肉食お姉さん達との満喫異世界ライフ
「・・・・」
ーーーーニコニコーー
「・・・あのぉ・・えと・・ここは、どこですか?」
少年は、気がつくと辺り一面漆黒の空間に佇んでいた。しかし真っ暗闇という事ではなかった。自分の足元手元ははっきりと見えるからである。その空間は暗いというよりも黒く塗り潰されているような感覚だった。
「ここはですね、世界と世界の狭間ですよ」
そして、目の前には見目麗しい美女が笑顔で少年を見ており、少年の冒頭の言葉に返答した。
「?世界と世界の・・狭間?」
少年は瞬きを2回し頭を傾げた。あまりにもスケールの大きい事を言われ、まったくピンときてない少年はこの状況に多少困惑しつつも、とりあえず自分成りに状況整理を始めた。
自分は先程まで、大学の講義を終え同学生数名と談笑した後、明日の予定を考えながら帰路についている途中、曲がり角をまがると突如目の前の地面に円陣のような物が書かれており光輝いていたのである。大学に通える位の年齢の者であれば、ある程度は警戒するであろうその物に少年は一瞬驚いたものの普段の日常では見れないその光景に目を輝かせていた。
「・・・(なんかアニメで見たことある!)」
と普段自分が見ているアニメや特撮作品に通じる感覚を感じた少年はその溢れでる好奇心を抑えきれず、それに触れてしまったのである。それに触れた刹那、きがつくと少年はこの漆黒の空間に美女と向かいあって立っていたのである。
「・・・(やっぱり、あの魔方陣みたいなのに触れたからかな?)」
間違いなくそうであるが少年は確信を得れなかった。何しろこれまでの人生でこのような経験はした事がない。未経験な事にはっきりと答えを出すことはあまりにも迂闊であると少年は考えた。対して、少年の目の前で少年が少年成りの難しい顔をしてるのを微笑ましそうに見ている美女。美しい金髪を後ろで束ね、純白の生地に金色のネックレスや腕輪をつけた装いで、どこか神々しさを放つ美女が口を開く。
「楠木円寿、あなたにはこれからあなたがいた世界とは異なる世界に行ってもらいます」
少年の名は楠木円寿。高校を卒業し、この春より大学に通い始めたまだ幼さの残る少年。そんな円寿に対して、慈愛の表情を浮かべながらあまりにも唐突な言葉を発した美女に、円寿は一瞬驚きつつも少し考え、
「異なる世界に行くのに、お金はいくらかかりますか?」
お金は大事である。人生において、必要不可欠の存在である。何故円寿が、お金の話題を出したか。それは、
「・・・(手持ちがそんなに無いんだよなぁ~)」
「大丈夫です。行くのにお金はかかりませんよ」
「!?」
優しい口調で、円寿の不安を解消する言葉をだす美女。ホッ胸を下ろしたとたん、異なる世界への好奇心が溢れてきた円寿は改めて美女に質問をする。
「えっと、異なる世界て・・どんな世界なんですか?」
好奇心が抑えられずこれから自分が行くであろう世界にワクワクしながら答えた。
美女もそんなノリノリな円寿に対して笑顔を絶やさず
「魔法や人間意外の種族が存在する幻想溢れる世界です」
と、此方もノリノリで答えた。
円寿は目を輝かせ
「魔法があるんですか!?て事は、ぼくも魔法使えたりしますか?」
と期待が溢れでて止まらない声で美女に問いかけた。
「使えるかもしれません」
と美女はさらに期待を煽る言葉を円寿にはなつ。
ハーーと期待と希望溢れる表情をしている円寿に対し美女は少し残念そうな声のトーンで
「ですが、この世界はあながいた世界と違い少しだけ暴力が多かったりします」
その言葉に円寿はハッとなり
「暴力、ですか・・暴力、喧嘩は苦手です・・・」
と先程までとはうってかわってしょんぼりした表情になった。
そんな円寿を見て、美女は声のトーン明るく戻し
「心配はありません、楠木円寿。争い事が苦手なあなたに、この私、女神デメティールが力を授けましょう」
美女の名は、デメティール。常に笑顔と自分のペースが崩れそうな気配が見えない自称女神。
「・・・あの、デメティール・・さんて、女神様、なんですか?」
自分を女神と呼ぶ美女に困惑しつつも、円寿はなんとか質問をしてみる。
「はい、女神です。この場所にあなたを呼んだのはなんと私なんです!」
「!?、そっ、そうだったんですか!?」
円寿は少し鈍い所がある。大人になると、色々察しがつく力がついてくるが、円寿が大人になるのはまだまだ先だと思われる。
「あっ、そだ、それでですね、楠木円寿。あなたに授ける力なんですが・・・」
「・・・力、ですか?・・でも、喧嘩に使うような力があっても、ちゃんと使えるかどうかわかりません・・・」
ズレかけた話題をデメティールが戻した事で、円寿はハッとし再び難しい顔になった。円寿という少年は、争い事がとにかく苦手であった。これまでの人生、怒りの感情が沸いた事は数あれど、声をあらげる、暴力をふるう、物に当たる、第三者に言いふらす等怒りの感情を発散するために自分の品位を下げる事はした事がない。
『円寿。これからの人生、君には沢山の理不尽や悪意が降りかかるかもしれない。泣いたり怒ったり憎んだりするかもしれない。でも、それら全てに勝つ必要もなければ負ける必要もないんだ。君は君だ、円寿。』
ふと、円寿は父の言葉を思い出した。これまでの人生、少年は何度も挫けそうになったがその度に父の言葉に助けられてきた。
「・・・(喧嘩をしなくても使える力ってなんだろう?)」
円寿が悩みに悩んでる表情を見て、デメティールは口を開いた。
「わかりました。それでは暴力に使う力ではなく、これから行く世界に少しでも役に立つ力を授けましょう」
変わらず明るいテンションでデメティールは円寿に笑顔をはなつ。
「役に立つ、力、ですか?」
キョトンとした表情で円寿は続けざまに
「どんな力、ですか?」
とデメティールに尋ねた。
「楠木円寿。あなたには獣人になってもらいます」
楠木円寿はキョトンとしていた。大学の帰り道、いきなり光る円陣に触れたと思ったら黒く塗り潰された空間につれられそこで自分を女神と名乗る見目麗しい美女に別世界に行ってもらうといわれ、さらに自分がこれから獣人になろうとしている事に。目の前の美女に伝えたい事は数あれど、とりあえず円寿は
「・・・えっと、獣人になると、どう役に立つんですか?」
と尋ねた。デメティールはすかさず
「獣人になると身体能力が人よりもパワーアップします」
「パワーアップ!?」
「はい、普段は重たくて持てない物がもてたり、長い時間走っても疲れなかったり、高くジャンプできたり、反射神経がよくなったり、遠くの物や音が見えたり聞こえたりします」
デメティールは少し早口で語り上げ
「これでもし、あなたに何かがあったとしても人間の体に比べれば自己の防衛の選択が増えると思います」
円寿はニコニコとした表情で獣人になる利点を上げるデメティールを見て
「・・・(これ位の力なら、自分もそうだし困ってる人も助ける事が出来るかな?)」
そう、考えた円寿は
「わかりました。ぼく、獣人になります!」
意気揚々と獣人になる決心の言葉をデメティールに放った。
「わかりました。それではあなたを今から獣人にして異世界へ・・・」
「あっちょっとまって下さい。」
「どうしました?」
「獣人になるのはいいんですが、これから行く世界でぼくは何をすればいいんですか?」
至極当然な疑問である。
「それはまだ教えられません。」
「!?」
デメティールは、ニコニコした表情のまま円寿の問いを濁した。円寿も、わりと一番大事な問いへの答えが帰ってこず思わず驚いた。
「何をするのか、それを探すのがこれから行く世界への意味なのかもしれません」
もの凄く漠然的な言葉をにこやかな表情で放つデメティールに、納得出来ない方もいるであろう。しかし円寿は、
「なるほど」
納得してしまった。円寿の心の内では、異世界へ何故行くのか?という疑問よりも異世界がどんな所なのかという圧倒的好奇心の方が上回っていたのである。
「・・・(海外に旅行した事無かったしなぁ・・・)」
ワクワクが収まらない円寿にとって、これから異世界に行く事は遠くへ旅行しに行く感覚であった。
「あっりょこu・・じゃなかった、別世界に行くなら身支度とかしなくちゃいけません。一旦家に帰ってもいいですか?」
「身支度はしなくても大丈夫です。このまま行ってもらいます」
「!?」
微笑ましい表情のまま語るデメティールに、またも不意を突かれる思いをする円寿。
「そこら辺の心配はしなくても大丈夫です。きっとなんとかなります」
「・・・(なんとかなるのかな?)」
漠然的な事しか言わないデメティール対して、円寿は多少疑問を持ちつつも謎に説得力を感じてしまっていた。
「それでは楠木円寿、早速ですが、あなたを獣人に変えちゃいますね」
「あっはい、お願いします」
円寿は、これから自分が人じゃない別の生物になろうとしてるのに、美容院で揉み上げを『自然に残す感じにしますね』と言われた時位の反応でデメティールに答える。
「・・・(獣人に変えるっていうけど、何をどうするんだろう?)」
と考えていたのも束の間、
「えい!」
とデメティールが声を出すと、
ポン!!と、マジシャンが何もない所から少し煙を出しながら物を出す時のような音がなったと思うと、
「はい、獣人になりましたよー!」
デメティールは笑顔で、美容師が髪のセットを終えた時みたいなのテンションで円寿を一瞬で獣人に変えたのである。その見た目はというと、
「・・・?」
円寿はまず自分の手、次いで腕、胸、腹と目を通したが特に変わった所は無い。
「・・・(本当に獣人になったのかな?)」
と不思議に思いながら下半身に目を通そうとした時、
「!?」
視界に一瞬、動物のしっぽのような物を見えた。いや、それは動物のしっぽそのものであった。
「!?」
円寿は驚きつつも、そのしっぽを確認すると自分の腰と尾てい骨の中間からそれが生えてるのがわかった。しっぽを触ると、どこが無図痒い感覚があり自分の意思で動かす事ができる。
「しっぽが生えました!」
思わずデメティールに、ものすごくシンプルな感想を口に出す円寿に対してデメティールは、
「しっぽだけじゃありませんよ」
と、デメティールは自分の頭をポンポンと叩いた。
「?」
デメティールを見て円寿も自分の頭を触ると、
「!?」
触りなれない感触の物がついており、それもまた自分の頭皮からしっかり生えており、やはり触ると感触が動かす事ができた。
頭に生えてるそれを、円寿が触っているとデメティールは何処からともなく大きめの鏡を出す。
「・・これは、動物の耳、ですか?」
「そうです。フフッ、良く似合っていますよ」
デメティールは、頭に生えた耳と円寿のシンクロ具合にとても満足していた。
「これから行く世界の獣人と呼ばれる者達は、動物のしっぽと耳が生えてるだけで他は普通の人間との外見の差違はないのです」
「なるほど」
円寿も、頭に生えた耳と腰付近にあるしっぽを動かせる以外はこれまでと何らかわりない自分の体を確かめ終えた。獣人と聞いたから、もっとケモケモしてるのを想像していたが、思いの外人間に近くてほっと一安心をする円寿。
「さぁ!これで準備はできました。楠木円寿、いよいよ別世界へ行く時が来ましたよ!」
そういうデメティールの隣には、いつの間にか木製でできた扉が現れていた。
「!?」
生えたばかりの動物の耳が思わずそそり立つ。
「この扉をくぐれば、別世界の町にでます」
「どこで○ドア、みたいです!!」
驚きつつも、その謎テクノロジーな扉に自分が小さい頃からよく見ているアニメの道具に似た物を感じた円寿。デメティールには、もっと説明しなくてはならない事が沢山あるはずだが、円寿はこれから自分が行く世界への好奇心でそれらを全く気にしていなかった。
「さぁ、此方へ・・・」
「あっそうだ」
「どうかしましたか?」
円寿は、溢れでる好奇心と同時にふと思いたつ。
「別世界にいったら、もう、女神様には、、えと、、デメティール様には、お会い出来ないんでしょうか?」
頬を少し赤らめながら、円寿は一抹の不安をデメティールに問う。
「あらあら、もしかして少し寂しいですか?」
「その、寂しいというか、これから初めて行く土地なので、知り合いが少しでもいると・・その、安心と・・いいますか・・・」
「あら、そういう心配なら大丈夫です、楠木円寿。その心配が吹き飛ぶ位に、これから行く世界はあなたにとって、とても希望に溢れたものです」
「!?本当ですか!?」
驚くたびに、頭の耳がピコンと立つ円寿。
「ええ、だから安心して別世界を満喫して下さい」
「わかりました!」
ハァーとした表情で、再び明るさが戻った円寿はついに扉に手をかけ
「それじゃ、行ってきます!」
バッと、扉を開く円寿。
「行ってらっしゃい、お元気で!」
「はい!デメティール様もお元気で!」
扉の先の光に包まれる円寿。見送るデメティールは、声に出さず心で円寿に語る。
「・・・(楠木円寿、あなたには、これから沢山の希望と不安が待っているでしょう。ですが、心配はありません。あなたの持つ、明るく爛漫とした心と好奇心があれば、あの世界を生きてくことはもちろん、変える事だってできるかもしれません。それに、あなたには内緒ですが、獣人になった時に、もう1つ力を授けました。きっと、あなただったら、この力を正しい形で使ってくれるはずです。楠木円寿、あなたに女神のご加護を、世界の祝福のあらんことを・・・)」
ガチャッーーー
「うぅっ・・・はーーっっ!!」
扉を開け、光に目が馴染み目の前の光景が広がっていく。目に写るその見慣れない光景に、円寿は目を輝かせ思わず声がもれる。とりあえず、自分がいた時代の日本ではない事はすぐわかった。建物の雰囲気から察するに、ヨーロッパにありそうなそれもお話の世界に出てきそうな、昔ながらの街並みである。人々の往来を見てみると、来ている服はやはり自分がいた時代の物とはかけ離れている。アニメやゲームに出てきそうな、中世風の装いであった。
「・・・よしっ!」
とりあえず円寿は、何をする訳でもなく街を探索する事にした。何しろ、円寿は日本以外の地を踏んだ事が一切ない。この世界の日常風景も、円寿にとっては絶景であった。街の露店や、レンガでできた家々。目に写る物全てが輝いて見えた。
「あっ、そだ・・・」
ポケットからスマホを取り出し、この風景を写真に撮った。記念すべき、異世界ての写真1枚目である。円寿が、撮った写真を確認する為スマホを確認しようとした時ふとしたことに気づいた。画面の右上に、圏外の文字が出ている事に。
「!?」
円寿は、ここで初めてこの世界での不安要素に直面する。圏外という事は、電話やメール、インターネットが使えない、つまり家族や知人と連絡が取れないという事。
「・・・(勢いでこっちに来ちゃったから忘れてたけど、やっぱり父さんと母さんには連絡した方が良かったかな?)」
連絡した所で、これから異世界に行く等もろもろの話しを信じてくれるかどうかという疑問はさておき、円寿はとりあえず自分の財布を確認してみる。
「・・・(財布は持ってきてあるけど、日本円、多分使えないだろうなぁ・・・)」
グゥ~~
「・・・(お腹、減ってきたなぁ~)」
連絡できない、お金も使えない、さらに空腹と絶望的な状況であるが円寿には希望があった。
「・・・(デメティール様が、身支度しなくても大丈夫て言ってたから、なんとかなる・・かな?)」
自分を別世界へと送ったおそらく頂上的存在とはいえ、あって間もない女性の言葉を真に受けてしまう・・円寿はそんな人間である。
「よぉ、そこの獣人の坊っちゃん。困ってる事でもあるのか?」
円寿が、はっとなり顔を上げるといかにもと言った風貌の男が、連れ二人と共に近づいてきた。悩みながら歩いていたら、大通りを外れ路地裏に入ってしまったらしい。
「はい、お腹が空いたんですが、こっちに来たばかりで、お金が無くて・・・」
見るからに、邪な笑みしている男達に円寿は今の自分の状況を素直に話す。
「そぉぅか、腹が減ってんのかあ、いいぜぇ、鱈腹飯を食わせてやる!」
「!?本当ですか!?」
頭の耳がピコンと立つ円寿。
「あぁ、俺達についてきたら、いくらでも食わしてやるぜ」
ヒヒッ、ヘヘッ、と連れの男達が含みのある笑い声をしている。
「わかりました!」
男達の邪悪な笑い声が聞こえているのかいないのか、明らかに怪しい男の言葉に素直に従おうとする円寿。
こんな、悪党のテンプレ過ぎる見た目の男達の言葉を、素直に円寿が聞いてしまっているのは理由がある。
「・・・(デメティール様が言ってた、支度をしなくてもいいってのは、こういう事だったのかな?)」
残念、円寿、それはデメティールのいってたそれではなかったのだ。あまりにも人を疑わない円寿は、そのまま男達について歩こうとしている。そんな円寿の後ろで、連れの男の一人がづた袋を持ち円寿の後ろで構える。
「・・・(おいおいおい、今時なんて馬鹿なガキだ。チョロ過ぎんだろ!)」
「・・・(今だ!やれ!)」
男が背後から袋を被せようとしたその時、
「お兄さん達~、何してるの~?」
「良かったら、アタシ達とお話しでもしない?」
「あぁっ?」
男達が振り向き、それにつられて円寿も振り向くと槍をもった女子二人が、軽薄な態度で男達に話す。
「あぁ!お兄さん、結構カッコいい~!私結構好みかも~!」
男達から見て、左に横結びをしたトップポニーテールの女子が男達に近づく。
「ええぇ?でも自分勝手で何か雑そう~。いろんな意味で~」
そういう右に横結びのトップポニーテールをした女子も、後から近づく。
「・・・(同じ顔、双子かな?)」
まったく同じ顔をしている女子二人に対して、円寿は呑気に二人への印象を思う。
「なんだよ、姉ちゃん達、俺らと遊びたいのか?」
「だがすまねぇなぁ、俺らちとやる事があるんだわ」
「終わったらいくらでも遊んでやるぜ」
「・・・・(チッ、邪魔しやがって、この女)」
一旦ずだ袋を隠す男。
「行くぞ、坊主」
「あっ、はい・・・」
その場を去ろうとする男達と、今一状況が理解出来ない円寿。
「まってよ、お兄さん達~。つれないなぁ~。あっそうだ、じゃあぁ、その獣人の子、うんそうそう、君君」
獣人と言われて、周りを確認した後、僕ですか?、と反応をする円寿に左横結びトップポニーテールの女子が問いかける。
「お兄さん達やる事があるみたいだからさぁ~、君がアタシらの相手してくれない?」
キョトンとする円寿に、笑顔で顔を近づける女子。
「あぁ~、アタシこの子なら全然あり~!超イケる~!ほらほら、お姉さん達と遊ぼ!」
改めて顔をよく見て、テンションが上がり円寿の腕を掴む右横結びトップポニーテールの女子。はわわわわっ、て顔で焦りだす円寿。
「おいコラ!、姉ちゃん達!そいつは俺達の客だ。勝手なマネすんじゃねぇ!」
捕まれた腕を、慌てて振り払う男。
「へぇ~、客ねぇ~」
「あぁ!なんだぁ、言いてぇ事でもあるのか!」
「お兄さん達のお客っていうのは、毎回そうやって誘拐する形で招いているんですかぁ?」
誘拐という言葉に、思わず反応する円寿。
「あぁ!何言いがかり言ってんだ、てめぇら!」
「誘拐だぁ、なんで俺らがそんな事するんだよ!」
「仮に、誘拐してたとして、証拠でもあんのかよ!」
「あっおい、馬鹿!余計な事言ってんじゃねえ!」
ぼろが出そうになる男達。
「ふ~ん。じゃあ、誘拐じゃ無いっていうんならぁ、アタシ達もついて行っていい?」
「やましい事がないなら、別に良いよねぇ?」
軽薄な態度で、男達に詰め寄る女子二人。小声で話しだす男達。
「(おい、どうすんだよ。この状況!)」
「(どうするもこうするもねぇ、なんとか誤魔化すしかねぇだろ!)」
「(最近、只でさえあいつらのせいで、なかなか獣人がつかまんねぇんだ、早くこの女共追っ払って、さっさと獣人売りこむぞ!)」
小声話が終わり、女子二人の方を向く男達。
「あぁ、すまねぇ、姉ちゃん達、これから行く店は女が入れねぇ店なんだ」
「そうそう、女人禁制て奴だな」
「男の楽園て感じの店だからよ、姉ちゃん達みてぇな若い女は、多分ドン引いちまうと思うぜ」
「来ねぇ方が良いと思うなぁ」
男達の言葉を聞いて、女子二人が口を開こうとした時、
「あっ、あの、ちょっといいですか?」
円寿が、少し焦りながら言葉をだす。
「あの、先程から聞いていると、これから行こうとしてるお店て、未成年は入っても大丈夫なお店でしょうか?」
女人禁制、男の楽園、若い女の子が引いてしまうと聞いて円寿なりの想像をした結果、自分はこれからキャバクラみたいなお店に連れていかれると思ったのである。まぁキャバクラは、別に女人禁制ではないのだが。
