表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
びらん  作者: ツヨシ
8/22

8

おびえる者、不安がる者、逆に不安をあおる者、なぜか面白がっている者、ここにきて完全に無関心な者。

十人十色だ。

桜井は怖いとまではいかないが、不安を感じていた。

自分一人だったなら、そこまで不安には思わなかっただろう。

しかし今は同じマンションに妹がいるのだ。

心配しないほうがおかしい。

ましてや人一倍仲の良い兄と妹なのだ。

桜井の心配は取り越し苦労とは言えなかった。

――何事もなければよいのだが。

桜井はそのことにとらわれることが多くなった。


桜井が待っているとあんりが来た。

約束通り事前に連絡を入れてから訪ねてきたのだ。

「ヤッホー。可愛い妹が訪ねてきてやったぞ」

入り口で大きな声で騒ぐ。

近所の人にも聞かれていることだろう。

まあ、彼女ではなくて妹なのだから、誰に聞かれたとしても恥ずかしくはないのだが。

「うるさいから早く入れ」

「へいへい」

あんりは兄を押しのけるようにして中に入った。

そして部屋のあちこちのものを触ったり、移動させたり、ひっくり返したりし始めた。

「おいおいなにをしてる」

「探してんの」

「なにを?」

「エッチな本」

こらこら。

桜井は思った。

もともとそんなものは持っていないし、たとえ持っていたとしたら、妹が来る前に処分しただろう。

仕方がないのでそのままにしていると、妹は下手な泥棒のごとくこれでもかと家探しを続けた。

ここは一人用の部屋だ。

探す場所はそんなにない。

あんりのペースは徐々に遅くなり、やがて止まった。

「もう、私の兄はエッチな本を隠す天才か」

「だからもともとそんなものはないと言っているだろう」

「それじゃあ第一目的はとりあえず済んだから、次は第二目的」

「エッチな本を探すことが、兄の部屋を訪ねる第一目的かい」

「正解」

「で、第二目的は?」

「遊ぶ」

「なにして?」

「じゃーーん」

あんりがバックから取り出したのは、人気の対戦型ゲームソフトだ。

「おお、新作だな。旧作ならやったことがあるが」

「これで兄ちゃんを負かして、一生私の下僕にする」

「ゲームに負けたくらいで、一生妹の下僕になんかなるわけないだろう。それにそのゲームならあんりなんかに負けないぞ」

「言ったわね。その言葉、ちゃんと覚えときなさいよ」

「ああ、覚えておくさ」

「それじゃあ」

二人でテレビゲームをやり始めた。

そしてそれは夕方から次の日の朝まで続いた。

日曜日は二人とも会社が休みなのだ。


桜井のもとに今日もあんりが訪ねてきた。

最初に遊びに来てから、週末は一度も欠かすことがない。

――毎週だぜ。

桜井は半ば呆れていた。

しかしけっして嫌ではなかった。

妹と遊ぶのはすごく楽しいのだ。

ただ心配なのは、妹が世間で言うところの呪われたマンションに住んでいることだ。

それだけが桜井にとってずっと気がかりだった。


大場さやが大学から帰ると、またあの女がマンションの入り口に立っていた。

マンション内でもかなりの噂になっている。

不審者として通報した方がよいのでは、という話もでているのだ。

大場も不気味に感じてはいたが、あの女に対して特になにかしようとは考えていなかった。

そしてその女の横を原付で通る。

するとその女が途端に大場を見たのだ。

前回は原付を降りて押しているときに女が見ていた。

しかし今日は横を通り過ぎただけで、大場を見たのだ。

誰が通過しようが、誰が凝視しようが、話しかけても反応しないことで有名なのに。

この前も今日も、大場ただ一人だけに反応しているのだ。

――なんなのかしら、あの人。

大場は気味が悪くなり、いつもなら原付を降りて押して通る細道を、そのまま原付で走り抜けて駐輪場まで行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