異世界転移したら推しも同じ世界に転移しててしかも同じ屋根の下で一緒に暮らしていた件
「・・・(サク姉悪い顔してるなぁ。あぁ、女の子もギョッとした顔してんじゃん。あぁあぁ、舌出してペロッてやってるよ)」
ーーーサク姉は本当に分かりやすい。喜怒哀楽がはっきり顔にでる。すぐ手が出るから、敵も作りやすい。後始末やキレたサク姉を宥めるのはあたしらの仕事。ラング・ド・シャットの中で一番年上だけど、多分精神年齢は一番低い、とあたしは思ってる。姉だけど妹みたいな女。だけど、信念は真っ直ぐだ。誰よりも獣人達の事を考えていて、何かあったら必ず駆けつけてきてくれる。実際駆けつけてきてくれた。だからあたし達も、そんなサク姉を支えたいと思ってる。サク姉がこうだと言ったら、あたし達は全力でサク姉の言葉を実行する。それがあたし達、ラング・ド・シャットなんだからーーー
「行くぞエンジュ!ちっと走れば、あたしらのギルドハウスだ!」
そう言って、円寿をお姫様抱っこし走り出すサクネア。
「!?」
「あっ・・お兄ちゃーん、またねー!バイバ~イ!」
「う~ん、またねーー・・・・」
急に抱えられ驚きつつも、何とか少女の声に答える円寿。その遠退いていく声に、急かされるラング・ド・シャットの面々。
「ちょっ、サク姉急ぎすぎぃ!ハスティマさん、それじゃまた、行くよ、あんた達!」
ハスティマに挨拶し、急いで走り出すチェルシー。
「ほいじゃまた~」
周りが急いで走る中、ゆっくり走り出すナミミナ。そんな、ラング・ド・シャットを笑顔で手を振りながら見送るハスティマと子供達。
ダダダダダッーーーズザァーーーー
「しゃあぁ!着いたぞ!エンジュ!」
「!!」
街の外にある、森林の中に建てられている二階建てのウッドハウス。これが、ラング・ド・シャットのギルドハウスである。
「・・・(別荘みたいだ・・・)
顔をキラキラさせ、ウッドハウスを見上げる円寿。
「よく聞けエンジュ!このギルドハウスを作ったのは、何を隠そうこのあたしだ!」
「!!本当ですか?!」
「本当だ!」
円寿からの尊敬の眼差しに、得意気な表情を隠そうともしないサクネア。
「あぁ、もう着いてた。もおサク姉、行くなら行くって言ってよ~」
チェルシーを始め、続々とギルドハウスに到着するラング・ド・シャットの面々。
「あぁ、すまんすまん。お前らだったら足でも鼻でも追い付けると思ってよ」
「まぁ、そ~だけどさぁ、あれ?ナミは?」
「お待た~」
ナミミナが一番最後にやってくる。
「ナミ、今月の鍵当番お前だろぉ。お前いないと入れないだろうがっ」
「だぁ~てぇ、全力で走ると疲れんじゃ~ん」
「あたしら獣人は、これ位の距離走っても疲れないでしょおが。ほら、鍵出して」
「うい~」
渋々鍵を出し扉を開けるナミミナ。
「お邪魔します!」
サクネアに抱えられたまま、ギルドハウスに入る円寿。中は壁が少なく、かなり開けている内装であった。
「あの~、サクネアさん・・・」
「どした、エンジュ」
「・・そろそろ、下ろしてもらってもよろしいでしょうか?」
「うん?なんでだ?」
「えと、なんでと言われますと・・その、この状態だと、喋りにくいし・・(顔が近い///)あと、サクネアさん、ずっと抱えてて、疲れないですか?」
「ふふ~ん、エンジュ、あたしを誰だと思ってる。この程度で疲れる用じゃ、ラング・ド・シャットの面子は名乗れねぇぜ!」
「そっ、そうなんですか?」
「へへっ。よぉ~し、つ~訳でぇ、祝勝会兼エンジュの歓迎会を開ぁく。お前らぁ!準備しやがれーー!!」
「オーライ!サク姉!!」
各々準備を初め出すラング・ド・シャットの面々。そんな、彼女達をキョロキョロと見渡す円寿。
「あの、サクネアさん」
「どしたぁ、エンジュ?」
「僕も、何かお手伝い出来る事とかありますでしょうか?」
「無い!何も無い!」
「!?」
「まったく、何言ってんだぁ、エンジュ。お前の為の歓迎会なんだぞ。ゲストに準備なんてさせらんねぇよ」
「そっ、そうですか・・でも、皆さんが動いてて、僕だけ動かないのも、何か落ち着かないというか・・・」
「・・ははあ~ん、エンジュ~、さてはお前、真面目ちゃんだな~、エンジュ~、人の好意てのは、素直に受け取った方が良いんだぞ」
ラング・ド・シャットの面々が、食事の仕度ををしている大きめのテーブルの前のソファに円寿を下ろし、テーブルに用意されてた物を差し出すサクネア。
「ほれエンジュ、干し肉でも食って待ってろ」
「!!・・・(ビーフジャーキーだ!)いただきます!」
「うふふ~」
( ̄ω ̄)←こんな顔で、干し肉を頬張る円寿を微笑ましく眺めるサクネア。
「サク姉~。準備出来たよ~」
円寿が干し肉を食い千切ってる間に、目の前のテーブルに食事が並べられていた。その殆どが、肉料理であった。
「!!」
目の前にある骨付き肉に、顔をキラキラさせる円寿。
「よぉ~し、お前らぁ、今日は良くやってくれた。ようやくあのトレイターのゴミ屑共をぶっ倒し、捕まったガキ共も全員無事、万々歳て奴だなぁ。そしてぇ、あたしらの新しい仲間も加わって良い事づくめだぁ、お前らぁ、今日は飲みやがれぇ!」
「オーライ!サク姉!!」
各々、樽ジョッキを手に持つ。
「はい、エンジュもこれ持ってぇ」
「あっ、ありがとうございます」
円寿に樽ジョッキを渡すチェルシー。
「勝利の宴に、乾杯!!!」
「乾杯!!!」
祝杯を上げ、樽ジョッキの中身を一気に飲み干すサクネア。他の面々もそれに続く。
ゴクッーーー
「!?ゲホッゲホッ。」
樽ジョッキの中身を、少し口にした瞬間むせてしまった円寿。
「うお!?大丈夫か?エンジュ?」
「こっ、これお酒ですか?」
「そ~だけど、エンジュ、お酒飲めなかったんだねぇ、ごめんごめん」
円寿に布巾を渡しつつ、平謝りするチェルシー。
「飲めないと言いますかぁ、僕はまだ未成年なので、お酒は飲めない年齢なんです」
「うん?なんだぁ、その未成年てのは?」
不思議そうな顔をするサクネア。
「20歳未満の人の事を未成年て言うんです。国の法律で、未成年はお酒を飲んじゃいけないって事になってます」
「へぇ~、そうなんだぁ、エンジュの国は厳しいんだねぇ」
酒を飲みつつ、話を聞くチェルシー。
「アトラピア大陸は、飲んでも大丈夫何ですか?」
「うん、特にそういうのは無いかなぁ。飲みたいっ、て思った瞬間が飲める年齢、みたいな奴?」
「なるほど・・・(日本以外の国だと、お酒に関する法律て緩かったりするから、アトラピア大陸もそういう事なのかな・・)」
「よしっ、飲めないなら食え!エンジュ。ほれっ」
そう言って、骨付き肉体を円寿に渡すサクネア。
「!はいっ!いただきます!」
ガヤガヤガヤガヤーーー
「だぁーはっはっはっはっはぁ!おらぁ!酒もっと持ってこぉい!!」
隣に座る円寿の肩を組み、やたらと上機嫌に酒を飲み干すサクネア。
「サクネアさん、凄いです!まだお若いのに、皆さんに慕われてて、家も自分で作って、強くて、獣人の子供達の為に戦ってて、尊敬します!」
「なはは~、ん~そぉだろ、そぉだろ~、もっと誉めてくれ~」
「サクネアさん凄い!」
サクネアと円寿のやり取りを肴に、酒を飲むチェルシーとナミミナ。
「いや~、サク姉いつにも増して、機嫌が良いねぇ~」
「さっきから、エンジュがベタ褒めしてるからね~。ずっと同じ内容だけど・・・」
「何かエンジュの褒め方て、嫌味が無いよね。素直にリスペクトを伝えてるというか・・・」
「下衆く無いんだよね~。今までも~、サク姉に媚び売ろうとしてきた男を色々見てきたけどさ~」
「大体殴ってきたよね。そういう男達の事w」
そう言いつつ、チェルシーとナミミナが二人に近づく。
「サク姉~、ご機嫌じゃ~ん、そんなにエンジュと話してるの楽しいの?」
「楽しいぞ!」
「エンジュ~、サク姉に~、お酒ガンガン飲ませてるけど~、そういう店で働く才能あるんじゃな~い?」
「?そういう店?ですか?」
「エンジュが接客してくれる店だったら、ガンガン金落とすぞ!あたし!」
「??」
いまいち理解できてない円寿をよそに、盛り上がるサクネア達。
「そういう店と言えばさ~、この前、あたしらに突っかかってきた海賊さん達思い出した~」
「あぁ~、あいつらねぇ。『こんな品の無ぇ女共じゃあ、店で接待なんかできやしねぇ!』てねぇ、なんであいつら、サク姉にボコボコにされて、さらにボコされること言うのかねぇ」
「あたしらだって~、品位ちょっとはあるよ~。サク姉は無いけど~」
「あぁ?喧嘩売ってんのか!ナミ!」
「売って無いよ~、サク姉~、そもそもサク姉は品とか気にする女じゃ無いでしょ~」
「まぁそうだな。てか何だぁ、品てぇ!男に媚び売るのが品なのかぁ!んなもんクソくらえだ!」
「品とは無縁な女、それでこそ我等がリーダー、だね」
「サク姉て男に~、可愛いとか~、綺麗とか~、言われた事ある~?」
「あぁ?んなもんある訳ねぇだろ。」
「じゃあ、逆に良く言われるのは?」
「ヤりたい、エロい、暴力女」
「アハハハハハハッ!何度も聞いてるけど、その言葉三つ並ぶのマジウケる~」
「鉄板だよね~」
「んだよナミ、お前はいつも笑って無ぇじゃあねぇか」
「そんな事無いよ~。この話し~、あたしめっちゃ好き~」
「たくっ。好きってんなら、大口開けて笑ってみろってんだ」
そう言いつつ酒をグイッと飲み干すサクネア。
ジィーーーー
そんなサクネアを、不思議そうに見つめる円寿。
「ん?どしたぁ、エンジュ?」
「・・・サクネアさんは、お綺麗ですよ?」
・・・・・
「!?!?」
円寿の言葉に、チェルシーとナミミナはもちろん、他のラング・ド・シャットの面々も思わず驚く。
「・・・(おっ、おぉ~マジかエンジュ。直球ぶっ混んできたな。あれかな、さっきサク姉が綺麗て言われた事が無いて聞いて気をつかった・・て感じじゃないよね、エンジュのあの雰囲気的に・・てか、サク姉はこれを聞いてどうリアクションを!?)」
チェルシーがサクネアに視線を向けると、
「・・//おっ、おう。そうか・・・//」
赤くなる頬を指でかくサクネア。
「・・・(てっ、照れてるーー~~!!)」
心の中で叫ぶラング・ド・シャット一同。
「・・・(あっ、あの、サク姉が、あんな女子みたいな顔を・・・)」
「・・・(レアだ~)」
ラング・ド・シャット一同の視線を感じ、居た堪れなくなったサクネアが、
「・・んだぁ!お前ら!何見てんだ!いいから、食え!飲め!」
「・・・サク姉綺麗~」
ナミミナが言葉を放つ。それに続き、他のラング・ド・シャットの面々も、
「サク姉綺麗だよー!」
「サク姉可愛い!ちょー可愛い!」
「滅茶苦茶綺麗だよー!サク姉ー!」
それに対し、顔を赤くしフルフル震えだすサクネア。
「お・ま・え・ら・なぁ~、よぉーしわかった。あたしに喧嘩売ってるんだな?良いだろぉ、その喧嘩買ってやらぁ!」
「わ~、サク姉が怒った~」
「逃~げろ~」
飛びかかるサクネアから、笑いながら逃げ出すラング・ド・シャットの面々。喧嘩が始まったと思い、はわわる円寿。そんな円寿に、ナミミナが近づく。
「エンジュ~」
「!ナミミナさん。大変です、サクネアさんがお怒りに・・・」
「あ~。大丈夫大丈夫~、いつもこんなんだから~、気にしないで~」
「そっ、そうなんですか?」
「そうなんだよ~。てかさ~、エンジュて~、天然ジゴロて言われな~い?」
「?ジゴロ?と、いうのはわかりませんが、僕は天然ではありません!」
キリッとした表情で答える円寿。
「あ~、そ~ね~・・・(なんで本当に天然の人て、自分を天然と認めないんだろうか?)そだ~、エンジュさ~、さっき~、子供達にサンドイッチ配ってたよね~。子供達~、凄く喜んでた~、ありがとね~」
「いえ、そんな・・誘拐されて、凄く辛い思いをしたと思います。多分、お腹も減ってたと思います。あのサンドイッチを食べて、心に受けた傷をとまでは言いませんが、お腹が満たされて、ほんの少しでも安心してくれたなら良いなって思って。気づいたら皆に配ってました。アズさんが作ってくれたサンドイッチですので、美味しくない筈はないので!」
「ふ~ん、でも配ったのがエンジュで良かったよ~。他の人だったら~、食べてくれなかったかもしれんし~」
「?どうしてですか?」
「他の人って言うか~、人間じゃ駄目だったて言うか~」
「?」
「ほら~、あの子達って~、人間に誘拐された訳じゃ~ん。だからさ~、人間相手だと~、怖がっちゃって~、食べてくれなかったと思うんだよね~」
「!?て事は、ミサさん達騎士団の人達の事も、怖がって・・・」
「う~ん、かもしんな~い。」
「・・・それは、何だかとても悲しいですね・・・」
少し落ち込む円寿を、何か思いある表情で見つめるナミミナ。
「ん?あっ?!おいっ、ナミ!お前何エンジュをショボくれさせてんだ!」
ラング・ド・シャットの面々を追いかけ回していると、ナミミナとその隣で落ち込む円寿が視界に入り怒鳴りながら駆けてくるサクネア。
「おっと~、誤解だよ~、サク姉~」
「!?サクネアさん、これは別に・・なっ、ナミミナさんのせいではありません!」
「んあ?そうなのか?んじゃ何の話ししてたんだよ?」
「ん~?エンジュはモテるな~て、話し~」
「そっ、そんな話しだったんですか!?」
「そだよ~、そんな話しだよ~」
「なんでエンジュがモテるて話しで、エンジュが落ち込むんだよ。」
「色々あるんだよ~、ほら~、サク姉座って座って~」
まったく誤魔化せてないものの、サクネアなら大丈夫だろうと席を譲るナミミナ。そこに、サクネアがドカッと座る。
「!サクネアさん、お飲み物どうぞ」
「あぁ、すまねぇな」
ニコッとした表情で、樽ジョッキを渡す円寿。それを、素直に受け取り飲み干すサクネア。
「だあぁ・・・エンジュ!あたしはエンジュに言いたい事がある」
「?何でしょうか?」
「なんだぁ、さっきからぁ、その喋り方はぁ!」
「!?喋り方、ですか?」
「そうだ、その・・敬語?丁寧語?て、言うのか?それあたしやだ」
「!?」
「もっとこう、チェルやナミ達みたいに、フランクに喋れ!その喋り方は、なんかこう・・むず痒くなってくるんだよ・・・」
「・・・(タメ口で話せば良い、て事かな?)わっ、わかりまs・・じゃなかった、ワッ、ワカタヨー」
「・・・(何故片言?)」
内心ツッコむナミミナ。
「よぉーし、それで良い。あともう一つ!」
「ナッ、ナーニー、サクネアサン」
「サクネアさんと呼ぶな。何かよそよそしい」
「!?では、何でお呼びしたら、良いでしょうか?」
「・・・(あっ、今敬語だった)」
タメ口慣れしてない円寿を見守るナミミナ。
「ラング・ド・シャットからは、サク姉と呼ばれてる。エンジュも、そう呼んでいいぞ!」
「わかりm・・ワッ、ワカタヨー、サク姉~」
「うふふふ~」
実に嬉しそうなサクネア。祝勝会兼歓迎会はまだまだ続く。
ーーうとうとーーー
「ん?何だぁ、眠いのか?エンジュ」
「うぅ・・ちょとだけ・・眠いよ~・・・」
「・・・(だいぶ眠そうだ)」
こくりこくりと、首を傾ける円寿を気にかけるサクネアとナミミナ。
「今日は・・色々な事が・・あったので・・少し・・疲れたよ・・・」
今にも寝落ちしそうな円寿を見て、サクネアがハッとした表情の後、顔をニヤつかせ口を開く。
「そおか~、エンジュ眠いのか~。それじゃあ今日はもう寝るっきゃないな~」
そう言って、口角を上げた表情で円寿を支えるサクネア。
「・・サク姉・・今日は・・ありがとう・・ござい・・・」
コテッといった音が鳴るかのように、サクネアの肩に頭を置きスースーと寝息をたてる円寿。それを見て、舌舐めずりをしボリュームを抑えた声で囁くサクネア。
「エンジュ~、今日はまだ終わりじゃないぞぉ。むしろこれからが本番だ。チェルっ、エンジュをあたしの部屋に連れてけ、ウィネっ、湯は沸かしてあるよなぁ」
「ばっちり沸いてるよ、サク姉」
ウィネが答える。
「んじゃ、ひとっ風呂浴びてくるわぁ。チェル、エンジュの事起こすなよぉ」
「はいは~い、あっ、でもぉ、もし起きちゃったら、その時は、サク姉が来るまであたしがエンジュの相手してるねぇ」
「あぁ?それは駄目だ!一番最初はあたしだ!」
「サク姉~、あんま大きい声出すと~、エンジュ起きちゃうよ~」
「ほろほら、手出さないから、さっさと身体綺麗にしてきな」
「ちっ、わぁ~たよ」
その場で服を脱ぎ、風呂場に向かうサクネア。
「さて、我等がリーダー様のお楽しみの為に、ちゃんとベットメイクしなきゃねぇ。ナミ~、手伝ってー」
「うい~」
ゴシゴシゴシーーー
ザバァーーー
ガチャッーーー
健康的な焼けた肌に湯気を立たせ、用意されたタオルで髪の水気を取り、バスローブに身を包むサクネア。その姿で階段を上り、自身の寝室へと足を運ぶ。ラング・ド・シャットの面々も、非常に楽しげな顔をしている。そして、そんなサクネアの表情は、実にご機嫌であった。
ガチャッーーー
「あっ、サク姉、エンジュはまだ夢の中だよ」
「スヤスヤしてる~」
円寿が起きないよう、小声で話すチェルシーとナミミナ。
「チェル、お前つまみ食いしてねぇだろうな」
「してないよ~。ねぇナミ~」
「あたしがちゃんと、止めました~」
「食おうとしてんじゃねぇか!」
「冗談だよ~」
「ナミ、後で床掃除」
「マジか~。」
ベットで仰向けになって寝ている円寿。そんな円寿に視線を向け、口角を上げるサクネア。
「さぁて、チェル、ナミ、もういい、外出てろ」
「あたしらはここで見てるよー」
「観戦希望~」
「あぁ?駄目だ駄目だ、あたしは良いとして、エンジュが緊張しちまうだろ!ほらっあっち行け、シッシッ」
「えぇ~。サク姉意地悪~」
「ケチ~」
「うるせぇ!はよ出てけ!」
「は~い」
渋々部屋を出ていくチェルシーとナミミナ。
「サク姉、最後にお願~い」
出ていったと思いきや、扉の隙間から顔を出すチェルシー。」
「まだ何かあるんか?」
「サク姉が楽しんだ後~、まだエンジュがいけそうなら、あたし達も、ね♡」
ウインクするチェルシー。
「たくっ、しょうがねぇなぁ。エンジュがOK出せば、構わねぇよ」
「ありがとサク姉、愛してる♡」
そう言って、扉を締めるチェルシー。
「はいはいあたしもお前らの事愛してるよ。さてと・・・」
寝ている円寿に跨がり、覆い被さる様に身体を円寿に重ねるサクネア。その状態で頭を撫で、円寿の頭の耳に口元を持っていく。
「エンジュ~、どんな夢見てるんだぁ、起きろ~」
「うぅ・・うぅ・・・」
僅かに声を上げるが、目を覚まさない円寿。それを見たサクネアはニヤッと笑い、円寿の耳を人差し指でツゥーとなぞる。
「ひゃうっ・・・??」
ピクッと身体を震わせた後、ゆっくりと瞼を開きパチパチと瞬きをする円寿。
「サク・・姉?」
「おっ、やっと起きたなエンジュ~。待ちくたびれたぞ」
寝惚け眼の円寿を、拳も入る事の出来ないほど近さで見つめるサクネア。
「・・・・!?はにゃあっ!?///」
顔の近さに驚き、思わず声を上げる円寿。顔は真っ赤になっている。
「さっ、サク姉///その、顔が・・近いよ//もう少し、離れて・・・///」
「ん?そうかぁ、へへっ、わかったよ・・・」
円寿に跨がった状態で、身体を起こすサクネア。それにより円寿は、サクネアの格好と現在の自分が置かれてる状況に困惑する。
「あぁ、あれ?ここって・・さっ、サク姉!?その格好は・・その、あぁ、えと・・・」
「うふふぅ~、なんだぁエンジュ~、そんなに慌ててぇ。本当可愛いなぁ、お前」
円寿の反応に、ニヤニヤが止まらないサクネア。
「なぁ、エンジュ、喧嘩しようぜ・・・」
「!?けっ、喧嘩、ですか?」
「あぁそうだ、女と男がベッドの上でする喧嘩だよぉ」
ねっとりとした口調で、円寿の腰に手を回すサクネア。
「あっ、あの、サク姉、僕は、喧嘩出来ないって、デア・コチーナで・・・」
「だぁ~いじょうぶだエンジュ、あたしらがこれからする喧嘩は、痛くない喧嘩だ・・痛く、しねぇよ・・・」
そう言って円寿の首筋に顔を持っていき、なぞる様に舐めるサクネア。
「はうっ!?・・はあぁ//・・あっ・・はぁ、はぁ、サク姉?」
再び身体を起こすサクネア。そして・・・
バッーーー
勢いよく、張りのありたわわに実りまくった乳房を露にするサクネア。
「!?//////」