「あぁ?みせい・・なんだ?とりあえず坊主は問題ねぇよ。ともかくだ、姉ちゃん達はお呼びじゃねぇんだ、帰りな」
シッシッと手を振る男。そんな男に対して、にた~、といった音が出そうな顔で左横結びトップポニーテールの女子が男に近く。
「もしかして、お兄さん達エッチなお店に行くんですか?」
エッチなお店と聞き、ハワッとした顔で反応し顔を赤らめる円寿。すかさず右横結びトップポニーテールの女子も、
「こんな可愛い子をエッチなお店に連れてくなんて、見過ごせないなぁ~、やっぱその子はアタシらが預かります」
一向に引き下がらない女子二人に、イライラが募りついに
「てめぇら、いい加減にしやがれ!商売の邪魔なんだよ!これ以上突っかかって来んなら、女だろうが容赦しねぇぞ!」
殺気立つ男達を前にしてもなお、軽薄な態度を崩さない女子二人。
「あぁ~、怒った~、怖~い」
「お兄さん達に襲われちゃあ~う」
「チッ、クソ、なめやがって・・・」
一触即発の状況に、とりあえずはわわる事しか出来ない円寿。とその時、一向の反対側から凛とした声が響く。
「あなた達、いい加減にしなさい!」
女子二人が持つ槍に比べて、大分短い槍を持ち赤い髪をトップポニーテールにした美少女が、声に比例するが如く表情でこちらに近づいてくる。
「なっ、なんだよ・・・」
動揺する男達とは裏腹に、
「あっ、ミサ、乙」
「あれ~、ミサもしかして、怒ってる~?」
「怒ってる~?・・じゃない!なに誘拐犯相手にダラダラしゃべっているの!さっさと捕まえればいいじゃない!」
「だって~、お兄さん達のリアクション見てると、面白くて~」
「あっ、ミサ、見て見てこの獣人の子、超~可愛くない?めっちゃ持ち帰りたいんだけど~!」
「あんた達ねぇ・・・」
女子三人が盛り上がってる中、とうとう男の一人が、
「おいっ!姉ちゃん達よぉ!何俺らの事ほっといて盛り上がってんだ!つうか今、誘拐犯て言ったか!何断定してやがんだ!なめてんじゃねぇぞ!」
叫び散らす男に対し、スンと落ち着きミサと呼ばれる女子が、
「そこの後ろにいる人、そう貴方です。貴方隠しているつもりでしょうが、ずだ袋が見えてますよ」
そう言って指を指し、周囲の目線を送る。
「えっ?あぁ・・いや、これは・・・」
「(おい馬鹿ちゃんと隠しとけよ!)」
「(こんなでけぇ袋隠せる所なんてねぇよ!)」
子供一人を覆い被せそうな袋を、クシャクシャにして丸めてた物を男の一人は、さっきから不自然に持っていたのである。
「あぁ・・これはだな・・そっ、そうだ、買い物・・買い物だ!買い物してたんだよ~。なぁ、お前ら!」
「あっ、あぁ~そうだよ買い物しようとしてたんだよ~、物がデカイ奴でよっ」
「そうそう、これ位の袋じゃねぇと入らなくてよぉ~」
脂汗をかきながら、なんとか誤魔化そうとする男達。その光景に、左右に横結びトップポニーテールをした女子二人がクスクスニヤニヤと笑いだす。
「おっ、おい!何笑ってやがんだ!」
「えぇ~、だってさぁ~、ねぇ~」
「ねぇ~」
たまらず女子二人に叫ぶ男。女子二人は、お互いに顔を見合せる。それを見たミサと呼ばれる女子がため息を吐き口を開く。
「バレてないと思ってるみたいですから、もういい加減言いますけど、貴方達のこれまでの所業は、もう全部把握してるんですよ」
「!?なっ、な、何だと?」
「アロルド・シュレガー、ティム・コールズ、シリント・ウォリス、ここ数ヶ月は音沙汰が無かったようですが、貴殿方には複数の児童獣人誘拐及び売買の容疑がかけられています」
「かけられてるていうか、もう確定して捕縛命令が出てるんだけどねぇ」
「お兄さん達のアジトは勿論、取引相手先も抑えちゃってまーす!」
「はっ・・はあぁ!?」
激しく動揺しだす男たち。
「て事なんでっ、大人しくお縄につきなさい!」
ビシッと、男達に指を指す右横結びトップポニーテールの女子。
「ちっ、クソがっ、誰が捕まるか!」
「取引先が潰されてるなら、別の所に持ってけば良いだけだ!それによぉ、獣人のガキだけじゃねぇ、女だっていくらでも買い手はいるんだ、ヘヘッ。」
「姉ちゃん達もとっ捕まえて、クソ変態貴族共に売り飛ばしてやるよ!」
ナイフを取り出す男達。
「典型的な逆上、いただきました!」
「やっぱ、こっちの方が手っ取り早いよね~。口でゴタゴタ言うよりも、体を動かす方が」
「武力行使も、ベットの上も、ねぇ~」
「ねぇ~」
「二人共!何不埒な事言ってるの!誘拐犯の前よっ!」
思わず頬を少し赤らめ、二人を咎めるミサと呼ばれる女子。
「あぁもう、本当あんた達そういう話題ばっかしなんだから、誘拐犯は私が抑えるわ。シュリとジュリはその子の事、守ってて」
いつの間にか、シュリとジュリと呼ばれる女子二人に匿われていた円寿。
「了解でーす」
「お姉さん達が、守ってあげちゃうねっ!」
そう言って、円寿の両脇に抱きつく女子二人。二人の胸の感触が二の腕に伝わり、顔が赤くなり動揺しながら、
「はっ、はい・・よろしくお願いします///」
小声になりながら答える。
「やっちまえ!おめぇらっ!」
先行して、男達の内二人が襲いかかる。短槍を構えたミサと呼ばれる女子は、まず一人目を軽くいなし二人目のナイフを弾き短槍の石突で男の下っ腹を突き悶えさせる。
「かはっっ・・・」
「うっ、うわああぁぁ!」
最初にいなした男が背後から襲いかかる。
「っ!」
振り向き様に、男の顔面に右後ろ上段回し蹴りで放つ。
「がっ・・はっ・・・」
「!?」
目の前に、飛んで滑り落ちてきた男に思わず驚く円寿。
「っ!?何だこの女、クソ強えっ!?」
「さて、あとは貴方一人だけですが、まだやりますか?」
短槍の槍先を、残る男に向けるミサと呼ばれる女子。
「っっ!?クソがあぁぁーーー」
ナイフで切りかかる男。ミサと呼ばれる女子の顔に、ナイフが襲いかかる。だが、それを難なくかわし短槍の石突で男の後頭部を打つ。
「ぐっっ・・・」
ドサッ、と男が倒れあっという間に三人の男を制圧して見せたミサと呼ばれる女子。
「さてと、シュリ、ジュリ、警備兵を呼んできて。その間にこいつら縛っておくから・・・」
そう言って、ミサと呼ばれる女子は後ろを振り返ってみると、
「可愛いぃ~~!」
「顔、赤くなってる~~。」
「ねぇねぇ、ジュリ、この子の頬っぺた、超柔らか~い!」
「本当だ~、赤ちゃんみた~い!」
キャッキャッと声を出しながら、顔を真っ赤にした円寿の頬をつついたり摘まんだりしてじゃれつくジュリとジュリと呼ばれる女子二人。
「こら!あんた達!何その子といちゃついてるの!」
頬を赤くしながら、女子二人に叫び円寿を二人から引き離すミサと呼ばれる女子。腕を引っ張っられて、はわわる円寿。
「え~、もっとその子で遊びたいのに~」
「もお~、ミサの堅物~」
ブーブー言いだすシュリとジュリと呼ばれる女子二人。
「堅物で結構です。まったく。てかあんた達、男だけに飽きたらず女の子にも手を出そうだなんて、節操無さすぎるわよ」
その言葉に、女子二人と円寿はキョトンとした顔と雰囲気になる。
「男の子だよね?」
「だよねぇ」
円寿に一応確認の言葉を言う女子二人。
「はい、男です!」
ハッキリとした声で答える円寿。
「・・・えっ、ええぇぇ!?おっ、男の子!?」
「はい、男です!」
再度答える円寿。
「えぇっ・・でも、背だって低いし・・・」
円寿の小柄の所を指摘するミサと呼ばれる女子。
「子供なんだから、背低いに決まってんじゃん。ねぇ~」
シュリと呼ばれる女子が、円寿の右側に立ち頭をなでる。犬や猫が頭を撫でられたような顔になる円寿。
「声だって、女の子の声だし・・・」
確かに円寿の声は、高く幼くハスキーである。
「なかなか変声期が来なくて・・・」
少し残念そうに答える円寿。
「あ~、ミサ傷つけた~」
「コンプレックス指摘するの、良くないんだ~」
「あぁあ、ごめん!悪気は無かったんだけど・・・」
あたふたしだす、ミサと呼ばれる女子。
「大丈夫です。言われ馴れてるんで」
けろっとした表情で、答える円寿。
「ねぇねぇ、君、名前なんて言うの?」
ジュリと呼ばれる女子が、顔を近ずけながら円寿に問いかける。顔の距離感に、思わず頬を赤くするも何とか返答する円寿。
「あっ、えと、ぼくの名前は・・・」
その瞬間、とある事に気づく円寿。この世界に来るまで一切気にしてなかったが、現地人とコミュニケーションをとるにあたってもっとも重要な事。それは、
「まっ、マイネーム、イズ、エンジュ、クスノキ!ハーワーユー?」
言語であった。円寿は気づいてしまった。そもそも、自分のいた世界の言葉、もっとも自分が馴れしたんだ言葉である日本語が通じるのかと。少し悩んだが、とりあえず自分がいた世界で最もつかわれている英語を話してみる事にした。
「・・・(英語・・苦手何だけど、大丈夫かな?」
円寿は、学力は決して低い方ではないが英語は勉強してもなかなか身に付かず、苦手分野であった。しゃべり方も、たどたどしい物である。
「?」
一生懸命、苦手な英語を何とか話した円寿に対し、キョトンとした反応を見せる女子三人。
「!?・・・(通じてない!?)」
しかし、円寿は気づいていない事がまだあった。
「えっと、・・よくわからないけど、言葉は通じてるよ」
「てかさっきまで、普通に喋ってたじゃん」
「!?」
少し困惑しつつ、円寿の不安を晴らす言葉を出すミサと呼ばれる女子とジュリと呼ばれる女子。そもそも、円寿の喋っていた日本語は普通に通じていたのである。何故、この世界で日本語が通じるのかという疑問が残るが、その疑問に円寿が気づく事はなくとりあえずホッとする円寿。
「エンジュ・クスノキ君、て言うんだ。あたしは、ミサキリス・コルンチェスター、よろしくね」
「はい!よろしくお願いします!」
握手をする、円寿とミサキリス。
「は~い!あたしは、シュリナ・パスティオルで~す。シュリって呼んでね。でこっちが・・・」
「ジュリア・パスティオルで~す。ジュリて呼んでいいよ」
「シュリさんと、ジュリさんですね。よろしくお願いします!」
少し頭を下げる円寿と、そんな円寿に笑顔を向けるシュリとジュリ。
二人に対して、円寿は彼女達を見た時からずっと気になっていた事を口にする。
「あの、お二人に質問があるんですが」
「ん~?な~に?」
「彼氏はいますか?て質問?」
「コラッ!二人共!」
円寿をからかうシュリとジュリ。その二人を叱るミサキリス。
「あぁあ、あの、そうじゃなくて、お二人は、双子、何ですか?」
顔を赤くし、取り乱しながらも二人に疑問をぶつける円寿。
「そうだよ~。生まれた時からず~と一緒」
「あたしら、マジ仲良しなんだよ~。よく彼氏も共有したりするし~」
「かっ、彼氏さんを・・共有ですか?それって・・・」
頬を赤らめつつ、二人に質問する円寿。
「この前も、あたしがシュリのふりして、シュリの彼氏で遊んできたし~」
「!?」
「あたしは、ジュリのふりして、ジュリの相手とキスしたっけ」
「!?」
二人の、オープンな恋愛観に驚きまくる円寿。そして、こちらも頬を赤くしつつも、
「あぁ、もう!初対面の相手に向かって、何言ってるの、あんた達は!」
二人に向かって叫ぶミサキリス。円寿は、顔を赤くしながら、世界が違うと住んでる人達の感覚も変わるんだな、と思うも恐らくそれは円寿が元いた世界にも、これぐらいオープンな恋愛観を持つ人達はいると思われる。円寿が、少しズレた所に感心していると、
「じゃあ、次はあたしから質問するね!」
「はっ、はい、なんでしょうか?」
シュリナの問いかけに、答える円寿。
「エンジュ君、ずばり、彼女いますか!」
「!?」
顔を赤くしながら動揺する円寿。
「シュリ!いい加減、もう怒るわよ!」
「まぁまぁ、ミサ、落ち着いて~どぉどぉ~」
声を荒げるミサキリスを宥めるジュリア。ジュリアは、ミサキリスの耳元に近づき、
「(でもさぁ、ミサも、この子に彼女がいるかどうか、気にならない?)」
「(いや、知った所でっ、そんな、関係ないじゃない・・・)」
ニヤニヤした笑顔を向けるジュリア、頬を赤くするミサキリス。
「ねぇねぇ、いるの?いないの?」
笑顔で円寿に詰め寄るシュリナ。
「えぇ、えと・・いないです・・・」
何とか言葉を出す円寿。すると、すかさず、
「は~い!じゃああたし、エンジュ君の彼女に立候補しま~す!」
「!?」
円寿の腕に抱きつきながら、ジュリアが声を上げる。
「あぁ~、ジュリ、ずるい~。じゃあ、あたしも立候補する~」
「!?」
ジュリアに負けじと、円寿のもう片方の腕に抱きつくシュリナ。どうしようもなく、はわわる事しか出来ない円寿。
スパーンーーー
ミサキリスの手刀が、シュリとジュリの頭を捉えた。
「いぃっ・・つぅっーー」
「うぅ・・・」
頭を押さえ悶絶する、シュリナどジュリア。
「二人共、調子にのり過ぎ。反省なさい」
誘拐犯と相対した時よりも、マジで怒りぎみな雰囲気を出すミサキリス。
「っ・・そんなマジになんなくてもいいじゃーん」
「暴力は良くないぞー」
ミサキリスに、抗議するシュリナとジュリア。
「うるさい!てかあんた達、彼氏に立候補て言うけど、そもそも彼氏いるでしょ!」
「!?」
ミサキリスの言葉に思わず、え!?いるの!?て顔をする円寿。
「あたし、もう別れたし~」
「早っ!?一月もたってないじゃない」
笑顔で話すシュリナに、ツッコむミサキリス
「あたしは、まだ付き合ってるけど~、美少年は別腹~」
「余計達悪いわ!」
ジュリアの彼氏が不憫である。
「とにかく、飽き性と浮気性のあんた達が、こんなうぶな子に言い寄るんじゃありません!」
「えぇ~、別にいいじゃん、これぐらい。考え方が古いぞ~」
「それで、どう?エンジュ君。あたし達、どっち選ぶ?」
「なんなら~、両方と付き合うて、選択もあるよ~」
円寿に詰め寄るシュリナとジュリア。はわわってどうしようもない円寿。
「だ・か・らぁ~~・・いい加減に、しなさーーい!!」
スパーンーーー
「・・・へぇ」
円寿達のやりとりを、物陰から覗く気配があったが一向はきづく事はなかった。
誘拐犯を警備兵に受け渡し、街の大通りを移動する一向。とりあえず円寿は、ミサキリス達に保護されたという形で同行する事に。
グゥ~ーー
一息つき、そういえばお腹を空かせていた事を思い出す円寿。
「エンジュ君、お腹空いてるの?」
円寿のお腹の音に、反応するミサキリス。
「はい・・こっちに来てから、何も食べてなくて・・・」
空腹で頭の耳がへたれている円寿。言葉も少し元気が無い。
「じゃあ、宿舎に戻る前に、ご飯食べていこうか?」
ご飯の言葉に、耳がピコンと立つ円寿。
「あっ、でもお金が・・・」
この世界で使える通貨を持ってなく、再びショボン顔になる円寿。
「あぁ、大丈夫だよ。あたしが奢ってあげるから、安心して」
ミサキリスの、ニコッとした表情とその言葉に表情に明るさが戻る円寿。
「ゴチになりま~す!」
「あんたには、奢らないわよ」
しれっと便乗しようとするジュリア。それを、軽くあしらうミサキリス。
「お金持ってないの?」
円寿に質問するシュリナ。
「はい、急にこっちに来たので、準備できてなくて・・・」
「急に?」
円寿の言葉に、疑問を持つシュリナ。
「まぁ、そこら辺の話は、お店についてからゆっくり話そうよ。あたしも、エンジュ君には聞きたい事色々あるし」
そう言ったミサキリスは、何かを思い出したようで、
「あぁそうだ、シュリ、この前入った新人の子て、どんな感じだった?」
「新人・・あぁ、リンジアちゃんね。センスあるよ~、あの子。即戦力!」
「・・・」
「なるほどね~、新人のデータの書類まとめは~、ジュリに任せてたんだっけ?」
「そうだよ~、明日までには終わらせるよ~」
「今日じゃ駄目なの?」
「今日は、夜から用事があって~」
「どうせ男遊びでしょ~。まったく、懲りないんだから」
「・・・」
ミサキリスと、双子二人のやり取りを不思議そうに見ている円寿。
「?どうしたのエンジュ君、もしかしてぇ、ジュリの男遊びが気になるの?」
円寿の視線に気づき、表情に含みをいれながら話すシュリナ。
「!?ちっ、違います!えと、その・・ミサキリスさんが、シュリさんとジュリさんを間違えずに喋られてて・・その、お二人の見分けが出来てて、凄いなって。お二人、そっくりなんで」
慌てながらも、自分の思ってた事を話す円寿。一応、左横結びトップポニーテールがシュリナ、右横結びトップポニーテールがジュリアとなっているが、気紛れに髪型を入れ替えたり、変えられたら区別がつかない程、顔や体型が全く同じなのである。
「なんだ、そんな事で見てたの?」
「それくらいわかるよ~。あたしらとミサは、幼馴染みだもん」
「感覚で見分けられるぐらい、付き合い長いしね。まぁ、あたしも具体的な違いは?て聞かれたら、答えられないけどね」
なるほど、といった表情で三人の話を聞く円寿。
「あぁ、でもあたし達でも違う所はあるよ」
「そうなんですか?」
素直に答える円寿に、ニヤッとするシュリナ。それを見て、同じくニヤッとするジュリア。
「知りたい~?」
「はっはい、知りたいです!」
怪しげに近づくシュリナとジュリアに、少し動揺しながら答える円寿。二人は、円寿の頭の耳に顔を近づけ小声で、
「左胸の上の方に黒子があるのがあたしでぇ・・・」
「右胸の下の方に黒子があるのがあたしなんだぁ・・・」
そう言って、同時に耳に息を吹き掛けるシュリナとジュリア。
「ふにゃあぁあぁっっっ////」
獣人になって、五感が増し触感・感度が強まったのか、はたまた元から耳が弱いのか、どっちにしろ円寿の何かを刺激されたような甲高い超えが響く。
「可愛い~。女の子みたいな声出ちゃったね」
「元から、女の子みたいな声してるけどね。エンジュ君」
顔を赤くしながら、頭の耳を押さえる円寿と、それを見て笑顔のシュリナとジュリア。その瞬間、二人は後ろから鋭い気配を感じ冷や汗を流し後ろをぎこちなく振り向く。
「二人共、少し良いかしら・・・」
二人に笑顔を向けるミサキリス。流石に恐怖を感じ、
「みっ、ミサ・・顔が・・怖いよ・・・」
「目がっ・・わっ、笑ってないから・・・」
声が震える二人。
「二人共・・次またやったら、わかってるよね?」
笑顔から冷酷な表情に切り替わるミサキリス。
「はっ、はいいぃっ!わかっておりますぅっ!」
「もうしませーん!」
ミサキリスの気迫になす術無い双子二人。
「まったく、隙あらばちょっかい出すんだから。エンジュ君、ごめんね。うちの色ボケ二人が」
「いっ、いえ、その、お二人も、悪気があった訳じゃないし、ちょっと、びっくりしましたけど・・・」
ミサキリスの謝罪に、まだ少し耳がむずむずしながら答える円寿。
「・・・(この子、なんか凄い良い子だ。獣人て、子供の頃から活発で喧嘩っ|早いイメージあったけど、こういう子もいるんだ)」
円寿を見て感心するミサキリス。思わず自然と円寿の頭に手を乗せ頭を撫でていた。獣人の習性か・・それとも元からそういう癖なのか・・ペットの犬や猫が如くされるがままの円寿。
「あぁ~、ミサずるーい。エンジュ君の事、あたしも撫でた~い」
「あたしらにもやらせろー」
「あんた達は、当分エンジュ君へのお触り禁止!」
「えぇ~」
「そんなぁ~」
「まったく、それじゃあ行こうか。そろそろお店につくよ」
双子を叱りつけ、一向が歩みだすと一軒の店が見えてくる。
「あっ、あれだよぉ。あたしらの行き付けのお店!」
シュリナが指をさす。店の看板には、アルファベットらしき文字が書かれている。
「食事処・・デア・・コチーナ?」
看板の文字を読む円寿。
「そう、デア・コチーナ。この街どころかこの国一番と言っても良い位、料理自慢の女将さんが切り盛りするお店なんだよ」
自分の事のように、誇らしげに話すミサキリス。
「この国で・・一番!」
期待で胸が膨らみ、目をキラキラさせる円寿。店は外からでもわかる位ガヤガヤとした声が聴こえる。
「相変わらず、繁盛してるね~」
「それじゃあ、入ろうか」
「はい!」
元気よく声を出し三人について店に入る円寿。
ガチャーー
店の中は、まさに大繁盛といった風景であった。客層はどちらかというと男性が多いが、女性も何人か見える。店員は皆女性らしい。
「いらっしゃいませー!」
可憐な声が、今しがた店に入ったミサキリス達四人に向けられる。
「ナタリーさん、こんにちは」
「お疲れ様でーす」
「様でーす」
ミサキリスと双子二人が挨拶をする。ナタリーと呼ばれる女性が近づく。
「あら、三人共。仕事終わり?」
