね。」
「あぁ・・分かっているとも。それにしても、随分速かったね。来たとしても明日かと思っていたのだが・・・」
「魔導士本部で告発が有ったんだよ。ラング・ド・シャットの女性が、児童獣人奴隷の売買をしている組織の顧客リストを持ってきたんだ。本部は大慌てで僕達に連絡してきたよ。その顧客リストにね、ドリュース・・君の名前もあったんだ。それともう一つ・・迅速に動けた理由がある」
「もう一つ?」
「あぁ、ドリュース・・君の妹、シフォンからも連絡があったんだ」
「シフォンが?・・・ふふっ、あぁ・・そうか。自分にもしもの時が有った時にそなえて、予め管理局に連絡をしていたのか・・流石は我が妹、抜かりないな」
「さてと、ドリュース。君の身柄を拘束させてもらうよ。状況を見る限り、すでに君には抵抗の意思は無いみたいだが・・まぁ、表向きという奴だ。すまないね」
「あぁ、頼む」
「それでは・・・」
パチンーーー(右手でフィンガースナップをする)
「!」
マイラスと呼ばれるイケメンさんが指パッチンをすると、水の触手がドリュースさんの手首に出現し、まるで手錠をかける様にドリュースさんの両手を拘束した。円寿くんも指パッチンした時興味ありげに反応していた・・・ん?これ・・魔法だよね?魔法て、詠唱するか詠唱文をなぞるかのどちらかで発動するんだよね?このマイラスてイケメンさん、なんか指パッチンで魔法出したんだけど・・どゆ事?いや、まぁあのぅ・・凄くカッコいいんですけどね、指パッチンで魔法を発動するとか。でも指パッチンで魔法出せるとか、シフォンさんトゥモシーヌさんアオイさんからも聞いていないし・・・
「さて、では行こうか、ドリュース」
「あぁ。」
「・・・ドリュースさん・・・」
「・・・!・・・ふふっ、クスノキ君。何故君がそんなに悲しい顔をするんだい。君は愚かな魔導士の愚かな行いを止めた勇士だ。もっと堂々としていたまえ」
「はっ・・はい・・・」
「・・・それとだねクスノキ君。君はわたしに生きて償えと言ってくれた。その言葉通り、しっかりと塀の中で償うつもりだ。しかしだね・・塀の中に入ったら・・いや、もしかしたら護送されている最中に・・わたしは死ぬかもしれない・・いや、確実に死ぬだろう」
「!?そっ、それは、どういう事ですか?もしかして、また自害をするつもりなんですか?!」
「いや、そうじゃないよ。もう自分の意思で死ぬ為の行動は起こさないさ。自分ではね・・・」
「それじゃあ・・どうして・・・」
「クスノキ君、君もさっき言ったであろう。死神が迎えに来る・・とね」
「しっ、死神?」
えっ!?死神が・・迎えに来る?それって比喩表現じゃ無いんですか?どっ、どういうこっちゃ?
「なんだいクスノキ君。君は知らないのかい?・・・うむ、まぁ良いだろう。まぁその死神とやらも、わたし自身も噂で聴いた話しだからね。本当にいるのかはわたしにも分からないのだが・・話しによると、獣人に害をなす者をどこに逃げようと追い詰めてその首を採る・・と、言われている凄腕の暗殺者がこの大陸にいるらしいんだよ。まさに死神だね。おそらく、わたしは彼に近い内に狙われるだろう。わたしに死ぬ意思が無くても、彼がわたしを殺すだろう。獣人の子供を手にかけた時点で・・ある意味、わたしの運命は決まった様な物だったんだろうね・・・それでは、そろそろお別れの時間だ。クスノキ君、君はこの大陸にいるあいだはおそらく、わたしの様な存在から被害を受ける事が多々あるだろう。覚悟しておきたまえ。まぁ君には、女神の加護とやらがあるみたいだから君自身は傷つかないと思うのだが・・うむ、そうだね。せいぜい、自分の周りにいる者達を傷つけない様・・努力したまえ。わたしの言葉をどうとらえるかは、君にまかせるよ。それでは・・・」
「・・・」
「いや、死なせはしないよドリュース。君にはこれから、聴かなくてはいけない事が山ほどあるんだ。死神が来たとしても・・僕達、管理局が全身全霊をかけて君を守るよ。それに・・そこの少年から、生きて償えと言われたのであろう。だから・・安心して良いよ」