円寿の身体に、電撃が走ったかのような衝撃が伝わる。それは、円寿が中学に入って間もない頃、同級生の家に招かれた際、円寿の純真無垢な心をからかう為にその同級生によって如何わしい画像を見せられた時よりも、さらに大きい衝撃であった。
「あっ///あの・・えと、その・・・」
両手で視界を塞ぎ、ひたすら困惑した声を上げる円寿。
「どしたぁ、エンジュ?もしかして、女の裸を見るのは初めてかぁ?」
再び身体を倒し、乳房を円寿の胸元に下ろす。
「安心しろエンジュ。夜は長ぇんだ。たっぷり時間かけて、あたしがお前を男にしてやる」
「さっ、サク姉・・ぼくは・・そっ、そういうのは・・・」
サクネアの右手が、円寿の下腹部に触れようとする・・が、その時・・・
バァンッッッ!!ーーー
「夜分遅く失礼致します!ティリミナ王国戦乙女騎士団、ミサキリス・コルンチェスターです!」
「あっ、赤ポニー・・じゃないや、ミサキリスちゃん・・何、何か用?」
ギルドハウスの正面玄関の扉を勢いよく開け、眉間にしわを寄せ荒げる様にこえを出すミサキリスに、少し動揺しながら出迎えるチェルシー。
「サクネア・バサローに、ラング・ド・シャットリーダーのサクネアにお話しがあります。失礼致します!」
そういうとミサキリスは、ズカズカとギルドハウスに入ってく。
「あっ、ちょっ、今はっ、今は駄目なんだよミサキリスちゃん!」
「今サク姉は、その・・たっ、鍛練(意味深)の真っ最中で、邪魔されると機嫌が悪くなるっていうか・・・」
ズンズン進むミサキリスを止めようとするチェルシーとウィネ。すると、ミサキリスが足を止める。
「エン君は?」
「えっ?」
「エン君・・エンジュ・クスノキ君はどこですか?!!」
声を荒げるミサキリスに、怖じ気づくチェルシーとウィネ。
「・・・(この娘、獣人のあたし達が動揺する位の気迫・・てか滅茶苦茶キレてんじゃん、こぉっわ~。昔サク姉がぶちギレた時みたい・・・)あぁ、エンジュは、サク姉と一緒に鍛練を・・・」
「どこですか?」
「えっ?」
「エン君とサクネアがいる場所はどこですか?!!」
「あぁ、もうそんなにデカイ声出さないでよぉ、獣人の耳は音に敏感なんだからぁ」
「失礼しました。それで、エン君とサクネアの場所は?」
キッと睨み付けるミサキリス。
「うっ・・うぅ・・・」
そっぽ向き、口を開こうとしないチェルシーとウィネ。
「うぅっ!・・・」
他のラング・ド・シャットの面々を睨むも、やはり皆視線を合わせない。
「・・わかりました。それでは、シュリ!ジュリ!」
「はいは~い、お呼びでしょうかー!」
「ラング・ド・シャットのお姉さん達、こんばんはー!」
入口からヒョコッと顔を出し、スススッと中へ入る双子二人。
「では、これからこのギルドハウスを捜索させていただきます!」
キリッとした表情で宣言するミサキリス。
「えぇ、ちょっ、それは・・・」
「はいは~い、チェルさんは座ってて~」
「他のお姉さん達も、そのままでお願いしま~す!」
「シュリちゃん、ジュリちゃん、ちょっとこれ強引過ぎない?」
チェルシーが、双子二人に問いかける。
「あぁ、いやそれがですね・・・」
「ミサが怒ってるの、あたし達にも責任あるというか・・・」
「??」
話しは少し戻り、ラング・ド・シャットに円寿が連れて行かれた直後。
「・・・え?」
キョトン顔で、アズリールに視線を送るミサキリスと双子二人。
「・・・あの、アズさんすいません、今何と?」
ミサキリスが口を開く。
「ラング・ド・シャットの娘達が、エンくんの事、連れてっちゃったわ」
何故か、いつものニコニコとした笑顔で答えるアズリール。
「なっ、何でエン君を、連れていったんですか?」
アズリールに問いかけるミサキリス。
「う~ん、特に理由は言ってなかったわぁ。エンくんとお話ししたい事が、あったんじゃないかしら?」
能天気に答えるアズリール。
「なんで、アズさん止めなかったんですか?!」
再びアズリールに問いかけるミサキリス。
「それはね~・・・」
「えっ?まさか・・」
「えっ?これも?」
何かを察する双子二人。
「女神様のご信託よぉ~」
「やっぱり、それかー」
「それじゃあ、しょうがな・・くはないね、今回ばっかしは」
「あっ、アズさん!後でアズさんにはお説教です!」
「あら、大変だわ」
「さて、これからどうする?ランシャのお姉さん達は、あたし達の信頼を裏切ったて事になるけど」
「裏切ったのかな?あたし達の方から同盟を一方的に提案したから、お姉さん達的には、エン君は同盟の見返りに・・みたいな奴?」
「にしても、一言欲しいよねぇ、黙って連れてっちゃうのはマナー違反だよ」
「だよね~。でも、何でエン君連れてく必要があったんだろ?同盟結んでるんだから、会おうと思えば何時でも会えるのに」
「それな~。エン君と顔を会わせるだけじゃ駄目・・か・・・そういえば、サクネアさん、エン君に『一発ヤラせろ』とか言ってたよね」
「あぁ、言ってた~。エン君、意味理解してなかったけど~」
「もしかしてぇ、エン君とエッチして、見も心もあたしの物にしてやるぜ、的な奴~」
「キャー、なにそれ超肉食~。サクネアさんならあり得るかも~」
「・・・」
双子二人が盛り上がる一方で、沈黙し目元に影がかかるミサキリス。
「あれ?ミサ?」
「ミサ~、お~い」
ミサキリスの顔の前で、手を振るジュリア。
「・・・ミサ?あっ、これは・・・」
「う~ん、これは久々の奴かな・・・」
フルフルと震えだすミサキリス。双子二人の頭には、汗マークが浮かんでいる。
「あぁ、ミサ、言っとくけど、もしもの話しだからね。あたし達が言ったの。仮にそんな状況になったら、エン君も、多少は抵抗するだろうし・・・」
「あぁ、でももしあたしが男だったらぁ、サクネアさんみたいな人にベッドの上で襲われたらぁ、抵抗しないでゆだねちゃうかも~」
「マグロじゃんそれー。でもたしかにサクネアさん、おっぱい大きくてスタイル良いし、何となくエッチも激しそうだから、そうなっちゃうかもー」
「エン君、年上が好きって言ってたし、ほら、デア・コチーナで話した時も、サクネアさんの谷間が見えた時、エン君顔赤くしてたのあたし見てたんだよねぇ、エン君が巨乳好きならもしかして・・・」
「シュリ・・ジュリ・・・」
ミサキリスの言葉に、何かを察しこれはまずいといった表情になる双子二人。
「はっ、はい、何でしょうかミサキリスさん・・・」
「行くわよ・・」
「へっ?」
「ラング・ド・シャットのギルドハウスに行くって言ってるのっ!」
ビクッと肩を揺らし驚く双子二人。
「はっ、はいいっ!!了解ですー」
「仰せのままにー!」
ミサキリスの言葉に答えるも、ふと疑問がよぎるジュリア。
「あっ、でもミサ、ギルドハウスに行くって言うけど、あたしら場所わからないよね?」
「アズさん!!」
「あら、何かしら?」
憤怒するミサキリスを意に介してないのか、この状況でも笑顔で答えるアズリール。
「女神様のご信託で、ラング・ド・シャットのギルドハウスの場所を、教えて下さい!」
「いやぁ、ミサ、流石にそれはご信託じゃあ・・・」
「流石の女神様もそこまで・・・」
「良いわよー」
「良いんですか!?」
ツッコまずにいられなかったシュリナ。
「街の外に森林があるじゃない?そこをね・・・」
「女神様のご信託来るの早っ!?」
また話しは戻り、ラング・ド・シャットのギルドハウス。庭に台所、洗面所にお風呂場、寝室に物置部屋と一階をくまなく捜索するミサキリスとジュリア。シュリナはというと、チェルシー他ラング・ド・シャットの面々と諸々の相談中。
「いや~、お互い我の強いリーダーを持つと、色々苦労しますなぁ」
「そうですなぁ」
相談というなの雑談をするシュリナとチェルシー。
「サクネアさんは・・二階かな?」
「そぉだねぇ、ああ今ミサキリスちゃんが行ったねぇ。これはもうアウトだね」
「修羅場の予感~」
「おっと、何シュリちゃん、凄い嬉しそうな顔してんじゃん」
「あっ、わかります~。いやでも、あたしこういうの滅茶苦茶好きでしてぇ」
「気が合うねぇ、あたしも」
お互い顔を合わせ、ニカッと笑うシュリナとチェルシー。
「シュリちゃんがこういうの好きって事は、ジュリちゃんも・・・」
そう言ってミサキリスの後を追うジュリアに、視線を向けるチェルシー。その視線に気づき、ウィンクするジュリア。
「今のウインク・・その心は?」
「修羅場を見届けてくるよ、のウインクですね」
「おぉ、流石双子。わかってるぅ」
そうこう行ってる内に、ミサキリスがサクネアの寝室の前にたどり着く。
「・・・(人の気配、ここかっ!)」
バァンッッッ!!ーーー
「エン君!無事?!」
ミサキリスが見た光景。それは、ベッドに仰向けになり手で顔を隠す円寿に跨がり覆い被さるサクネア。窓から射す月明かりは何処と無く冷たげだが、二人の周りだけは熱気に包まれていた。
「なっ、なななっ、何してるんですか!?」
顔を真っ赤にし、激しく動揺するミサキリス。
「みっ、ミサさん!?」
サクネアの身体が見えない様に手で視界遮つつ、ミサキリスに視線を向ける円寿。円寿のミサキリスを名を呼ぶ声に、サクネアの身体がピクッと止まる。そして、ゆっくりと身体を起こしミサキリスの方に顔を向け眼光を光らせる。
「・・・おぉ~~い・・何邪魔してくれてんだよぉ・・空気ぶち壊しじゃぁねぇか!あぁ?!あたしはなぁ、後一歩て所でお預けをくらうのが一番嫌いなんだよぉ!おるぅらぁ!!」
サクネアの怒号は、一階のシュリナ達にまで届いていた。
「うっひいぃ!?なんか、トレイターと戦ってた時よりも、怖い声出てないサクネアさん?」
チェルシーに、チラッと視線を送るシュリナ。
「あはははは・・・(ミサキリスちゃん、大丈夫かな?)」
苦笑いするしかないチェルシー。二階では、サクネアの寝室の少し離れた位置で、事の状況を覗くジュリアの姿が。ジュリアの視線の先では、サクネアの怒号に何とか言い返すミサキリスの姿があった。
「なっ、何が邪魔してくれてるですか?!勝手にエン君連れてって、怒ってるのは此方の方なんですからね!!」
「うぅるぅせぇ!勝手にエンジュを連れてっただとぉ?じゃあ、エンジュが持ってかれねぇ様に、しっかり見張っとけぇ!このダァボォ!!」
サクネアの怒号を、一階で聞くチェルシー。
「・・・(サク姉、完全に逆ギレしてるよ、これ収まるのか?)」
「あなたの言い分は滅茶苦茶です!あなたみたいな不純な人は、痛い目を見ないといけない様ですね!」
短槍をサクネアに向け構えるミサキリス。
「上等だぁ!此方の方が手っ取り早いからなぁ!痛ぇ目見るのはてめえの方だぁ!絶対泣かす!」
ベットから飛び降り、バスローブが開けたままミサキリスと相対するサクネア。
「それとぉ!服を着なさい服を!それかせめて前を隠しなさい!恥ずかしいでしょ!」
「あぁ?なんで女のてめぇが恥ずいんだよ?」
「恥ずかしいってあなたに言ってるんです!」
「この身体のどこが恥ずいってんだ!あぁ?!」
「あぁもぅ、どうなっても知りません!」
一触即発状態のミサキリスとサクネア。その時・・・
「駄目でえぇーーーーーーーす!!!」
二人の間に、高く響く声が割って入る。その声の主は、ミサキリスの方に両腕を広げて身体を向けていた。
「エン君!?」
「どいてろエンジュ!そいつを殴れねぇ!」
「なっ、殴っちゃ・・ハニャ!?///」
後ろを向こうとするものの、サクネアのそのあられもない姿に振り向くのを躊躇する円寿。
「殴っちゃ駄目だよサク姉ー!けっ、喧嘩は良くないよー!」
「エン君!その人とは・・どっ、どこまで・・したの?!」
「\キスハシタノカー/」
ミサキリスが頬を赤くしながら円寿に問うと、部屋の外からガヤが聞こえてくる。おそらくジュリアの声と思われる。
「キス!?////は、してません・・多分・・・」
「\オッパイハサワッタノカー/」
「さささっ、触ってません!///・・と、思います・・・」
「\エッチハ・・・/」
「ちょっと黙ってなさい!ジュリ!と、とにかく、如何わしい事は、まだしてないん・・だよね?」
「してない・・よね、サク姉?」
ミサキリスの問いを、後ろを向かずサクネアに問う形で答える円寿。
「あぁ、キスもしてねぇ、乳も揉んでねぇ、ヤッてもいねぇよ」
ぶっきらぼうに答えるサクネア。
「\キスグライシトケー/」
「シャラップ!ジュリ!」
「だがなぁ、全部これからやるぜぇ、てめぇをぶちのめしてからなぁ!」
猛獣の如き表情となり、今にもミサキリスに飛び掛かろうと構えるサクネア。
「きっ、来なさい!」
改めて短槍を構えるミサキリス。頬を汗が流れる。がしかし・・・
バッーーー
「!?なっ・・・」
「エン君!?」
ミサキリスの前に、背中を向けて立ちサクネアと向かい合う円寿。その瞳は潤み、涙が溢れていた。
「えっ、エンジュ!なんで泣いてやがんだ!?」
「うっ・・ぐすっ・・ミサさんも、サク姉も、凄く良い人です。今日会ったばかりで、身元もよく分からない僕に色々親切にしてくれて、本当に嬉しかったです。でも、僕のせいで二人が喧嘩する位なら・・僕はもう帰ります!だから・・もう・・喧嘩は・・・」
「なっ、泣くなっ、エンジュ!おぉ、男だろぉ!」
思いもしなかった円寿の涙に、激しく動揺するサクネア。そこに、しれっと姿を表したジュリアがサクネアを指差しながら一言。
「アー、サクネアさんがエン君の事泣かしたー」
ガーーーンーーーー
「なっ、泣かした・・?あたしが・・エンジュを?・・・」
「ごめんねエン君、あたし。少し動揺してて・・エン君が悪い訳じゃないよ。だから帰る何て言わないで。ほら、涙吹いて」
円寿に寄り添い、ハンカチで円寿の涙を拭うミサキリス。
「ぐす・・ありがとうございます。うぅ・・情けないです。泣くつもりはなかったんですが・・・」
「エン君・・・」
「まったくもー、泣き顔も可愛いなぁ、エン君はー」
円寿の頭を優しく撫でるジュリア。
「ありがとぉ、ジュリ。ジュリのおかげで、サクネアと戦わずに済みそう」
「うん・・何か、思ったよりショック受けてるね、サクネアさん・・・」
真っ白になり、床に座り込むサクネア。魂が抜けてる用な顔をしている。
「ナカシタ・・エンジュヲ・・アタシガ・・・」
そんなサクネアを見て、何かを思い目を擦り近づく円寿。
「さっ、サク姉」
「!?エン・・ジュ・・・」
ハッとなり、顔を上げ円寿を視界に入れるサクネア。
「あの・・僕はまだサク姉に会ってまだ1日も達って無いけど、サク姉が凄く魅力的な人って事は、ラング・ド・シャットの人達を見てて解ったよ。僕は、その、サク姉とはこれからも仲良くしていきたいから、その為にミサさん達とも仲良くして欲しいな。駄目・・かな?」
「・・・駄目、じゃない。そうする・・だから・・だからあたしの事は、嫌いにならないでくれぇぇ!!」
「!?」
涙目になりながら円寿に懇願するサクネア。そんなサクネアに、円寿が慌てながら答える。
「きっ、嫌いに何かならないよ!その・・えぇ、エッチな事とかは、お互い、ちゃんと時間を掛けて、信頼関係を築いた相手じゃないと駄目だと思うから・・その、急に、そういう事してくるのは、良くないって思う。そっ、それを守ってくれるなら嫌いにならないよ。」
エッチの部分で声が小さくなり頬を赤らめつつも、最後はサクネアに優しく微笑む円寿。そんな円寿の言葉に、涙を浮かべた顔からパッと表情が切り替わり、食いぎみに話すサクネア。
「つまり時間をかければヤッて良いんだな!」
「!?」
「だぁーもぉ、時間がどうこうの話しじゃ無いんです!そもそも、そういう行為は、結婚を前提に付き合ってる恋人同士じゃないとしちゃ駄目なんですから・・・」
顔を赤くしつつ怒鳴る様に話すも、徐々に声が小さくなっていくミサキリス。
「あぁ?んな事言ったら、其処ら渋、夫婦だらけになっちまうだろうがよ。」
円寿に見せた明るい表情と打って変わって、ミサキリスにはふてぶてしく答えるサクネア。
「そっ、そんな破廉恥な人間関係!あぁ、あなたの周りだけです!」
「あー、これに関してはサクネアさんと同意見だわー、あたし」
「あんたはせめて嘘でも良いからあたしの味方をしなさい!」
ジュリアにツッコむミサキリス。
「おー、殺気が消えたと思って来てみたけど、とりあえず終わった感じ?」
「!シュリさん!」
「おぉっ、三人共無事みたいだねー。良かった良かった」
シュリナとチェルシーが部屋に入ってくる。その後ろから、ヌッと顔を出すナミミナ。
「あー、チェルさん、今三人て言った。あたしが入ってなーい」
「いや、ジュリちゃんは絶対巻き込まれないでしょ。トラブルを回避するのも起こすのも上手なタイプ。そうでしょジュリちゃんて。あとシュリちゃんも」
「あー、チェルさん分かっちゃいますー?」
双子二人とチェルシーが話してるのを見てミサキリスが、
「・・・あんた達、いつの間にそんな仲良くなったの?」
「うーん?チェルさん、何か気が合うんだよねー、あっほら、遊び人同士は引かれ合う、みたいな」
「引かれ合わんでよろしい!そんな関係!」
ミサキリスが双子二人を怒鳴っている横で、チェルシーがサクネアに近づく。
「残念だったね~サク姉、エンジュを男にしてやる事が出来なくて」
「時間をかけなきゃ駄目て、エンジュに言われた」
「なるほど。あっ、取り敢えず前隠そうかぁ」
そう言って、サクネアの着ているバスローブの腰紐を縛るチェルシー。
「おぉ、悪ぃな。あと、赤ポニーが結婚しなきゃどうとか面倒くせぇ事言いやがった」
「ふ~ん、じゃあ、結婚しちゃえば良いじゃん」
「?う~~ん・・・ハッ・・・」
サクネアがチェルシーの言葉に何か気づいた一方で、スススッと円寿に近づくナミミナ。
「おつかれ~エンジュ~、良い思いできた~?」
「?良い思い、ですか?えと、色々大変だったけど、元いたせかi・・じゃないや、大陸では出来ない経験が沢山できたと思います。なので、良い思いをしたと思います!」
「う~ん、言葉って~、伝えるの難しい~ね~。」
「?」
円寿がキョトンとしていると、ナミミナを押し退けサクネアが円寿の前に顔を出す。
「エンジュ!あたし決めたぞ!あたしはエンジュと結婚する!」
「!?」
「きっ、急に何を言ってるんですかあなたは!?」
結婚と言う言葉に驚き声を上げるミサキリス。
「いや~、そうだよ、最初からこうすりゃ良かったんだよ~。結婚しちまえば、エンジュは合法的にあたしのだ。そうすりゃ、エンジュといくらでもヤれる!」
あまりにも堂々と語るサクネアに唖然とするものの、気を取り直しサクネアに話しかける円寿。
「あの、サク姉。その、さっきも言ったけど、けっ、結婚とかも、ちゃんと時間を掛けて・・・」
「うん、だからちゃんと時間を掛けてエンジュと結婚するぞ」
顔の周りをキラキラさせた笑顔を、円寿に近づけるサクネア。
「ありゃ~、エン君、プロポーズ受けてる」
「エン君は、どう答える!」
「・・・エン君・・・」
双子二人が盛り上がる一方で、悲しげな表情で円寿を見つめるミサキリス。
「あっ、あの・・サク姉・・その・・・」
「おっと、エンジュ、安心するが良い。今のエンジュがあたしのこの気持ちをどう答えたらいいか迷っている事はわかった。だからあたしは、これから時間を掛けてエンジュを惚れさせる。そして、いずれエンジュの方からあたしと結婚したいと言わせてみせる!」
ドギマギする円寿に対して、お構い無しに言葉をぶつけるサクネア。
「と言う訳で、これからどうしたらエンジュがあたしに惚れ倒すかの作戦を考える。お前らぁ、今日は夜通し作戦会議だぁ!」
「ヒュー、ぶっちゃけめんどいけど・・もぅとことん付き合うよー、サク姉ー」
「あたしは~、疲れたから寝る~」
「寝かせる訳無いでしょ。ほら、行くよナミ」
「ぐえ~」
やけくそ気味のチェルシーに連れてかれるナミミナ。
「て事でエンジュ!今日はもう帰って良いぞ!エンジュを惚れさせる為の作戦を、本人に聞かれたら意味無いからな。おいっ、そこのポニテ三姉妹。お前らちゃんとエンジュを送ってけよ。エンジュに何かあったら承知しねぇからな」
ミサキリスと双子二人に指を指すサクネア。
「いっ、言われなくてもそうします!エン君はこれからもあたし達が守ります!あと、誰がポニテ三姉妹ですか!」