「そうでーす!」
「悪いお兄さん、やっつけてきました~」
「ちょっと、やったのあたし何だけど」
「うふふ・・ん?」
ミサキリスと双子のやり取り見ていたナタリーの視界に、見馴れない少年がいる事に気づく。その少年は、店の中をキョロキョロと物珍しそうに見ていた。そして、何かを興味深い物を見つけたのか目を輝かせる。
「あぁ、ナタリーさん。この子、さっき保護した子でして」
保護した・・その言葉と少年の外見を見て察するナタリー。
「そっか・・大変だったのね。さて、席案内するわ。四名様入りまーす!」
席に通される四人。ナタリーがメニュー表を持ってくる。
「ごゆっくりどうぞ」
「さてと、エンジュ君何食べる?」
メニュー表を開くミサキリス。メニュー表には、看板同様アルファベットらしき文字が羅列されている。しかし、円寿の腹は決まっていた。
「あの・・さっき、別のお客さんのテーブルを見てたんですけど、骨つきのデカイお肉が食べたいです!」
先程、店に入り周りを見渡し見つけ目を輝かせたのは、これである。
「骨つきステーキね~。パスタとかも食べる?」
「はい!食べます!」
ミサキリスの言葉に、希望に溢れた声で答える円寿。顔の周りには、キラキラと光が出ている。
「あたし、ビーフシチューで~」
「あたしも~」
流れで双子二人も答える。
「シュリとジュリは、いつもの奴ね。あたしは~、肉よりも魚の気分かな、すいませーん!」
「はーい、ご注文ですか~?」
「はい、えっと~、骨つきステーキと・・・」
ミサキリスがナタリーに注文して最中、円寿は店内をぐるっと見渡す。
「お店、凄い繁盛してますね!」
円寿がそう言うと、シュリナと注文を言い終えたミサキリスが答える。
「そうでしょ~。毎日人で溢れてるんだよ~」
「この店がこんなに人気の理由何だけど、シンプルに料理が美味しいてのもあるんだけど、それ以外にも理由はあったりするんだよ」
「それ以外・・ですか?」
頭に?が浮かぶ円寿に、ミサキリスが話しを続ける。
「シチューやステーキ、パスタにピザみたいな、この国に昔からある料理の他にも・・・」
「ハンバーガー、カレー、拉麺にお刺身みたいな、この国の歴史には無かった料理が沢山この店ではメニューにあるんだよ」
ミサキリスに割って入るジュリア。少し怪訝な表情をするミサキリス。そういえば、店に入った時に周りを見渡したら、元いた世界では馴染みのある料理がちらほら写っていた事を円寿は思い出す。円寿は少し考える。
「・・・(たしかに、お蕎麦や天ぷらみたいな、日本料理を食べてる人達がいる。あれ?でも、天ぷらは外国から来た食べ物だったっけ?そうなると、外国っぽいこの世界でも、あっておかしくない・・かな?あれ、お蕎麦は・・・)」
むむむっといった顔をしながら、もっと食の歴史を学んでおくべきだったと思う円寿。そんな、難しそうな顔をしている円寿を、後頭部に汗マークを出しながら見ているミサキリス。
「・・・(なんか、凄い考えてますて顔してる・・何か思いあたる事でもあるのかな?)あぁ、エンジュ君。もし良かったら、女将さん、呼んでみる?」
提案するミサキリス。
「!?呼べるんですか!?」
思わず驚く円寿。
「うん。ここの女将さんとはね、結構付き合い長くてね。少し位なら、お話聞けるんじゃないかな?」
「あたしらが、騎士になるためにこの街に来てからだから・・13年位かなぁ」
「第2のお母さん、みたいな存在だよねぇ」
思い更けるシュリナとジュリア。
「あっ、ナタリーさん、すいません。アズさん、少し呼ぶ事って出来ますか?」
「アズさん?ええ、もう少ししたら余裕できるから、その時なら」
「ありがとうございます。じゃあその時に」
料理とアズさんと呼ばれる女将さんを待つ間、ミサキリスは円寿に問いかける。
「さてと、エンジュ君。エンジュ君の身元を調べないといけないから、これから質問するけど、良いかな?」
「はい、良いですよ」
「まずエンジュ君の住所はどこ?」
「住所ですか?日本です!」
「ニッ、ニッポ・・ン?」
聞きなれない場所の地名を言われ、少し動揺するミサキリス。円寿が言葉を続ける。
「はい、日本の東京都に住んでいます。あぁ、でも実家は埼玉で・・・」
「???」
さらに聞きなれない地名を言われ、双子二人も困惑し思わずミサキリスに耳打ちする。
「(ねぇ、ニッポンてどこ?あたし聞いた事ないんだけど)」
「(なんか、知らない地名がスラスラ出てくるんだけど)」
「(あっ、あたしも解らないわよ)」
ミサキリスが話しを切り返す。
「あっ、と・・そのニッポンて、どこにあるの?」
「どこ・・ですか?」
キョトンとする円寿。日本の事を何処にあるかなんて、これまでの人生言われた事がない。そして、円寿はハッとする。
「・・・(そっか、この世界て、日本が存在してないんだ)」
そもそも、住んでいる世界が文字通り違うので当たり前なのだが。円寿は悩み始める。
「・・・(どうしよう、別の世界から来ました、て言っても、多分信じてもらえないよなぁ。どうしようか・・・)」
ニッポンが何処か、の質問してから円寿が円寿なりの難しい顔をし始め、疑問が深まるミサキリスと双子二人。
「(ねぇ、エンジュ君、何か悩み始めたんだけど)」
「(悩んでます、て顔してる、解りやすいなぁ、この子)」
「(・・ねぇ、もしかして、エンジュ君てさ・・・)」
ジュリアがふと気づき、ミサキリスとシュリナに耳打ちする。それを聞いてハッとなる二人。すかさず、ミサキリスが円寿に質問する。
「ねぇ、エンジュ君。エンジュ君てもしかして、別の大陸から、来たのかな?」
大陸とは、ミサキリス達が今いる国、ティリミナ王国を含めた7つの国があるアトラピア大陸の事である。そして、ミサキリスと双子二人は、円寿の言った聞きなれない地名を別の大陸の物だと思ったのである。円寿はまた少し悩む。
「・・・(大陸、かぁ、別の世界て言うより、別の大陸から来たって事にすれば、話しは通じやすくなる、かな?あぁ、でも、それだとミサキリスさん達に嘘をつくって事に・・・)」
円寿は、変な所で真面目すぎる男である。嘘をつく、人を騙す行為などから円寿は無縁の人生を送ってきた。こういう小さな嘘をつくのにも抵抗があった。円寿が悩んでいると、厨房から出てきてこちらに近づいてくる人影が。
「ミサちゃん、シュリちゃん、ジュリちゃん、お待たせ~」
美しい金髪を後ろで束ね、穏やかな口調で注文した料理を持ってくる美女が、ミサキリス達のテーブルにやってくる。その美女を見てハッとなる円寿。シュリナ、ミサキリス、ジュリアが声をかける。
「アズさん!」
「お疲れ様です。アズさん。」
「うっわぁ、相変わらず美味しそー」
料理をテーブルに並べ、空いている椅子に座るアズさんと呼ばれる美女。
「さぁ、暖かい内に食べてね。そしたら、ゆっくりお話しでもしましょう」
女神の如く麗しい笑顔の美女に、思わず円寿が声を出す。
「デメティール様!」
えっ?て顔で円寿の方をむくミサキリスと双子二人。笑顔を崩さないアズさんと呼ばれる美女。続けて円寿が、
「デメティール様も、こっちに来てくださったんですね!」
円寿の言うデメティールという名は、ミサキリス達も知っている。
「あの、エンジュ君。デメティール様て、女神デメティールの事?」
ミサキリスが少し困惑しながら、円寿に問いかける。
「はい、女神デメティール様です!僕をこっちの世界に連れてきてくれた・・・」
「世界?」
円寿の言った、世界て言葉に思わず声にでるシュリナ。
「あぁ、その、えと・・・」
言葉がつまる円寿。それを見たアズさんと呼ばれる美女が口を開く。
「実はね、あたし、この子の事知っているの」
慈愛溢れる声で話すアズさんと呼ばれる美女。
「えぇ!?本当ですか?」
ミサキリスが驚いたように声をだす。
「えぇ、そうよ」
答えるアズさんと呼ばれる美女。
「もしかして、例のアレ、ですか?」
何か分かっている風に言うジュリア。
「そう、今日も女神様のご信託があったの」
「ご信託?ですか?」
美女の言葉にキョトンとした表情で言葉に出す円寿。
「で、そのご信託の内容は?」
アズさんと呼ばれる美女に問いかけるミサキリス。
「今日、この店にニッポン大陸から来た、エンジュ・クスノキという少年がやってくる。少年はこの国の事はもちろん、このアトラピア大陸の事も知らないので助けてあげてほしい・・て女神様に言われたわ」
笑顔で話すアズさんと呼ばれる美女。再び、ミサキリスと双子二人が耳打ちをする。
「(どう思う?)」
「(正直、今だにアズさんの言ってる女神様のご信託て本当かどうかわからないけど・・・)」
「(何故か、説得力あるんだよね)」
「(アズさんの言ってる事が本当なら、説明がつくのも事実だし・・・)」
「(てか、本当にあったんだ。別の大陸て)」
一旦、アズさんと呼ばれる美女の方に視線を向ける三人。ニコニコしているアズさんと呼ばれる美女。一方、三人がコソコソと話してる間、円寿はアズさんと呼ばれる美女に問いかける。
「あの、すみません。デメティール様、ですよね?」
先程の女神様のご信託という言葉を聞き、違和感を覚えた円寿。
「いいえ、あたしはデメティール様じゃないわよ」
「!?」
笑顔で答えるアズさんと呼ばれる美女と、デメティールじゃないと言われ驚く円寿。
「えぇ・・でも、顔も声も喋り方も、デメティール様そっくりですよ?」
困惑する円寿。
「あら、あたしデメティール様に似てるの?嬉しいわ~」
あくまで自分はデメティールでないと言い張るこの美女に、困惑しつつも円寿はある事を思いだす。
「・・・(世の中には、自分に似ている人が三人いるって、聞いた事があったっけ。そういう奴かな?)」
にしてもそっくり過ぎる気もするが、そういう事にして円寿は自分を納得させ、アズさんと呼ばれる美女に問いかける。
「えっと、勘違いして申し訳ありませんでした。あの、お名前を、聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」
「はい、あたしは、この店の女将をやっている、アズリールよ。アズさん、て呼んでね」
「アズさん。よろしくお願い致します!えっと、ぼくは・・・」
「エンジュ・クスノキくんね。さっきも言ったけど、ご信託で聞いているわ」
「!!そうでした。」
「よろしくね~、エンくん」
そう言って、円寿の頬をぷにっと人差し指を使い笑顔で押すアズリール。二人の自己紹介が終わったのと同時に、話しが纏まりコソコソ話しを終えたミサキリスが口を開く。
「えっと、とりあえず、アズさんの言う事を信じます。エンジュ君にもまだ質問はあるけど、まずはご飯を食べましょう」
「はい!」
円寿が、鈴のような隣とした声で答える。そして、円寿が自分のいた国の日常的な作法に乗っ取り両手を合わせようととすると、なにやらミサキリス達が合わせた両手を閉じ目をつぶり言葉を出す。
「天に居わします、我らが女神よ、此度もお恵みをお与えくださりし事を、ここに感謝いたします」
「!てんにおわしますわれら・・・おめぐみ・・かんしゃいたします!」
ハッとなり、これがこの世界の作法なのかと慌てて途中から円寿もミサキリス達の真似をして何とか言葉を合わせようとしていた。
「さぁ、いっぱい食べてね!」
アズリールが言葉を出す。それにあわせて食事を始めるミサキリス達。円寿もつられて食べ始める。
「いただきます!」
食事の挨拶をした円寿は、まずミートパスタを口に運ぶ。その瞬間、円寿に幸福という名の衝撃が口から喉、そして全身へと駆け巡った。
「~~~~!!!」
声にならない声を出し、目を輝かせる円寿。そんな円寿の反応を見て、アズリールが声をかける。
「美味しい?」
「はい!すごく、美味しいです!」
直球な感想に、こちらも素直に嬉しくなるアズリール。
「あら~、良かったわ~。こんなに喜んでもらえると、作ったかいがあるわ~」
笑顔が溢れるアズリール。円寿は、パスタを3口ほど口に運んだ後、最も楽しみにしていた物に視線を送る。その視線を見て察しミサキリスが
「あっエンジュ君、ステーキ食べる?」
店に入った時から楽しみにしていた、待望の骨付きステーキである。そう、それは円寿が元いた世界でいう所の
「・・・(漫画肉だ!)」
漫画やアニメでよく見るが、現実世界ではなかなかお目にかかれないその骨付きの分厚い肉を見て、円寿の夢が1つ叶ったのである。
「食べます!食べたいです!」
円寿が骨付きステーキに手を伸ばそうとすると、
「じゃあ、切り分けるね~」
「!?」
ミサキリスの言葉に衝撃を受ける円寿。それもそのはず、この肉大きさで言うとラグビーボール程の大きさである。複数人で食べる用の料理である。
「そっ、そうです、よね、その大きさですから、みっ、皆で、食べる用、ですよね・・・」
かぶりつきたかった。これが円寿の本音であるが、奢ってもらえてる立場故自分勝手には出来なかった。しかし、円寿は自分の感情を隠すのが下手である。あまりのショックで瞳の光が消えていた。
「(ちょっと、ミサ、エンジュ君なんか凄いショック受けてるんだけど!)」
「(えぇえぇ、あたし、なんかやっちゃった!?)」
「(なんか、感情が死んだみたいな目してるよ)」
そんな円寿を見て、アズリールが口を開く。
「ミサちゃん、ステーキはもう一個作るから、此方のステーキはエンくんにあげてもらって良いかしら?追加の分の料金は、お店の奢りて事にするから」
それを聞いた円寿、瞳の光が戻り輝かせ始める。
「いいんですか?!」
「いいのよ。折角こっちに来てくれたんだもの。沢山良い思い出作ってほしいわ」
アズリールが円寿の頭をなでる。
「すいません、アズさん、それでお願いします」
ミサキリスが、軽く謝ったの見て円寿がハッとし、
「すいません、ミサキリスさん。気を使わせてしまって・・・」
「あぁ、気にしないで、あたし、取り分けるの癖になっちゃってるからさ。ごめんね」
「いえ、こちらこそ、申し訳ありません」
お互い謝り出す円寿とミサキリス。ジュリアが居た堪れず
「あぁもう、辛気臭いの禁止!食事中何だから、楽しくしようよ」
「ほら、エン君、ガブーっと、いっちゃえー、ガブーっと!」
シュリナが円寿の前にステーキを持ってくる。
「はっ、はい。いただきます!」
両端から突き出てる骨を両手で持ち、大きく口を開きかぶりつく円寿。食いちぎった肉を口一杯にほほ張り、これを咀嚼。すると、肉汁が口中に溢れだし何とも言えない幸福感が円寿を包み込む。
「!美味しいです!」
頭の耳が天に向き立ち、目を輝かせる。この店に入ってから三度目である。そんな円寿を見てミサキリスは、
「・・・(表情に良くでるな~この子。見るからに子供だけど、何歳位なんだろ?)あぁ、ねえ、エンジュくn・・・」
「ねぇねぇ、エン君。エン君て何歳なの?」
ミサキリスを遮り、円寿に問いかけるシュリナ。まぁ、聞こうとした内容はいっしょなのでスルーするミサキリス。
「18歳になります」
円寿が答えると、ミサキリスと双子二人が、え?といった表情をする。そして
「アハハハハ!」
「なんだ、エンジュ君て冗談言える子だったんだ」
「冗談じゃなくて、背伸びしたい年頃なのかもよ」
「?」
笑いだした3人にキョトン顔+?マークを頭に出す円寿。
「アズさん、僕、何か変な事でも言いましたか?」
アズリールに問いかける円寿。
「そうね、そこら辺も合わせて、色々説明しなきゃいけないわね。ミサちゃん、シュリちゃん、ジュリちゃん、少しいいかしら?」
「はっ、はい」
「なんでしょうか?」
三人が笑うのを止め、アズリールの話しを聞き始める。
「まずはエンくんに、アトラピア大陸での獣人という種族がどういうものなのかを説明するわね」
「はい、お願いします」
「アトラピア大陸の獣人の特徴は、何といっても成長速度の早さなの」
「成長速度の・・早さ?」
「そう、獣人は、人間の倍の早さで成長していくのよ」
「?」
「例えるなら、見た目が10歳位の獣人の子の実年齢は、まだ5歳。見た目が18歳位の獣人の子なら、実年齢は何歳だと思う?」
「えっとぉ、9歳でしょうか?」
「正解。つまりアトラピア大陸の獣人は、成長が早いから、見た目が大人でも年齢はまだまだ子供ていう子が沢山いるのよ」
なるほど、という顔をする円寿。
「さっき、エンくんが自分の事を18歳だと答えて、ミサちゃん達が笑った理由がわかったかしら?」
「つまり、獣人の場合18歳だと、かなり見た目が大人だから・・て事ですか?」
「そういう事。エンくんの見た目だと、人間で言うと13~15歳位だから、実年齢は6.7歳て所かな」
アズリールに変わってシュリナが円寿に答える。
「・・・(ぼくって、まだ6.7歳だったんだ・・・)」
違うぞ円寿。たしかにこの世界では6.7歳かもしれないが、君はちゃんと18年の人生を送っているぞ。
「はい!先生、質問です!」
アズリールを教師に見立てたジュリアが手を上げる。
「はい、ジュリちゃん、なんでしょう」
「成長が早いって事は、大人になったらあっという間に老け込んでしまうという事でしょうか!」
ジュリアの質問に、たしかに!といった反応をする円寿。
「良い質問ね、ジュリちゃん。たしかに、獣人の成長速度は早く、10歳を迎える頃には、完全に人間の大人になっています。でもね、獣人は10歳をすぎると、その外見を維持したまま年をとるの」
「!?」
「獣人の平均寿命が100歳位だから、70歳位までは人間で言う所の成人の姿のままなの」
「!?」
「てか、ジュリ、あんた質問しなくても知ってるでしょ」
「えーだってなんか、そんなノリだったじゃん?」
ミサキリスが、ジュリアにツッコミをいれる。
「ちなみにねー、大人の雄の獣人は、殆どが身長190cm第の筋肉ゴリゴリのマッチョマンなんだよ」
「!?」
シュリナの言葉に驚きつつも、少し希望を見いだす円寿。
「・・・(て事は、ぼくももしかしたら、夢の身長160cm代に・・・)」
円寿の夢はわりと謙虚だった。いや本人的には大きな夢であるが。
「さて、ここまでは大丈夫かしら?」
「はっ、はい、つまりこの大陸の獣人と言ったら、殆どが大人の見た目をしている、て事ですね」
「そうなの。子供の外見の獣人は貴重な存在なのよ。」
アズリールの言葉に、少し顔が曇るミサキリス。それを横目で見たシュリナが円寿に問いかける。
「エン君、つまりどう意味だか、わかる?」
いつもは軽いノリのシュリナが、この時は真剣な表情をしていた。ジュリアも同じだ。その雰囲気は円寿にも伝わっていた。
「あっ、えと、その、どういう意味でしょうか?、すいません、察しが悪くて・・・」
その雰囲気に少し怖じ気づく円寿。
「あぁ、ごめんねエン君。ちょっと、マジなオーラ出しちゃった」
「怖がらせようとした訳じゃ無いんだけど、ごめんね」
「あぁ、いえ、そんな・・・」
双子二人に謝罪され、あたふたする円寿を見てミサキリスが口を開く。
「つまりね、エンジュ君。子供の外見の獣人は貴重価値が高いから、誘拐される事が多いの」
「!?」
衝撃が走る円寿。この衝撃は、先程の食事中の幸福感とは違ういやな衝撃だった。
「て事は、ぼくがさっき、誘拐されそうになったのは・・・」
あわわわと焦り出す円寿。そんな円寿を見てアズリールが口を開く。
「エンくん、残念ながらアトラピア大陸には、そういう事が日常に存在しています。でもね、ちゃんと獣人の子供達を守ってくれてる人達もいるのよ」
「安心して、エンジュ君。それがあたし達の仕事なんだから」
ミサキリスが答える。
「・・・ミサキリスさん達のご職業て、何ですか?」
ミサキリスの言葉で少し落ち着き、円寿がミサキリス達に問いかける。
「あたし達の職業てか所属なんだけど、ティリミナ王国戦乙女騎士団・第七部隊に所属する騎士なんだよ」
「!!騎士・・・(格好良い!)」
目を輝かせる円寿。
「まあ、あたしらの説明は今はいいとしてさ、次はエン君の事を知りたいな」
ジュリアが話しを切り替える。
「はーい、それでは次は、ミサちゃん、シュリちゃん、ジュリちゃんに、エンくんが住んでたニッポン大陸の獣人のお話しをします」
「はい、よろしくお願いします。」
ミサキリスがアズリールに答える。
「ニッポン大陸の獣人の成長速度は人間と同じです。以上」
「!?!?」
ミサキリスと双子二人は勿論、獣人の体に淡い期待を抱いていた円寿も驚く。
「えっ、ちょ、本当ですか!?それ!?」
「そんな、獣人存在するの?」
「むしろ、ちょっと遅い位よ」
慌ただしいミサキリスとシュリナに対して、さらっと追記するアズリール。そんな中、