「!」
マイラスてイケメンさんが円寿くんに視線を送り、円寿くんの耳がピコンと反応する。安心して良いよ・・この言葉は、ドリュースさんと円寿くん二人に伝えた・・そんな風にあたしは聴こえた。
「・・・ふっ、安心して良い・・か。ならば、わたしがしっかりと生きて罪を償える様・・せいぜい身を粉にして頑張ってくれたまえ」
管理局の魔導士二人に連れて行かれるドリュースさん。最後まで減らず口を叩いてた彼だけど、連れてかれるその時の表情は、どこか爽やかだった。ドリュースさんの罪は、一生消えない。消してはいけない。夢と希望に溢れているその裏で、この世界にはあまりにも残酷な事実も溢れている。正直あたしは不安でいっぱいだ。これからも、多かれ少なかれ円寿くんが今回みたいな事情に巻き込まれるかもしれないと思うと・・胸が苦しくなる。円寿くんは・・今、どんな気持ちなのかな?・・・ん?円寿くん、マイラスてイケメンさんに駆け寄ってる・・・
「あっ、あのっ!」
「ん?あぁそうだった。少年、君にも聴きたい事があるんだったよ。改めまして、僕はマイラス・ウールニッチ。ドリュースも言った通り・・魔導省管理局局長であり・・この国の女王補佐管だ。よろしくね、少年」
ー続くーーーーー
この度は、ケモ耳美少年のなすがまま異世界観光、第四巻をお読みいただき誠にありがとうございます。にがみつしゅうです。まず最初に、四巻の投稿が遅れてしまい誠に申し訳ありませんでした。原因は私目の怠慢でございます。本当に申し訳ありません。お詫びという訳ではありませんが、この後書きにキャラクターの簡易的なプロフィールを乗せたいと思います。
楠木円寿身長:156cm 髪色:白
年齢:18歳
水連明奈 身長:171cm 髪色:紺
年齢:20歳 Gカップ
ミサキリス・コルンチェスター 身長163cm 髪色:赤
年齢:19歳 Eカップ
サクネア・バサロー 身長:177cm 髪色:パッションピンク
年齢:22歳 Hカップ
トゥモシーヌ・ネア=カミック 身長:178cm 髪色:黒
年齢:21歳 Gカップ
アオイ・セブンストール 身長:169cm 髪色:瑠璃
年齢23歳 Fカップ
アズリール 身長:168cm 髪色:金
年齢???歳 Iカップ
はい、今回はメインの面子のプロフィールを乗せました。今後も何かしらの形でキャラ達の細かなプロフィールも乗せられたら良いなと思っております。
女性キャラ達は円寿の小柄具合を出す為になのですが、基本的に皆身長高めです。今の所、トゥモシーヌが一番背が高いですね。あと皆、巨乳です。一番小さいミサキリスでもEカップはあります。さらに、円寿、明奈、アズリール以外の面子は皆、目尻がきゅっと上がっています。切れ長の目です。
背が高くて巨乳で切れ長の目・・好きです。
僕の性癖が分かった所で、少し本編に触れたいと思います。
正直な所、この作品内の魔法の設定ですが大まかな部分は決めていますが、細かな部分はそこまで考えていません。かなりホワンとしています。作中でも魔法はイメージと言っています。本人次第で様々な魔法が生み出せる世界なのです。ドリュースの死霊魔法がそうですね。読者の皆様もあまり難しい事を考えずに見ていただけると幸いでございます。そして、本格的に披露された円寿のチートスキル、女神様のご加護。ご加護と書いて、えこひいき、と呼びます。基本的に円寿は、このスキルによって命の危機に扮する事はありません。円寿には安全にこの異世界を満喫して欲しいという作者の思いでございます。この女神様のご加護の細かな仕組みも、次回に書こうと思っております。その次回ですが、来年の3月頃に投稿できれば良いかなと思っております。出来る限り早く書きたいと思っております。気長にお待ちいただけるとありがたいです。それでは改めまして、この度はケモ耳美少年のなすがまま異世界観光をお読みいただき誠にありがとうございました。