「それとなぁ、ミサキリス。お前とはいずれ、エンジュをかけてちゃんと決着をつけてぇと思ってる。まぁ、勝つのはあたしに決まってんだがよ、お前がクソ貧弱過ぎて、あたしが余裕で勝ってもつまらねぇからなぁ。そうならねぇよぉ身体鍛えとけ。ある程度手応えが無ぇと勝っても意味が無ぇからなぁ」
「望む所です。どうやらあなたは、あたしの事を下に見ている節があるようですが、その慢心はいずれあなたに後悔の二文字を味会わせる事になります。覚悟しておいて下さい。あたしは負けませんし、エン君も渡しません」
「へっ、言うじゃねぇか・・・」
二人の目線を電流がバチバチと走る。そんな二人を見ているシュリナとジュリア。シュリナは右手で円寿の右目を左手で円寿の右耳を、ジュリアは左手で円寿の左目を右手で円寿の左耳を塞いでいる。ミサキリスとサクネアのやり取りを円寿が見る又は聞くと、また円寿が止めに入ってしまい話しが終わらなくなると察したからである。
唐突に視界と聴覚を遮断され、頭に?マークが浮かぶ円寿。
「ミサー、もう終わりそー?」
「また喧嘩始まったら、今度こそエン君帰っちゃうよー」
「今日はもうしないわよ。ほら、エン君の事離してあげて」
そう言われ、円寿の目と耳を塞ぐ手をどける双子二人。
「・・・あの、ミサさん。サク姉と仲直りしましたか?」
「えっ!?えぇあぁうん、したした、したよ仲直り、サクネア!あたし達仲直りしましたよねぇ!」
少し不安そうな顔をする円寿に軽く動揺しつつ、必死でサクネアに同意を求めるミサキリス。
「あぁ?!あぁ・・あぁ、したぜ、仲直り。あたしらもう仲良しだ」
ミサキリスの言葉に一瞬反抗しようとするも、円寿の不安そうな顔を見てミサキリスに合わせるサクネア。
「おほん。そっ、それでは、あたし達は帰ります。色々ありましたが・・改めまして、これから末永い同盟関係が維持される様、お願い致します。それではまた。エン君、行こっか」
「お疲れっしたー、ランシャの皆さん、この後交流会て程で飲み会やりましょう!」
「あっ、合コンパーティーでも良いですよー」
「シュリ!ジュリ!今日はもうお開き!帰るの!」
「えぇ~、残念~」
「あっ、チェルさ~ん、また後で連絡しますね~」
「オッケー、よろしくねー」
手を振り答えるチェルシー。それに対して手を振り返すシュリナ。入口を出る直前、円寿が振り返りラング・ド・シャットの面々を見渡し口を開く。
「ラング・ド・シャットの皆さん。今日は本当にありがとうございました。これからは僕も、皆さんのお力になれるよう頑張ります!サク姉!」
円寿の呼び掛けに、ピクッと反応するサクネア。
「これからも騎士団の人達と・・ミサさんと仲良くしてねー。約束だよー」
「おっ・・おう、約束するぞ!あたしはミサキリスと仲良くやってくぜ!」
円寿の言葉に顔を引き連りつつ答えるサクネア。
「エンジュー、またねー」
「また一緒にご飯食べようねー」
「いつでも遊びに来て良いよー」
「バイバーイ!」
ラング・ド・シャットの面々が、各々円寿に言葉を送る。
「ははっ・・それじゃっ!」
ニコッと笑顔を見せ、両手でドアノブを持ちそっとドアを閉める円寿。円寿達が帰り、落ち着いた雰囲気が漂いそうになると思ったのも束の間、
「よしっ、お前らやるぞ!」
「えっ?何を?」
「何って、作戦会議だよ、エンジュをあたしに惚れさせる為のな。さっき言ったろぉ。もう忘れたのかよ」
「・・・(ちっ、流れで誤魔化せると思ったけど駄目だったか・・)あっ、あぁそうだった、そうだった。んじゃ、やろうか作戦会議・・・(こうなりゃやけだ)」
「うっし、お前らぁ、気合い入れて案を出しやがれ!」
「おっ・・オーライ・・サク姉・・・」
テンション低めに答えるラング・ド・シャットの面々。
「・・・(帰りたいわ~。あっ、ここがあたしの家だった・・・)」
心の中で呟くナミミナであった。
帰路につく道中のミサキリス一向。ラング・ド・シャットのギルドハウスは、もう見えなくなった所を歩いていた。
「ねぇねぇエン君。どうだったぁ?」
「?何が、ですか?」
笑顔で円寿に近づくジュリア。
「何って、そんなの決まってんじゃーん」
「?」
「サクネアさんの、生おっぱい、どうだったの?」
「!?////」
「えぇー、エン君サクネアさんのおっぱい見たのー?」
「みみみみっ、見てなi・・くはないけど、見えそうになった時、ちゃんと顔を隠したので、ほっ、殆ど見てないです////」
顔の前で全力で手を振りながら、顔を赤くしつつ否定できてない否定をする円寿。
「ふーん、その感じだと、ちょっと見えたっぽいねぇ」
口をωの形にしながら、ムフフとニヤつくジュリア。
「ちょっとあんた達!エン君取り戻して早々、またその絡みするの?!只でさえ今日は色々あって疲れてるはずなんだし、もうエン君に卑猥な絡みするの禁止。あぁあと、エン君は、その・・早く・・胸の事は忘れなさい!」
頬を赤くしながら叫ぶミサキリス。
「えー、それはもったいないよー。色々あったからこそ色々聴きたいんじゃーん」
「サクネアさんのおっぱい、すっっごい大きかったよねー。形はどうだった?綺麗だった?」
ミサキリスをよそに、円寿への質問を畳み掛けるジュリア。
「えぇえと、ちゃんと見てないですし・・いまいち、良くわからないです・・・」
「良くわからないか~。それじゃあ、あたし達のと比べてみようか♡」
「!?///」
「サクネアさんに比べたら小さいけど、あたし達も結構自信あるよぉ♡」
円寿の腕にそれぞれ抱きつき、露骨に胸を当て始める双子二人。
「ああぁあの、二人共、困ります・・・」
「ほらほらぁ、サクネアさんのおっぱいに比べてどお?」
「今この場で脱いで確かめてみても、良いんだよぉ?」
ゴゴゴゴコゴッーーーー
「あんた達・・・」
ドスの利いた声が耳に入り、ビクッッと肩を揺らす双子二人。
「はっ、はいぃ・・何でしょう・・ミサキリスさん・・・」
「じっ、冗談だよミサぁ、こんな所で、服脱ぐ訳ないじゃーん。ほら今日少し肌寒いしー。風邪引いちゃうよー」
「・・・取り敢えず、エン君から離れなさい」
「はっ、はいっ!」
「まったく・・・」
「?ミサさん?」
鬼の如く圧で双子二人を離れさせ、クルッと身体を円寿の方に向け何やら顔を赤くしながら円寿の前に立つミサキリス。
「エン君は・・その、本当に、サクネアと・・その、けっ、結婚、しようと、思ってる・・の?」
「!?結婚、ですか・・・その、僕、今まで、プロポーズをされた事が無いので、その、サク姉の気持ちを、どう受け止めたら良いのか、わからなくて・・・」
「・・・(プロポーズを・・・)」
「・・・(された事が無い・・だと・・)」
「・・・(エン君が!?)」
円寿の発言に内心驚きつつ、ススッと顔を近づけ小声で話し始める双子二人。
「(絶対あるよね、エン君。告白された事・・・)」
「(あるよ絶対。あんな美少年、ほっとくなんてもったいない!)」
「(現にあったばかりのサクネアさんに告られてるし、とどのつまりこれは・・・)」
「(告白された事に・・・)」
「(気づいていない・・・)」
「(鈍感系男子!)」
なにやら双子二人が勝手に盛り上がってる中、ミサキリスが話しを続ける。
「・・・エン君は、サクネアの事は、どういう風に思ってるの?」
「!そうですね・・・サク姉は、凄く尊敬できる人です。ラング・ド・シャットの人達からも本当に信頼されてて、少し乱暴な所があるけど、ご自身の力を、ラング・ド・シャットの人達や獣人の子供達の為にふるってて、僕も、サク姉みたいな人になれたら良いなと思ってます」
「・・・そう、なんだ・・・女の人としては、どう思ってるの?」
「!?女の人・・女性として、ですか?・・その・・みっ、魅力的だと思います・・・」
「ふーん・・・」
ジトーとした目で見てくるミサキリスに、はわわる円寿。
「・・・結婚したいて、思う?」
「!?あぁ、その、それは、まだわかんないです。何しろ、今日あったばかりですし・・・」
「・・・」
「・・・(あぁ、言いたい。結婚は置いといて、エッチはしてみたいって思う?て、言いたい!)」
「・・・(でも言ったら怒られるだけじゃすまなそう。雰囲気的に・・・)」
各々が何か言いたそうにしてる中、少しの沈黙の後ミサキリスが口を開く。
「・・・うん、まぁ、わかんないよね。結婚て、人生でかなり重要な事だし・・勢いで結婚しちゃうて人もいるみたいだけど・・・本来は、ちゃんと長い目で見なきゃいけない事だし・・・」
「・・・あっ、あの、ミサさん、僕は・・・」
「わかりました。」
「?」
「保留・・に、する事を許します」
「!」
「まぁあ、サクネアとは、これからも付き合っていく事になると思うし、エン君も、あたしも、サクネアの人柄をちゃんと見極める時間はあるし・・だから、保留で良いよ」
「あっ、ありがとう、ございます」
頬を赤く染め、人差し指で頬をかくミサキリスの言葉に円寿も答えたが、何故ありがとうと言ったかは本人もよくわかっていない。
「それとさ、エン君。話し変わるんだけど・・・」
「はいっ、何でしょうか?」
「エン君、サクネアの事、サク姉て呼んでるよね?」
「?はい、呼んでます。サク姉と」
「・・・どうして?」
「?どうして、ですか?う~ん、サク姉が、サク姉と呼んでほしいと言ったので、そうしてます」
「・・・ふーん・・・」
「?」
「(ジュリさ~ん、どう思う?今のミサ~)」
「(いや~、頬を緩んでしまいますなぁ、シュリさ~ん)」
にやけながら小声で話す双子二人にムッとなりながらも、ミサキリスが話しを続ける。
「あとエン君、サクネアにタメ口で話してたよね。あれも、サクネアに言われたから?」
「はいっ、そうです」
「・・・じゃあ、あたしの事もタメ口で喋って良いて言ったら、そうする?」
「はいっ、ミサさんが不満で無いなら、そうします」
「・・・うん、じゃあ、そうして。あぁあと、ミサさんて、さん付けじゃ無い呼び方が良いな。別の呼び方にして」
「!?・・・でっ、では、ミサちゃんで、宜しいですか?あっじゃない、良い・・かな?」
ブワッとした振動がミサキリスの心に流れる。頬を染めながらニイッと口角を上げ、
「うん、良いよ。改めて、これからもよろしくね、エン君」
穏やかな笑顔を円寿に見せるミサキリス。円寿には、ミサキリスの姿が真っ白な光に照らされてる様に見えた。
「・・・ん?・・あぁーー!ミサズルーい!一人だけタメ口呼ばせからのちゃん呼ばせー!」
「・・・ハッ!ミサがあまりにも乙女全快にしてるから見とれてたけど・・抜け駆けは駄目だからね、ミサ!」
「!?なっ、何よ、いつも抜け駆けしてるのあんた達の方でしょ!」
「あたし達は良いんですー」
「エン君、あたし達も、タメ口でちゃん呼びして!ねっ、良いよね!はい決定~」
「ちょっと、強制的に呼ばせるは良くないわよ!」
「ミサだって、強制的だったじゃ~ん。ねぇエン君」
「強制的・・だったぁ・・のかな?」
「もぉ、エン君!さっきからハッキリしない言葉ばっか!お仕置きしちゃうぞー!」
「ふにゃあっ!?」
笑顔で円寿の耳をワシッと掴み、わしゃわしゃとかき乱すジュリアにあわあわしだす円寿。
「ちょっとジュリ!・・・」
「ミサ」
止めに入ろうとするミサキリスを静止するシュリナ。
「?なによ、シュリ」
「良かったの?サクネアさんの事。保留にしちゃってさ」
「・・・だって、エン君が少しでもサクネアに対してそういう気持ちがあったとしたら、その・・・」
「ミサだったらハッキリと『結婚なんて駄目ー!』て、言うと思ったんだけど」
「言えないよ、そんな・・エン君の気持ちを完全に否定するなんて。それに・・・」
「それに?」
「あたしも、まだエン君に会ったばっかしで、なんでこんな気持ちになってるか、よくわかって無いんだ。だから、保留てのは、あたし自身にも言ってる・・ていうかさ」
「う~ん、好きじゃないの?エン君の事?」
「好き・・なのかな?何だろう、好きは好きなんだろうけど、なんと言うか、どういう意味の好きなのかも、よくわからないんだよねぇ」
「なるほど、つまり・・エッチしたい訳では無いと」
「だから、なんであんたはすぐにそっちの方の話しにしたがるのよ。まったく・・・(でも、もしエン君の方からそういう誘いがあったら、断れる、かな・・・てぇ、何考えてんのよぉあたしー!///)」
「へへぇぁ」
顔を真っ赤にして焦るミサキリスを、にんまりと見つめるシュリナ。
「おんやぁ、ミサキリスさん。今、何を想像したのかにゃあ~?」
「!?なっ、何も、想像なんてしてないわよ!あぁもぅ、顔を近づけない!あと、肩を擦るの辞めなさい!」
ーーーエン君に対するこの気持ちはよくわからないけれど、なんとなくこの子を守りたい、側に置いておきたいて気持ちはたしかだ。取り敢えず今は、こっちに来たばっかりのこの子に、この国の事、この大陸の事を沢山知ってほしい。そして、めいいっぱい楽しんでほしい。それで良いかなて思っている。そうやって頭の中で整理している内に、あたし達は森を抜け街に戻ってきた。そのままデア・コチーナに向かうと、あたし達四人の名を呼ぶ声がする。アズさんが手を振っていた。いつもと変わらない笑顔と優しい声で迎えてくれたアズさんに、自然とほんの少し駆け足になる。『お帰りなさい』アズさんはそういうと、あたし達を店に中に案内した。ようやく一息ついた所で、あたしは宣言通り、アズさんにお説教をする事にした。あたしなりに全力で説教してみたけど、アズさんは終始ニコニコと、あらあらまぁまぁと笑っていた。多分、反省してくれているとは思うのだけれど、説教した手応えという物は感じられ無い。うん、まぁなんとなく予想はしていた。この人のペースを崩す事は出来ないと。しょうがないか。十代の娘の説教を、ちゃんと聴いてくれているだけ良しとしますか。あたしは軽くため息をして、今後エン君をどうするかの相談を、エン君を含めた五人で話し合う事にしたーーー
一方、場面が変わりラング・ド・シャットのギルドハウス。惚れた男を惚れさせる為の議論に、自然と熱の入るサクネアに相反して、正直今日はもうお開きにしたいと内心思っているラング・ド・シャットの面々。
「つまりだぁ!あたしがここでだぁ、がッといってだなぁ!・・・」
「(チェルさん、これ終わるんですか?あたし、てか皆だと思うんですけど、今日はめちゃんこ暴れたんで、もうそろそろ寝たいんですけど・・・)」
サクネアが熱弁する中、ウィネがチェルシーに耳打ちをする。
「(ウィネ・・・)」
「?」
チェルシーが指先す方にはナミミナがいた。身体を動かさず、じっとサクネアの話しを聴いているようである。
「(ナミさんが、どうしたんですか?)」
「(よく見て見な・・・)」
「(?・・・!?あれって、まさか・・・)」
「(そう、ナミの奴、目開けたまま寝てやがんの)」
「(えーーー・・・)」
「(はぁ・・まぁ、あたしも正直限界来てるし、ちょっとサク姉つついてみるよ)」
「(お願いします。チェルさん!)」
「あっ、あのさぁ、サク姉」
「うあ?どしたぁチェル、便所かぁ?」
「トイレはさっき行きました。ずっと気になってたんだけどさぁ、なんでそんなに、エンジュにこだわるの?」
「あ?そんなの最初から言ってんだろ。フィーリングだよ、フィーリング」
「フィーリングねぇ、まぁ、たしかにエンジュは良い子だと思うけどさ、サク姉に結婚したいて言わせる程なのかな?て、思うんだよね」
「なんだぁチェル、エンジュの事バカにしてんのか?」
「バカにしてないししようとも思わないよ。どんな男だとしても、サク姉が惚れた男なんだから、あたし含めて皆否定なんてしない。だからこそ、あたし達が納得のいく理由が欲しいて言うかさ、まぁ、ああいうのがタイプて言われちゃったらそれまでだけど」
「う~ん・・納得のいく理由、か・・まぁ、最初は何か、こぉ物珍しさで興味持った位の感覚だったんだけどなぁ、何だろうなぁ、何かこう、う~ん、あれだぁ、だぁ、くぅ・・・」
「・・・(めっちゃ悩んでる。でも、誤魔化そうとしてる訳じゃないんだよね、サク姉。サク姉は、あたし達の聞く事には、いつもバカ真面目に答えくれる。まぁそりゃそうか。サク姉は嘘つけないもんねぇ・・・ん?)嘘、つけない・・・」
「?チェルさん?」
「あたし、サク姉がエンジュにこだわる理由わかったかも」
「何!?本当かチェル!」
「サク姉本人がわかって無いのに、チェルさんがわかるって、これもう訳分かんないっすね」
「それで、なんなんだ、チェル!」
「それはねぇ~・・・」
「それは・・・」
間を引っ張るチェルシーに、固唾を飲むサクネアとラング・ド・シャット一同(ナミミナ以外)
「・・・教えてあ~げない!」
「なっ!?」
ズルッーーー
「えぇ~、チェルさん、そりゃ無いっすよ」
「くぅらぁ!チェル!なんで言わねぇんだお前!ははん、さてはお前ハッタリかましやがったなぁ。こいつぁっ!」
チェルシーに飛びかかるサクネア。それをチェルシーはすらりとかわすが、隣に座っているウィネが被害を受ける。
「ちょっ!?サク姉危ないじゃん!」
「あっ!逃げるなチェル!」
「逃げるに決まってるでしょサク姉。それに、ハッタリじゃないよ~」
「じゃあ、何で言わねぇんだ?」
「言ったら面白くないじゃん。サク姉自身が答え見つけないと意味無いでしょ、こういうのって。それで、もしサク姉が答えを見つけられたらさ、その時に答え合わせしようよ。そうすれば、皆も納得できると思うよ」
「いや、少なくとも現時点で納得してるのはチェルさんだけじゃ・・・」
「良いだろう!」
「なんですと!?」
サクネアの速答に思わずツッコむウィネ。
「チェル!お前の言うとうりだ!エンジュに対するこの思いを、妹分の口から聞くなんて、そんなの間違ってやがる!よっしぃ、そうと決まりゃあ、やる事は一ぉおつ!」
「え?あっ、まってサク姉、これ以上に話し合いはしんど・・・」
不味いといった顔で、慌ててサクネアに駆け寄るチェルシー。
「寝る!!」
「!?」
「ねっ、寝る?」
「ああ、そだぁ、惚れた理由を見つけるには、手っ取り早くエンジュに会いに行くのが一番だ!明日は朝一でエンジュの所に行く。その為に今すぐ寝る!」
唖然とするラング・ド・シャット一同をよそに、サクネアは何故か自信ありげな顔をしている。
「・・・あぁ、今すぐに会いに行く訳じゃ無いんだね」
「今すぐは駄目だ。エンジュも疲れて寝ているだろうからな!」
「・・・(その疲れている理由の一つにサク姉も入っているんだけどね。)んじゃ、今日はもうお開きて事で良いんだね?」
「あぁ、仕舞いだ仕舞い。お前らもさっさと寝ろ。んじゃ、おやすみ!」
「あれ?サク姉、エンジュを惚れさせる為の会議は・・・」
「(しっ、ウィネ、余計な事言わない)」
ウィネが言葉を言い終わる前に、その口を塞ぐチェルシー。
終わる気配の見えなかった会議を、サクネア自信が強引に終わらせたのだ。今さら元の議題に戻る事は、あたしらのメンタルが厳しい、そう判断したチェルシー。そんな鬼気迫るような表情のチェルシーに、首を縦に二回ふるウィネ。サクネアはというと、二階の部屋に続く階段を使わず、跳躍で二階へと渡りそのまま部屋に入りバタンと扉を閉める。音が一階にも響くと、ほっとしたのかガクッと方を落とすラング・ド・シャット一同。
「あぁ~、終わった~・・・」
「チェルさん、サク姉に理由を説明しなかったのて、もしかしてこの会議を終わらせる為だったんですか?」
「いやぁ、そんなつもりは無かったんだけどねぇ、あたしは単純にサク姉の本音が聴きたかったてだけだけど、まぁ結果オーライて奴」
「チェルさんのおかげで助かりましたよぉ、ふあぁ、安心したらあたしも眠くなってきました」
「さてと、明日もどうせサク姉に振り回されると思うから、あたし達も寝ようか。と、その前に・・・」
そう言うと、先程から話しの輪に加わっていない女の前に近づくチェルシー。
スパーン!ーーー
「あたっ」
「こらっ、何あんた器用なサボり方してんの」
目を開けたまま寝ているナミミナの頭を叩き、起こすチェルシー。
「ん~、そうだね~、そう思うよ~、サク姉~」
「何寝ぼけてんのよ。会議はもうとっくに終わってるわよ。まったく、ほら立ちなさいナミ。寝るんだったら部屋で寝なさい」
脇をかかえ、ナミミナを立たせるチェルシー。