「・・・(身長、伸びないんだ・・・)」
真実を突きつけられしょんぼりとなる円寿。大丈夫だ円寿。男は25歳まで伸びると言われている。はずだ。そんな中、ジュリアか口を開く。
「て事は、さっきエン君が18歳て言ったのは・・・」
「えぇ、本当に18歳よ」
ニコッとするアズリール。
「18歳って、あたしらと1個しか変わんないじゃん。」
「人間と同じ18歳だとしても・・だいぶ・・いやかなり幼い」
「さっきは、笑っちゃって、ごめんね、エン君」
「いえ、大丈夫ですよ」
ケロッとして表情で答える円寿。円寿は、元いた世界の頃から双子二人が言ったような言葉を、これまで散々言われていたので慣れっこであった。先程、年齢を聞き笑った事を謝罪する双子二人。そんな中、ミサキリスが少し険しい顔をする。
「ちょっと待って下さい。只でさえ幼い外見の獣人は貴重価値が高いのに、さらに成長速度も人間と同等てなると・・・」
「?」
やはりいまいちピンときてない円寿。アズリールが口を開く。
「はいっ、そういう事なので、エンくんの事情に関しては、基本的には内緒にしといてね。わかった?」
ミサキリス、シュリナ、ジュリアに向かって言うアズリール。
「わかりました」
「シュリ~、ジュリ~、本当に気をつけてよ~」
「あぁ、ミサ、あたしらの事疑ってんの~。ショック~」
「ミサもだかんね~。それにしても、アズさん、本当に詳しいですね。いや、詳しすぎるというか・・・」
シュリナがアズリールに疑問視する。
「女神様のご信託よ!」
まぁ、多分何言ってもご信託で片付けられてしまうので、これ以上の追及は意味が無いと諦めるシュリナ。同じ事を、ミサキリスとジュリアも思っていた。
「じゃぁ、エン君に質問。あたしらが会った当初、アトラピア大陸に急に来たて言ってたけど、どうやって来たの?」
シュリナが円寿に問いかける。
「あぁ、えと、それは・・・」
それに関してどう説明していいかわからず、言葉につまる円寿。そんな円寿を見てアズリールが、
「女神様の転移魔法で来たのよねー」
笑顔でフォローするアズリール。
「てっ、転移魔法!?」
「エンジュ君、転移魔法で来たの!?」
「てか女神の転移魔法でつれて来られるて、エン君何者?」
慌ただしくなるミサキリスと双子二人に、そもそも転移魔法が何なのかよくわかっていないもののとりあえず話しを合わせる円寿。
「えっ、えと、そっ、そです。女神様に転移・・魔法?で、連れてきてもらいました」
明らかに、アズリールに合わせてる感を隠しきれてない事に気づいてはいるものの、やはりご信託で片付けられそうなので追及は無意味と判断しそういう事にしとくかと思うミサキリスと双子二人。
「あっ、じゃあじゃあ次はあたしが質問・・・」
ジュリアが円寿に問いかけようとしたその時、
バーーンーーー
店の扉をおもいっきり開く音が響く。
「邪魔すんぜぇー」
パッションピンクのショートヘアで褐色肌の女を筆頭に、ガラの悪そうな女達がゾロゾロと店に入ってくる。女達の面子は、リーダー核らしき褐色肌の女を含めた人間3人に他は獣人という構成で、全体的に少し露出のある服装をしていた。
「いっ、いらっしゃいませー」
店員の1人が一応対応する。
「8名様、でしょうか?」
「あっ?あぁ、いい、いい、飯食いに来てる訳じゃねぇんだよ」
リーダー核らしき褐色肌の女が店員をあしらう。それを見てシュリナが
「ミサ、あの人達って・・・」
「ラング・ド・シャット・・・」
店員が、少し怯えながらもそのまま対応を続ける。
「でっ、では、どの様なご用件で・・・」
「さっき、内の連れがよぉ、ここらじゃ見ねぇ獣人のガキを見つけたっていうからよぉ、ちっとばかし挨拶しにきたんだよ!」
店中に響き渡るような声で、自分達の要件を伝える褐色肌の女。それを聞いたミサキリスが慌て初め、気にせず骨付き肉を頬張っている円寿に、
「(エンジュ君、頭、頭の耳、隠して!)」
「!?(こっ、こうですか?)」
急かすミサキリスに少しテンパりながらも、頭の耳を両手で押さえる円寿。
「(ねぇ、なんでエン君の耳、隠すの?)」
ジュリアがミサキリスに疑問を言う。
「(あんなガラの悪い連中エンジュ君見つかったら、色んな意味で悪影響でしょ!)」
ミサキリスの言いたい事もわからんでもない。この雰囲気でも、笑顔を絶やさずアズリールが、
「あたしのエプロンで、頭隠してみる?」
提案しているその声は、通常時のボリュームのままであった。
「(ありがとうございます!)」
円寿、とりあえずアズリールのエプロンを被ってみる。あら~、と微笑ましいといった表情のアズリール。一方で、褐色肌の女が話しを続けている。
「でよぉ、この店に入ってったって、聞いたから、ここに来たって訳」
「て事で~、獣人の子は~、手を上げて~」
オレンジの少し癖っ毛で眼鏡をかけた獣人の女が、手を上げて呼び掛ける。
「は~い。僕がその獣人で~す」
呼び掛けに答えたのは、見るからに獣人ではない人間の男だった。その男と同じテーブルにいる男達がニヤニヤ笑っている。
「あ?」
褐色肌の女が、男を睨みつける。
「俺が姉ちゃん達の探している、獣人のガキで~す」
「ギャハハハハハ!」
いかにもふざけた態度をとる男達に、褐色肌の女が近づく。
「てめぇが、獣人だぁ、寝言は寝て言え、この糞脳味噌」
「なんだよ~。つれねぇ事言うなよなぁ~。でもよ~、口の悪い女は好きだぜ~。しつけがいがあってよぉ~」
「しつける、だ?あたしを?違ぇな、しつけんのはあたしの方だ。しゃがんで舌だしておねだりしてみろよ」
「ひゅーー、良いぞ、姉ちゃん!」
「もっとやれー!」
ガヤが騒ぎたてる。
「あぁ~、何か、急に治安、悪くなってきたね・・・」
シュリナが、空気の悪さを察する。ミサキリスが慌てて、
「エンジュ君、見ちゃ駄目。教育に悪いからっ」
「あたしは、お芝居見てるみたいで、結構好きだよ。こういうの」
呑気な事を言うジュリア。
「アズさん、止めなくていいんですか?」
ミサキリスに、被ってるエプロンを目元まで下ろされたので口をモグモグさせながら少しだけ目を出して円寿がアズリールに問いかける。
「もう少し、様子を見てみようかしら」
相変わらずニコニコ笑顔を崩さないアズリール。
男と褐色肌の女の言い争いは続いている。
「よく言われんだよ。ベッドの上では獣人並ってなぁ」
「はっ、言ってろ早漏野郎」
「だからよ~、俺の獣人ぷり、姉ちゃんで試させてくれよ~」
「ギャハハハハハ!」
それを聞きニヤッと笑う褐色肌の女。
「あぁ、良いぜ、試させてやるよ」
「ひゅ~~、マジかよ!」
「ヒャハハハハハ!良いぞ!姉ちゃん!」
下品な笑い声を上げ、盛り上がる男達。その笑い声を打ち消すように、褐色肌の女が声を響かせる。
「ただしっ・・・」
「あ?」
「あたしに勝負で勝てたら、な」
不敵な笑みを浮かべる褐色肌の女。
「あぁ、いいぜぇ、勝負でもなんでも受けてやるよ」
褐色肌の女の言葉に答える男。男の頭の中は、目の前にいる女との営みの事しか頭になかった。
「でぇ、どう勝負するんだ?」
「固さだ。」
「は?」
すると、褐色肌の女が頭を振りかぶり、
ゴッッッッーーーー
強烈な頭突きが、男の額を貫く。
「がッ・・・」
あまりの衝撃に一瞬にして気を失い、そのまま地面にた折れ込む男。そんな男を見下し笑みを浮かべながら、
「頭の、な」
「いぇーー、流石サク姉ーー!!」
「我らが、大将ーー!かっくいいーー!!」
盛り上がるラング・ド・シャットの女達。褐色肌の女は、サク姉と呼ばれている。
「うわぁ、痛そう~」
「サク姉の頭は~、石通り越して~、鋼だからね~」
眼鏡をかけた獣人と、前髪で片目が隠れてるショートヘアの獣人が倒れた男を憐れむ。
「てめぇ!この女!」
「よくもやりやがったなぁ!」
さっきまで下卑た笑いを上げていた男達が、態度を一変し怒号を上げる。
「おぉっ、なんだぁ、やる気かよ、てめぇら!」
「やっちゃえー!サク姉!」
「全員まとめて、ボコボコだー!」
啖呵を切るサク姉と呼ばれる女と更に盛り上がるラング・ド・シャットの女達。
「は~い。皆~、ちょ~っと良いかしら~?」
一触即発の状況には似合わない、優しく穏やかな声が通り渡る。
「あっ!んだよ、邪魔すn・・んおっ」
「おっ、女将!?」
サク姉と呼ばれる女と男が、思わず怯んでしまった。近づいてくる女神の如く麗しい美女は、その笑顔に反して圧倒的な気迫を纏っていたのである。
「皆~、喧嘩するなら~、表でやってね~」
口調こそ優しいものの、その内の感情は周りのギャラリーに伝わるほどの物であった。
「あっ、アズリールよぉ、この件は、あいつらがっ・・・」
「ん~?」
「ひぃぃぃ!!」
何か言い分を言おうとした男だが、言葉を発すると同時にアズリールの纏う気迫が更に増したのを感じ、声を上げて怯える。
「いぃいっ行くぞっ・・・」
「おっ、おう・・・」
怖じ気づき店を出ようとする男達。
「待って」
アズリールの声に男達が肩を揺らし足を止める。
「なっ、なんだよっ」
「まだ、何かっ」
「お代と、あと・・この倒れてる子、貴方達のお友達でしょ。連れてかなきゃ駄目じゃない」
お店の代金の請求と、打ちのめされ床に背をつけ、忘れられかけられている男の存在を口にするアズリール。
「くっ、おい!起きろ!あぁクソっ、完全にのびてやがる。おい、そっち持て」
「おっおう・・・」
男が、先程まで自分達が飲み食いしていたテーブルに代金を雑に置くと、倒れている男を担ぎ店を後にする。男達の背中を見届け、ラング・ド・シャットの方に顔を向けるアズリール。
「さて、サクちゃん達。せっかくだから、ご飯、食べていってちょうだい」
「いや、だから、飯食いに来た訳じゃねぇて、言ってんだろ。獣人のガキを見つけに来たんだよ!」
「あら~。そうなの?でも、獣人の小っちゃい子なんて、この店に来たかしら?」
見事にすっとぼけるアズリール。
「てかお前ら、匂いはねぇのかよ。お前らの鼻なら、獣人みたいな濃い匂い追えんだろっ」
サク姉と呼ばれる女がラング・ド・シャットの面子に問いかける。
「それがね~、サク姉~。さっきから嗅いでるんだけど~・・・」
「しないんだよねぇ、匂いが。」
前髪で片目が隠れてる獣人と、眼鏡をかけた獣人が答える。
「はぁ?獣人の匂いのしねぇ獣人なんていんのかよ。ちっ、まぁいいや、他をあたr・・・」
デア・コチーナでの詮索を諦め、ふと目線を変えると入口の方に向かって歩く一向がいる事に気づくサク姉と呼ばれる女。
「おい!てめぇら・・ちと止まれ」
その一向に届く声を出し呼び止めるサク姉と呼ばれる女。一向は思わず、ギクッといった動きをしその場に止まる。
「はっ、はい~。なんでしょうか~」
頭に汗マークを浮かべたジュリアが振り向く。
「あたしら、これから急ぎの用事があるから、あんましお姉さん達の相手は出来ないよ~」
続いてシュリナも振り向く。さりげなく二人で、円寿が見えない用壁を作っていた。サク姉と呼ばれる女を筆頭にラング・ド・シャットの面子がゾロゾロとシュリナ達に近づく。
「あん?」
双子二人の後ろに、赤髪の女と何か白い布をほっかぶりしている子供がいるのが視界に入るサク姉と呼ばれる女。
「(うへ~。背高いな~。この顔怖いお姉さん)」
「(そんなに顔怖いと、モテないぞ~)」
小声で話す双子二人。このサク姉と呼ばれる女、双子二人は勿論ミサキリスに比べて大分背が高い。そもそもラング・ド・シャットの面子は全体的に背が高い女達で構成されている。
「あっ?何か、言ったか?」
「いえ何も~」
「お気になさらず~」
笑顔で誤魔化す双子二人。
「なぁお前ら、ここら辺で獣人のガキ、見なかったか?」
双子二人に探りを入れるサク姉と呼ばれる女。
「獣人の子供?あ~。もしかして、あれの事じゃない?ねぇジュリ」
「え?あぁ~。そうそう、あれあれ、確か、街の外れで見たって、誰かが言ってたような・・・」
誤魔化そうと何とか言葉を出す双子二人。
「・・・(シュリ、ジュリ、何とか誤魔化してよ~。)」
心の中で祈るミサキリス。一方で円寿は、周りを囲む背の高いお姉さん達の服装に目のやり場を困らせ、別の意味で顔を伏せていた。
「(あれ?てか、あたしら、いつの間にか囲まれてた?)」
「(気づくの遅いわよ!)」
ジュリアにつっこむミサキリス。
「ふ~ん・・・ンッ」
サク姉と呼ばれる女が、眼鏡をかけた獣人の女に目線を送るとその女が動き出した。
「ねぇ、ボク~。何でエプロン何か頭に被ってるの~?」
「!?」
いきなり顔を近づかされて驚く円寿。
「あぁ、いや、これはですね・・・(流石に違和感あるよね~)」
フォローを入れようとするが、返す言葉の無いミサキリス。しかし、円寿がここで
「まっ・・・」
「ま?」
「マイブームです!」
と言うものの、頭の汗マークが垂れる円寿。円寿なりに誤魔化そうとしたのである。
「え~。それがマイブーム?うける~」
「この子面白~い」
周りの獣人の女達が面白がる。
「そっか~。マイブームか~。てぇ・・そんなマイブームがある訳~・・あるか~い!」
バッーーー
笑顔で頭のエプロンを取り上げる眼鏡をかけた獣人の女。
「あっ」
「しまっ・・・」
ミサキリスが手を伸ばすそうとしたが間に合わず、円寿の頭の耳が露になる。
「獣人の子、見~っけ!」
「やっぱこの子獣人だった~」
「背中が不自然に膨らんでいたのは、しっぽを隠していたからなんだなぁ~」
ラング・ド・シャットの面子が騒ぎ立つ。エプロンを取られて慌てる円寿。サク姉と呼ばれる女が口を開く。
「なぁ、姉ちゃん達。なんでこいつの事、隠してたんだ?」
問い詰めてくるサク姉と呼ばれる女に、参ったといった表情の双子二人。
「・・・(かぁ~。ばれちゃった~。こりゃもう言い訳のしようが無いかな~)」
「(ごめ~ん、ミサ~。あとは任せた~)」
と、ミサキリスに視線を送る双子二人。その視線を受けため息をつき、ミサキリスは隣とした表情になった。
「ごめんなさい。この子の事を隠してたのは謝ります。あたしは戦乙女騎士団、第7部隊隊長、ミサキリス・コルンチェスターという者です。先程、児童獣人の誘拐グループにこの子が誘拐されそうになっていたので、それを撃退捕縛しその後この子を一時的に保護していた所です」
下手な言い訳は無意味と判断し、自分の立場と出来事をそのまま伝えるミサキリス。そのまま、話しを続ける。
「あなた達の事は存じています。ラング・ド・シャット。表向きは様々な以来をこなす何でも屋ギルド。しかし、裏の顔は児童獣人誘拐グループ専門の撃滅部隊」
「別に表も裏も、そんなもんねぇよ。ただ、あの児童獣人誘拐グループ相手の仕事を率先してるだけだ・・てか、そんな事はどうでもいいんだよ。あたしらの目的はそいつだ、そ・い・つ」
と、円寿を指差すサク姉と呼ばれる女。
「!!」
反応する円寿。そんな円寿を庇うように前に立ち、
「あなた達の活躍で児童獣人の誘拐被害が減ってるのは感謝しています。しかし、この子はあたし達が保護した獣人です。あたし達が責任を持ってこの子を守ります。あなた達には渡せません!」
サク姉と呼ばれる女に断言するミサキリス。それを聞き、やれやれと言った表情で、
「あぁ~。なんか勘違いしてるようだから言っとくがよ、何もそいつをよこせっていう話しをしにきたんじゃないぜ」
「えっ?」
「あたしらは、あなた達と同じ、その子を保護しに来ただけだよ」
「もし~、一人でうろついてたら~、捕まえなきゃいけないじゃ~ん。まぁ~、先越されちゃったんだけどねぇ~」
眼鏡をかけた獣人の女と片目隠れの獣人の女が答える。ミサキリスがホッと胸を下ろし
「・・・(なんだ、見た目がアレだから警戒してたけど、わりとまともな人達だった)」
一安心するミサキリス。しかし、サク姉と呼ばれる女が不穏な笑みを浮かべながら口を開く。
「でもよぉ、さっきうちの連れがよぉ、妙な事を言ったんだよ」
「妙な・・事?」
その言葉に嫌な予感がするミサキリス。
「しねぇんだってよ、そいつから。獣人の匂いが」
「!?」
ハッとなるミサキリスと双子二人。匂いと言われ、自分の匂いを嗅ぎ始める円寿。
「おかしいよなぁ、獣人てのは鼻が良いからよぉ、同属の匂いなんてすぐ分かっちまうんだよ。でも、そいつからはしねぇんだ。なぁ、お前ら!」
「しませーん。」
「獣人臭さが一切ないよー」
「むしろ、何か良い匂いがするー」
ラング・ド・シャットの面子が各々答える。
「つっ、つまり、何が言いたいんですか!」
少し焦った口調で言い放つミサキリス。
「そいつ・・何もんだ?」
「っ!?」
ミサキリスは考える。はたして円寿が、別の大陸から来た獣人でこっちの獣人とは色々訳が違うという事を信じてくれるのかと。獣人を守る立場とはいえ、口外禁止のこの情報を彼女達に伝えていいものかと。ミサキリスが悩んでいると、
「あぁ・・ハーフ・・なんだよね」
と、円寿に顔を向けるジュリア。
「!」
「そうそう、獣人と人間のハーフ・・そうだよね、エン君」
と、ジュリアに合わせるシュリナ。
「ハーフ、だと?ふっ、ははははは!そぉうかそうかぁ、ハーフねぇ」
サク姉と呼ばれる女が不敵な笑い声を上げる。ラング・ド・シャットの面子もクスクスと笑ったりニヤニヤする者達がいた。その雰囲気を感じとりシュリナとジュリアがお互い目を合わせ、
「・・・(あれ、これって・・・)」
「・・・(あたしら、地雷踏んだ感じ?)」
言葉の選択を間違えた事を双子二人が察すると、サク姉と呼ばれる女が口を開く。
「てめぇら、何も知らねぇから教えてやるけどよ。獣人と人間のハーフはなぁ、見た目に獣人の特徴が出ねぇんだよ」
「!?」
獣人の事情に関してはラング・ド・シャットの方が上手であった。双子二人がミサキリスと円寿に顔を近づけ、
「(知ってた?)」
「(知らない、ミサは?)」
「(あたしも知らなかった。身内にいないからねぇ。亜人種とのハーフて・・・)」
「(一応聞くけど、エン君は?)」
「(初耳です!)」
「(だよねぇ・・・)」
万策尽きたといった表情のミサキリスと双子二人。これはもうあの人に頼るしかない。そう判断したミサキリスは、そのあの人にSOSの視線を送る。その視線を送られたあの人ことアズリール。相変わらずこの状況でも笑顔のアズリール。ミサキリスの視線を、自分の背後に送られてると思い振り返るといったボケをかましミサキリスを慌てさせる。
「・・・(違います!アズさん!アズさんを視てるんです!)」
必死で違うと意味のハンドサインを送り、アズリールを指差す。あっ、あたし?と自分を指差し、ゆっくりとこちらに近づいて来る。
「ミサちゃん、呼んだかしら?」
「呼びました!助けて下さい!」
「あたしらじゃ、もう限界ですよ~」
「アズさんが何か言えば、どういう理由でも納得してくれますよ、多分」
「あら~。分かったわ~」
お手上げのミサキリスと双子二人を見て、アズリールがラング・ド・シャットの方に顔を向ける。
「という事で、エンくんの事情話すから、皆一端腰を下ろしましょうか。それから、サクちゃん達に説明するわね」
「・・・(エン君?あぁ、このガキの事か・・・)」
アズリールの言葉で、一同テーブルの席に座り始める。一時騒然となった店内も、ナタリーの指示を受けた店員達の働きにより落ち着きを取り戻していた。
少し大きめのテーブルにラング・ド・シャットと対面するように座るアズリールとミサキリス達。ラング・ド・シャットの面子の数人はあえて立っている。
「さてと、まずは、自己紹介から初めましょうか」
「あぁ、良いぜ」
足を組み、肘をついて話しを聞こうとするサク姉と呼ばれる女。
「・・・(それが、人の話しを聞く態度かしら?)」
サク姉と呼ばれる女の横柄な姿に、少し嫌悪感を抱くミサキリス。
「あたしは、このお店の女将やってます、あz・・・」
「アズリールだろ。それは知ってる」
「あら~。光栄だわ。それで、この子の名前はエンジュ・クスノキくん」
「エンジュ・クスノキです。よろしくお願いいたします!」
「別の大陸から来た獣人よ」
「!?」
しれっと重要機密を口にしたアズリールに、慌てて耳打ちをするミサキリス。
「(アズさん。いきなり本当の事、喋っちゃうんですか!?)」
「(安心してミサちゃん、ラング・ド・シャット達は信頼できる娘達よ)」
「(・・・そうですか、アズさんが言うなら・・・)」
少し納得のいかない表情のミサキリス、たしかに、ラング・ド・シャットはガラこそ悪い物の、同じ児童獣人を守る立場としては彼女達には確かな実力があるのは理解している。しかし、ミサキリスがラング・ド・シャットの面々と遭遇するのは今回が初めてである。彼女達が店に入ってからの一連の行動を見ていたミサキリスは、わかっていても彼女達の事を信用する事ができなかった。
「別の大陸?んだ、それ?おい、お前ら聞いた事あるか?」
「あ~。なんかあたし聞いた事あるかも~」
サク姉と呼ばれる女の問いに答える片目隠れの獣人の女。
「何だ、知ってんのか、ナミ」
「う~ん。この前~、サク姉がぶっ飛ばした海賊のお兄さん達が~、言ってた気がする~」
物騒な言葉が出たが、気にも止めずサク姉と呼ばれる女が問いかける。
「んで、その別の大陸だか何だか知らねぇけどよ、そんな奴が何でここにいるんだ?」
テーブルに、前のめりに体を出すサク姉と呼ばれる女。自然的に胸の谷間が強調され、それが視界に入り思わず頬を赤くする円寿。そんな円寿に代わりアズリールが答える。
「観光しにきたのよ」
「観・・光?」
「そうよね~、エンくん」
円寿に笑顔を向けるアズリール。観光と言われ、一瞬キョトンとなるもの何となく理解し
「はい、観光してるみたいです!」
元気よく答える円寿。ふと、とある事に気づく。
「あの、すいません、僕からもお聞きしたい事が」
「あぁ、何だ。言ってみろ」
「サク姉と呼ばれていますが、お名前は?」
「名前?あぁ、そういや言ってなかったなぁ。あたしは、サクネア・バサローだ」
「ラング・ド・シャットの団長なんだよぉ」
入りこむ眼鏡をかけた獣人の女。
「団長さん・・て事は、偉い人なのですか?」
顔の周りをキラキラさせながら問いかける円寿。
「別に偉くねぇよ。つか、あたしは団長になった覚えはねぇよ」
「またまた~。そんな事言って~」
「ラング・ド・シャットは、皆サク姉に惚れてついて来てるんだから」
周りのラング・ド・シャットの面々がサクネアを持ち上げ始める。
「あぁ、鬱陶しい!チェル!ナミ!お前らも名乗っとけ!」
少し頬を染めながら、誤魔化すように眼鏡をかけた獣人の女と片目隠れの獣人の女に言葉をかけるサクネア。眼鏡をかけた獣人の女が、顔より下に手を上げ、
「チェルシー・モルガラだよ~。んで、こっちのローテンションなのが・・・」
「ナミミナ・カバック~。よろ~」
「さてぇ!自己紹介終わった所でよ、こっちの疑問がまだ解決してねぇ」
「何ですか?」
サクネアの言葉に答える円寿。
「何で、獣人なのに獣人の匂いがしねぇんだ?」
「獣人の匂いがしない、ですか・・・」
神妙な面持ちになる円寿。
「それ、あたしらも聞きたい!」
「教えて、エン君。」
双子二人も円寿に顔を向け言い放つ。周りの視線を一点に受け、円寿が口を開く。
「それは・・・」
「それは?」
「僕にもよくわかりません!」
「・・・」
一瞬沈黙が流れ、あら~・・と口にし横で笑顔のアズリール。
「わかんねぇのかよ!」
思わずツッコむサクネア。
「匂いの事を言われましても、そういう匂いとしか・・・」
少し眉を下げながら答える円寿。
「ほら~、大陸が違うと、育つ環境も違うから、匂いも変わってくるんじゃないかしら?」
フォローをいれるアズリール。
「あぁ、まぁそういう事で良いだろ」
「・・・(良いのかなぁ?)」
心の中でツッコみをいれるミサキリス。
「よし、じゃあ、次だ」
「まっ、まだあるんですか?」
話しを続けるサクネアに問いかけるミサキリス。
「あるに決まってんだろ。エンジュ、つったっけか?お前、どんな女が好みだ?」
「!?//」
ニヤリとした表情のサクネア。驚き顔を赤らめる円寿。
「ちょっ、それ今関係ありますか!?」
こちらも顔を赤くして、慌てて声を出すミサキリス。
「あ?関係あんだろ。エンジュ、お前も分かってると思うが、アトラピア大陸は獣人のガキが歩き回んにゃ、ちと厳しい所だ。周りを囲ってくれる連中てのが必要になんだ」
「だから、その為にあたし達がついてるんじゃないですか!」
ミサキリスが答える。
「じゃあ、聞くがよ。あんたら国使えの騎士様方が、こいつ1人の為に四六時中つきっきりになれんのか?」
「それは・・・」
「それ比べてラング・ド・シャットはよお、そこら辺自由なギルドだ。いつだってエンジュを囲ってられる」
自信満々に話すサクネア。
「それでだ。どうせなら好みの女に囲われてる方がが良いだろ。で?どうなんだよ、エンジュ。」
「えと、僕は・・・」
サクネアの勢いに圧倒されながらも、顔を赤くしながら口を開く円寿。
「とっ、年上の人が好きです!」
円寿的にはこれがいっぱいいっぱいの回答であった。
「よし!つまり、あたしらの方て事だな!」
「待ちなさい!あたし達もエンジュ君より年上です!(一個だけだけど・・・)」
「あぁ?年上てのはな、お前らみたいなガキっぽさのねぇ、大人の女の事を言うだよ!」
「あなたは言動が子供っぽいじゃないですか!」
「あぁ?んだと、テメェ!」
「あらあら」
サクネアとミサキリスのやり取りを微笑ましそうに見守るアズリール。
「エン君~。エン君を取り合って2人が喧嘩してるよ~」
「モテモテだな~。このこの~」
円寿を茶化す双子二人。
「あっ、あのサクネアさん!」
円寿の一言で言い争いを止めるミサキリスとサクネア。
「その・・僕は、ミサキリスさん、シュリナさん、ジュリアさんに助けられました。助けてもらったご恩があります。だから、その、今はサクネアさん達ではなく、ミサキリスさん達の側にいようと思ってます」
「キャー!エン君!大好きー!」
「一生側にいて良いからねぇ!」
円寿に抱きつく双子二人。急に抱きつかれ顔を赤くする円寿。
「ちょっ、あんた達ねぇ~」
双子二人を咎めるミサキリス。
「だが、ミサキリス達じゃ、いつ何処でも守ってもらえる保証はねぇぞ」
サクネアが円寿に問い返す。
「みっ、ミサキリスさん達に頼らなくても大丈夫になるよう・・誘拐されないよう僕も努力します!」
「エンジュ君・・・」
円寿の意思に思い感じとるミサキリス。
「だから、サクネアさんのお誘いはとても頼もしいのですが・・ごめんなさい」
テーブルにおでこをつけ頭を下げる円寿。
「・・・あぁ、そうか。お前の気持ちはよく分かったよ。これ以上無理強いはしねぇ」
「サク姉、フラれた~」
「はぁ!?うるせぇ!はっ飛ばすぞ!」
少しテンションが下がったサクネアを茶化し、そして怒鳴られるチェルシー。
「たくっ・・なぁエンジュ、最後に一つだけいいか?」
円寿の方に顔を向き直すサクネア。
「はい、何でしょうか?」
「一発ヤらせろ」
「・・・」
「はっ・・はあああああぁぁぁぁぁ!?」
顔を真っ赤にしたミサキリスの叫び声が響き渡る。
「わ~お、何とゆう肉食系」
「あたしらも見習わなくちゃ」
「見習わなくてよろしい!」
驚きつつも思わず感心してしまった双子二人にツッコむミサキリス。
「あぁ、あああなたっ!あったばかりの子に、なんて事言ってるのよ!」
激しく動揺しながらサクネアを問い詰めるミサキリス。
「あぁ?いつあったかなんて関係ねぇんだよ。こういうのはなぁ、ノリと勢いとフィーリングなんだよ!」
強気な持論を述べるサクネア。
「・・・(あぁ、この人、絶対常識とか正論とか通用しないタイプの人だ。それなら、一か八か・・・)こっ、この子、女の子ですよ!」
「は?男に決まってんだろ、寝ぼけた事ぬかしてんじゃねぇぞ、てめぇ!」
「っ・・・(やっぱ駄目だったぁ。てかエンジュ君の事、女の子に見えるのてあたしだけなの!?)」
「?」
一方で、当の本人である円寿はなにやら不思議そうな顔をしていた。
「・・・(ヤらせろ、て何だろう?ゲーム、とかかな?それとも・・・)あっあの、サクネアさん」
「おっ、ヤる気になったか?おしっ、じゃああたしらの家に・・・」
「ちょっ、エンジュ君、まって・・・」
「僕、喧嘩は出来ません!」
「・・・は?」
「その、よく漫画とかで、殴り会いの喧嘩をしたすえに二人に友情が芽生えるて話しがありますが、僕はその、殴られるのも嫌だし、人を殴るのも嫌です。友情の為とはいえ、人を傷つける事は僕にはできません。なので、その、ごめんなさい!」
「・・・ぷっ、はははははは!」
サクネアの笑い声につられてラング・ド・シャットの面々も笑いだす。
「?」
キョトン顔の円寿。
「・・・(エンジュ君、わかっていたけど、すっごいピュアだ、この子!」)
ほっと胸を撫で下ろすと同時に、改めて円寿の初さに驚くミサキリス。すると、双子二人が円寿に近づき、
「エン君ピュア過ぎ~。超~可愛い!」
「ちなみに~、ヤらせろって意味は喧嘩の事じゃなくてね~・・・」
「言わんでよろしい!!」
双子二人の言わんとしてる事を円寿に伝えさせない為、割ってはいるミサキリス。
「あはは・・はぁ、いやぁ円寿~。お前面白い奴だなぁ。ますます気に入った。今日の所は引いてやるよ。だが又来るぜぇ、円寿の操を貰いになぁ!」
一通り笑い終え、円寿の意思、そしてミサキリスの意思も分かったので退散する事にしたサクネア。
「あげるわけないでしょうが!」
すかさず言い返すミサキリス。
「そうだ!エン君の操はあたし達が頂くんだい!」
「そうだい!」
「そうd・・て、それも違う!」
「・・・サク姉~。良いの?エンジュって子、あの娘達に任せちゃって?」
ナミミナがサクネアに話しかける。
「いいんだよ。騎士って聞いたからクソ程つまらねぇ連中かと思ったけどよ、案外大丈夫そうだ。まぁ、もしエンジュが拐われる用な事があったら、そん時こそはエンジュは貰ってくけどよ」
「ふ~ん。なるほー」
「よしっ、じゃあずらかるとすっかぁ」
サクネアが店を後にしようと席を立とうとしたその時
ダッダッダッダッーーー
バン!!ーーー
「サク姉いる?!」
ラング・ド・シャットの面子と思しき獣人の女が、慌ただしく店の扉を勢いよく開ける。
「あぁ?どうした?」
自分を呼ぶ声にぶっきらぼうに答えるサクネア。
「ウィネ~。乙~」
ローテンションでウィネと呼ばれる獣人の女を迎えるナミミナ。そんなウィネの様子を見てチェルシーが
「ウィネ。もしかして、例の連中の・・・」
「うん、トレイターのアジト、ようやく見つけたよ。」
その言葉を聞き、サクネアが勢いよく立ち上がる。
「でかした、ウィネ!しゃあ!行くぞ、てめぇら!」
「オーライ!サク姉!」
サクネアの号令が店に響き渡り、それにラング・ド・シャットの面々が答え威風堂々と店を出る。嵐が去った用な空気になった店で、他の客達は呆気にとられていた。
「・・・なんだか、噂以上の人達だったね。ラング・ド・シャットのお姉さん達。」
同じく呆気にとられながらも、口を開くシュリナ。
「てか、さっきトレイターて聞こえたけど・・ミサ、たしかトレイターて・・・」
ミサキリスに問いかけるジュリア。
「うん、サクネア達も、あたし達と同様連中の事追ってたみたい」
「トレイターて、何ですか?」
素朴な疑問をミサキリスにぶつける円寿。
「トレイター。裏世界で名が知れてる犯罪組織で、主に児童獣人の誘拐や売買を行ってる連中よ」
「!?」
「どうする、ミサ。あの人達、トレイターのアジトに行ったみいだけど」
シュリナがミサキリスに問いかける。
「追いかけよう。この件はあたし達も無視出来ない」
「あ~。今日の夜はデートの約束あったのに~。お仕事入っちゃった~」
少しだけ残念がるジュリア。それを聞きミサキリスが
「しょうがないでしょ。てか、ここに来る道中で言ってた用事て、やっぱり男じゃない」
「へへへ~。まぁいっか。後でお詫びしとこう」
「あっそうだ、あたしも入って、三人で遊べば、相手も喜ぶんじゃない?」
「あぁ~、それアリかも~」
「不純な行動は慎みなさい!二人共!」
「は~い」
「まったく、エンジュ君、あたし達これから、さっき言ったトレイターて人達捕まえてくるから、少し間このお店で待ってて。アズさん、エンジュ君の事、お願いします。」
「!」
「わかったわ~。気をつけてね、ミサちゃん、シュリちゃん、ジュリちゃん」
「は~い。頑張ってきちゃいまっす」
これからおそらく、戦場になるであろう現場に向かうとは思えない位、シュリナの態度は軽い物であった。それは、騎士としての経験と自信からくる物である事が分かる。
「今日デート出来なかった代わりに、エン君の事可愛がる事にしたから、楽しみに待っててね~」
「!?」
ジュリアの言葉に驚く円寿。
「ジュリ、あなたは仕事終わったら説教です」
冷たい眼でジュリアに言い放つミサキリス。
「そんな~」
「あっ、あの・・ちょっと、待って下さい」
なにやら自分を置いて現場に向かおうとする流れになってるのを、流石に察した円寿がミサキリス達に問いかける。
「あの、僕も一緒に連れてってくれませんか!」
「!?」
その言葉に驚くミサキリス達。
「ちょおっ、駄目だよエン君。何言ってるの!?」
「これからあたし達が行く所分かるよね?危ない所なんだよ?」
双子二人に詰め寄られひよる円寿。
「あの、その・・生まれた場所は違うけど、僕と同じ獣人の子供達が酷い目にあうのは凄く嫌です。僕も、子供達の事、助けたいです」
円寿の言葉を聞いたミサキリスが口を開く。
「エンジュ君。さっきも言ったけど、トレイターは児童獣人の誘拐売買を行ってる組織。そんな所にエンジュ君が行くなんて、檻の中の虎に餌を与える用なものなんだよ。そんな所に、あたしはエンジュ君を連れて行きたくない。エンジュ君の気持ちは凄い分かる。だからこそ、その気持ちはあたし達が預かるよ。だから、あたし達を信じて、アズさんとここで待っててほしい。お願い」
「うぅ・・・」
ミサキリスの言葉に言い返せない円寿。
「ミサちゃん、ちょっと良いかしら?」
アズリールがミサキリスに問いかける。
「何でしょうか?」
「エンくんの事、一緒に連れてってくれないかしら?」
「!?」
「!」
驚くミサキリスとアズリールの言葉に希望を感じる円寿。
「あっ、アズさん・・あたしの話し、聞いてました?」
「聞いてたわ~。今回の件は、エンくんを連れていった方が、スムーズに行くと思うわ」
「危ないんですよ。エンジュ君を連れてくと!」
「危なくないわ。大丈夫よ」
「・・・(アズさんの、この根拠の無い謎の自信。これって・・)アズさん・・もしかして、例のアレですか?」
「そうよ。女神様のご信託よ!」
「!・・・(ご信託、来ました!)」
耳を立たせて、顔の周りをキラキラさせる円寿。
「はぁ、やっぱりそれですか。でも、今回ばっかしは流石に・・・」
中々納得しないミサキリスにアズリールが切り込む。
「ミサちゃん。トレイターさんのアジトまでは、どうやって行くの?」
「えぇ、それは・・あぁ街の人に、ラング・ド・シャットの人達が何処に向かったかを聞き込みをして、辿っていけば・・・」
「でも、アジトは普段人が近寄らない場所にあるはずよ。そんな所までは、聞き込みだと限界があるんじゃないかしら?」
「うっ、たしかに、そうですけど・・・」
反論できないミサキリスを見て、アズリールは円寿に顔を向け、
「エンくん。ラング・ド・シャットの娘達の匂いは、覚えているかしら?」
「!はいっ!まだこの店にも、残り香が残っているので、分かります!」
元気よく答える円寿に、あら~、と声を出し再びミサキリスに顔を向ける。
「ミサちゃん、エンくんの獣人の鼻があれば、ラング・ド・シャットの娘達の匂いを追って、トレイターさんのアジトまで行けるはずよ。どうかしら?」
「・・・確かに、その方法だったら、でも・・・」
やはり、まだ納得は出来ないミサキリス。
「エンジュ君は、いいの?あたし達はこれから行く場所で、武器をふるわなくちゃならない。エンジュ君、喧嘩は出来ないて言ってたよね。あたし達は、喧嘩以上の事をこれから、しなくちゃいけなくて・・・」
徐々に言葉が小さくなるミサキリス。いざとなったら、相手を殺める事になるかもしれない。そんな所を円寿に見せたくないのがミサキリスの本心であった。
「ミサ・・・」
そんなミサキリスの心中を察するシュリナ。
「アズさん、エン君、あたしとシュリもミサと同じ気持ち。守る対象のエン君を火中に放り込む訳にはいかない。アジトの事なら、何とか探してみせるよ。それに、騒ぎが起きれば嫌でも分かると思うし。だから・・・」
精一杯の笑顔で話すジュリア。そんなジュリアの言葉の最後を聞く前に、
「僕はっ!」
「!?」
円寿の、少し辛そうな表情をしながら振り絞った声に驚く一同。
「僕は・・幼い頃に一度だけ誘拐された事があります。当時の僕は、訳は解らなかったけど、漠然的な不安と恐怖を感じていたって事を覚えています。あの時の感覚は、もう二度と味わいたくないって位嫌です。こんな思いは、他の人達にも味わってほしくありません。だから、僕と同じ目にあっている人達がいるなら、僕はその人達を助けたいです。喧嘩が出来なくても、人助けは出来ると思います。(喧嘩が出来なくても、人を助ける為の力・・)僕が獣人になった理由は、人を守る為なんですから!」
円寿の感情を露にした言葉と、過去の一片・・その他諸々を聞き唖然となる一同。そんな中、何とかシュリナが口を開く。
「えと、エン君。聞いても良いかな?」
「どうぞ!」
「エン君て意外と感情を爆発させるタイプなんだね」
「・・・えっ、いやそこじゃないでしょ!?」
シュリナに思わずツッコむミサキリス。
「エン君、誘拐経験者だったんだ。ごめんね、嫌な事思いださせちゃって」
円寿に謝り頭を撫でるジュリア。
「あぁ、うん。たしかに、あたし達エンジュ君の事、天真爛漫な凄く良い子だから、勝手に幸せな人生歩んできたんだろうなて思ってたんだけど・・(そうだよね。エンジュ君だって18歳だもんね。18年間ずっと良い事しかないなんて事はないんだ。エンジュ君だって、辛い思いだってした事あるんだ。)ゴメン、エンジュ君!あたしエンジュ君の事、無垢な子供としか見てなかった。エンジュ君が辛い現実にもちゃんと向き合える子だって理解しようとしてなかった」
「!?」
頭を下げるミサキリス。それ見て慌てて、
「そっ、そんな、ミサキリスさんが謝る理由はありません!」
ミサキリスの頭を上げようとする円寿。それを見ていたシュリナがふとした事に気づく。
「ん?エン君、さっき獣人になったて言った?それってぇ、どういう意味?」
「!?あぁ、あの、それは・・・」
はうっ、といった感じに狼狽える円寿。
「獣人として生まれてきたって、意味合いで言ったのよねぇ~」
すかさず笑顔でフォローを入れるアズリール。
「そっ、そういう事です!」
少し焦りながらアズリールの言葉に乗っかる円寿。
「う~ん。まぁ、そういう事にしときますか」
とりあえず納得するシュリナ。
「よし、じゃあエンジュ君。これからエンジュ君をあたし達の協力者て形でチームに加わってもらうね。協力金として報酬も約束します」
「!!」
ミサキリスの報酬という言葉に反応する円寿。
「ただし、さっきも言ったけど、これから行く所は実質戦場です。エンジュ君は戦う事が目的じゃないから、獣人の子供達を助けたらすぐにその場から離脱する事。助けられてないけど、身の危険を感じたら同じく離脱する事。あと、あたし達が逃げてと言っても離脱する事。これらを約束して、エンジュ君」
「はい!承知しました!」
「エン君の事もちゃんと守るから安心してね~」
「はい!よろしくお願いします!」
「ちゃんとエン君の活躍も期待してるからね~」
「はい、一生懸命頑張ります!」
双子二人の言葉にそれぞれ答える円寿。
「さて、じゃあそろそろ行きますか」
ミサキリスが一同に声をかける。
「あっ、ちょっとまって下さい」
「?」
それを引き留める円寿。不思議そうな顔でジュリアが、
「どうしたの?エン君?」
「ご飯がまだ食べ終わっていません!」
円寿が嫌いな事の一つに、食事を残す事がある。ラング・ド・シャットの面々が店にやってきて店内が騒然としてる時も、テーブルに並べられてる料理を出来る限り口に運んでいた円寿であったが、サクネア達を話し合いをしてる時は流石に食べる雰囲気ではなかったので料理に手をつけられずまだ残っていた。そんな円寿の言葉にアズリールが、あら~、と声を出す。
「食べ終わってからじゃ、駄目ですか?」
ミサキリスの身長は163cm、それに対し円寿の身長は156cm。7cmの身長差がある。ミサキリスと円寿が向かい合うと、必然的に円寿の目線が上に向き上目遣いの形になる。少し不安げな表情とウルッとした瞳でお願いの言葉を言う円寿に、思わず心に多少の揺らぎが発生し頬を赤らめるミサキリス。
「・・・(うっ、その表情はズルい・・・)うっ、うん、そうだね、食べてから行こうか。戦いの前に、しっかりエネルギー補給しなきゃだしね」