「?あれ~、結局~、エンジュを惚れさせる方法はどうなったの~?」
「その話しはとっくに終わってるわよ。てか、あんた自分で立ちなさいよ!めんどくさいんだけど!」
自分から立とうとせず、チェルシーにかかえられるがまま引き摺られるナミミナ。
「え~?このまま運んでくれるんじゃないの~?」
「んな訳無いでしょ!あぁもう、只でさえサク姉に手間かかっているんだから、せめてあんたは手間かかせないでよぉ、もぉ」
ズルズルとナミミナを引き摺るチェルシーを見送るウィネ。
「・・・(チェルさん。ラング・ド・シャットは、多分チェルさんがいるから、ちゃんとまとまっているんだろうなて思う。そんな今日この頃です・・・)」
ーーーこうして、エン君とあたし達、そしてラング・ド・シャットの激動の一日は終わりました。あたし達はと言うと、話し合った結果エン君はこのアトラピア大陸にいる間は、アズさんの下デア・コチーナに住み込みで働く事になった。アズさんはお店の事は気にせず住んでもらって構わないと言っていたけど、エン君は『タダで住まわせてもらう訳にはいきません!』と健気に主張した結果、アズさんはエン君がそれで良いならとエン君が働く事を了承した。エン君の住む場所と働き口、二つが決まった所で話し合いはお開きとなった。まだまだエン君から聴きたい事はあるけれど、皆疲れているしそれはまた明日で良いかなと思い先を立つ。最後の最後までエンくんにちょっかいを出すシュリとジュリに拳を入れつつ、エン君に明日も会う約束をしデア・コチーナを後にしたーーー
「それじゃあ、今日からここがエンくんの部屋よ。好きな用に使っていいからね」
ミサキリスと双子二人を見送った後、アズリールは円寿をデア・コチーナの二階にある部屋に案内する。
「はいっ、ありがとうございます!これからもよろしくお願いいたします、アズさん!」
ハキハキした言葉で答える円寿。
「はい、よろしくねぇ、エンくん」
そう言って、円寿の頭を優しく撫でるアズリール。
「あっ、そだ、アズさん。少しお願いしたい事があるんですが・・・」
「あら、何かしら?」
「その、デメティール様に、出来れば一旦元いた世界に戻してくれないかと言ってもらってもよろしいでしょうか?。これからこっちに長期間滞在するとなると、衣類の用意や諸々の連絡をしておきたいと言いますか・・・」
「あら、その心配ならいらないわ」
「?」
「まず衣類の心配は、この世界で用意するから大丈夫よ。諸々の連絡ていうのは、ご家族や通っている学校の事よね。実はね、もうすでに連絡済みなの。」
「!?そうなんですか!?」
「そうなのよ~。それにね、エンくんの元いた世界に戻るのには、結構時間が必要なのよぉ」
「時間、ですか?」
「そうなの、世界を移動するってね、とても体力がいるのよ。あっ、体力がいるのは、もちろん女神デメティール様の事よ。それでね、その体力が回復するのに時間が必要なのよぉ」
「どっ、どれ位かかるんでしょうか?」
「う~ん、そうねぇ、早くても一年から二年位はかかるかしら?」
「そうですか・・・わかりました、デメティール様のお身体が休まるまで、僕もこの世界で頑張りたいと思います」
少し悩んだものの、そうと聴いては仕方がないと切り替えて前を向く事にして円寿。
「ごめんねぇエンくん、デメティール様の体調が万全になったら、すぐにでも連絡するわね」
「はい、よろしくお願いします!」
「・・・(エンくん。エンくんにはこの国で、この世界で沢山様々な事を経験してほしい。そして、ゆくゆくは・・・いや、これはあまりにも荷が重すぎるわ。エン君には良い思い出を作ってほしい。それが、あの子達の願いでもあるんだから)」
「?どうかしましたか、アズさん?」
慈しむような表情で自信を見つめるアズリールに、不思議そうに問いかける円寿。
「なんでもないわぁエンくん。さぁ、今日はもうおやすみの時間にしましょ。エンくんには、このお店で働く為のいろはを教えなきゃいけないし、他の子達にエンくんを紹介しないといけないから、明日も沢山やる事があるわ。ちゃんと身体を休めなきゃ駄目よ」
円寿の頬を、プニッと押し笑顔で語るアズリール。
「はいっ、おやすみなさい、アズさん!」
「はい、おやすみなさい、エンくん」
扉を閉め、ベッドに横になり今日一日の出来事を振り替える円寿。初めて来た異世界、初めて見る街並み、初めて会う人々、初めて味会う料理、初めての戦場、初めてされる告白、初めて紡がれる関係、円寿には先の不安は多少あるものの、それ以上の期待に胸が溢れかえっていた。
「明日は、どんな出来事があるかな?ふふっ、楽しみだな」
明日の朝を迎える為、円寿は眠りについた。しかし、円寿は知らなかった。円寿の人生の中で、一番と言っても過言ではない波乱万丈な一日であった今日という日が、これから次々と塗り替えられていくとという事を。幸せそうな表情の寝顔の円寿は、知るよしもなかった。
ーーーカタカタカタカタ、カチャ、カタカタ、ターンーーー
「うぅっ、う~~~ん・・・」
どこかにある暗い部屋で、パソコンを打ち込み終わる眼鏡をかけた女性。長時間打っていたのか、背伸びをしたり肩や首を回しコリをほぐしている。その姿はというと、タンクトップにショートパンツとだいぶラフな格好をしている。
「・・・はぁ、(やっと終わった~、事務作業。まぁ、こんなに時間のかかる作業じゃ無かったんだけどねぇ、配信されたばっかしの今季のアニメと漫画を見てたら遅くなっちゃった。あぁ、それにしても今週のクルドルマジ神展開過ぎ!ソシャゲの方と同じストーリー展開かと思ったら、まさかラストのあの場面にアニオリ入れてくるとは!ソシャゲだと不明瞭だった部分を、補足を入れつつしっかりとまとめてくるなんてぇ、あぁもう監督様スタッフ様、神作画に神演出神解釈本当にありがとうございますー、輝いている押しをさらに輝かせてくれてありがとうございます。もう一生ついていきます!・・・さてと。」
画面に向かって拝んだ後、スッと席を立ち部屋のカーテンを開ける女性。
「うっへぇ!?・・・(もう朝じゃん、時計は・・9時30分て、朝というかぼちぼちお昼だよぉ、あぁこっちに来てから完全に体内時計狂ってきてるなぁ。というか、せっかく異世界に来たのに、やってる事は部屋に引き込もってお店の事務作業と電子書籍とアニメの視聴・・なんか、元いた世界と変わらないていうかーーー『水連明奈、あなたには、異なる世界で支えてほしい子がいるんです』ーーーて、女神様は言ってたけど・・・どんな人なのかな?そもそも支えてほしいとは?対人コミュニケーション能力の低いあたしが?こっちに来てお風呂に入る以外は部屋に引きこもりっぱなしのこのあたしが?何処の誰かも知らぬ人を支えると?・・ハードル高過ぎやしませんかね女神様。てかその人は男?女?男の人だったら絶対にテンパるだろうなぁ、あたし。イケメンだったり、筋肉質な人だったり、強面、ナイスシルバー、美少年・・・駄目だ、どんなタイプでもまともに顔見れる自信がない。女の子だったら、趣味さえ合えばイケるかも。あぁ、でも嫌味全快なお嬢様みたいな人はやだなぁ・・あと、不良系も苦手・・・駄目駄目、ここは異世界。元いた世界では陰キャだったあたしも、こっちならきっと変われる、はず。変われなくても、受け入れてくれる人がいる、はず。取り敢えず、丸一日入ってなかったし、お風呂入ってこよ~。)」
呑気な表情で部屋を出て、一階の風呂場に向かおうとする女性。
「う~ん・・・(こっちの世界に来てもう二日かぁ、支える相手処かまともに人に会ってすらいない。ここ二日間で会ったの、ここのお店の女将とスタッフリーダーぽい人だけ。スタッフリーダーぽい人にいたってはお風呂場に行く時にすれ違った程度だし・・そういえばあの時、すれ違い様に挨拶されたっけ。一応あたしがこのお店に住んでいる事は知ってるて、事だよね。そろそろちゃんと挨拶しなきゃ不味いよなぁ。現場には出てないとはいえ、このお店で働かせてもらってる訳だし。いつにしようか?今日?は無理、心の準備が出来てない。明日?わぁ、ちょっと早いな。明後日?一週間後、半月後、一ヶ月・・・まっまぁ、その内なんかタイミング的な奴が来るでしょ。焦らなくても時間はある訳だし・・・)」
考え事をしながら階段を下り終わろうとしたその時、
ムニュッーーー
バインーーー
「えっ?」
階段を下りきった角から出てきた人物に衝突する女性。その人物の高さが、丁度よく女性の胸部に当たった事で女性自身は何事もなかったが、その人物の方は体制を崩され尻餅をついていた。
「だっ、だだだだ大丈夫ですか!?すすすすすみません!考え事してて前見てませんでした。おっ、お怪我はありま・・・!?」
尻餅をついたその人物に駆け寄る女性。しかし、その人物の顔をよく見た瞬間、只でさえ慌てている彼女の表情がさらに混乱した様になっていった。
「なっ、なんで?・・・(なんで?なんでなんでなんでなんで!?なんでこの子がこんな所に?なんでこっちの世界にいぃぃ!?)もっ、もしかして・・くっ、楠木・・円寿・・くん?」
「・・・はっ、はい・・楠木円寿、ですが?」
「・・・・・」
「?」
「キャーーーーーーーーー!!!!」
「!?」
ダッダッダッダッダッダッーーー
「何ですか!?今の悲鳴は?!」
この店はデア・コチーナ。女将であるアズリールとスタッフリーダーであるナタリー、そして他数名のスタッフで切り盛りしている飲食店。そんなナタリーが、バックヤードから聞こえてきた悲鳴を聞きつけ駆けつけてきた。彼女の視線に写った二人の人物。一人は、三日前にこの店に最初は客としてやってきて翌日から同じスタッフになった獣人の男の子楠木円寿。彼は尻餅をつきビックリといった表情をしている。もう一人は、二日前にこの店にやってきたらしい濃紺色のロングヘアーを後ろで縛っている眼鏡をかけた女性、水連明奈。と言うのも、ナタリー自身も廊下ですれ違い挨拶を交わした後、女将であるアズリールに確認をとり彼女がこの店に住んでいる事を知った。その為、円寿に比べて殆どコミュニケーションを取っていない。そんな彼女は、膝をつき混乱している様子であった。さっきの悲鳴は恐らく、この明奈のものだと思い二人に近づくナタリー。
「どうしたの、二人共」
「あの、ぼくがこの人にぶつかってしまい、驚かせてしまったと言いますか・・・」
「あぁ、ちっ、ちがいます!あたしが前を見てなかったのが悪いんです。だから、円寿くんは悪くありません、悪い訳がありません!」
明奈の圧に逆に動揺するナタリーと円寿。そんな二人を見てハッと我に帰り、顔はナタリーの方を向けつつ視線だけをチラチラと円寿に送る明奈。
「・・・けっ、怪我は無い・・かな?円寿くん・・・」
「はいっ、どこも痛くありません。お心遣いありがとうございます」
「うっ、うん、良かった、ね・・・(あっ、あたし、円寿くんと、あの円寿くんと会話してるー。えっ?いや、これ会話してるの?会話になってるの?あはあぁ、円寿くん可愛いぃ、超可愛いぃ!顔ぉっ、顔小ちゃい、目パッチリ、足ホッソ!声ぇ、声も可愛いぃ、女の子みたいぃ、女子のあたしよりも可愛いぃよぉその顔、その声ぇ。敬語、敬語で話すんだぁ円寿くん。敬語円寿くん可愛いぃよぉ。あぁ、あの時のまんまだぁ。初めて円寿くんを見たあの時のまんまぁ。高校三年間で大人っぽくなっちゃうかなと思ったけど・・変わって無いぃ、あの時の可愛い円寿くんのままだぁ・・はぁ、円寿くんシュキィ・・存在が尊味に溢れて大河になってるぅ・・・)」
口元を両手で抑え、潤みながらキラキラ輝く瞳で円寿を見つめる明奈。よくわからず頭から汗マークを流しつつ、明奈に問いかける円寿。
「あぁあの、お聞きしたい事があるんですが、よろしいでしょうか?」
「ひゃいっ!?どのようなご用件で!?・・・(円寿くんに、円寿くんに話しかけられたぁ~。あぁもう無理ぃ、円寿くんの声があたしの鼓膜にダイレクトにぃ、響いてぇ、はっ!?見てる、円寿くんがあたしの事見てるぅ、はぁごめんなさい!あたしみたいなのが円寿くんの視界に写っちゃってぇ、ごめんなさいぃ!)ハァ、ハァ・・・」
「!?・・・(息があがってる。顔も赤いな。体調悪いのかな?)あの、大丈夫ですか?顔色悪いみたいですが?」
明奈に少し身体を近づける円寿。
「ひゃあぁあぁ!あはぁ、まってぇ!それ以上は!それ以上は供給過多で情報処理が追い付かないのぉ!・・からぁ、まってぇ・・・」
慌てて後退りをしてゼェハァと息を荒くし、知っている言語のはずなのに理解しずらい言葉を話す明奈に困惑する円寿。そんな二人を見かねたナタリーが口を開く。
「・・・(このアキナて娘、エンジュくんの事知っているみたい。エンジュくんの方はそうじゃないみたいだけど。)取り敢えず、二人共、そのままだと何だし、ゆっくりとお茶でも飲みながら話しをしたら?エンジュくん、お店の方は話しが終わってからで良いからさ」
「!ありがとうございます、ナタリーさん!あっ、あのぉ、先に部屋で待ってて下さい。お茶をいれてきます」
ナタリーにお礼を言った後、先に部屋に行くよう明奈に伝える円寿。
「ん?・・あぁはい、ありがとう、です・・・(て、円寿くんが、お茶を、あたしに!だっ、駄目ぇ!そんな恐れ多い事ぉ~。)えっ、円寿くん!あたしが、あたしがいれるよぉ、お茶ぁ・・・」
「いけません!」
「ひゃうっ!」
「体調が悪い時を安静にしてなきゃ駄目です。ほら、部屋に行って休んでて下さい!」
「はっ、はいぃ、そうしますぅ・・・」
円寿なりに少し語気を強めた言葉に、落ち込んだ様子を見せる明奈。と、思いきや、
「えっ、円寿くん・・・(優しいぃ~!!超優しいぃ~!!えっ?何?こんなに可愛いのにそんな気遣いできるの?天使じゃん、いや元から天使だったわ)」
幸せそうな笑顔で部屋に入り待機する明奈。頭上には、花が咲き浮いている。
コンコンーーー
ガチャーーー
「失礼します」
お盆にティーカップを二つ乗せた円寿が部屋に入って来る。
「しっ、失礼されます!・・・(円寿くん、よく見たら制服、ウェイターさんだぁ・・似合ってるぅ、カッコ可愛いぃ、そうだよねぇ、円寿くんはどんな服でも似合うよねぇ、だってあの時もぉ・・・)」
「お茶なんですけど、緑茶で良かったですか?それとも、紅茶の方が良かったですか?」
ティーカップを先に明奈の方に、次いで自身の方に置き席につく円寿。洋風のティーカップには、和風な浅緑色の緑茶が入っていた。
「だっ、大丈夫ぅ、あたし緑茶好きだから、やっ、やっぱし、日本人は緑茶だよねぇ。」
明奈の言葉に、頭の耳がピコンと反応する円寿。
「!今、日本人て言いましたか?」
「えっ?あっ、はい言いました、よぉ?」
「て事は、お姉さんも、僕と同じ別世界から来た人ですか?!」
「はいぃ!そうです!・・・(あぁそうか、あたしは円寿くんの事知ってるけど、円寿くんはあたしの事知らないよね。そりゃそうか、いつも遠くから見てただけだったし・・・いや、でもこれはチャンスよ。せっかく目の前に現実の推しがいて、しかも同じ異世界に来ている。お近きになる絶好のチャンスじゃない!こんなチャンス、もう二度と来ないかもしれない、てか来ない!口を開きなさい、そして声を出すのよあたしぃ!)」
顔を真っ赤にし、ブルブルと震えながらギコちなく口を開こうとする明奈。
「あのっ・・あたしは・・そのっ・・ええと・・・」
「良かったです!」
「!?よっ、良かっ・・た?」
「はい。ぼく以外にも、この世界に連れて来られた人がいて安心しました。やっぱり、同郷の人がいるとホッとしますね」
その時、明奈の瞳に写ったもの。それは、押しが自分に向けてくれた優しい微笑み。ニコッと笑う彼の背後には、明奈にしか見えない後光が輝く。ーーーあぁ、なんて綺麗なんだ。今までは遠くから、近くても画面に写ってるあなたしか見て来なかったのに、今はこんなにも近くで、自分にその天使のような笑顔を、自分にーーー
「う"っ、ぐすっ、う"っく、えっぐっ・・・」
「!?どっ、どうしましたか!?何か、悲しい事でもありましたか!?」
突如、涙を流し始めた明奈に驚愕する円寿。
「ぢっ、ぢがう"の"ぉ、ひっぐ・・うぅ・・あたし、生きてて良かったあぁぁ~・・・」
さらに涙を流す明奈に、はわわって仕方がない円寿。
ーーーー
「うぅ、ひぐっ・・はぁ・・・」
「おっ、落ち着きましたか?」
「うっ、うん、ありがとう、ちょっと落ち着いた・・・」
あまりにも明奈の涙が止まらない為、円寿は途中席を立ちタオル持ってきて明奈に渡していた。明奈の様子を見て、慎重に問いかける円寿。
「あの、それで、お聞きしたい事があるんですが、大丈夫でしょうか?」
「うん!大丈夫、イケる!どうぞ!」
「はい、それでは・・その、ぼくの名前を呼んでくれますけど、何処かでお会いしましたでしょうか?もしお会いしてたとしたら、何処で会いましたか?」
「はいっ、あたしはっ、うん、えーと・・・(何て言ったら良いんだろう。あたし円寿くんのファンです、て言ったら気持ち悪がられるよね。別に円寿くんアイドルとか声優とか動画配信とかやってる訳じゃないし、いやあたしにとっては円寿くんはアイドルみたいなぁ・・いやアイドルその物なんだけど・・・はあぁっ!?見てるぅ、円寿くん見てるぅ、円寿くんがあたしの事見てるよぉ、目合わせられないぃ、可愛いぃ、可愛いぃよぉ・・はぅ!?駄目よあたし!さっきからずっとこれの繰り返しじゃない。一々挙動不審だと、円寿くんに余計怪しまれるわ。あぁもうここは、素直に事実を話すしかない!)えっ、えっと、あたしは・・・」
「はい!」
「えっ、円寿くんの先輩です!」
「・・・はい、先輩・・なんですか?」
明奈の言葉にキョトンとする円寿。
「うっ、うん、あたしね、円寿くんと同じ白屏大学に通ってるの。直接会った事は無いんだけど・・その・・えっ、円寿くんて、結構学内では有名人なんだよ。それで名前を知ってたというか・・ちなみに、円寿くんの、二学年上だよ」
「!そうだったんですか!、白屏大学の先輩・・て事は、校内で会った事もあるかもしれないって事ですね!」
パアッと音がなるかの様に、円寿の表情が開かれる。
「・・・(会ってる所か追っかけてるんだよなぁ・・)う、うん、そうかも、知れないね、ははっ・・・」
口角を引きつかせる明奈。そんな明奈の表情に気づかないまま、円寿が問いかける。
「もしかして、先輩も、この世界に来る時、妙な光る結界?みたいなのに触りましたか?」
「あぁうん、触った。何か変な魔方陣みたいな奴。あれって、円寿君の方にも出てたんだ、そっかぁ、そうだったんだ。いやぁ、それにしても驚いたよ。まさかあたしが異世界転移するなんて。そんな事があるなんて思いもしなかったというか、て言うか本当にあったんだな異世界って。それにあの人、この世界に連れてきてくれたあの人、人てか女神様、かな?あの女神様だいぶ強引だよねぇ、こっちが一番聞きたい事を教えてくれないというか。凄く焦ったよ、最初は」
「?もしかして、その女神様て、デメティール様の事ですか?」
「うん、そう!デメティールさん!円寿君もあの人に連れて来られたんだ!」
「はい!はあぁ、良かったです。同じ境遇の人がいてくれて。なんだか少しホッとしました」
「ほっ、本当?あっ、あたしも、円寿君と同じ世界来れて、嬉しい、というか・・・」
明奈の顔を真っ直ぐに見ている円寿に対して、明奈はというと、目の前のテーブルに視線を落としつつチラッチラッと円寿の顔を見るといった形であった。
「・・・(はあああ、円寿君に喜んでもらえたぁぁ、あたしという存在をぉぉ!あっ、やばい・・泣きそう、また泣きそう)」
「!そだ、聞くの遅れてしまったんですが、お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「はっ、はいぃ!みっ、水連明奈と申します!」
「水連、明奈先輩ですね、よろしくお願いします、水連先輩!」
「こっ、こちらこそ、よろしくお願い致します!・・・(円寿くんに、円寿くんに名前覚えてもらえたぁ~。もう良い、もう良いあたし、今ここで死んでも悔いは無い。いや駄目だ。駄目よ、あたし、これからも円寿くんに呼ばれたい。水連先輩て呼ばれたい!水連先輩て!・・ふふっ、先輩、先輩て呼ばれちった、ふふっ、ふふふふふふ・・・)へっ、へへへ、うふぇっ、うふふ・・・」
眼鏡を輝かせニヤニヤと笑い出した明奈に、頭に汗マークを浮かばせ少し困惑する円寿。
「そっ、そういえば気になってた事があるんですが、水連先輩も、このデア・コチーナで働いているんですか?」
「おふっ、えっあっうん、そう、そうだよ。あたしもデア・コチーナで仕事してますぅ・・といっても、円寿くんみたいに、ホールに出てる訳じゃないんだけどね。裏で事務仕事をしてるの」
「!事務やってるんですか?!知らなかったです」
「うん、二日前にこの店に来て、すぐに部屋に混もって事務仕事してたから、円寿くんがここで働いているのも知らず、今日に到るんだけどね。まぁでも、何か一言言ってほしかったなぁて、今は思うなぁ、アズさんに」
「そうですよね。ん?て事は、水連先輩もこの店にお住まいになってるて事ですか?」
「うん、そうだけど・・・(あれ?今円寿くん、水連先輩もお住まいにて、言った?・・・え?・・え?え?え?えっちょっとまってまってまって、嘘でしょ、え?・・え?て事は、円寿くんも住んでるの?この店に?部屋は違うけど?同じ屋根の下?一緒に・・・・)」
「?水連先輩?大丈夫ですか?」
「・・・あっ、あっ・・・」
「?」
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あぁぁぁぁーーーー!」
「!?」
「あ"あ"あ"あ"あぁ・・・(キャパオーバー!キャパオーバー何ですけど!円寿くんと話せてるだけでも奇跡的なのに・・どっ、同居!?シェアハウス!?どういう事なの女神様!?どういう事なのデメティールさん!?・・・はっ!?もしかして、デメティールさんの言ってた支えて欲しい人て・・もしかして、もしかすると・・・)そっ、そういう事なんですか?そうなんですか?デメティールさん・・・」
「おっ、落ち着いて下さい、先輩・・・(水連先輩、やっぱり体調悪いのかな?無理させちゃったかな?)えと、お水持ってきますね」
ぶつぶつと喋りだした明奈に困惑しつつ、一旦席を立つ円寿。
「え?あぁうん、ありがと、円寿くん・・・(円寿くん、凄い困った顔してた。はぁ、あたし、さっきから感情の制御全然出来てない、どうしよう、絶対ヤバい奴だと思われてるよぉ、せっかく円寿くんと仲良くなれそうなのにぃ・・)ううぅ・・・」
落ち込んだ様子を見せる明奈。そんな明奈だが、ふと何かに気づいた表情になる。
「・・・(ん?そういえば円寿くん、なんか頭につけてた?ネコ耳?イヌ耳?キツネ耳?てかお尻辺りにもしっぽ?みたいなのが・・あまりにも自然過ぎで違和感無さ過ぎだったから逆に気づかなかったけど・・・)あの円寿くん・・・」
ガチャーーー
「お待たせしました水連先輩・・・」
「可愛いい!!」
「!?」
「え?あっ、ああぁごめん!円寿くん!いきなり大声だしちゃってえぇ・・・」
「いっ、いえ、獣人になってから五感が凄く過敏になりまして、大きな音とか、まだ慣れてないんですよ。あっ、でも、水連先輩にテンションには慣れて来ました」
「そっ、そうなんだ・・・て、獣人!?円寿くんのその頭の耳とお尻のしっぽて、獣人になったからなの?」
「はい、こっちに来る時に、デメティール様に獣人に変えてもらいました」
「そっ、そう・・なんだ、へぇ・・・(デメティールさんグッジョブ!!ありがとうございます!一生ついて行きます!あはぁ、似合ってるぅ、滅茶苦茶似合ってるよぉ、なんかもう最初から獣人だったんじゃないかっていう位似合ってるよぉ、はぁ、可愛いぃ・・・)」
「水連先輩は、獣人にはなって無いんですね」
「へ?あぁうん、あたしには、獣人になって欲しいて話しは無かったなぁ・・まぁ、その代わりに、別の物を貰ったというか・・・」
「別の物、ですか?」
「うん、それっていうのがね・・・」
ガチャーーー
「あら、エンくんにアキちゃん、ここのいたのね」
「アズさん!」
「あっ、アズさん、おはようございます。」
おはよーと肩付近で手を降りながら、二人がいるテーブルの空いた席に座るアズリール。
「アズさん、ご紹介します。僕と同じせかi・・じゃなかった、同じ大陸の・・えと、ニッポン大陸から来た、水連明奈先輩です!」
「・・・(ニッポン大陸?あぁ、別世界じゃなくて、別の大陸から来た事になってるんだ・・・)」
「あらエンくん、わざわざ紹介してくれた所申し訳ないんだけど、アキちゃんの事は、あたし知ってるわ。あたしがアキちゃんをこのお店で雇っているのよ」
「!そうでした。うっかりしてました」
あらあらと、円寿の頭を優しく撫でるアズリール。それを見て、衝撃を受けている明奈。
「!?・・・(えっ、円寿くんの・・円寿君の凄くフワフワしてて触り心地が凄い良さそうな・・頭を!頭を、撫でている!凄いなぁアズさん、あんなにも自然に撫でられるなんて・・・うわ~、良いなぁアズさん、良いな~、あたしも撫でたい!あはあぁ!円寿君!狐みたいな目になってるぅ、何か凄く気持ち良さそうな表情してるぅ、可愛いぃ、凄く可愛いぃよぉ、ああぁあ、あたしもぉ・・・てぇ、アズさんに聞かなきゃいけない事があるんだった。)あっ、アズさん、えっ、円寿くんがこのお店で働いてて、しかも住んでいるって事、何で教えてくれなかったんですか?」
「あら~、そんな事無いわアキちゃん。ちゃんと教えたじゃない」
「えぇ!?きっ、聴いて無い・・と、思います、けど・・・」
「言ったわよ~、ほら、アキちゃんがこっちに来た時・・・」
「ん?」
ーーーー
「・・・え?えっ、ちょっ、ここは?ここは何処!?て、おわ!?・・・(うわ何この美人さん!?綺麗ぇ、すっっごく綺麗ぇ、外人さんかな?でぇ、コスプレ、だよね?この格好。いやぁ、やっぱ外人さんはこういう格好似合うなぁ。てかいつの間にあたしの目の前に?肌きめ細かいなぁ、綺麗ぇ・・・oh.SUGOI DEKAI・・・)
目を覚ますと、明奈は真っ黒な空間にいた。そして、目の前には美しい金髪の美女が立っている。その息を飲む程の美貌と、はち切れんばかりの乳房に思わず視線が行きつつ明奈は何故このような状況になったのかを考えようとした。したのだが、考える前に目の前の美女が口を開いたのである。
「水連明奈、あなたには、これからあなたのいた世界とは異なる世界に行ってもらいます」
「・・・えぇと、それって拒否権とかって、ありますか?」
「拒否権、ですか?う~ん、そうですねぇ、無いと言いたいのですがぁ・・無理矢理連れて行くって事は、こちらとしましても、そういう形にはしたくないと言いますか・・・」
「・・・(あぁ、まさか、まさかのまさか。水連明奈20歳、大学三年、まさかの異世界転移イベント!いや~、日頃からノベルやアニメで異世界物に触れていたせいか、割りとすんなりこの状況を受け入れられてる自分が恐ろしい。やってて良かったオタ活・・あぁ、でもそうか。あたし死んじゃった訳じゃないから、これは異世界転移て事だね。そっか~、転移か~、どうせなら貴族のお姫様とかに転生してみたかったりしたけどぉ・・いやでも転生だと一回死ななきゃいけないか、死ぬのは流石に怖いな、うん、まだそこまで覚悟は決まってないし。てか、このお姉さんはつまり・・女神的な人、なのかな?たしかに女神っぽい格好してるし、女神と言われたら納得の美人ぷりなんだけども・・あぁでも、いざ異世界に行くってなるとどうしたら良いかわからないな。心残りもあるし・・大学の事、実家の事、ネットの友達、放送中のアニメ、来月出るライトノベル、異世界行くってなるとここら辺どうなるんだろぉ。それに、あの子の事・・あたしの・・・)推し・・・」
「推し?、あぁ成る程、そういう事ですね」
「え?どういう事でしょうか?・・・(やば、無意識に声に出てた。てかこのお姉さん、推しの意味、解ってるのかな?)」
「水連明奈、あなたにとって異世界に行く事で発生するデメリットを解消して、その上メリットもあれば、異なる世界へ行く決心がつく、という訳ですね」
「えっ・・とぉ、はいぃ、そういう事に、なるかもしれないです・・・(え?いやあたし、殆ど何も喋って無いんですけど!?え?どういう事?心が読めるんですか?エスパー的な奴ですか?女神だから女神的なパワーで出来ちゃうんですか!?怖い、女神怖い)」
頭に汗マークを流し、目の前の美女に対して内心多少恐怖する明奈。美女は、明奈の心内も気にせず笑顔で話しを進める。
「わかりました。それでは、水連明奈、あなたが異なる世界へ行くにあたって、デメリットとなるものは、どうすれば解消出来るでしょうか?」
「・・・て、えぇ!?あたしが考えるんですか!?えぇ、えぇっと・・・(それは、つまりぃ・・連絡をとったり、アニメやノベル、漫画とかを見るには・・・)ネットが使えれば、粗方解決しますぅ、けど、異世界て電波、入らないですよね?」
「そうですねぇ、そもそも世界その物が違いますからねぇ。ですが安心して下さい。そのネットという物、使えるようにしちゃいます」
「え!?出来るんですか!?そんな都合の良い事!?」
「出来ますよ。異なる世界に行く際に、転移者には何かしらの力を授ける事になってますので。それを使いましょう」
「おっ、おう・・・(スキルて奴かな?異世界転移物でよくある、転移者だけが持つチートスキル。本当にあったんだ)」
「水連明奈、あなたの今所持している、ネット・・がぁ、使える物をここに出してくれますか?」
そう美女が言うと、突如明奈の目の前にテーブルらしき物体が出現する。
「おわっ!?なんですか?いきなりぃ・・テーブル?・・え!?浮いてる!?なんで!?」
「そこは気にせず、ほら、早く」
「あぁはいぃ・・・えと、これで・・いいですか?」
テーブルらしき物体に、明奈が持つ、スマートフォン、タブレット、ノートパソコン、それとポケットWi-Fiが置かれる。その、並べられた電子機器を選ぶ様に眺める美女。
「ん~とですねぇ・・あっ、これが良いですね」
「ポケットWi-Fi、ですか?」
「そうです。これを、異なる世界に行っても使えるようにしちゃいます」
「マジすか?え?異世界の何処にいても、このポケットWi-Fiあればネット使い放題て事ですか?」
「そうしちゃいます。これで、異なる世界へ行く際の、デメリットが無くなりますね」
「すっ、凄い・・・(凄ぇ、女神凄ぇ。)あっ、すいません、ここまでしてくれて凄くありがたいのですが、その、異世界て電気とか通っていますか?いやその、スマホとかって、使ってるとバッテリーが無くなってきて、充電しなきゃいけないんですけど、充電するには電気が必要でして・・モバイルバッテリーがあるから、少しの間はもつと思うんですけど・・・(異世界と言えば、中世ヨーロッパみたいな世界が定番だからなぁ。通って無いだろうなぁ・電気。いやでも、1チャン、エレキテルみたいなの有ったりしないかな。あぁでもあれって江戸時代の物、だったっけ?)」
「そうですねぇ、電気は文明的に通っていませんが、魔法の一つに雷魔術がありますよ」
「魔法!うわー、凄い異世界ぽい。やっぱあるんですね、魔法て!・・あぁ、でも異世界に行ったからって、すぐに魔法使えるって訳じゃないですよね?・・・(仮に使えたとしても、直接端末に雷使う訳にはいかないしなぁ・・・)」
「安心して下さい、水連明奈。少しよろしいですか?」
「?はっ、はい・・・」
美女は、ソッと明奈の額に手をかざす。すると、その手が白く光だす。
「!?・・・(え!?何これ!?おでこが何かピリピリする!?超音波?いや、魔法?魔法的な奴の魔力的な奴が流れてるんですか!?)」
「・・・はい、わかりました。」
「なっ、何がわかったんですか?」
「水連明奈、あなたの属性は雷です」
「!?かっ、雷っ、ですか!?え?て事は、呪文を唱えたら、手から電気がバァーて出たりするんですか?しかも、属性って、そんなゲームみたいな物が・・・(てっきり、水連だから、水属性かと思った~。雷て・・・結構攻撃的なんだな、あたし)」
「ふふっ、その通り。手からはもちろん、何もない空中から落とす事だって出来ちゃいます。もちろん、魔法を使うには、それなりの鍛練が必要です。ですが、今回は特別サービスとして、雷魔術の初歩中の初歩、電力操作を使える様にしました」
「なっ、何ですと!・・てぇ、使える様にしました・・て事は、もうこの場で使えるって事ですか?」
「はいその通りです。ためしに、そのもばいるばってりーに手をかざし、頭の中で充電してるイメージをしてみて下さい」
「はっ、はい!・・・(充電のイメージかぁ。普段だったら、コードを挿して、そのコードに電気が流れて、バッテリーが充電される。充電中は、ランプが光る・・・)」
すると、明奈の手の平が徐々に青く光出す。その光を浴びたモバイルバッテリーの充電中を表すランプが赤く光るのが確認出来た。
「!?これって、充電出来てるて事でしょうか!?」
「はい、ちゃんと魔力の流れを感じます。おめでとうございます、水連明奈」
「おっ、おおぉ!・・・(やったー!永久期間ゲットだぜ!)」
「さぁ、後は異なる世界へ行くメリットですね」
「メリット・・・(あたしが徳する事、そんな事も解るの?この女神様は・・・)」
女神っぽい美女のその何でも有りっぷりに、徐々に気持ちが高鳴るのを感じる明奈。頬に汗が流れる。
「水連明奈、あなたには異なる世界で支えてほしい子がいるんです」
「・・・え?」
「これが、メリットです」
「・・・あぁ、えぇと、それの何処が、メリット何でしょうか?」
「さぁ、これで決心はつきましたね。行ってもらいましょお。異なる世界へ」
「まてまてまてまてまてぇい!決心ついてないよ!今のじゃつけないよ!全然意味わからないって!」
「はい、こちらが異なる世界へ通じる扉です」
いつの間にか美女の隣に、扉が現れていた。
「聞いて!話し聞いて!あたしを置いてかないで!」
ギイィと開かれる扉。その隣でニコニコと笑顔を見せる美女。
「うぅ・・・(あぁ、無言の圧力、美人の特権無言の圧力・・ズルい、ズルいよぉ、もう行かなきゃ話しが進まんない奴じゃん・・)わかりましたよぉ、行きますよ・・・あっそだ、最後に一つ良いですか?」
トホホと涙をホロリと流しつつ、美女に質問する明奈。
「はい、何でしょうか?」
「お姉さんて・・やっぱし女神様・・て奴何ですかね?」
「はいそうです。あたしはデメティール・・女神デメティールです」
「女神・・デメティール・・さん・・・(次があったら沢山文句言ってやる!)それじゃ、行ってきます・・・」
「はい、行ってらっしゃい。あの子の事、ちゃんと支えてあげて下さいね」
「・・・あっ・・そのぉ、あの子て誰・・・キャッ!?」
明奈の言葉を遮り、まるで引っ張るかの様に明奈を吸い込む扉。明奈の耳にはかすかに『頑張って下さいね~』というデメティールの声が聞こえたような気がした。
ーーー扉に吸い込まれたあたしは、いつの間にか街に出ていた。ほんの数秒前まで、真っ暗な空間にいたのに今は人々が賑やかに往来するいかにも中世ヨーロッパみたいな街並みの一軒家の扉の前に立っていた。とりあえずあたしは、スマホを取り出してみた。画面を確認すると、右上にWi-Fiのマークがついている。アプリを開いてみて、SNSの更新、トレンドの検索等、ネットが繋がっている確認をして胸を撫で下ろす。そのまま何となく、この異世界の街並みを写真に収めながら歩いていると、見慣れた顔の美女が現れる。デメティールさんだ、ほんの数分前にあたしと一緒の空間にいた女神デメティールさんだ。彼女は笑顔で『アキちゃ~ん』とあたしの名前の略称を呼んでいる。なんでここにいるのか?という疑問なんかよりも、とにかく文句を言いたかったあたしは早速詰め寄るも『あらアキちゃん、何か勘違いしてるかもしれないけど、あたしはデメティール様じゃないわ。アズリールよ。アズさんと呼んでね。』と、あくまで自分がデメティールさんでは無いと主張してきた。そんな訳ないだろと問い詰めても、違うの一点張り。だったら何で初めて会ったあたしの名前を、しかも略称で呼んでいるんだと言っても女神様のお告げで聞いたと言ってくる。強い。勝てない。終始笑顔のこの美女に、これ以上言っても無駄と諦め、あたしは彼女に連れられて彼女が女将を勤めるデア・コチーナに来た。昨日入ったばかりの新人スタッフもいる。そんな事をアズさんは言っていた。へぇーとその言葉をあまり気にせず、あたしはアズさんの後について行きお店の裏口から入った。バックヤードにいても解る位にお店が繁盛しているのが解る。アズさんと相談した結果、接客は無理とハッキリ言ったあたしに気をつかってくれたのか、それならとあたしにお店の事務処理の仕事を任せてくれた。事務作業だったら、パソコンを使って簡単に出来る。こうしてあたしは、デア・コチーナの裏方として住み込みで働く事になった。デメティールさんの言っていた、支えてほしいという子については、働いている内に何か進展でもあるだろうと楽観的に捉えていた。
ーーーー
「ほら言ったじゃない。入ったばかりの新人さんがいるって」
「いっ言ってましたね・・・(あれって円寿君の事だったのーー!?)」
「あっ、そうだったわエンくん。お店・・そろそろ込みだす時間帯だから、ホールお願い出来るかしら?」
「!了解しました!それでは先輩、ぼくお仕事してきます。先輩とはまだ話したい事があるので、お昼休憩の時にまたここに来ますね。先輩も、お仕事頑張って下さいね」
言葉の終わりと共に、ニコッと笑顔を見せる円寿。明奈の視界には、笑顔と同時に光が円寿の顔の周りを囲っている様に見えていた。
「はわっ!?・・・(殺される!あたし今日、円寿くんに何度も殺される!あぁもう、その笑顔はもはや凶器だよぉ・・・)うっうん・・頑張って来てね、円寿くん」
部屋を出ていく円寿を、頬を赤くし緩みきった口元で声を出し見送る明奈。見送り終えると、ホワホワとした感覚が頭を包み抑えづらい笑いが込み上げてきた。
「うへっ、ふっ、へへへ、うふふふっ、くふっ・・・(円寿くんと、円寿くんといっぱいお話ししちゃったぁ~。さっ、最後の方は何とか円寿くんの目を見て話す事が出来た。頑張った、あたし頑張った!うふふふふふふ。しかもまだ円寿くんとお話し出来る。ていうか、円寿くんと同じ場所に住んでるから、いつでも話せるじゃん。あはぁ、推しと同じ屋根の下での生活・・・あれ?これってもしかしたら、あたし円寿くんと良い感じの仲になってしまうのでは?もしかしたらあたしと円寿くんが・・・うっへぇ!そっ、そんな、そんな恐れ多い事にぃ~~・・なったらどうする?どうしようか?いやでもそれは・・いやそれでも・・いや駄目よ、円寿くんとそんな事・・あっでも万が一円寿くんの方からお誘いがあった場合は・・ふふっ、うふふっ、ふふふふふふふ・・・)」
眼鏡を曇らせ、ニヤニヤと笑いだす明奈を、あら~と優しく眺めるアズリール。
「うふふっ、アキちゃん。エン君とお話し出来て凄く楽しそうね」
「うへへっ・・・ん?・・!?あっ、アズさん!?すっ、すみません!あたし気持ち悪い声出してましたよね?!」
「あら~そんな事無いわよアキちゃん。それよりも、良かったらエン君の働いてる所、見てみたいと思わない?」
「!!いっ、いいんですか!?見たいです!」
「あら~、わかったわぁ、それじゃあ行きましょうか」
アズリールに連れられて、厨房に続く廊下を歩く明奈。ふと、ある事に気づき考え出す。
「・・・(そういえば、アズさん、円寿くんの事エンくんて呼んでたな。エンくん・・・可愛い、エンくん呼び可愛い、エンくんと呼ばれてる円寿くん可愛い♡あぁ~、あたしも、あたしもエンくんて呼んでみたい。呼ぶタイミング、エンくんて呼んで良いタイミングは何処やに・・・)」
悶々と明奈が考えてる内に、アズリールが笑顔で振り返りチョンチョンと指を指す。
「アキちゃん。ほら、あそこにエンくんがいるわ」
デア・コチーナ厨房の角から、顔を覗かせるアズリールと明奈。この時間は、厨房スタッフ三人、ホールスタッフ五人で回している。ホールスタッフの五人の内一人が円寿である。
「!・・・(いた!円寿くん。働いてる円寿くん可愛いぃ♡)」