パァっとした表情になる円寿。
「あざとい。流石エン君。あざとい」
「これまで、どの位の女子をその天然ぷりでキュンとさせてきたのであろうか」
「?」
「あぁもう、あんた達も余計な事言ってないで、早く食べちゃいなさい!」
双子二人の言葉に動揺を見せるミサキリス。なお、円寿はよくわかっていない。
ダッダッダッダッーーー
食事終え、ミサキリス一向は円寿の鼻を頼りにラング・ド・シャットの足取りを追っていた。
「・・・・こっちです!」
匂いを嗅ぎとり、先頭を小走りで進む円寿。
「てかもう何だかんだ夕方じゃん。少し急いだ方が良いかもね」
「!?すいません。僕が食事をしてからにしましょうて言ったばかりに・・・」
「!?あぁあエン君、ゴメンゴメン。そういう意味で言った訳じゃないから・・安心して」
ジュリアの言葉に謝罪する円寿。ジュリアも、別に円寿の事を攻めるつもりで言った訳ではない。
「でも、やっぱエン君がいて良かったよ。匂いていう根拠があるから、確信を持って移動できるし」
「!本当ですか?」
「本当だよ~。ありがとね~。エン君」
ジュリアにフォローを入れるシュリナ。円寿の頭を撫でながら、ジュリアに視線を向けウィンクをする。
「・・・(ありがと~。シュリ~)」
「・・・(後でイケメン紹介してよね~)」
双子も長い付き合いになると、視線で会話ができるようになるらしい。
「・・・ねぇ、シュリ、ジュリ、ちょっと良い?」
そんな双子二人に質問するミサキリス。
「う~ん?なぁに?」
「二人共、いつの間にかエンジュ君の事エン君て呼んでるよね?」
「うん?あぁ、そういえばそう言ってる~。」
ハッと気づくジュリア。
「えぇ!?気づいてなかったの?」
「うん、何か自然とエン君て言ってた」
「たしか、アズさんがエン君て呼んでたよね。それでかな~」
アズリールの呼び方が、双子二人も気づかない内に耳に入っていた。
「ね・・ねぇ、エンジュ君・・・」
頬を赤らめながら円寿に問いかけるミサキリス。
「?何でしょうか!」
「あたしもさ、エンジュ君の事、エン君て読んでいいかな?あぁ、嫌なら言わないけど・・・」
「!良いですよ!」
すんなりとミサキリスの要望を受け入れる円寿。
「ありがとう、エン君。あぁ、あとさ・・あたしの事もミサキリスじゃなくて、ミサで良いよ。シュリとジュリもそう呼んでるし。ミサキリスて一々呼ぶの面倒くさいだろうし・・・」
「!呼ぶのは面倒ではないですけど、そう呼んで良いならそう呼びます。了解です、ミサさん!」
「ふふっ。ありがとう、エン君」
笑みがこぼれるミサキリス。そんなミサキリスと円寿のやり取りをニヤニヤした表情で眺める双子二人。そんな双子二人の視線に気づくミサキリス。
「・・・あぁもう、何よ!あんた達!」
「別に~。」
「もう、そのいやらしい目線を送るな!」
ミサキリスをからかいはしゃぐ双子二人。
「・・・(ミサさん、シュリさん、ジュリさんて本当に仲が良いなぁ・・・)」
そう思いながらニコっと笑う円寿であった。
各々の呼び方も統一した所で、一向はトレイターのアジトらしき場所を見つける。
「あきらかに強面のお兄さんが立ってるね」
「いかにも、悪い人達がいますよ~て感じだよね」
扉の前に筋骨隆々の男がいるのと、アジトらしき雰囲気を口にするシュリナとジュリア。
「エン君。匂いはここら辺であってるの?」
円寿はラング・ド・シャットの匂いを追ってここまで来たのだが、匂いはあるもののそのラング・ド・シャットの姿は確認できないでいたミサキリスが円寿に問いかけた。
「はい、匂いはたしかに漂ってます!」
「う~ん、て事は何処かに潜んでるって事かな?」
円寿の言葉に答えるジュリア。
「とりあえず、この建物の裏手に回ってみましょう」
ミサキリスの提案を受け入れ移動する一同。物陰から確認するシュリナ。
「うん、こっちにも見張りっぽいのがいるね。これはもう、確定じゃないかな~」
「それはまだ早いわシュリ。あれが本当に奴らのアジトならラング・ド・シャットが何かアクションを起こすはず・・・」
と、ミサキリスが言葉を発した直後、
ドカーーーーーン!!!ーーー
「!?!?」
「えっ、何?今の音?」
「あっ・・見張りのお兄さん、向こうに行っちゃった」
「多分、あたし達が最初に確認した扉の方からだよね?」
慌てながらも状況確認をする双子二人。
「・・・(ラング・ド・シャットが動いた?でもこれは・・・)よし、とりあえず見張りがいなくなった今がチャンス。行くよ、皆!」
号令をかけるミサキリス。
「了解!」
「はい!」
一方、トレイターのアジトらしき建物の中の扉近くの部屋。
「何だ!?今のは!?」
「おい!お前ら確認してこい!」
「りっ、了解っす!」
舎弟らしき男達が確認しようと部屋を出ようとしたその時、
ボガーーーーンーーー
「ギャアァァァァ!!」
扉事吹き飛ばされる舎弟らしき男達。
「なっ、てめぇら、何もんだぁ!?」
扉事壊れた壁から、ぞろぞろと入ってくる女達。先頭の女が指の関節の音を鳴らしながら号令を発する。
「真っ正面からぶん殴る。それがあたしらのモットー。そうだろてめぇらぁーーーー!!」
「オーライ!サク姉ーー!!」
「ちっ、お前らぁ、やっちまえ!」
男達が一斉にラング・ド・シャットに襲いかかる。
「行ぃくぅぞぉあぁぁ!!」
サクネアの叫びと共にラング・ド・シャットの面々も男達に向かって突っ込む。
乱闘になる男達とラング・ド・シャットの面々。ラング・ド・シャットの人数は9人だけであるが、戦いはラング・ド・シャットの優勢であった。その理由は、
「ひぃっ、何だこの女!獣人の女達より強ぇ!」
「おっおい、あの女を止めろぉ・・ガァッ・・・」
「何なんだよ、あの女、もう滅茶苦茶だぁ!」
そう、ラング・ド・シャットのリーダー、サクネア・バサローのである。ほかのラング・ド・シャットの面々が短刀や手斧等で武装してる中、サクネアは手甲を着けておりその群を抜く身体能力で襲いかかる男達を片っ端から撃破していき、逃げようとする者がいようもなら倒れてる男の胸ぐらを掴みその男に向かって投げ飛ばす。
「ふん!!」
「ぐへあ!」
あっという間に一階を制圧するラング・ド・シャット。
「てめぇら!一匹たり共逃がすんじゃねぇぞ!全員ブタ箱にぶち込むんだからなぁ。死なない程度にぶっ殺せぇ!!」
「いつも通りの雑なオーダー了解です」
サクネアの言葉に答えるチェルシー。
「地味に殺さないて~、難しいんだよね~。あたしが使ってるの~弩だし~」
片手扱えるよう短く改良された弩弓を武器に持つナミミナ。
「おいナミ、まだそんなもん使ってんのかよ。殴れ。直に殴った方がスカっとすんぞ!」
「たって~、直接殴ると~手ぇ痛いじゃ~ん。あたし~、サク姉と違って繊細なんだも~ん」
「お前獣人だろ!丈夫に出来てんだろ、その身体!」
「獣人だって痛いもんは痛いんだも~ん。」
サクネアとの言い合いもローテンションなナミミナ。
「たくっ、まぁ良いやぁ。おい、チェル。この中にトレイターの頭はいるか?」
倒れてる男達を見渡すサクネア。
「トシェーキ・ザオノー。覚えてよ、サク姉」
トシェーキ・ザオノー、トレイターのボスである。裏社会では名の知れた存在で、その首には賞金もかかっている。
「んな一々ゴミクソの名前なんて覚えてられるかよ。うしっ、そしたら・・・」
「二階と地下、どっちに行く?」
サクネアに問いかけるチェルシー。
「二階だぁ!」
「その心は?」
「感!!」
「清々しいねぇ、サク姉は。まぁそういう所があたしがサク姉に惚れた所なんだけどね」
呆れながらも、それがサクネアの良い所だと改めて口にするチェルシー。
「地下はどうするの?」
サクネアに問いかけるナミミナ。
「二階を潰したら行きゃぁいい!!」
「サク姉、一週回って可愛いわ~↓」
サクネアを先頭に、二階に上がる為階段を駆け上がるラング・ド・シャットの面々。ラング・ド・シャットが一階からいなくなり、物陰から顔を覗かせる一同が。
「かぁ~。凄かったねぇ」
「本当に強かったんだね。ラング・ド・シャットて」
「ラング・ド・シャットが強いってかサクネアさんが鬼強かったね」
「完全に無双状態だった」
ミサキリス一向である。一向の武装というと、ミサキリス、シュリナ、ジュリアは屋内で取り回しの良い短槍を。円寿は念の為と持たされた小さめの丸盾を持っている。そんな双子二人が、それぞれラング・ド・シャットに対する感想を述べていた。
「・・・」
「エン君、大丈夫?」
初めて見る本格的な戦闘に唖然となる円寿。それを心配したミサキリスが、
「エン君、やっぱりデア・コチーナに戻る?」
「・・・ハッ、はい、ミサさん何でしょうか!?」
慌ててミサキリスの問いかけに答える円寿。
「あれ?エン君、聞こえてなかった?」
「あぁ、いえ、その、・・ごめんなさい!聞こえてなかったです」
「・・・(すごいショック受けてるて感じじゃなさそう。良かった。)あぁ、うん、エン君、何か心此処にあらずて感じだったから」
「あぁその、サクネアさん達の戦いが、あまりにも凄かったので・・・」
円寿は圧倒されていた。初めて見る本格的な戦闘に驚愕していた。しかし、それは恐怖による驚愕ではなかった。幼い頃より見ていたとある物語に出てくる登場人物。これにサクネアが重なったのである。憧れの存在を見た事による心臓の昂りに驚愕したのだ。
「・・・(仮面ヒーローに出てきた、仮面バーサーカーみたいだった。最初は敵だったけど、中盤で仲間になって・・・)はぁあああ・・・」
目を輝かせる円寿。それを見てミサキリスが
「何か、大丈夫そうだね。エン君」
「?」
「いや、正直エン君凄いショック受けると思ってたからさ。ほら、エン君暴力は苦手て言ってたから」
「!はい、暴力は苦手です。でも、サクネアさん位出鱈目に強いと、何だかテレb・・じゃなかった、えと・・・演劇を見ているみたいだなって」
「あぁ、それあたしも思った。超リアルなお芝居みたい」
円寿の言葉にジュリアが反応する。
「でぇ、ラング・ド・シャットのお姉さん達は二階に行ったけど、あたしらはどうする?」
シュリナがミサキリスに問いかける。
「まぁ、追いかけても仕方がないし、地下に行こうか」
「了解~」
「OK~」
「了解です!」
ミサキリスの言葉に三人がそれぞれ答え、一向はミサキリスを先頭に地下への階段を降りていく。
一方、場面は再びラング・ド・シャット。順当に二階を制圧していき、残る部屋の前にサクネア達は立っている。
「うん?あぁ~、あの騎士の女の子達来てんじゃん。」
鼻をスンスンとさせて、ミサキリス達の匂いを感じとりこの場に来ている事を口にするチェルシー。
「あ?あいつら来てんのかよ。てか、何で場所が・・・ちっ、あいつらエンジュの鼻を使いやがったな。」
円寿もこの場に来ている事を察し、苛立ちを見せるサクネア。
「あんだけエンジュって子の事匿ってたんだし、無理矢理連れてきたって訳じゃないんじゃない?」
サクネアの苛立ちに気づき、一応ミサキリス達のフォローの言葉をかけるナミミナ。
「んな事わかってんだよ!あいつらだってエンジュをこんな糞溜に連れてこようだなんて思っちゃいねぇだろ。おそらく、エンジュの方から申し出たんだろうよ。まぁ、仮にエンジュを無理矢理使ってるんてぇなら、そん時はあの女共をボコボコにしてエンジュをぶん取るまでよ」
サクネアが指の音を鳴らす。そんなサクネアに対し
「いやぁ、そうでは無い事を祈りたいよね。あっサク姉、その扉の先めっちゃ人が待ち構えてるよ。どうする?」
臭いで状況報告するチェルシー。サクネアが不適な笑みを浮かべ
「正面突破に決まってんだろ」
そう言って、扉を蹴破るサクネア。案の定、弩弓を構えた男達が横に並んでいた。
「撃てぇ!!」
男の声が響くと同時に弩弓から矢が放たれる。しかし、サクネアは一切怯まず、
「っへっ・・・」
放たれた矢を目にも止まらぬ速さの手捌きで掴みまくる。しかし、放たれた矢の一本がサクネアの顔を捉えた、
「やったか!?」
かに思えたが、その矢を歯で受け止めていた。
「なっ・・・」
唖然となる男達。
「ぷっ・・うらあぁぁぁぁ!!」
口に加えた矢を吹き捨て、持っていた矢を床に捨て男達に向かって突撃する。
「ひっ・・うわあぁぁぁ!!」
次々と男達をなぎ倒していくサクネア。逃げようとする者もチェルシーやナミミナに追撃されていき、あっという間に制圧する。
「んだよ、この程度であたしら相手にしようとしてたのかよ」
倒れてる男の一人に蹴りをいれながら、言葉を出すサクネア。
「もしかして、この人達、そもそもあたしらを相手取るて思って無かった可能性があったりする?」
チェルシーが少し呆れながらも口にする。
「それは無いんじゃな~い。仮にも裏社会で有名な獣人誘拐組織が~、あたしらの事を知らないって事はさ~」
チェルシーの言葉に答えるナミミナ。
「あぁ、逆に、あたしらの知名度がまだまだ低いって可能性が・・・」
「えぇ、あたしらそんなマイナーなの~?」
「んなぁこたぁどうでもいいだろがぁ!!」
チェルシーとナミミナのやり取りにサクネアが言葉をさす。
「おっと、サク姉」
「あれ?ちょっと怒ってる?」
「あぁ?!、おこっ・・キレてねぇよ!さっさと次行くぞ。地下だ、地下!」
サクネアは苛立ちを隠せてなかった。それは、トレイターがラング・ド・シャットの事を知らない可能性かあるからではなく、円寿がこの場に来ている事、そしてどんな理由であれミサキリス達がエンジュを連れてきた事にであった。そして、サクネアは何を思ったのか手を貝合わせにし振り上げる。
「うん?サク姉何してr・・・」
チェルシーが言葉を言いきろうとする前に
ドゴオオォォォォォォ!!!!ーーー
振り上げた腕を地面に叩きつけるサクネア。これには、流石のラング・ド・シャットの面々も唖然とせざる追えなかった。
「どったの~、サク姉~。ストレス発散~?」
そんなサクネアに、頭に汗マークが出ながらもナミミナが問いかける。
ドゴオオォォォォォォ!!!!ーーー
ナミミナの言葉に耳を貸さずサクネアが二発目を放つ。
「うへぇ、何かよくわかんないけど、サク姉怖~い」
「どぅどぅどぅ、サク姉、壊れちゃうよ~」
ラング・ド・シャットの面々が各々言葉を出す。
「あれ?サク姉、もしかして・・・」
面々の一人が言った、壊れるという言葉にサクネアの床に対する破壊行動の理由を察するチェルシー。頭には、汗マークが浮かんでいる。そんな、チェルシーの言葉が耳に入ったサクネアが顔をそちらに向け不適に笑い、
「・・・へっ、そうだよ、チェル」
そう言って、再び拳を振り上げる。
「こっから地下までぶち抜く!!」
・・・ドゴオオォォォォォォーーー
砂埃が落ちてき、何やら上の方から強い衝撃が伝わっている事に気づくミサキリス一向。
「えっ?何、この揺れ?」
ジュリアが思わず口にする。
「地震、でしょうか?」
キョトンとした表情で円寿も言葉にする。
「いやぁ、地震というよりも、何か上から物が落ちてきてるとういうか、叩かれているというか・・・」
事の状況を何となく察するシュリナ。
「しっ、静かにっ」
先頭にいるミサキリスが立ち止まり、口に人差し指を立てる。物陰から覗くと、扉の前に男二人が立っている。ミサキリス一向は、ラング・ド・シャットのように部屋を片っ端から破壊しながら進むやり方ではなく、動きを最低限に潜入するように進んでいた。
「・・・(奴らの動きが慌ただしくなってきた。まぁそりゃそうか)」
謎の地響きはトレイターの面々を混乱させていた。
「くそっ、一階で派手な音が鳴ったと思ったら、次はこれかよ!?」
「おいっ、お前見てこいよ」
「嫌に決まってんだろ!てか、さっき一階の様子見に行った奴は何やってんだ!?」
男二人の会話を聞いていたシュリナが口を開く。
「さっき様子見に行ったって・・あぁ、あたし達が階段降りてる時に、鉢合わせしたあの人か」
数分前、一階の異変に気づいたトレイターのボスであるトシェーキに指示を受けた部下の男は、一階の階段を上ってる途中不運な事にミサキリス一向と階段で遭遇。声を上げる暇もなく、瞬く間に制圧され現在縄で縛られたまま気絶し階段に横たわっていた。
「さて、どうする?ミサ。見張りがいるって事は、多分あの部屋がそういう事だよね」
「そうだと思うだけど、中の状況が解らないと、動くに動けないな」
仮に扉の前に立つ見張りを倒し部屋の中に入ったとしても、人数がどれ位いるのか、制圧出来る人数だとしても誘拐されてる獣人を人質にされたらどうするのか、ミサキリスは頭を悩ましていた。
「・・・(援軍を待って、それから動くか?)」
このミサキリスの言った援軍とは、絶賛床を破壊中のサクネア率いるラング・ド・シャットの事ではない。実は、ミサキリス一向がアジトへ向かっている道中、新人騎士のリンジアと遭遇しており事の事情を説明し援軍を要請していたのだ。そしてアジトに到着した時、ミサキリスは何かを取り出し額に当てていた。まるで何処かに連絡を取っているかの様に。ここで、円寿がふとした事に気づき口を開く。
「ミサさん、質問良いですか?」
「ん?どうしたの、エン君」
「この建物に入る時、ミサさん丸い何かを握っておでこに当ててましたけど・・あれはお祈りみたいな奴ですか?これから戦いに行く為の儀式・・みたいな」
円寿が見た丸い何かとは、ペットボトルの蓋位の大きさの瑠璃色の真玉の事を言っている。
「あぁ、これの事?」
そう言って、ミサキリスが先程言ってた瑠璃色の真玉を取り出す。
「これはね、魔通玉と言って、簡単に言うと魔通玉を持ってる物同士で連絡と取り合える魔道具だよ。」
「?魔道具?」
キョトンとした顔で、ミサキリスの持つ魔通玉を見つめる円寿。
「これの使い方はね、まず自分の持つ魔力を魔通玉に入れておいく。それで、連絡を取りたい相手にも自分の魔通玉に魔力を入れてもらって、そしたら今度はこっちが相手の持ってる魔通玉に魔力を流す。お互いの魔力を交換する、みたいな感じかな」
円寿がここで自分なりに解りやすくまとめてみる。
「・・・(新しい携帯電話を買った時に、まず自分のアドレスを登録してそれからアドレスを交換して連絡が取れるようになる・・て事かな)」
「ちなみに、連絡の取り方はと言うと・・ジュリ、ちょっとマツギョ出して」
「そうくると思って、もう出してるよ~」
そう言ってウインクしながら黄玉色の魔通玉を手に持つジュリア。
「じゃあ使ってみるね」
そう言って、魔通玉を握り額に当てるミサキリス。すると、ジュリアの手にある魔通玉が光だした。
「!?・・・(光ってる!綺麗・・・)」
思わず耳がピコンと立ち目元をキラキラさせる円寿。しかし、そんな円寿に疑問が浮かぶ。
「これで、どうやって連絡取るんですか?」
「基本的には、合図を送る為だから細かい連絡とかは出来ないんだよ。だからね・・・」
そう言うと、ミサキリスは再び魔通玉を持った手を額に当てる。すると、魔通玉が短く光ったり長く光るのを不規則に繰り返す。
「?」
「こういう風に、魔通玉を短く点滅させたり長く点滅させるのを組み合わせて、言葉を伝えたりするんだよ」
「なるほどっ・・・(何かこれ、僕のいた世界にも似たような奴があったような・・・)」
円寿が思い浮かべているのは、モールス信号の事と思われる。しかし、円寿はミリタリー方面の知識があまり無いので具体的なやり方は解らないのでスルーする事にした。
「とりあえず、この・・まつうぎょく?を使えば、遠くの人とも連絡が取れるて事は解りました」
円寿との会話で、ミサキリス達に和やかな雰囲気が漂ったのも束の間・・・
ドゴオオォォォォォォーー
「あれ?何か、どんどん音が近付いてない?」
先程よりも、明らかに天井から伝わる地響きの音が大きくなっている事を口にするジュリア。
「う~ん。これは何か嫌な予感・・・」
シュリナか言葉を発した次の瞬間
ボガアアアァァァァン!!!!ーーーー
見張りの男二人が立っていた扉の部屋の中に、明らかに何かが落ちた衝撃あった事に気づくミサキリス。言うまでもなく、見張りの男二人も慌てふためいていた。
「なっ、何だ今n・・ガフッ」
「え?・・ゴホッ」
その隙を逃さず、ミサキリスとシュリナが男二人を瞬く間に気絶させる。そして、ジュリアが隙間から土煙が立つ扉を少し開き中を確認する。中では、数人の女達が数人の男達と相対していた。
「ゴホッ、ゴホッ、クッソ、てめぇらいったい何もんだぁ!!」
「あれぇ?その台詞、たしか一階でも聞いたような・・・」
男の言葉に、ふと頭によぎった事を口にするチェルシー。