円寿の働きは非常にスマートだった。新規の客が来たらすぐに案内をし、客の呼び掛けにすぐ駆けつけ注文をとり、出来た料理をすぐに指定のテーブルに、テキパキと身体を動かす。絶え間なく動いている様に見えるが、その表情はとても健やかで明るかった。
「・・・(凄い円寿くん。こっちに来てまだそんなに経ってないはずなのに、何というか、凄く馴染んでる。お客さんの対応も凄く良いし・・まぁ、あたしが接客業が苦手なだけなんだけど・・・)」
苦い顔で頭から汗マークを流す明奈。
「・・・(それにしても、気のせいかな?さっきから円寿くん・・・)」
女性客三人のグループの内に一人が、円寿に向けて手を上げる。
「すいません、注文お願いします」
「はい、どうぞ!」
円寿の姿に、小さく沸き立つ女性客達。別のテーブルにいる女性客や、そのまた別のテーブルの女性客らも視線は円寿の方へ向けられていた。それに気づき、なんとも歯痒い表情になる明奈。
「むぅ・・・(やっぱり円寿くん、こっちでもモテるんだなぁ。そうだよねぇ、あの時も女子受け良かったからなぁ。円寿くんの可愛いさは異世界でも通用するんだなぁ)」
思いにふける明奈にアズリールが話しかける。
「エンくんが来てからね、お客さんの賑わいが更に増した気がするのよぉ。特に・・女の子のお客さんが増えた用な気がするわ」
「へっ、へぇ~・・そうなんですね・・・」
そう言ってる内に新しい客がやって来る。女性客三人のグループで、円寿にとって馴染みのある客だった。
「!ミサちゃん、シュリちゃん、ジュリちゃん、いらっしゃいませ」
「お疲れ様、エンくん」
「やっほー、エンくん」
「エンくん、今日も可愛いぃぞ~」
挨拶代わりに円寿の頬をプニッと押すジュリア。その光景を見ていた明奈。
「!?・・・(しっ、親しい!距離が近い!それに・・ちゃん呼び!円寿くん今、あのポニテ美少女三姉妹をちゃん呼びしてた!こっ、これが陽キャになせる技か・・凄いなぁ円寿くん。異世界でもう知り合いが出来てるなんて・・それにしても、こうしてみるとやっぱり皆異世界って服装してるなぁ。コスプレしてるみたい)」
ミサキリス達を席に案内し注文をとり終えると、またもや新しい客がやってくる。
「エーーンジュ!来たぞ!」
勢い良く扉を開けたその女性客は、開口一番円寿の名を呼ぶ。
「!いらっしゃいサク姉。今日は早いね」
「おう!今日は早く起きれたぞ」
「・・・(つっても、さっき起きたばっかで、ここまで全力ダッシュで来たんだけどね。ついて来たのはあたしとナミだけで、他の面子は休暇て態で置いてきたけど・・昨日の今日でまたあの娘達を振り回すのも酷だからねぇ。結局昨日は、朝一でエンジュに会いに行くって言ってたのに、昼過ぎまで爆睡してて起きなかったからなぁサク姉。無理矢理起こすと機嫌悪くするし。起こさないと、それはそれで怒るし。ここに来たのも夕方頃だし。まったくもう)」
サクネアの後から、昨日の出来事を心で呟くチェルシーとそんなチェルシーに首根っこ捕まれてるナミミナが入る。
「・・・(もうちょい寝たかったのに、チェルに無理矢理連れて来られた)」
「チェルさん、ナミさん、いらっしゃませ!」
「ウェ~イ、エンジュ~」
「こんちゃ、エンジュ、今日も迷惑かけるよ」
こちらの光景も見ていた明奈。
「・・・(はわわわっ、滅茶苦茶ギャルっぽい人達来たぁ。あの人達とも知り合いなの円寿くん。てかスタイル良いなぁ、モデルさんみたい。あとおっぱい大きい・・エェッロおっ!)」
「チェルさん、おっつ~」
「おぉ、シュリジュリにミサちゃん、来てたんだね」
双子二人とチェルシーが挨拶を交わす一方で、
「あ?んだよ、お前も来てたのかよ」
「来てますよそりゃ。あたし達はここの常連ですから」
未だピリピリした雰囲気のミサキリスとサクネア。
「!二人共、喧嘩は駄目だよ。ほら!美味しい料理食べれば、仲良くなれるよ」
二人の視線の間に入り仲裁し、メニュー表を渡す円寿。
「大丈夫だよエンくん。喧嘩なんてしないから」
「そうだぞエンジュ!あたしはもうエンジュの前では喧嘩しないって決めたんだからな!」
「・・・(エンジュの前じゃなけりゃ喧嘩するって言ってる様なもんだよね、サク姉それ)」
内心ツッコみを入れるチェルシー。
「そんな事よりもだなエンジュ!昼飯一緒に食うぞ!昨日は一緒に食えなかったからな!」
「お誘いありがとうサク姉。でも、ごめんね。今日は先に約束してる人がいるんだ」
「ナァッ!?」
「!?」
「!?」
円寿の言葉に、衝撃を受けるミサキリスに双子二人とラング・ド・シャットの三人。その雰囲気に、何かを察する明奈。
「・・・(あれ?何だか嫌な予感が・・・)」
少し間を置いた後、目元に影がかかり静かに口を開くサクネア。
「・・・なぁ、エンジュ。その約束してるって奴はどんな奴だ?」
「・・・(おっとサク姉、これはヤバいか?)」
「・・・(エンジュ頼むよー。言葉は慎重に選んでねー・・・)」
ナミミナとチェルシーがサクネアの雰囲気に気づき、頭に汗マークを流す。
「どんな奴?えーと、僕と同じせかi・・じゃなかった、僕と同じニッポン大陸から来た、学校の先輩だよ!」
「へー、エンくんの他にも、別大陸から来た人ているんだ」
シュリナが円寿の言葉に反応する。
「・・・そうか。なぁエンジュ。ちなみにそいつは、男か?それとも女か?」
「!?・・・(あっ、まって円寿くん。それ本当の選択肢選ぶと駄目な奴じゃ・・・)」
サクネアの言葉と、これから円寿が答えてしまうであろう選択に怯えだす明奈。
「女性の方だよ、サク姉。」
「・・・(言っちゃったぁーーー・・・)」
顔を両手で塞ぐ明奈。それを、あら~と見ているアズリール。これはマズいと言った表情のチェルシーに対して、興味津々に円寿に近づく双子二人。
「エンくん!その女の先輩て、エンくんとどんな関係なの?!」
「もしかしてぇ・・エンくんの元カノとか?やるなぁエンくん!このこのぉ!」
円寿の両頬を、両人差し指で挟む様につつくジュリア。
「あっ、こらっ!あんた達、またぁ」
円寿に群がる双子二人を止めようとするミサキリス。
「もっ、元カノじゃないよぉ////」
双子二人に揉みくちゃにされながらも、何とか否定する円寿。その光景を見て内心思うチェルシー。
「・・・(いやまぁ、あたしもエンジュに詰め寄りたいのは山々なんだけど・・サク姉がね。サク姉の雰囲気が・・・)」
「エンジュ~、先輩てどんな先輩なの~」
「あんたはせめてこっち側にいなさい!ナミ!」
しれっと双子二人に混じるナミミナにツッコむチェルシー。
「エンジュ!」
サクネアの一言で、円寿を揉みくちゃにする一同の動きが止まる。
「さっ、サク姉?」
冷や汗を流すチェルシー。サクネアの目元の影が晴れ、表情が現れる。
「・・・その先輩とやら、あたしにも紹介してくれねぇか?」
「!?・・・(怒って・・無い!・・かな?)」
チェルシーが想像してたよりも、冷静な表情をしているサクネア。
「・・・(しっ、紹介してくれって・・え?あたし、あの人と会わなきゃいけないの?いやー!怖いー!あの人絶対不良系だよー!表情では読めないけど、あたし知ってる。あれ心の内で静かに怒ってるて奴!あぁもう絶対そうだよぉ~)」
内心気か気じゃなくなる明奈。そして、円寿がサクネアの言葉に返答する。
「紹介?良いよ!皆でお昼ご飯一緒に食べよう」
「・・・(円寿くーーーん!?そういうのはあたしの許可も取って欲しい奴ーーー!!)」
一切の悪気無く承諾する円寿。あらあらと微笑むアズリール。
「・・・(むむっ、これはこれは・・・)」
「・・・(新たな修羅場の予感・・・)」
ニヤニヤといやらしい笑顔を見せる双子二人。
「・・・(シュリジュリは本当良い性格してるよなぁ。あたしもサク姉が関わらなければ、酒飲みながら楽しみたい所なんだけど・・・)」
双子二人の表情を見て、何を考えているかが容易に想像出来ているチェルシー。ミサキリスはというと、頭に汗マークを流し何ともいえないといった表情をしていた。
場面切り替わり、部屋にて一人椅子に座っている明奈。顔は下を向いており、目はグルグルと渦巻いている。
「・・・(どっ、どうしよーー!?円寿くんと会えてお話しも出来てこれから円寿くんとの幸せ異世界ライフを送ると思っていたのにー!平和な一日になると思っていたのにー!まさか、まさか円寿くんが、いやまさかでも無いんだけど、あんな異世界美少女やらエッチなお姉さんやらとすでにお知り合いになっているなんて!・・うぅ、そうだよね。あたしみたいな女にも優しく接してくれる子だもん。そりゃ異世界でもモテるに決まってるよね・・・いや、でもこれはチャンスかもしれないわ水連明奈!ここで上手く立ち回ればあの人達はもちろん、円寿くんにも一目置かれる、はず!そうよ、あの人達は円寿くんと会ってまだ数日程度。対してあたしはかれこれ三年以上、円寿くんを見てきている!あの人達の知らない円寿くんを沢山知っている!円寿くんの隣にはあたしがいるって事を、あの人達に教えてあげるのよ!頑張れあたし!ここがあたしの有意義な異世界ライフを送る為の、運命の別れ道よ!)」
ガチャッーーー
「失礼しまーす。お疲れ様です先輩!ご飯をお持ちしました」
扉が開くと、二人分の食事を乗せたお盆をもった円寿が入ってくる。
「おっ、お疲れ様・・円寿くん・・うっ、ウワー、スゴイ、イイニオイー、オイシソー」
緊張で言葉が上擦る明奈。そんな明奈の雰囲気に気づいていないのか、円寿はそのまま口を開く。
「先輩、食べる前になんですが、少しよろしいでしょうか?」
「・・・(きっ、きたーーー!!)うっ、うん。何、かな?」
「はい、僕がこの世界に来てからお会いした方々でして、皆さん、初めて会った僕にも親身に接してくれた凄く良い人達なんですけど、その人達を先輩に紹介したいんですが、よろしいでしょうか?」
「うっ、うん、構わないよ。あたしも、この世界で色んな人と交流してみたいと思ってたし・・・(嘘です!円寿君と会えただけでもうお腹一杯です!)」
明奈の言葉を聞き、パアッと笑顔になる円寿。
「良かったです!僕、もしかしたら先輩が、会いたく無いって拒否される可能性も考えていまして・・杞憂に終わって良かったです!」
「そっ、そうだったんだぁ・・ははっ・・・(正直会いたくないよ~~・・・)」
「それじゃあ、呼びますね!皆さーん、入って良いですよー!」
ガチャッーーー
「こんにちわー!初めましてぇ、シュリナ・パスティオルです!そんでこっちが・・・」
「ジュリア・パスティオルでぇす!エンくんの先輩さん、初めましてー!」
一番手に入って来たのはシュリナ。続いてジュリアが入る。二人共、食事を乗せたトレーを持っている。
「!・・・(おわーー!テンション高いイケイケ双子ギャルきたーー!)はっ、初めましてっ、水つr・・・(あっ、名字と名前・・逆にした方が良いのかな?)アキナ・ミヅツラです。よろしくお願い致します・・・」
早速双子二人の雰囲気に押されつつ、何とか自己紹介をする明奈。
「う~~~~ん・・・」
「!?・・なっ、何か?」
何やら明奈の全身を、なめ回す様に視線を送る双子二人。
「アキナパイセン美人さんですねー!」
「眼鏡美人!背もあたしらより高くてスタイル良いー!」
「!?えっ、そぉ、そう・・ですかぁ?ありがとう、ございます・・・」
まったく想像していなかった言葉に、歯痒い気持ちになる明奈。
「それに~・・・」
「?」
「えいっ」
ワシッーーー
むにゅっーーー
「はわっ!?」
「!?///」
「パイセン、おっぱい大きいーー!」
明奈の乳房を鷲掴みにするジュリア。その光景に思わず驚く円寿。
「ちっ、ちょおぉぉっ・・もっ、もまっ・・揉まないでぇ~~・・・」
「良いじゃないですかぁ、女同士何だし~、減るもんじゃないですよぉ!」
「やっ、止めてぇ~・・・(別に女の子に揉まれるのは構わないのだけど、円寿くんに・・円寿くんに見られるのが恥ずかしいんだよ~。あぁ見ないで円寿くん!あたしのこんな恥ずかしい所を見ないでぇ~~・・・チラッ・・ハッ!?)」
明奈が円寿の方に視線をやると、両手で顔を隠し視界を塞いでる円寿の姿があった。その両手の平の内側の頬は、赤くなってるいるのが見える。
「・・・(かっ、可愛いぃ~~!エッチな絵面は苦手なんだ円寿くん!初心!初心可愛円寿くんときめく~~!完全に解釈一致です、ありがとうございます!!)」
乳房を揉まれながらも、テンションを高ぶらせる明奈。一方、そんな顔を隠す円寿に良き玩具を見つけた様な表情で近づくシュリナ。
「あんれ~、エンくん~・・どうして顔を隠しているのかな~?」
「!?こっ、こういうのは、あんまり、まじまじと見るのもおかしいから、見ない様にしてるんだよ//」
だいぶ焦った口調で話す円寿。その間も、手で作った壁は維持している。
「ふ~ん。てかぁ、やっぱしエンくんてぇ・・年上のおっぱい大きい女の人が好みなんだねぇ。」
「!?・・・(えっ、そうなの?)」
シュリナの言葉に、揉まれながら反応する明奈。
「!?そそっ、そんな事ないよぉ//とっ、年上の人は好みって言ったけど、えと、その、むっ、胸は・・・」
「もぉ~、エンくん、否定しなくても良いんだぞぉ!エンくんも健全な男の子なんだから~。あたしも男だったら、おっきいおっぱい滅茶苦茶にしてやりたい!て、思うもーん」
円寿の頭をポンポンと叩くシュリナ。円寿は顔を赤くしたままでいた。
「でさぁ、エンくん・・・」
「?」
「アキナパイセンのおっぱいは触ったのぉ~?」
「!?///」
「!?・・・(ちょっ!?円寿くんに何て質問をぉ!?)」
「ささっ、触ってないよ~///」
必死に否定する円寿。双子二人の円寿いじりが加速しようとしたその時、
「あ・ん・た・た・ち」
ビクゥッと肩を揺らす双子二人。彼女達の背後から、鬼の如くオーラを放ちゆっくり歩いてくる女。この女も、料理を乗せたトレーを持っている。
「あんた達はなんでそう初対面の人にそこまで無礼な事が出来るのかしら?」
頭に怒りマークをつけ、双子二人を睨み付けつつソッとトレーをテーブルに置く女。咳払いをし、双子二人から明奈に視線を向ける。
「すいません、ミヅツラさん。うちのアホ二人がとんだご迷惑を・・あたしは、ミサキリス・コルンチェスターです。このアホ姉妹と同じ騎士団に所属してる者です。よろしくお願い致します」
双子二人に向けられた表情から、凛とした表情にスッと切り替わり手を差し出すミサキリス。
「あっ、いえいえ、こちらこそよろしくお願いしますぅ・・・(良かったぁ、この娘はまともそう・・・)」
内心ホッとし、ミサキリスの握手に応じる明奈。
「アホって言うなー」
「そうだー、アホって言った方がアホなんだぞー」
双子二人が野次を飛ばすものの、それを無視し明奈に笑顔を見せるミサキリス。明奈の頭には汗マークが流れている。
「先輩!ミサちゃんとシュリちゃんとジュリちゃんはですね、ぼくがこっちせかi・じゃなくて、こっちの大陸に来た時に、誘拐されかけた所を助けてくれたんですよ」
「そっ、そうなんだ・・・て、ええぇ!?ゆっ、誘拐!?円寿君、誘拐されたの!?」
「未遂ですよ、先輩。」
「エンくん助けちゃいましたー!」
「ましたー!」
ピースサインしながら、円寿の両腕にそれぞれ抱きつく双子二人。今だ慣れなさそうに、頬を赤くする円寿。まったく、といった表情のミサキリス。
「エンジュー、そろそろあたしらも入るよー」
扉の方から快活な声が飛んでくる。その声が耳に届いた円寿が答える。
「!はいっ、お入り下さい!」
「はいはいー、どもどもー!お邪魔しますよーっとぉ」
料理を乗せたトレーを、片手で持ったまま入ってきた快活な声の女。その後ろには両手で持ったお盆に加えて、頭に器用に料理を乗せたトレーを乗せてる女が続く。そして、その後ろにももう一人の影が・・・
「おっ!お姉さんがエンジュの先輩ちゃん?獣人かと思ったけど・・普通に人間なんだねぇ。あたしはチェルシー・モルガラ。よろしくね。んでこっちが・・・」
「ナミミナ・カバックで~す。よろ~」
「よっ、よろしく・・お願いします・・・(このお姉さん達、円寿くんと同じ獣人なんだ。なんだろう、カッコいいお姉さんが頭にケモ耳つけてるの・・何か可愛いなぁ。てかこっちのお姉さん頭にトレー乗せてる!?頭の耳で支えているんだ。器用だなぁ・・・)」
明奈がナミミナに感心していると、グイッとチェルシーの後ろから顔を覗かせる女。その視線は、明奈の目を一点に見つめている。いや、睨んでいた。
「ヒイッ!?・・・(あぁぁ!さっきの一際怖いお姉さん!メンチ切らないでー!)」
「・・・ハァ、サク姉、眼飛ばさないの。エンジュのお知り合いなんだから。ほら、自己紹介しなさい」
怯える明奈に気をつかい、自身の左肩付近にいる女に挨拶をさとすチェルシー。
「サクネア」
「!?」
「サクネア・バサロー」
明奈を一点に睨みながら、ぶっきらぼうに名を名乗るサクネア。
「・・・さっ、サクネアさんですね。よっ、よろしくお願いしますぅ・・・(怖いよー。不良系とは無縁の人生送ってきたあたしが、この人と上手くやれるビジョンが見えないぃ~・・・)」
「あら、皆揃ってるわね。それじゃあ、皆席について。ご飯食べちゃいましょお」
怯える明奈の背後からスッと顔を出すアズリール。
「!アズさん!」
「は~い、アズさんよ~」
優しく円寿の頭を撫でるアズリール。
「アズさん、いたんですね・・・」
「実はシュリちゃんジュリちゃんが入ってくる前からいたわ」
頭から汗マークを流す明奈に、しれっと答えるアズリール。
アズリールの言葉通り、全員席につき例によって食事の前の挨拶を唱える騎士団の三人と円寿、そしてアズリール。そんな挨拶があるのあたし聞いてない!と言わんばかりの表情の明奈と、さっさと食べようとするサクネアとナミミナを、空気を読みなさいと静かに一喝するチェルシー。そして、ようやく食べ始める各々。正方形のテーブルを囲む様に座っている。東側が上座で、こちらにアズリールと明奈。北側の席にサクネアと円寿。円寿はアズリール側に座っている。西側の席にチェルシーとナミミナ。チェルシーはサクネア側に座る。南側の席にミサキリスと双子二人。双子二人に間に座るミサキリス。
「・・・むぅ・・・(エンくんの隣、サクネアにとられた・・・)」
モヤモヤとした表情で、対面の二人を見るミサキリス。ミサキリスの視界には、円寿を隣に座らせ満足気な顔のサクネアと幸せそうに食事を楽しんでいる円寿が写っている。
「・・・(あはぁっ円寿くん!食べてる姿も可愛い!凄く美味しそうに食べるんだぁ・・あひゃあいっ!耳!円寿くん、食べる度に耳をピコピコてっ!ピコピコてしてるぅ~!可愛いぃ、可愛いぃよぉ~・・・)」
眼鏡を曇らせ、推しの食事風景を眼に焼き付ける明奈。
「は~いエンくん、あ~ん」
「!あんぐ・・・美味しいです!アズさん!」
「!?・・・(円寿くんに・・円寿くんにあ~ん!あ~んて!あ~んした!こんなに自然にあ~んが出来るなんて・・・良いなぁ、アズさん良いなぁ・・・やはりアズさん恐るべし!そしてそれを自然に受け止める円寿くん・・なんでそんなに自然にイチャつけるの~!?)」
明奈が悶えてる一方、同じく円寿とアズリールの一連の動きをジィーと見つめる女が一人。
「・・・」
「・・・(サク姉、さっきからずっとエンジュの方見てるな。いつもだったらでっかい声で自慢話し始めるんだけど・・あれか?面子か?いつもと違う面子だから大人しいのかな?まぁたしかに、サク姉があたしら以外の人とご飯食べてる所て・・見た事無いな。へぇ~、サク姉とも長い付き合いになるけど、以外と人見知りなんだなぁ、サク姉て。ここにきてこんな新しい発見があるとは)」
文章の最後でニコッと笑うチェルシー。その表情はどこか嬉しそうであり、どこか寂しそうでもあった。
「うぐうぐ・・・!・・・?」
咀嚼の最中、サクネアの視線に気づきジッと自分見つめる彼女を不思議そうに見つめ返す円寿。
「・・・」
「・・・!・・サク姉!」
「ん?」
何かに気づいたのか、自分の分のチキンステーキを一口大に切り、フォークに刺したそれをサクネアに口元に持っていく。
「はい、あ~~・・・」
「!」
「!?!?」
「おぉ~」
「そう来たか・・・」
「あら~」
「・・・(肉ウメェ)」
「・・・んあ・・んぐんぐ・・・うん、美味い。ありがとな、エンジュ」
円寿から差し出されたチキンステーキを頬張り、やさしく礼を言うサクネア。
「てかエンジュ、エンジュの分の肉食わせてもらってなんだが、なんで食わせたんだ?別にくれって言ってねぇぞ?」
「?チキンも食べたいから見てたんじゃないの?」
「?」
「だってほら、サク姉はポークステーキで、ぼくのはチキンステーキだから、ポークだけじゃなくてチキンも食べたくなったのかなぁて。だからぼくの事見てたんでしょ?」
「・・・(いやはや本当にこの子は何というか・・・気がつくけど気がついて無いというか・・ははっ。まぁ、結果的に・・サク姉が得する事になったんだけど)」
少し呆れながら、やれやれとため息をつくチェルシー。
「・・・う~~ん・・へへっ、どうだろなぁ、エンジュ、うりっ」
「!」
ニカッと笑い、円寿の頬をつつくサクネア。その笑顔は、サッパリと晴れやかであった。ふっと気づき、視線をミサキリスと明奈に方に向ける。
「・・・っヘッ」
「なぁっっ!?」
「・・・あっ、あああっ、ああああ・・・」
ニヤッと渾身のどや顔を二人に見せつけると、そのまま円寿と会話を始めるサクネア。すると・・・
チョイチョイーーー
「あ?んだよナミ。」
円寿との会話を初めようとした矢先、隣に座るナミミナが自分の肩を謎につついてきて多少の苛立ちを込めた口調でそちらに顔を向けるサクネア。
「んあっ・・・」
「はぁ?」
「んあっ、んあっ・・・」
サクネアがナミミナをみると、そこにはあんぐりと口を開いたナミミナがこちらを見ている。
「・・・はぁ?」
ナミミナのこの行動に、いまいち理解出来ないサクネア。それを隣で見ていた円寿が、サクネアのフォローに入る。
「・・・もしかして、今度はナミさんが、サク姉にあ~んして欲しいんじゃないかな?」
「ああっ!?んであたしが、ナミに食わせなきゃなんねぇんだよ!?あぁもうナミ!口開けんの辞めろ!」
「えぇ~、だって~・・・」
「ああ?」
「最初に~、アズさんがエンジュにあ~んして~、次にエンジュがサク姉にあ~んしたから~、順番的に~、次はサク姉があたしにあ~んするんじゃないの~?」
まったくこの娘はといった表情で、ため息をつくチェルシー。
「しねぇよ!んな決まり無ぇよ!」
「え~、そういうシステムかと思った~。残念~」
「たぁくぅ・・ナミ、構って欲しいのは分かるがよぉ、今あたしはエンジュと話したいんだ。エンジュと話し終えたら、いくらでもお前を構ってやる。だから我慢しろ」
腕を組み、ナミミナに聞かせるサクネア。
「いや~、別に~、あたしは~、サク姉とエンジュの~、邪魔をした訳じゃ~、無いんだけど~。う~ん、まぁいぃか~」
「ヨシッ・・でだなエンジュ、さっきの話しの続きなんだが・・・」
円寿との会話を再開したサクネア。それはそうと、先程の一連の流れで気が気じゃなくなっている人物がいた。
「ああああっ・・・(えっ、円寿くんの、円寿くんのおぉ!・・・あっ、あーーん!今ぁあーーんした!アズさんのあーんはあまりにも自然過ぎて納得せざるおえなかったけど・・素直に受け入れる円寿くんは可愛いかった。うん可愛いかった。でもぉ!それ以上に、円寿くんの方から、あーんをぉ!円寿くんがあーんをする。しかも相手はあのサクネアさん・・・い"い"い"な"あ"あ"あ"ー"ー"!!あたしもぉ、あたしも円寿くんにあーんされたいぃ・・うぅ・・やっぱし、グイグイ行く人がこういうチャンスを物にするのかなぁ・・・)」
ヨヨヨと涙をホロリと流す明奈。さらに一方、こちらでは絶賛双子二人にイジられ中のミサキリス。
「ミサキリスさ~ん、どうなんですかぁ?今のは~」
「なっ、何よ・・・」
「これはサクネアさんが、一歩リードみたいな感じになっとりゃあ~せんですかいねぇ~?」
「・・・ジュリ・・あんた言葉使いがおかしくなってるわよ。」
「これはミサが、あ~ん以上の事をエンくんからしてもらわないと、勝ち目は無いんじゃないでしょうかねぇ~?」
「かっ、勝ち目て何よ!まったく・・良い、二人共。さっきのエンくんがサクネアに食べさせる形になったのは、たまたまそうなったてだけで、別にサクネアだからて事では・・無い・・と思う・・・」
「ふ~~ん。」
いやらしい目でミサキリスを見つめる双子二人。その視線を受け、頭に怒りマークを浮かばせるミサキリス。一方、自身の武勇伝を円寿に語り盛り上がりを見せているサクネア。
「・・・それでだなエンジュ、そこであたしがまとめて魔導士共を、バアーーとだなぁ」
「バアーと・・?サク姉、魔導士て何?」
「ん?なんだエンジュ、魔導士知らねぇのか?」
「う~ん・・魔導士・・名前の感じからして、もしかして魔法使いの事かな?」
「あぁそうだ。魔法を使いやがって、陰気で無駄にプライドが高くてインテリぶってるクソ野郎共、それが魔導士だ」
サクネアによる、だいぶ偏見強めの魔導士の説明に頭から汗マークを流す円寿。
「てかぁ、エンジュの大陸には、魔導士いないの?」
話しを聞いていたチェルシーが問いかける。
「はい、本物の魔法を使う人はいないと思います。魔法みたいな科学を使ったり手品を披露する人はいますけど」
「へぇー」
聞きなれない単語が出てきたものの、深く気にせずスルーするチェルシー。
「!そうでした!ぼく、このせかi・・じゃないや、この大陸で期待してるものに、魔法があったの忘れてました。ぼく、魔法使ってみたいです!」
耳をピコンと立たせ、異世界に来た目的の一つを思い出しそれを伝え立ち上がる円寿。
「・・・(そっかぁ、魔導士がいないって事は、魔法も無いって事なんだよねぇ。そういえば、マツギョ見せた時も興味深そうだったなぁ・・)エンくん、そういえば・・・」
円寿の言葉に、トレイターアジト強襲時の一幕を思いだし円寿に声をかけようとした・・その時・・・
「何言ってんだエンジュ。獣人は魔法使えないぞ」
・・・・
「!?そっ、そうなのサク姉!?」
「あぁ、獣人は魔力を上手く制御出来ねぇ体質なんだよ。魔法使ってる獣人なんて見た事無ぇよ。てかエンジュ、お前獣人なのに知らなかったのか?」
ガーーーンーーー
サクネアの言葉に衝撃を受け、真っ白になりゆっくりと席に座る円寿。
「!?おっ、おい、エンジュ・・大丈夫か?」
円寿の反応に驚き、何か不味い事を言ったかと焦り出すサクネア。
「サク姉さぁ・・もうちょいやんわりとした言い方てのがあるじゃん」
「エンジュ~、ショック受けてるよ~」
「なぁっ!?あたしが悪いのか!?」
チェルシーとナミミナの言葉に驚くサクネア。自分が放った言葉がどういう風に円寿に届いたか、よく分かっていないようである。それを見ていたシュリナが、円寿の心情を察したのかフォローを入れる。
「あっ、でもほらエンくん。エンくんて、こっちの獣人と違って成長速度が人間と変わらないて言ってたよね。て事はさ、人間同様魔法使える可能性もワンチャンあるんじゃないかな?」
「!」
シュリナの言葉に瞬時に色が戻る円寿。
「えっ?ちょっとまって。今しれっと重大な事言わなかった?あたし達それ知らない情報だよね!?」
「あっ、後で説明するんで、チェルさん一旦引っ込んどいてねぇ~」
「どっ、どうでしょうかアズさん!ぼくにも魔法が使える可能性が・・ありますでしょうか?」
期待を込めた表情で、アズリールに問いかける円寿。
「あると思うわ~」
その言葉に、さらに期待を高め喜ぶ円寿。
「あっそうだ、エンくん。明後日なんだけど、あたし達戦乙女騎士団と魔導省の交流連絡会があるんだけど、エンくんが良かったら参加する?もしかしたら、そこでエンくんに魔法の適正があるかどうか、分かるかもしれないよ」
さらに円寿の期待を高める言葉を伝えるミサキリス。
「本当!ぼく参加したい!」
「あっ、あのぉ・・ミサキリスさん・・で、良かったですよね。質問良いですか?」
恐る恐ると顔付近まで手を上げる明奈。
「はい、どうしましたか?アキナさん」
「あっはい、そのぉ、魔導省て、どういう存在なのかなって?あぁすいません!あたし、こっちに来てまだ日が浅いから、そういう専門的な機関?なのかな、まだよく知らなくて・・・」
「!安心して下さい先輩、ぼくも知りません!そのぉ・・まどーしょー?だったっけ?どんな存在なの?ミサちゃん」
「うん、魔導省。さっき出た魔導士てね、この国では基本的に国に指定されて魔法を使ってる人達の事を魔導士て呼んでるの。その、魔導士達が集まる国家機関、それが魔導省だよ」
「なるほど!・・・(公務員みたいな感じかな?)」
「こっ、国家機関・・そんな所と交流会をやるんだ・・ミサキリスさん達て凄いですね・・・」
「何言ってるんですかパイセン。あたし達騎士団も、国家機関ですよー」
「そっ、そうなんですか!?・・・(こんなギャルギャルしい娘が、国お抱えの組織に!?流石異世界・・・)」
「アキナさんもせっかくなんで、参加されますか?」
「えっ?あたしも参加して大丈夫な奴なんですか?あたし部外者なのに・・・」
「部外者なんてそんな。安心して下さい。あたし達の紹介があれば問題無く参加出来ますよ」
「そうですか・・・(国家機関同士の交流会なのに、そんなガハガバで良いのかな?これも異世界クオリティ?)」
「それじゃあ、エン君とアキナさんは参加て事でぇ良いですか?良ければ、今日にも連絡するんですが」
「お願いします!」
「あっ、はい、お願いします」
「了解しました・・・あぁ、一応聞きますが、ランシャのお三方は・・どうされます?」
少し気まずそうに、サクネア達に問いかけるミサキリス。
「う~ん・・魔法使えないあたしらが行ってもしょうがないしねぇ。なんかエンジュは可能性あるみたいだけど・・あたしら獣人は無縁だよ、魔法とは・・・」
「あたしらがその交流会にいたら~、アウェー感エグそ~」
それぞれ答えるチェルシーとナミミナ。
「そうですか・・サクネアは、どうされますか?」
「・・・」
答えづらそうにしているサクネアを、不安そうな表情で見つめる円寿。
「・・・あぁっ、エンジュ!そんな悲しい顔すんなよ。たぁくぅ・・あたしも使えねぇんだよ、魔法。あんな硬っ苦しいのは性に合わねぇんだよ。それに、あたしはどうも魔導士て連中が好きんならねぇんだ。だからあたしらは不参加で良い。気ぃ使ってんじゃねぇよ」
どこか無愛想に話しを終えて、おもいっきりフォークを肉に刺しそれを大口で食らうサクネア。
「そうなんだ・・残念だな・・・」
「!?・・・まっ、まぁ、エンジュがどうしてもって言うなら、参加してやらんでもない・・がな」
サクネアの心が揺らいだ。円寿のショボンとした表情を見て揺らいだ。サクネアには、円寿に初めて会った日の夜の件以来、大なり小なりあるとはいえもう二度と円寿を悲しませる様な真似はしないと心に誓っている。自分が交流会に参加しないと惚れた男が悲しむのであるなら、たとえ魔法が使えなくても参加しなくては女が廃ると思ったのである。
「!サク姉参加してくれの!」
パアァッと顔が明るくなる円寿。しかし、少し焦った表情でチェルシーが、
「えぇ!?サク姉参加するの!?」
「安心しろチェル!参加するのはあたしだけだ。チェルとナミまで巻き込むつもりは無ぇよ」
「あぁ、そうなの、まぁ、なら良いけど・・・」
「チェル~、それはそれで寂しいよ~、て顔してる~」
「しとらんわ!まったく、良いよ良いよ、サク姉がそれで良いなら、あたしらも文句は無いよ」
「おうっ、すまねぇなっ、チェル!」
「ちなみに~、あたしは寂しいぞ~」
「ちっとだけ我慢してろナミ。埋め合わせはするからよ」
食事を終え、円寿とアズリールは仕事を再開し、ラング・ド・シャットの三人は仕事の依頼が入った為デア・コチーナを後にした。そして、先程まで昼食をとっていた部屋には明奈とミサキリスが残っていた。
「よっ、良かったんですか?あの二人・・・」
「良いんです。全く、ご飯食べに来てるのに持ち合わせのお金が無いなんて」
先程、会計をしようとした際シュリナとジュリアが自分達の分の料金を払う金が足りて無かったのである。二人はまず、ミサキリスから金を借りようとするも案の定拒否される。『けちー。』『そんなんだから彼氏出来ないんだぞー。』と、文句を言う二人にミサキリスから鉄拳制裁が放たれた後、今度はアズリールに対してつけといてくれないか?それも駄目ならチェルシーからも金を借りようとするが、全てミサキリスに阻止される。結果、二人は現在厨房で渋々皿洗いの真っ最中であった。
「こうでもしないと、際限無く調子に乗るんですあの二人は」
「そっ、そうなんですね・・・(真面目なミサキリスさんと、チャラい双子ギャルの組み合わせ・・・ふふっ、面白い)」
「あっ、そうだアキナさん。もしよろしければ年齢をお聞きしてもよろしいでしょうか?エンくんの先輩て聞いてるから、あたし達と同じ位なのかな、て思いまして」
「あっはい、年齢は二十歳です」
「あぁ、それじゃああたしらの一個上なんですね!それなら、そんなにお堅く話さなくても大丈夫ですよ。アキナさんとは、これからも仲良くしたいなぁと、個人的には思ってますので、どうぞタメ口で話してもらって大丈夫ですよ」
「そっ、そう、なんだ・・・(て事は一個下、大学で言うと二年生か。年下ぽい感じはあったけど、以外と近かった。JK位の年齢ぽい見た目してるし・・・)それでは、そう、するよ、ハハッ・・・」
「はい、改めてよろしくお願いしますね、アキナさん。それで、アキナさんに聞きたい事があるんですけど・・・アキナさんて、エンくんと同じ大陸から来たんですよね。聞かせてもらえませんか?エンくんがどういう子なのかとか、それと、エンくんに初めて出会った事とか!」
「えっ、エンく・・円寿くんとの、初めての、出会い・・・」
ーーーー
「アキ、ほら、これ。」
それは、あたしが高校三年の九月頃、唯一の親友と言ってもいい心菜ちゃんから渡された一枚のチケットからであった。
「!こっ、これ、峯鳴高校の文化祭のチケット!?どっ、どうしたのここちゃん!?これ!?」
「へっへ~、バイト先の先輩が峯鳴のOGでさぁ、貰っちったぁ」
流石はあたしの唯一と言っていい親友だ。あたしが複数のフリマサイトやSNSを使っても手に入らなかったそのチケットをいとも簡単に手にいれ、さらにあたしに譲渡してくれるなんて。貴女は神か?得意気に笑うその顔から後光さしていらっしゃる。では、遠慮無く頂きましょ。
スッーーー
ヒョイッーーー
「!?」
チケットを取ろうとしたあたしは空を掴む。
「おっとぉ!明奈さ~ん。こちら、タダでは渡す訳にはいきませんね~。んっう~ん」
くっ、やはりそうか。あたしと心菜ちゃんは小学校からの付き合い。あたしが心菜ちゃんと長く付き合える理由。それは心菜ちゃんのモットーである等価交換だ。友達だからと言う理由で、何でも無償で行動するなんて信用出来ない。でも、条件を提示してそれに見合った行動を起こす等価交換であれば信用が出来る。そんなひねくれた者同士だからこそ仲良くやって行けてる。心菜ちゃんは、このチケットをあたしが苦労して探していたのを知っている。だから、それに見合う物をあたしは提示しなくてはならない。
「ぐぬぬっ・・おっ、お昼ご飯を、奢るってのは、どうかな?」
「何回分?」
「えっ?」
「アキさ~、このチケットどれ位の期間、探してたの~?」
「・・・いっ、一週か・・あっいや、一ヶ月位、かな?・・・(嘘です本当は一年前からなんです~・・・)」
「ふ~ん。それで、何回分お昼奢ってくれるの?」
「・・・」
スッーーー
あたしは右手で三本指を出す。
「えぇ~?!たった三回~?!」
まぁそりゃそういう反応するよね。いやね、気持ち的にはね、一ヶ月位奢りたいのですよ。あたしがお金持ちをウリにしてるキャラだったらそれ位しますよ。でもあたしは一般的庶民の女子高生。女子高生が渡されるお小遣いとバイト代で出来る範囲で納めたい。今月は沢山ライトノベル買っちゃったし、声優さんのイベントもあるしで軍資金が・・・ええい!ままよ!
「にっ、二週間でよろしいでしょうか!!」
「う~~ん・・・」
「ぐっ、ぎぐ・・ぐぐっ・・・」
あたしの目を一点に見る心菜ちゃんを、おそらく血走っているであろう目でこの目で見返す。これで、これでご勘弁をぉ・・・
「・・・んまぁ、二週間じゃなくて、一週間+この学園祭で出費する分を奢るて事で、手を打ちましょうかね。はいっ、チケット」
安堵の気持ちがあたしを包んだ。学園祭でどれだけ心菜ちゃんが出費するのかはわからないが、今はとにかく、チケットを手にいれる事が出来て良かった。何故あたしが、この峯鳴高校の文化祭に行きたいのか。理由は実にシンプル、制服である。あたしが、高校に入学した翌年に峯鳴高校の制服のデザインが変わった。ただ変わっただけなら勿論興味等湧きはしない。しかし、そのデザインをしたというのがあたしが知っている人なら話しが変わる。某有名RPG作品のパッケージや、某有名ライトノベルのキャラクターデザインを手掛ける某有名イラストレーターがデザインしたのである。オタクからの知名度の高いそのイラストレーターがこうの制服をデザインしたとして、一部界隈で有名になりSNSやまとめサイトでも話題になった。あたしもそのまとめサイトで制服を見たオタクの一人。どうしてあたしが高校に入ってからそれを発表するのかと時を呪った。あと一年早ければあたしもこの制服を着れたかもしれないじゃないかと、そう思った。せめて着れないなら、この制服を着ている生徒さん達の制服の空間に入りたい。合法的に入るには、それつまり学園祭だ!これが、あたしの峯鳴高校学園祭チケット捜索に至った経緯である。
「ううっ・・ありがとう・・ここちゃん・・・」
涙を流して喜ぶあたしを、心菜ちゃんは呆れながらも優しく頭を撫でてくれた。
そして、待ちに待った峯鳴高校学園祭の日、待ち望んではいたもののコミュ障人見知りのあたしは、初めて行くその場所でおもいっきりキョドっており心菜ちゃんにべったりであった。
「ちょっとアキ、あんた念願の峯鳴高校何だから、もっと楽しそうにしなさいよ」
「でぇぁ、大丈夫だよここちゃん、こう見えて、ちゃんと楽しんでるからさ・・・(凄いぃ、皆あの制服来てる・・いやここの生徒だから当たり前なんだけど・・・はあぁ・・制服可愛い、格好いい。デザインがデザインだから、なんだかアニメの世界に来てるみたい・・・)」
「う~ん、なら良いんだけどさ。ふぅ、結構歩いたな。アキ、ここで休憩がてらお茶しようよ」
「ん?メイド喫茶、風喫茶、とは?」
心菜ちゃんが指挿した看板にはそう書かれていた。メイド喫茶じゃなくて、メイド喫茶風喫茶なんだ。何が違うんだろうか?そう考えているあたしを気にもずドアを開く心菜ちゃん。基本的に、普段のお店選びも心菜ちゃんの直感に任せておりあたしも概ね不満はない。有る事もあるが。
「いらっしゃいませ~」
中に入ると直ぐにメイドさんが出迎えてくれた。心菜ちゃんは気にして無いようだが、あたしは気になってしまった・・・言わないのか?!お帰りなさいませご主人様と!これがメイド喫茶風喫茶という事なのか?たしかに中はファンシーな飾り付けで、メイド喫茶ぽさをだしてるけど、メイドさんの他に普通にウェイターさんもいる。こういう所もメイド喫茶風喫茶といった所なのか。あっでもメイドさんは可愛いです、はい。
「こちらの席どうぞ」
メイドさんに窓際のテーブルに案内してもらい、ココアを二つ頼む。少し落ち着いた所で、心菜ちゃんがにやっと笑い話し掛けてくる。
「実はさ、アキ。あたしがこのメイド喫茶風喫茶を選んだのは理由があんのよ」
「理由?いつもの直感じゃないの?」
「今回は違うのよ。さっきアキがお手洗い行っている間に聞いちゃったんだけどさぁ、ここのお店のメイドさんの中に、男の子がいるっぽいのよ」
「!?」
なっ、なんですと!?直ぐ様あたしは周りを見渡し、それっぽいのを探す。心菜ちゃんとは男の娘喫茶にもいった事がある。たしかに店員さんはスタイルも良くて可愛いかった。徹底して女の子になっていた店員さんにはプロ意識を感じたものだ。だかしかし、やはりどこか隠しきれない男感というものは必ずある。あたしは探した。このメイドさんの中にいる男の子を。そして聞きたい、その格好は率先して着てるのですか?それとも仕形なくなんですかと!