「何もんだろうが、食いもんだろうが関係ねぇんだよ。おいごらぁ!!トシェーキ・ザオノーてのは何処のどいつだ?」
サクネアが男達を睨みつけながら叫ぶ。
「俺だ」
そう言うと、男達の後ろから紙煙草を加えた男が出てくる。
「トシェーキ・ザオノーてのは、俺の事だが」
口から煙を吐き出すその男は、自分達が襲撃を受けてるこの状況でも余裕といった態度を取っていた。
「はっ、のこのこ出てきやがって、その余裕ぶっこいてる面ぁ、今からぶん殴ってやんよ」
トシェーキを威圧するサクネア。しかし、トシェーキの態度はぶれていない。
「おいっ、連れてこい」
と、部下に指示を出すトシェーキ。
「あん?」
反応するサクネア。すると、物陰から後ろ手に手錠をかけられ首輪を着けた獣人の子供が一人、その首輪から伸びる鎖に引っ張られて出てくる。
「おぉ、いいか。この餓鬼の命が惜しくば、俺らを見逃せ」
トシェーキがサクネア達に要求する。
「はぁ!?あんた達、何を言って・・・」
「おぉっと動くな。この餓鬼がどうなってもいいのか?」
そう言ったトシェーキの横で、獣人の子供の首にナイフを突き立てる男。
「ヘッヘッヘヘヘ」
男達が下衆な笑い声を上げる。
「ぐっ・・・」
ウィネが悔しそうに歯を食い縛る。
「ウィネ、大丈夫だから」
そんなウィネに声をかけるチェルシー。
「でもっ、チェルさん・・・」
「今までだってこういう場面は何回もあったんだから、大丈夫。サク姉なら何とかしてくれる」
男達を静かに見つめるサクネア。
「・・・(サク姉、これ本気でキレてる奴だ。大丈夫かな。これ最悪殺しちゃうんじゃないかな?)」
少し焦りを見せるチェルシー。人によっては、怒りの頂点に達すると冷静になるタイプがいるがサクネアはそのタイプである。
「で?どうなんだぁ?俺らを見逃してくれんのかよ?」
トシェーキが口を開く。
「・・・」
「おい、姉ちゃんよぉ、黙ってねぇで何か・・・」
「ちっ・・・」
沈黙を破るように舌打ちを打つサクネア。
「あ?」
「くそ不本意だがよぉ、てめぇらの力を借りてやる・・・」
「はぁ?」
すると、扉の隙間から瑠璃色の真玉が放り込まれる。その、中を舞う淡い輝きを放つ真玉に男達が視線を向けた一瞬の隙をサクネアは見逃さなかった。
「はっ・・・」
「ぬぅんぅぅ!」
獣人の子供にナイフを突き立てていた男は、気づく間もなく顔面を殴り飛ばされていた。男を殴り飛ばしたその腕を、そのままトシェーキの顔面に裏拳として放つサクネア。
「ちっ・・・」
間一髪それを受け止めるものの、吹き飛ばされるトシェーキ。そして、一瞬の出来事で唖然としている獣人の子供を掴みナミミナの方へ放り投げる。
「!うわあぁぁぁ!?」
「よっと」
ナミミナが放り投げられた子供を受け止めたのを確認し、
「行くよ!皆!サク姉に続けぇ!」
サクネアに代わりチェルシーが号令し、ラング・ド・シャットの面々が一斉に襲いかかる。
「こいつらぁ、無茶苦茶だ・・ゴヘァ!」
「おっ、俺は直接獣人には手を・・ハグッ!」
乱闘になれば完全にラング・ド・シャットのペースである。その様子を、扉の隙間から覗くミサキリス一向。
「やっぱ凄いなぁ、ラング・ド・シャットのお姉さん達」
「てか、ミサ良かったの?魔通玉。あの感じだと、探さなきゃならないんじゃない?」
瑠璃色の真玉、魔通玉を投げたのはミサキリスであった。その魔通玉は、この乱闘の中に沈みシュリナが光らせているもののその姿は見えない。
「うん、多分もう踏まれて壊されちゃってるかもしんないね。まぁ元々支給品だし、あれで事態解決に繋がるんだったら、安いもんだよ・・・(それにしてもサクネア、あたしが魔通玉を投げるのを解ってたみたいだった。この対応力。流石多くの修羅場を潜ってきたって所ね。なんかムカつくけど・・・)」
「でも、多分・・大隊長のお叱りはあるよね。あれ、宝石を加工した奴だから、結構するんだよね・・・」
「うっ、うん・・・」
ミサキリスとシュリナが少し気を落とす。と、ここで乱闘を見ていたジュリアがふとした事に気づく。
「あれ?待って・・・」
「何?ジュリア」
「トシェーキがいない」
「!?」
これには、絶賛男達をぶん殴り中のサクネアも気づいていた。
「ちっ・・・(あのゴミ野郎。逃げ足だけは一丁前か、クソがっ)チェル!ナミ!」
「「!」」
「任せていいか?!」
「OK!任されたよ!サク姉!」
「好きにやって来て良い~よ~」
チェルシーとナミミナが各々答える。それを聞きサクネアがニカッと笑う。
「うしっ!」
男を殴り倒し、奥の部屋に走り出すサクネア。そんな、一人抜け出すサクネアを確認したミサキリス達。
「そろそろ、あたし達も行く?」
ミサキリスに確認を取るジュリア。
「うん、行こう。誘拐された子供達もさっきの子以外にもいるはずだしっ。エン君、今からこの中を突っ切るけど、行ける?」
「はいっ、頑張ってみます!」
ミサキリスの問いかけに答える円寿。
「よしっ、それじゃあ、行くよ!」
扉を開け、乱闘の中に飛び込むミサキリス一同。
「!?くそっ、ここで新手かよ!?」
ミサキリス達に気づく男の一人。瞬時に、男一人を凪払うミサキリス。
「ラング・ド・シャット、あなた達に加勢します!」
「おっ、ようやく来たなぁ、戦乙女のお嬢ちゃん達!」
「よっと、あれ、お姉さん達、あたしらが来てる事気づいてた感じ?」
短槍でいなし、男に上段回し蹴りを入れながらジュリアが答える。
「そりゃ解るよぉ。獣人の鼻は一度覚えた匂いは忘れないんだから」
「へぇ・・じゃあ目隠しプレイとかされても意味が無いって事か」
「相手が変わってても解っちゃうて事だもんねぇ」
「そうなんだよぉ。そこが唯一獣人の欠点何だよねぇ」
「チェル~、それな~」
双子二人の猥談に、うんうんと納得するチェルシーとナミミナ。
「あぁあんた達!こんな状況でもそれか!」
顔を真っ赤にしてツッコミを入れるミサキリス。こんな会話をしながらも、次々と男達を撃破していく。そんな余裕のあるミサキリス達に対して円寿はというと、キリッとした表情はしているものの一切余裕が無いのか、周りをキョロキョロしながら低い姿勢で身構えていた。そんな、円寿を男の一人が視界に捉える。
「・・・(何だ、弱そうなのもいるじゃねぇか)うらあぁぁ!」
「!?」
肩を揺らしながらも、襲いかかる男の方に盾を向ける円寿。
バキッーーー
手慣れたように、男をなぎ倒すミサキリス。
「大丈夫?エン君」
「はっはいっ、大丈夫です!」
慌ててはいるものの、その表情は恐怖に包まれておらずむしろ勇姿を感じられる物であった。その表情を見てミサキリスが
「エン君。今から奥の部屋まで走るけど、いける?」
「はいっ、行けると思います!」
円寿のまっすぐとした表情にミサキリスも口角を上げ、円寿の右手を握る。乱闘の中に一瞬生まれた、奥の部屋への道筋をミサキリスが捉える。
「それじゃあ・・行くよ!」
「はいっ!」
「よし・・ふうん!」
右手の短槍を振り払い、左手は円寿の手を掴み一気に走り出すミサキリスと円寿。
「行かせるかよ!」
「うらあぁぁ!」
走るミサキリスに男二人が襲いかかる。
バシッッーーー
「ぐふっ・・・」
「かはっ・・・」
双子二人が男二人を払いのけ、ミサキリスと円寿の道を開ける。
「行ってこぉい!ミサ!エン君!」
「悪い親玉、ぶっ倒してきちゃって!」
「シュリさん!ジュリさん!」
「ありがとお!シュリ!ジュリ!」
走る最中、ふとチェルシーを確認し、その横を通りすぎようとするミサキリス。そんなミサキリスにチェルシーが一言
「ーーサク姉の事・・頼むね。」
「ーーーはいっ!」
走り去るミサキリスと円寿を背中で見送るチェルシー。
「さてっ、もう一踏ん張りて所かな。お嬢ちゃん達も、まだいけるよねぇ?」
「もちー!当たり前っしょ!」
「チェルシーさんだっけ?そっちもへこたれ無いでよー!」
チェルシーの呼び掛けに答える双子二人。
「それじゃあまぁ、行きますか!」
「了解!!」
バガアァァァンーーー
「ちっ、もう来やがったか・・・」
場面代わり奥の部屋。一人逃げる支度をしていたトシェーキ。部屋の扉には、箱や棚を積みバリケードにしていたが、そんを難なく破壊し土煙の中から影が浮かび勇ましい声が響き渡る。
「よぉ、ド糞野郎。てめぇの吐き気のするその面ぁ、処分しに来てやったぜ・・・」
サクネアが罵りながら姿を現す。
「はっ、口汚ぇ女だ。どういう教育受けたらそんな風になれんだよ」
「てめぇにだけは言われたくねぇなぁ!ゲボカス野郎!」
トシェーキに飛び掛かる構えを見せるサクネア。
「おっと、動くな。こいつがどうなっても良いのか?」
そう言ったトシェーキの腕には、獣人の女児が掴まっていた。そして、その女児の頭に短弩の矢じりを当てていた。
「ちっ、ゴミが・・・」
ギリリと歯を鳴らすサクネア。
「おいっ!嬢ちゃん!意識あるんだろ!てめぇも獣人だったらその糞ゴミ位振り払え!」
掴まってる女児に向かって叫ぶサクネア。
「うっ・・うあぁくぅ・・うおくぁねぁうぃ・・・くぁらぁ・・・」
必死に喋ろうとする女児であるが、上手く口が動かせない様子であった。
「ふっ・・ははははっ!薬打ってあんのに決まってんだろっ!バカがっ!」
「・・・てめぇ」
こめかみに青筋を立てるサクネア。
「たくっ、商売の邪魔しやがってよぉ。部下もアジトも、捕ってきた餓鬼共もこれで0だ。舐めたマネしやがって。だがなぁ、この餓鬼売っ飛ばしてまた一からやってやんよ。ほかの餓鬼共はくれてやる。獣人の餓鬼なんて、探せばいくらでもいるんだからなぁ、ははははっ!」
高笑いを上げながら、背中にあるアジトの脱出口に後ずさるトシェーキ。
「・・・」
静かにトシェーキを睨むサクネア。
「はっはー!良い気味だぜ、サクネア!組織を建て直したら必ずこの落とし前つけにきてやるからなぁ!てめぇも、てめぇの仲間にも、全て!楽しみにしてやがれ!」
「・・・」
「・・・へっ・・・(流石に動く事はできねぇな・・・)」
サクネアを視界に入れたまま、後ろの脱出口に近付くトシェーキ。
「・・・イラつくぜ」
口を開くサクネア。
「は?」
「イラつくぜ、二度もてめぇの手を借りるなんてなぁ」
「?」
トシェーキがサクネアの言葉を不思議に思ったその瞬間、
ヒュンーーザシュッーーー
「!?ぐっ!?」
トシェーキの右腕に短槍が突き刺さる。その衝撃で短弩と獣人の女児を手放したのをサクネアは見逃さなかった。
「ーーぬぅんっ!!」
「ごへえぁ・・・」
一瞬にして間合いを詰め、トシェーキの顔面に拳を叩き込む。その拳は、トシェーキの顔面に深くめり込みそのまま後ろの壁にぶっ飛ばされた。そして、サクネアが壊したバリケードからミサキリスと円寿が走ってくる。
「どうやら、間に合ったようですね」
「サクネアさん!獣人の女の子は大丈夫ですか?!」
「あぁ、怪我は無ぇけど、薬で身体が痺れてるみてぇだ。他の捕まってるガキ達もこうなってるかもしれねぇ。探さねぇと」
「!あっちの部屋から獣人の匂いがします!」
円寿が奥の部屋の方を指差す。
「・・・あぁ、そうか・・・」
少し複雑そうな表情で円寿を見るサクネア。
「あなたのフォローが出来たのも、エン君が目と耳と鼻で正確に状況を把握してくれたから、あたしも槍を投げる事が出来たんです」
獣人になった事により、人間だった頃よりもその目は遠くを見据え、その耳は細かな音も捉え、その鼻は離れた場所の人数と人種も嗅ぎ分けられる円寿のサポートにより、ミサキリスは迷い無く自らの短槍を投げつけトシェーキに当てる事か出来た。
「あぁ、それには感謝してるんだけどよ・・・」
そう言うとサクネアは、近付いてきたミサキリスの胸ぐらを掴み
「てめぇ、なんでこんなゴミ溜にエンジュを連れてきた!」
「!?」
「・・・」
怒りの表情をミサキリスに向けるサクネア。その光景に驚く円寿。ミサキリスは、表情を変えず一点にサクネアの目を見る
「その事は、本当に申し訳ありません。あたしも本当はエン君を連れてきたくは無かったのですが・・・」
「じゃあ何でだ!エンジュの獣人としての能力を利用したのか?!!」
ミサキリスに顔を近付け怒声を放つサクネア。
「僕がっ!!」
「?」
「僕が言ったんです。!獣人の子供達を助けたいって!」
サクネアの怒声に負けない位の声を上げる円寿。ミサキリスとサクネアの視線は円寿に向いている。
「エン君・・・」
「なので、サクネアさんのお叱りを受けるのはミサさんではなく僕です!本当に申し訳ありませんでした!」
深々と頭を下げる円寿。
「・・・はぁ、あぁもういいわ。エンジュ、顔上げろ」
「!!」
息を吐きミサキリスを離すサクネア。
「エンジュに免じて今回は許す。次は無ぇ」
「はいっ、二度とエン君をこのような場所には連れてきません」
サクネアの瞳を真っ直ぐに見つめ答えるミサキリス。
「・・はぁ、まだ他に捕まってるガキ共がいるから探すぞ。多分あの部屋だ。お前らもここまで来たなら手貸せっ」
「はいっ、協力します」
奥の部屋の扉に向かって歩き始めるミサキリスとサクネア。
ガララッーーー
「・・・(くそっ、このまま良い気にさせてたまるか・・・)」
サクネアに顔面ごと壁にぶっ飛ばされ、一時的に気を失ってたトシェーキがサクネア達に気づかれない用にゆっくりと顔を上げる。
「・・・(へへっ、後悔させてやるよサクネア。そして、ここにガキを連れてきたバカなお嬢ちゃんにもよ!)」
近くに落ちていた短弩を拾い、矢尻を円寿に向けるトシェーキ。円寿は意識を集中させていないので、それに気づいていない。
「・・・(悪ぃなガキ・・文句ならそこのバカな女二人に言うんだな。へっへっへっ、死ね!)」
シュッーーー
短弩から矢が放たれた音に気づき、音の方へ振り返る円寿であるが矢は既に円寿の眼前に迫りその瞳を捉えようとしていた。
・・・・ーーーー
パシィンッーーーー
「・・・なっ、なん・・で・・・」
「・・・・?」
トシェーキは驚愕していた。完全に円寿の顔を撃ち抜いたと思われた矢が、壁に当たったかのように弾かれたのである。無論、円寿が矢を弾くような動きはしてない。円寿はというと、眼前に矢が迫っていた事に気づくも体を動かす事が出来ず咄嗟に目を閉じた。この瞬間、円寿は死を覚悟していた。戦場には自分の意思でやってきた。ミサキリスでも、シュリナでも、ジュリアでもない、自らの意思で。こうなる可能性もある事は予想していた。まもなく自身の顔を衝撃の後、今まで味わった事も想像した事も無い激烈な痛みが襲ってくるだろう。そして、自身が死する可能性も。等と思い巡らせていたのも束の間、いくら待てども衝撃がやって来ない。恐る恐る目を開けると、視界の先にこちらに矢を放ち終えた短弩を向けたまま唖然としているトシェーキの姿が写った。何が起こったのかわからず、ただ円寿はキョトンとしていた。
「エン君!大丈夫?!」
弾かれた矢の音に気づいたミサキリスが、円寿に駆け寄る。
「大丈夫!?怪我はない?あぁもう本当にごめん。あたし油断してた。エン君にもしもの事があったら、あたし・・・」
円寿の顔を慌ただしく触れ、涙目になりながら取り乱すミサキリス。
「だっ、大丈夫ですミサさん。怪我はありませんので・・おぉ、落ち着いて下さい!」
ミサキリスの慌て方に、自身も慌て始める円寿。
「・・・ハァ、ハァ(くそっ、何故だ。確かにあのガキの眉間を捉えた筈だ。あのガキが・・いや、そんな筈はねぇ・・・)ちくしょお・・・ひぃっ?!」
こちらも何が起こったのか理解出来てないトシェーキの前に、サクネアが指を鳴らしこれまで以上の憤怒の表情で立っていた。
「まぁ待て、今のは・・違っ・・・」
ズゴオォォォン!!ーーーー
顔面に放たれた拳により床ごとめり込むトシェーキ。
「ーーーブベッ・・・」
「良かったなゴミ野郎。エンジュの前じゃなきゃ、殺してたわ・・・」
弱々しい声を出し再び気を失うトシェーキ。放った拳をゆっくりと上げ、唾を吐きつけるサクネア。そして、円寿に駆け寄り後ろから円寿の肩に抱きつく。そんなサクネアの顔は笑顔であった。
「なんだエンジュ!お前出来る奴じゃあねぇか!矢が打たれた後に弾くなんてよぉ!流石育った場所は違ぇけど獣人だな!」
ミサキリスを押し退け、円寿の肩をガシッと掴みキラキラとした表情を向けるサクネア。思わずムッとした表情になるミサキリス。
「???あの・・ぼくは、別に何もしてないんですが・・・」
戸惑いながら答える円寿。
「謙遜すんなよエンジュ!エンジュはすげぇ奴だ。もっと誇らしくして良いんだぞ!よぉ~しよしよしよしよし!」
円寿の頭をワシャワシャと撫でるサクネア。満面の笑みをしている。
「うっ、うぅん・・サクネアさん、そろそろ捕まってる獣人の子供達の所に行きましょうかぁ?」
居た堪れず咳払いをし、サクネアに本来の目的を思い出させるミサキリス。
「あぁ?・・ちっ、わぁ~たよ。よし行くぞエンジュ!手伝ってくれ」
円寿の左手首を強引に掴み連れていくサクネア。
「はっ、はいぃっ」
「あっ、ちょっと!エン君を無理矢理引っ張らないで下さい!」
これにて、児童獣人誘拐組織トレイターはラング・ド・シャットと戦乙女騎士団第7部隊所属の騎士3名、そして保護している獣人の少年の活躍により壊滅した。アジトには、新人騎士リンジアの連絡により駆けつけた第7部隊の騎士達による現場の事情聴取と後始末が行われていた。
「サク姉、おっつ~。獣人の子供達も無事みたいだね~」
戦いを終えたチェルシーらがサクネア達に合流する。
「ミサー、エンくーん。あぁ良かったー、生きてるねー」
「大丈夫?エン君。怪我は無い?」
ミサキリスと円寿の無事に安堵するシュリナと、円寿の心配をするジュリア。
「はい!お陰様で怪我はありません」
柔らかい表情で答える円寿。良かった、とジュリアに頭を撫でられる。
「・・・(なんでさっき、矢が当たらなかったんだろう?ミサさんとサクネアさんが助けて・・・くれた感じじゃなかったっぽいなぁ・・う~ん・・・)」
円寿は頭を撫でなれながら、先程自身に当たる筈であった矢が当たらず、気づいたら地面に落ちていた現象を自分なりに考えていた。
「うん?どうしたの、エン君?難しい顔して。」
「!あぁその、さっき不思議な事がありまして・・・」
「不思議な事?」
「はい、実は・・・」
「エンく~~ん。ミサちゃ~~ん。シュリちゃ~~ん。ジュリちゃ~~ん。」
「!!!!」
優しく綺麗で、どこか人を安心させる用な穏やかな呼び声が円寿、ミサキリス、双子二人の耳に届く。
「アズさん!!」
アズリールが、いつも通りの笑顔で円寿達に駆け寄る。
「みんなお疲れ様~。大変だったでしょう。サンドイッチ作ってきたの。食べて食べて!」
持ってきたバスケットの中には、丁寧に敷き詰められたサンドイッチが入っていた。頭の耳をピコンと立たせ、瞳を輝かせる円寿。日常が戻ってきた用な安心感に包まれ、四人もようやく一安心といった雰囲気になっていた。
「ありがとうございます、アズさん!」
「いただきます!」
各々サンドイッチを手に取り頬張る四人。特に、円寿はとても幸せそうな顔をしている。
「あっそうだエン君。さっき言ってた不思議な事って何?」
「あっはい、それなんですが・・かくかくしかじか・・・」
ジュリアが先程の円寿の会話を思いだし、その事を円寿が説明しだす。
「・・・て事がありまして」
「・・・やっぱりあの時、矢を弾いたのってエン君自身じゃなかったんだ・・」
少し暗い表情でミサキリスが話す。
「ごめん、エン君。こんな怖い思いさせる位なら、エン君を戦場に連れてくるんじゃなかった。本当にごめん」
涙目になり頭を下げるミサキリス。
「ミサ・・・」
「!?あっ謝らないで下さいミサさん!何度も言いますが、連れていって欲しいと言ったのは僕です。ぼくが軽率だっただけなので、あぁのぉ・・・」
ミサキリスの表情を見て慌て始める円寿。
「あぁもう!ミサ!あんた何自分一人の責任みたいに言ってるの!責任だったら、あたしとジュリにもあるからね!」
シュリナがミサキリスに一喝する。
「あとエン君は悪くない!そもそも悪いのはトシェーキ・ザオノーとトレイターの連中。それで良いじゃん!」
「そうだよ、それによく解んないけど、矢は当たらないでエン君は無事だった。それで良いじゃん。もう、ミサは真面目すぎるんだよ・・・」
シュリナの言葉に続きジュリアがフォローを入れる。そして、ミサキリスの頭を撫でる。
「二人共・・・」
顔を上げ、双子二人を見つめるミサキリス。そんなミサキリスに微笑みを向ける双子二人。そんな状況で、アズリールが口を開く。
「エンくんに、矢が当たらなかった理由は、ちゃんとあるわ」
「!?!?!?」
アズリールの言葉に驚愕する四人。
「!?えぇ、本当ですかアズさん!?」
思わず声に出すシュリナ。
「えぇ、本当よ~」
「一体、どんな理由なんですか?!」
詰め寄るジュリア。
「それはね~・・・」
「・・・」
ーーーーニコニコーー
「・・・」
「女神様のご加護よ~」
「・・・????」
其々頭に?マークが浮かぶ四人。
「女神様の・・ご加護?」
「そうよ~。女神様が、エンくんが危ない目に合わないよう、守ってくれてるのよ~」
「!それって、デメティール様がぼくを守ってくれたって事ですか?」
「そうなの!これからも、エンくんにもしもの事があっても、デメティール様のご加護がエンくんを守ってくれるわ!」
「!!はあぁぁ!・・・(ありがとうございます!デメティール様!)」
顔を輝かせ、デメティールへの感謝を思う円寿。その一方で、
「(どう思う?)」
「(どうって・・そのデメティール様の加護で、エン君に危害が加わらない用に運が働くって事なのかな?)」
「(というか、そもそも女神様の加護なんてそんな都合の良い物あるの?エン君、普通に信じちゃってるけど・・・)」
ミサキリスと双子二人が小声で話し始める。
「(う~ん、エン君を安心させる為の、アズさんなりの方便・・とかだったり)」
「(どうだろう、アズさん、あの喋り方で凄い真面目な話しとかするし・・・)」
「(そもそも女神様のご信託といい、アズさんデメティール様やエン君の事詳し過ぎない?)」
等と、ミサキリスと双子二人が話し混んでると、
「ミサ先輩、少しお時間よろしいでしょうか?」
鮮やかな緑みの青色の髪のショートヘアの女騎士が、ミサキリス達に近づいて来る。
「あぁ、リンジア、お疲れ様。どうしたの?」
「はい、保護した獣人の子供達の事で、ラング・ド・シャットの方々が話しをしたいと仰っているのですが・・どうされますか?」
彼女はリンジア・カルネイロ。一月前に、ミサキリス達が所属する戦乙女騎士団第7部隊に配属された新人騎士である。此度は、ミサキリスの指示により援軍の要請をする任を受けていた。
「わかりました。話しに応じましょう。それじゃあ・・・」
「もう来てんぜ」
「!?」
ミサキリスの後ろから顔を覗かせるサクネア。他のラング・ド・シャットの面々も揃っている。
「いっ、いたんですねっ」
少し慌てながら応対するミサキリス。
「あ?何びびってんだよ。まぁいいや。単刀直入に言うわ。保護したガキ共は全員こっちが引き取る。それで良いか?」
「・・・なるほど、一応その理由とこれまで保護してきた獣人の子供達をどうしてきたかを聞いてもよろしいですか?」
「あ?なんで、んな事一々てめぇに言わなきゃ行けねぇんだよ。」
「おっとっとサク姉、これ位話しても良いじゃん?別にあたしら、疚しい事してる訳じゃあ無いんだし」
ミサキリスに突っかかるサクネアを押さえつつ、フォローを入れるチェルシー。
「ちっ、たくっ、わーたよ、いや良いんだろ、いやぁ。で、何からだ?」
「まずは理由だよ、サク姉」
「あぁ理由か。理由も何もねぇよ。獣人は獣人が接してやった方が良いに決まってんだろ」
腕組みをし、ぶっきらぼうに話すサクネア。
「・・うん、まぁそういう事だろうとは思ってました。それで、これから子供達はどうするんですか?」
少し呆れながらも、再び問い返すミサキリス。
「馴染みのある協会にちっとばかし預かってもらい、そっからガキ共の親を探す。勿論、あたし達がな」
「なるほど、その子供達の親御さんを探すのに、国の機関に任せるという選択肢は無いのですか?」
「無ぇな。国だろうが何だろうが、あたしら以外の連中は信用出来ねぇ」
「・・ならせめて、ここにいる戦乙女騎士団第7部隊を、いや、あたしとシュリとジュリだけでも信用してくれませんか?」
「どういう意味だ・・・」
「ここまで関わってしまったんです。あたしも、最後まであなた達の使命を手伝わせていただけませんか?」
「!?」
ミサキリスとサクネアが話し込んでいる背景で、保護された獣人の子供達にアズリールの作ったサンドイッチを配り、一緒に食べ始める円寿。今回保護された獣人の子供達は11人。円寿の側にはアズリールもいる。
「皆~。沢山あるから、一杯食べてね~」
アズリールの優しい声が響く。そんな中、サンドイッチを食べるている少女の一人が、手を滑らせサンドイッチを落としてしまう。まだ、トシェーキによって射たれた薬の痺れが残っていた。
「あっ・・・」
シュバッーーー
地面に触れる寸前の所で円寿がキャッチし、優しく微笑む円寿。
「大丈夫?まだ食べずらいかな?ぼくが食べさせてあげようか?」
そっと、その少女にサンドイッチを差し伸べる。
「あっ、ありがとう、お兄ちゃん!」
円寿に食べさせてもらいながら、美味しいそうに頬張る女児。その光景を笑顔で見つめるアズリール。加えて、サクネアとミサキリスの会話を聞きつつも円寿と獣人の子供達のやり取りを眺めているナミミナ。話しは戻り、そんなサクネアとミサキリス。
「ラング・ド・シャットと、協力関係を結ばせて下さい」
「・・・それは、あたしらと同盟を結びたいて事か?」
「そうです。ただこれは、国の機関としてではなく、あたし達騎士団とあなた達ラング・ド・シャット双方対等な立場での同盟です。有事の際に、あなた達を国の都合で動かすなんて事は勿論致しません」
「たりめぇだ!そんなの真っ平ごめんだからな。まぁ、そうだな、あたしらの仕事の、邪魔にならねぇ程度に力だけ貸してくれんなら、それで良いぜ」
「うん・・まぁ言い方は引っ掛かりますが、良いでしょう。あなた達の信念は、この戦いでちゃんと理解しました。あたしは、あなた達を、サクネア・バサローを信じます」
「んだよ、名前覚えてたんかよ」
「覚えてますよ。ちゃんと自己紹介してくれたじゃないですか」
「さっきから、あなた達としか言わねぇから、忘れてるか覚える気が無ぇのかと思った」
「そんな薄情な事はしませんよ。まったく」
「へっ、んじゃまっ、何かあったら使いをよこすわ。仲良くやっていこうぜ、騎士様。よしお前ら帰るぞお!ガキ共も行くぞっ」
サクネアの声に反応し、ラング・ド・シャットの面々が其々獣人の子供達を抱えて行く。
「よっと、じゃあな」
子供を一人を軽々と肩に乗せ、地上から高く飛び上がり屋根に飛び乗るサクネア。その後を、ラング・ド・シャットの面々も続いて行く。
「うへ~。小っちゃい子とはいえ、人抱えたままあんなに高くジャンプできるなんて、やっぱ獣人は凄いなぁー」
改めて獣人の身体能力の高さに驚くジュリア。
「二人抱えてる人もいるねぇ・・あれ?サクネアさんは獣人じゃないよね」
「そういえばそうじゃん。え?あの人、獣人とか関係なしにあの強さなの?」
「まぁ、それだけ鍛練をしてるて事でしょう。あっ・・・」
「どったの?ミサ。」
「そういえばあたし、サクネア達に自己紹介して無かった。」
「あれま」
「あぁ~も~。同盟相手に名も名乗らないなんて、あたし何考えてんの~」
頭を抱え始めるミサキリス。
「ふっふ~。安心したまえミサキリス君~」
シュリナが少しふざけながらミサキリスの肩を叩く。
「さっきチェルシーさんにあたしら三人の名前、教えておいたよ」
「おぉ~。シュリ、抜かり無い」
「本当!良かった~。ありがと~、シュリー」
「へっへ~」
自慢気に鼻をこするシュリナ。
「さて、そろそろあたし達も帰りますか。エン君、アズさん、帰りますよ」
ミサキリスの声を聞き、笑顔で近づくアズリール。
「あれ?エン君は?」
円寿の姿が無い事に気づくジュリア。
「あ~。そのエンくんなんだけどね~」
アズリールが、ゆっくりとして口調で口を開く。
「ラング・ド・シャットの娘達が~、連れてっちゃったわ」
「・・・え?」
月明かりに照されながら、屋根から屋根へと飛び走るラング・ド・シャットの面々。その姿はさながら、円寿の元いた世界に存在していたとされる忍者の用であった。
「・・・(月が凄く綺麗・・・)」
今宵は見事な満月。何処と無く、自分がいた世界よりも少しだけ月の位置が近いと感じた円寿は、声に出さずその美しさに顔の周りをキラキラさせ虜になっていた。
「・・・(月・・見てるん、だよね?)」
そんな円寿を、お姫様抱っこしながら屋根を飛び渡るのはナミミナ。
「・・・(無理矢理連れて来ちゃった用なものだから、色々言ってくると思ってたんだけど・・まぁ、大人しくしてもらった方がこっちも楽で良いんだけど)」
月を見て顔をキラキラさせている円寿を少し不思議に思いつつ、ナミミナは先頭を走るサクネアの背中を追う。ふと、何かを思い出したかのように円寿が口を開く。
「あの、ナミミナさん・・で、よろしかったですよね?」
「そだよ~。何か用~?」
「これから、何処に行くんですか?」
「あ~、協会だよ~。誘拐された子供達を~、一旦そこに預けるんだよ~」
「預ける?」
「うん、そっから~、子供達のお母さんお父さんだったり~、お母さんお父さんがいない子は~、引き取ってくれる人を探して行くのが~、あたしらの仕事の一部だったりする~」
ナミミナの話しを聞き、頭の耳がピコンと立つ円寿。
「・・・(慈善活動だ!)凄いです!ナミミナさんや、サクネアさん、ラング・ド・シャットの皆さんは人として尊敬に値します!」
円寿の言葉に、少し胸がむず痒くなるナミミナ。
「・・・(うはぁ、凄い真っ直ぐな目して言ってくんじゃん、この子。こういうのって、大体お世辞言ってくるのが殆どだけど・・)うん・・まぁ、あんがとぉ~」
「なになにぃ?あたしらの事、誉めてくれた感じぃ?」
ナミミナの後ろから、肩に子供を一人づつ抱えたチェルシーが追走してくる。
「・・・えっとぉ・・・」
チェルシーを見て言い淀む円寿。
「(チェルシーっ)」
円寿の耳元で呟くナミミナ。
「はっ、チェルシーさん!」
「あー。名前忘れてたな~。そういうの、結構傷つくぞー」
「!?ごっ、ごめんなさい!傷つけてしまって、本当に申し訳ありません!!」
チェルシーの言葉を真に受け、慌てながら謝罪する円寿。
「おっ・・お兄ちゃんを・・攻めないで・・あげて・・お姉ちゃん・・・」
その声は、チェルシーの左肩に乗ってる少女から聞こえた。先程、円寿がサンドイッチを食べさせた少女だ。
「あぁ、ごめんごめん、マジで言ってる訳じゃないよ、お嬢ちゃん。たくもぉ、エンジュが真面目だから、あたしが悪者みたいになったじゃ~ん」
「!?申し訳ありません!!」
「だから・・ダメなのぉ・・・」
「・・・(これ、終わらない奴では?)」
心の内で、三人のやり取りにツッコみを入れるナミミナ。そんな少女が、不思議そうに円寿を見つめ口を開く。
「ねぇお兄ちゃん。どうして、お兄ちゃんも、抱っこされてるの?」
「?・・・ぼくも良くわからないよ」
キョトンとした表情で答える円寿。
「何故でしょうか?!ナミミナさん!」
「えぇ、あたし!?・・まぁ、それは・・・」
「それはだなぁ、エンジュ!!」
「!!」
言い淀んだナミミナの前方から、サクネアの声が響く。
「お前をうちのギルドハウスに招待する為だよ!」
後ろを振り返り、ニカッと笑顔を見せるサクネア。
「せっかくアトラピア大陸に来たんだ、お前に楽しんでもらいてぇんだよ!」
「なるほど!」
円寿の返事を聞くと、前方を向き直しニヤッと口角を上げるサクネア。
話しは少し戻り、トレイターアジト強襲戦終戦直後のラング・ド・シャットの面々。
「チェル!ナミ!ちと顔貸せ!」
「な~んのようじゃい、サク姉~」
「顔は貸せないけど、話しは聞くよ~」
冗談を言いながらサクネアに近寄るナミミナとチェルシー。そんな二人に顔を寄せるサクネア。
「あのガキ共連れてく時、エンジュも持ってくぞ」
「!?マジ?サク姉」
「そんな事したら~、赤ポニーのお嬢ちゃ~ん、怒るんじゃないの~?」
「んなこたぁ知らねぇよ。それより、あたし考えたんだよ~。エンジュをこっちに引き込む方法をよぉ~」
「?」
「あいつらよりも、あたしらの方がエンジュにとって得があると思わせて、エンジュの口からあたしらの所にいたいと言わせりゃ良いんだよ!そうすりゃ、文句は言ってこねぇだろぉよ、あいつらも」
自信満々にかつドヤ顔で話すサクネア。
「ワ~オ、サク姉・・なっ、ナイスアイデア~・・・(絶対後々トラブるやつだ、これ)」
「・・・(面倒な事になったらチェルに任せれば良いや)良いんじゃな~い、サク姉~」
其々思う所があるものの、サクネアに賛同するチェルシーとナミミナ。
「うしっ、んじゃ段取りだ。あたしがあの赤ポニーと話してる時に・・ナミっ、お前がエンジュを確保しとけ!」
「えぇ~、あたし~?」
「頑張~、ナミ~」
「むぅ~」
そしてサクネアとミサキリスが交渉している最中、サクネアの言いつけ通り様子を見つつ子供達とサンドイッチを頬張る円寿に近づいていくナミミナ。
「・・・(あ~、めんどいな~。こういうのってチェルの仕事でしょ~。確保しとけって言われたけど・・・)」
ノソノソと円寿の前に立つナミミナ。
「?」
口をモグモグさせながら、自分を見下ろすナミミナの目を見る円寿。
「・・・(要はあの娘達に気づかれないようにすれば良いんでしょ~。)えっと~、エンジュさ~、とりあえずさ~、あたしらと一緒に~、来てくれな~い?」
「?・・・」
キョトンとした顔で、瞬きをし首を傾げる円寿。
「何でですか?」
「え~と~、何となく~、かな~」
「何となく・・ですか・・・」
「・・・(やっぱ、ムズいかな~)」
「・・・良いですよ」
「!?お~、マジか~、話し早くてぇマジ助かる~」
思いの外スムーズにOKの言葉が出た事に、ナミミナなりに驚きつつ話しを続ける。
「でさ~、あの~ポニテ三姉妹には~、一旦内緒にしといて欲しいだけど~」
「?何でですか?」
「何となく~」
「!・・はい、わかりました!」
「・・・(チョロ過ぎじゃないかな?この子)それじゃ~・・あっ・・・」
少し視線を上げた所、笑顔でこちらを見ているアズリールがいる事に気づく。
「・・・(そうだった、この人がいるんだった。どうしよう・・)あの~、とりあえず~、エンジュをお借りしたいんですけど~、よろしいですか~?」
「あら~、エンくんを~?う~ん・・・」
「・・・(やっぱし・・・)」
「エンくんが良いて言ってるのなら、構わないわよ~」
「!?えぇっ、良いんですか?」
間延びした口調を忘れる位に驚くナミミナ。
「大丈夫よ~。あたしは、エンくんにこの世界で、沢山思い出を作ってほしいと思ってるの。だから、エンくんが良いって言うなら、あたしが止める必要は無いわ」
「あの・・あたしが言うのも何なんですけど、連れ去ってそのまま返さないて可能性だって、有るかもしんないし・・心配には、ならないんですか?」
「それは心配ないわ。だって~・・・」
「だって?」
「心配の必要は無いって、女神様が言ってるの。だから、安心して行ってきて良いわよ、エンくん」
「はい!わかりました!」
「・・・」
時は戻り、協会へ向かうラング・ド・シャットの面々。
「それにしても、エンジュはともかく、アズリールさんも丸め込むとは、ナミも結構やるじゃ~ん」
「いや~、あたしは特に~・・・(なんか気持ち悪い位、スムーズに話しが進んだんだけど・・何か此方の事情が分かっているみたいな・・・女神様が言ってたぁ・・て、言ってたっけ)」
ナミミナが疑問に思っているのも束の間、先頭を走るサクネアが声を上げる。
「うっしぃー、着いたぞぉ、お前らぁ」
ラング・ド・シャットの面々が降り立つと、そこにはそれなりの大きさの協会が立っており、入口には修道服に身を包んだ女性が立っていた。
「サクネアさん、皆さん、夜も遅い中お疲れ様です」
「よぉ、ハスティマ、今回も連れて来ちまった」
「・・・仕方がありませんよ。獣人の子供達が安心して暮らせる世界になるまで、あたし達は戦い続ける、そう言ったサクネアさんの力に少しでもなれるなら、あたしもこの使命を最後まで全うすると、神に誓ったのですから」
「・・そうだったな、悪ぃな、辛気臭い事言って。よっと」
そう言って、肩に担いでいた子供を下ろすサクネア。他の面々も、続々と子供達を下ろす。
「良いかぁ、ガキ共。お前らはこれから、お前らの御袋や親父が来るまで間、ここで世話してもらいな。なぁに、すぐあたしらが迎えをよこすからよ、安心して待っていやがれ」
穏やかな表情で子供達に語りかけるサクネア。
「あっ・・お兄ちゃんは、一緒じゃないの?」
先程まてチェルシーに担がれてた少女が、不安そうな目をしながら円寿に視線を送る。
「ん?あぁ、エンジュはな、お前らとはまた別の奴なんだよ。すまねぇな」
少女の頭にポンと手を置くサクネア。
「・・・そうなんだ・・・」
少女の残念そうな表情にいたたまれず、駆け寄り少女の前でしゃがむ円寿。
「大丈夫だよ。これからはぼくもここに来て、皆に会いに来るからさ、その時はいっぱいお話ししよう!だから元気だして!」
ニコッと笑う円寿に、不安気な表情が晴れる少女。隣では、サクネアが穏やかな笑みを浮かべてる。
「うん、わかった。約束だよ!」
「うん、約束」
そう言って、小指を立たせた手を出す円寿。少女とサクネアが、不思議そうにそれを見る。
「エンジュ、なんだそれ?」
「これ?これはですね、ぼくのせか・・じゃなかった、僕のいた大陸にある、約束する時にするおまじないみたいな奴で、指切りげんまんて言うんですよ」
「指切り・・げんまん?」
「そです、じゃあお嬢ちゃん、ぼくがやってるみたいに、小指出してくれるかな?」
「うん」
そう言って、円寿同様小指を立たせた手を出す少女。
「こうやって、指を引っ掻けて、ーー指切りげんまんーーー嘘ついたら針千本飲~ますーー指切った!ーーはいっ、これでオッケーだよ」
「おっ、オッケ~」
「・・・中々に物騒な歌詞だな、その約束のやり方」
「!たしかにそうですね。」
円寿の言葉で、少女が笑いだし連れて円寿とサクネアも笑い出す。
「はははっ!さてと、じゃあ行くぞ、エンジュ」
「はい!・・えと、どこにでしょうか?」
「忘れたのかぁ?しょうがねぇ奴だなぁ。あたしらのギルドハウスだよ!・・・(あの赤ポニーには悪いが、エンジュはあたしのものにしてやる、骨抜きにしてやっからよ~、楽しみしてろよ・・・)」
ー続くーーーー
この度は、ケモ耳美少年のなすがまま異世界観光を読了いただき誠にありがとうございます。にがみつしゅう、と申します。小説家になろう、初投稿であり小説を書く事事態が今回初めての私です。大変拙い文章て所々日本語がおかしいと思う所もあると思いますが、生暖かい目で見ていただけると幸いでごさいます。この作品を書こうと思ったきっかけですが、自分自身、漫画、ノベル、アニメが好きでそれなりに多くの作品を見てきました。自分の人生と言っても言い位の作品も沢山あります。作品を見て行く内に、その作品内に自分の考えたオリジナルキャラを登場させたくなる事が読者の方にもあると思います。こんなキャラが登場したら面白いだろうなぁ、と考えた事があると思います。そんな妄想を物心ついた時から考えて何十数年。ふと、自分の考えたキャラで、自分の好きな物語を書いてみようかなと。
お恥ずかしい事に自分は、絵を書く事ができません。絵心がありません。頭の中に描けても、それを書き写す技量がありません。ならばと思い、せめて文章で表現しようも思い今日に至ります。
さて、ここでこの作品に対する私のこだわりみたいな物を書いてみようと思います。この、ケモ耳美少年のなすがまま異世界観光という作品に登場する女性キャラは、円寿よりも年が下にかなり離れているキャラ意外は、基本的に円寿よりも身長が高いです。円寿の身長が156cmで、女性キャラはこの身長より大なり小なり上に設定してあります。これは、私が低身長男子と高身長女子な組み合わせがたまらなく好きだからです。性癖です。すいません。なので、小さい女の子のキャラが好きな方は、この作品の事を好きになれない可能性があります。申し訳ありません。また、年齢も円寿より年上のキャラが殆どです。今後出すキャラも、基本的には円寿より年上だったり大人びてるキャラばかりです。性に関して積極的なキャラも出てきます。これは、うぶな円寿との対比という意味もあります。うぶな男の子と性に積極的なお姉さん。性癖です。すいません。こんな内容なので、かなり選り好みすると思われます。もし、この作品を少しでも気に入って頂けると幸いでございます。改めまして、ケモ耳美少年のなすがまま異世界観光を読了いただき誠にありがとうございました。