「ふっ!・・ぬぅ・・うぅ?」
見当たらない・・だと・・男の娘喫茶の他にもイベントや何やらで男の娘を見て来ているあたしが見つける事が出来ない!?何故?何故見つけられない!?本当に男の子はいるのか!?くそぉっ、どこだ!どこにいる?!
「・・・ねぇアキ、男の子の店員はどれか、聞いてみる?」
必死になって探すあたしを見かねて、心菜ちゃんが提案してくる。くそぉっ!悔しい・・あたしの目をもってしても見つけられ無いとは・・降参だ。潔く負けを認めよう。そう。あたしは男の子の店員さんを探したいのでは無い。見たいのだ。この可愛いの平均値の高いメイドさん達に違和感無く紛れている、その男の子を・・・
「・・・うん。聞いてみよう」
「オッケ、すいませーん」
「はい、お伺いします!」
凛とした鈴のような声であたし達のテーブルに近づいてくるその白髪のメイドさんを見て、あたしは何かを感じとった。そんな気がした。
「あのぉ、このお店のメイドさんの中に、男の子が混じっているて、風の噂で聞いたんですけど、どの子かわかります?」
「!?」
あたしが感じとった物が確かな物になる瞬間を見た。心菜ちゃんの言葉に、そのメイドさんは頬を赤らめ動揺したのである。
「あっ、あのっ、その事、なんですけどね・・・」
「?」
かなり動揺した表情で狼狽えだしたそのメイドさんに、心菜ちゃんはキョトンとしていた。そして、あたしは確信していた。
「そっ、その・・一応、ぼくが、その・・男、でして・・・」
小さい頃からアニメや漫画が好きで、中学に上がる頃にはどっぷりオタクの道を進み、高校に入ってからようやく『まぁ、三次元もありかな』とイケメンや可愛い娘のコスプレ喫茶に通う様になったあたしがとうとうたどり着いた。そう、アニメでも舞台上でも商売でもない、完全素人の推し!!
この子は推せる!見つけた、ようやく見つけましたぁ!
「えぇー!本当に男の子?あぁでも、たしかによくよく見るとぉ・・男のこ、いや女の子だね。ボーイッシュな女の子て見た目してる。言われないとわからんわ」
心菜ちゃんがキョロキョロとその子観察している間、あたしは胸が高鳴ったまま思いの丈をその子に伝えようとしてた。しかし、人というものは、いやあたしという人間がそうなのか。いざ推しを目の前にすると、感動しているのか、はたまた緊張しているのか、それともそもそもあたしがコミュ障なのか、
「あっ、あのぉ、あたっ、あたし、じゃ、ない、なっ、なまっ、すっ、それ、は・・・」
上手く話す事が出来なくなる。聞きたい事がありすぎる。けど、脳が沸騰していて伝えたい言葉が纏まらない。心菜ちゃんに声優さんの話しをしている時は、自分でもびっくりする位に口が回る。なのに、今はそれが出来ない。悔しい。あぁどうしよう。息が荒くなる。この子の時間を、あたしが不必要に奪っている。迷惑かけている。視界が暗くなっている気がする。不安そうなその子の表情が痛い。早く。早く伝えないと。じゃないと、この子に嫌われる・・そんなの・・・
「アキっ」
「!」
ハッとする。その子の事を、見ていたのに見えてなかったあたしの視界が一瞬で開いた。あたしを呼んだ声の方に視線を送る。そこには、当たり前だけど心菜ちゃんがいた。
「アキ、毎度の事だから慣れたけどさ、まぁ、一旦深呼吸しようか。ほら、スゥー・・ハァー・・・」
「スゥー・・ハァー・・」
「よし、アキさ、多分、この子に伝えたい事が沢山あると思うんだけど、どれが一番伝えたいとか気にせず、とりあえず何か言ってみたら?」
その言葉に、どこか心が軽くなった気がした。心菜ちゃんの声はどこか落ち着く。少し幼さがある高めの声だけど、言葉に説得力を感じさせるような芯の強さもあると、あたしは勝手に思ってる。声優さんになったらあたし全力で応援する!と、これまで心菜ちゃんの耳にタコが出来る位言ったような気もする。あたしは、そんな心菜ちゃんの声が好きだ。
「あっ、ありがとう、心菜ちゃん」
心菜ちゃんのおかげで、少し落ち着く事が出来た。あたしは、視線を再びその子に向け心菜ちゃんの言った通り、とりあえず口の動きのままに言葉を絞り出してみた。
「あっ、あのっ・・おぉ、お名前は!」
「!?はっ、はい、楠木円寿と言います!」
「楠木・・円寿・・くん・・円寿くん・・・」
素敵な名前だな、どう素敵かは言葉に表せられないけど・・とにかく素敵だと思った。
「あっ、ありがとうございます。それで、もう一つ・・・(本当はもっと聞きたい事があるけど・・)聞いてもいいでしょうか?」
「はい、良いですよ」
「はい・・えと、その、その格好は、どういった理由で・・・」
「!?そっ、それは、ですね・・・//」
頬を赤らめ言葉を言い辛そうにする円寿くん。いかん。いかんぞあたし。羞恥に悶える女装美少年。ふふっ、可愛い・・いかん。円寿くんとお話し出来て緊張がほぐれたせいでオタクの邪な感情が出てきた。駄目よあたし。今は抑えるのよ。
「これは、この服を着る事になった、ちゃんとした理由がありまして・・・//」
「ちゃんとした・・」
「理由?」
ほわんほわんほわんと煙が浮かぶ。円寿の回想が始まった。
「わー、たいへんだー、きっさてんでつかうせいふくを、だんしをいちまいすくなく、じょしをいちまいおおく、はっちゅうしてしまったー、どうしよー。」
文化祭当日の準備中、一人の男子が、恐ろしい程の棒読みで事の事態を告げる。
「わー、それはたいへんだわ。いまからとりよせることはできないのかしらー。」
それに答える一人の女子も、わざとらしい棒読みを響かせる。
「それはむりだよー。もうとうじつなんだからー。」
「そうよねー。それじゃあ、だんしのひとりが、じょしのせいふくを、きなくちゃならないわねー。」
「こまったなー。だれか、じょしのせいふくをきてくれるだんしはいないものかー。」
「・・・?」
ジーーーーーー
「・・・!?」
ほわんほわんほわんと煙が消える。円寿の回想が終わった。
「と、いう事がありまして・・その、仕方がなく・・ぼくが・・・///」
カーッと顔を赤くする円寿くん。あっ可愛い、じゃないや、クラスの子達グッジョブ!てこれも違う、駄目よあたし、円寿くんはハメられたのよ。まぁ、ハメられたといっても悪意があったかはわからないけど。多分、円寿くんがクラスの中でそういう立ち位置だから、てだけだと思う。あぁでもそうか、ノリノリで女装しちゃうタイプじゃないと・・んふ~、良いよ良いよ。そのタイプの男の子、スキ♡
「おや、お客さ~ん、楠木くんの事、見つけちゃいましたか?」
一人のメイドさんがあたし達に気づき近づいてきた。中々に良い表情をしている。
「楠木くん、最初は凄くこれ着るの嫌がってたのに、いざ文化祭始まると直ぐに順応したよねぇ」
「じっ、順応してはいないよ!//最初に比べて羞恥心が弱まってきたってだけだよ!//」
「えぇ~、本当~?さっき買い出しに出かけた時も、着替えずにその格好で行ったのに?」
「!?きっ、着替える時間が無かったんだよ!//メイドさんの服て、着替えるのに時間かかるの知ってるでしょ!//」
「あっ、そうそうお客さん。実はですねこの子、その買い出しに出た時、ナンパされてまして・・・」
「そっ、その話しはしないで~・・・」
まって何それその話し詳しく!
「え~?ナンパされたのぉ?その話し面白そう!聞かせて聞かせて!」
「おっ、お客さんも食いつかないで下さい~・・・」
心菜ちゃんも中々に良い性格をしている。流石はあたしの唯一の親友だ。それにしても涙目で必死に訴えるその表情。大変だ。この子可愛いのオンパレードが過ぎるよぉ。まだ円寿くんに会って間もないのにこれとは・・良いなぁ、円寿くんと同じクラスの子達羨ましいなぁ。普段から円寿くんと同じ空間を共にしてるって事だよねぇ。良いなぁ。楽しそうだなぁ・・たしかここは、一年生の教室か・・まてよ、滅茶苦茶留年しててここに転校してきたて事にすればワンチャン・・いや無理か・・・
「それでですねお客さん。実はこの後、体育館の方で女装コンテストがありまして・・・」
何ですと?そんな魅力的な行事が行われると?つまり、この流れでその話題をふったという事は・・・
「うちのクラスからこの、楠木くんが出場します!」
「////」
ですよねーー!そりゃそうだ!おほ~、羞恥に悶えてる円寿くん、申し訳ないけどたまりませんな~。うふふふ、するってぇとあれかい?円寿くんのメイド服以外の女装が見れるって訳かい。そりゃ粋だねぇ!そりゃ見に行かなきゃ損てもんさ!
「なにそれ面白そう~、アキも見に行くよね?」
「いぃ行きます!行きたいです!行かせて下さい!」
メイド喫茶風喫茶を後にしたあたしと心菜ちゃんは、我先にと体育館に向かった。そして始まる女装コンテスト。あたしと心菜ちゃん、そして円寿くんのクラスの子達の期待通り名だたる猛者を打ち負かし円寿くんが優勝を果たした。円寿くんの着た服はシンプルイズベスト、円寿君の通っている高校の女子制服だ。前年度優勝者の三年生のイケメンくんを、圧倒的票数で突き放しての優勝であった。あたしは伝説の始まりの瞬間を、今思えば目の当たりにしたのであろう。後日、あたしは早速楠木円寿で検索をかけたが、円寿くんらしきSNSのアカウントは見つからない。おそらく峯鳴高校の生徒が上げた物であろう文化祭、女装コンテストの一部始終の写真が上げられている位であった。もちろん円寿くんの写真は保存した。あの手この手で探し回り、あたしはとあるサイトに見つけ出す。こっ、これは・・・まさかの円寿くんの非公式ファンサイトである。こんな物があったのか・・中身を確認してみると、あるはあるは、円寿くんの写真が!・・・これは、あまりよろしくないサイトなのでは?ぶっちゃけ、やってる事ストーカーだよね?まぁ、それはそれとしてありがたく写真を拝借致しまするが。うんまぁそうだよね、あんなに可愛いんだもの。ファン位いるよね。でもこれだけ熱狂的なファンがいるとなると、将来的に円寿くんに危険が及ぶ可能性も無きにしもあらず・・円寿くん、大丈夫かな?少し不安になるものの、直接円寿くんとコンタクトをとる度胸の無いあたしは、とりあえずこのサイトの動向をチェックする事を続けた。
翌年、あたしは大学に入学し心菜ちゃんは音楽系の専門学校に入学した。声優の学校じゃないのかと心菜ちゃんにはちょっとだけ問い詰めた。そしてあっさり流された。心菜ちゃんが当たり前かの如くチケットを手にいれていたので、この年も峯鳴高校の文化祭に行った。そして行われた女装コンテスト、妥当円寿くんの声も有ったとか無かったとかいわれていたが、難なく円寿くんが優勝した。またもや圧倒的票数であった。ちなみにこの年の円寿くんの女装は、OLさんであった。誰だ!この格好を選びGOサインを出したのは!誉めて遣わす!そしてやはりこの時の写真もファンサイトに上げられていた。保存はもちろんした。さらに翌年の女装コンテスト。まさかの円寿くんは殿堂入りを果たしていた。どうやら、長い峯鳴高校文化祭女装コンテストにおいてこのような事態は初めてらしい。去年一昨年の実績を見てどうあがいても円寿くんが優勝すると文化祭実行委員が判断し、円寿くんを殿堂入りさせたのである。円寿くんには、特別枠での女装が披露されていた。円寿くんの高校生最後の女装は、浴衣姿でした、ご馳走様でした。てな訳で、あたしは円寿くんの伝説の三年間を見届けた。感動した。でも、あぁもうこれで円寿くんを生で見れるきっかけが無くなっちゃうなと悲しくもなった。来年から何をモチベーションに生きて行けばいいのか・・・そんな思いも杞憂に終わった。なぜなら、そう、翌年の四月、専門学校を卒業し無事就職出来たと心菜ちゃんから連絡があり、あたしもそろそろ就活だなぁと少し憂鬱になっていた所キャンパス内であたしの耳に入ってきたとある女子生徒の話し声。
「・・・でさぁ、この前受けた講義でね、前に座ってた娘が超可愛くてぇ!」
「あぁ、それあたし知ってる。白髪の背低くて、パッと見女子みたいな男の子でしょ!」
「えっ!?女子みたいって・・・あの子男の子なの!?」
「そうらしいよ。あたしと同じ講義受けてる娘が、その子と同じ高校みたいで・・・」
あたしは走った。いてもたってもいられなかった。あの子が・・円寿くんがこの学校にいる・・この学校に入学してくれた・・そう思ったら走らずにはいられなかった。走ってはみたものの、円寿くんはなかなか見つからなかった。まぁ、キャンパス内広いしな・・でも円寿くんがこの学校にいる内はきっと何処かで会える・・はず。と、そう思いながら円寿くんにいざ会えたらどうしようかと色々考えてたその日の帰路、あの結界が目の前に現れて・・・
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「・・・なるほど・・・(所々、分からない言葉があったけど、とりあえず分かったのは)やっぱりエンくんて、あっちの大陸でもモテるタイプ、だったんですね」
「うっ、うん、そうなんだよね。まさか、こっちの大陸でも沢山の女子に囲まれてるとは思わなかったけどね・・ははっ・・・」
「・・・あの、アキナさん、一つ質問しても良いですか?結構、踏み込んだ話しなんですけど・・・」
「?あっ、うん・・大丈夫・・だけど」
「ありがとうございます。それじゃあ、その、先程の話しを聞いて思ったのですが、アキナさんも、エンくんの事が好きなんでしょうか?」
「!?えっ、あっ、そっ、それは・・・(好き?好きなのか?いや好きなんだけども!その好きは果たしてどんな好きなのだ?付き合いたい?いや付き合えるなら付き合いたいけど!でも、円寿くんとあたしが付き合ってる絵面か想像出来ない!いや、想像しようとすると何故かそれをあたし自身が消そうとする・・あたしと・・あたしみたいな女と付き合う円寿くんは、その・・・)かっ・・・」
「かっ?」
「解釈違いです!!」
「!?かっ、解釈・・違い?」
「はっ!ごっ、ごめん、ミサキリスちゃん!そのぉ、質問の答えになってないよね。ごめん。その・・円寿くんの事はね、好きなんだけど・・好き以上の何かと言うか・・大切!な存在・・いやそれ以上の何かというか・・あぁ、駄目だ語彙力~・・・」
「・・・ふふっ、大丈夫ですよアキナさん。アキナさんのエンくんへの思いは伝わりました。すごく複雑な感情が混ざり合ってるけど・・アキナさんにとって、エンくんは掛け替えのない存在て事は分かりましたよ」
「!みっ、ミサキリスちゃん・・・(あはぁ~!この娘めっちゃ良い娘だぁー!あとよく見たら、いやよく見なくても滅茶苦茶可愛い!くぅ~、その優しさと可愛さが目に染みる~)はぁ~・・・」
「!?えっ、アキナさん!?何故涙!?」
眼鏡を曇らせ、感激の涙をツーと流す明奈。そんな明奈にミサキリスが驚いていると、
ガチャッーーー
「ふい~、終わった終わった~、疲れた~」
「!あれぇ、ミサとパイセ~ン。なーんの話ししてたんですか~?」
ランチタイム時に出た大量の皿という皿を、自分達の食べた食事分洗い終え、シュリナとジュリアが部屋に戻ってくる。
「お疲れ様。まったく・・これに懲りたらちゃんと自分のお財布事情位、ちゃんと把握しときなさいよ」
「へ~い」
「ん?パイセン、泣いてるんですかぁ?」
少し目元が湿っている事に気づき、明奈に近づくジュリア。
「!?あっ、いや、これは別に、気にしなくてもいい奴で・・・」
慌てる明奈を不思議そうに見つめた後、何かを気づいた表情をするジュリア。
「はは~ん。さては・・・」
「?」
「パイセンとエンくんの初エッチの時の話しをしてて、それを思い出して懐かしのあまり涙を!て所ですね?」
「ブホッッ!?///」
あまりにも思いもしなかった言葉に吹き出す明奈。
「えぇ~?エンくんとパイセン、エッチしてるんですか?じゃあエンくん童貞じゃないんじゃ~ん。マジ残念~」
「あああああたしがっ!ええええええ円・・寿くんとっ!えっえっ、えt・・・//ししぃぃぃしてないよ!//そんな事!!///あぁああと、円寿くんは・・どっ、童貞です!多分!あたしの知る限り!!」
「だ・か・らぁ~・・なんでどうしてそう直ぐにそっちの話しに持ってこうとするの!あんた達はぁ!!」
「きゃ~、二人共、顔真っ赤~」
「まぁまぁ二人共、落ち着いて落ち着いて。そんなかっかしない」
「誰のせいよ!!」
「あっ、あの~・・・」
「・・・えっ?」
か弱い声が、怒号飛び交う女達の動きを止めた。
「えっ・・エンくん?・・・」
「その・・えと・・//あっ、アズさんが、おやつ用に・・クッキーを焼いたので、四人もどうかなと顔を出したんだけど・・その//・・食べるかな、クッキー?」
頬を赤らめ、あきらかに目線を泳がせている円寿。
「あっ、うっ、うん、いただくよ、エンくん。ありがとね・・・」
もの凄く気まずそうに答えるミサキリス。双子二人もしまったといった表情をしている。
「・・うん、分かった・・・アズさんに伝えてくるね・・・」
ゆっくりと扉を閉める円寿。その瞬間・・・
「きゅ~~・・・」
バタン!ーーー
「あっ、アキナさん!?大丈夫ですか!?」
「ちょっ、パイセン!こんな所で死なないでー!」
「さっきのエンくんは童貞発言聞かれたと思うけど、気にしない方がいいよー」
「ウッッ!・・・ガクッ・・・」
「あっ・・・」
「あんた達、今日は朝まで説教!!覚悟しなさい!!」
「えぇ~!?そんな~~」
薄れゆく意識の中で明奈は思う。
「・・・(あぁ・・あたしの・・あたしと円寿君との異世界生活・・一体これからどうなっちゃうの~!?デメティール様ぁぁ~~~・・・)」
ー続くーーーー
この度は、ケモ耳美少年のなすがまま異世界観光 第二巻を読了いただき誠にありがとうございます。。にがみつしゅうです。円寿にとって、波乱の異世界初日が終わりました。円寿がサクネアに(性的な意味で)襲われるシーンは、長年頭の中で妄想し続けたシーンでございます。書いててとても楽しかったです。まぁ未遂に終わりましたが・・・また、ミサキリスとサクネアが会って間もない円寿に好意抱いてます。一応の理由と致しましては、第一印象が良かったや、どこかほおっておけない雰囲気がミサキリスやサクネアの心を刺激した等の理由がありますが、ちゃんとした理由は後々書いていきたいと思っています。そして、今回の話しから円寿と同じ世界から転移して来た新たなヒロイン、水連明奈が登場しました。彼女の心の声は、書いててとても楽しいです。今後明奈のポジションですが、ヒロインであり第二の主人公の様なポジションにしていきます。明奈が加わり、物語はさらに広がって行く・・・予定です。一応と致しましては、円寿が異世界に来て初日が終わるまでが、第一章。明奈の登場から今回のお話しの最後までが第一・五章という位置付けにしています。第三巻から第二章がスタートします。現在、第三巻は執筆中でして夏の終わり過ぎ頃に出す予定です。第四巻も、年内に出す予定でいます。気長にお待ち頂けると幸いでございます。改めまして、今回もケモ耳美少年のなすがまま異世界観光を読了いただき誠にありがとうございました。