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びらん  作者: ツヨシ
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自分の住んでいるマンションで次々に飛び降り自殺が続き、そこに妹が越してきたと思ったら、その妹までがその身をマンションのコンクリートに叩きつけて死んでしまった。

おまけに警察にいろいろと聞かれ、マスコミに追われ、会社やマンションでは有名人だ。

それだけでも気疲れが酷いというのに、おまけに噂の女にまで目をつけられてしまったようなのだ。

もうなにをどうすればよいのかわからない。

桜井は考えた。

そして考えることをやめてしまった。

疲れた頭が、考えることを拒否してしまったのだ。


本部が待っていると、桜井健一が帰ってきた。

そして本部を見て、とても驚いたような顔をした。

それは本部にとっては完全に想定内だ。

とにかく相手にどう思われようと桜井を視ることが最優先だ。

本部は桜井を視た。

できる限りその霊的波動を視ようと。大場さやを視たことで見つけた細い糸。

この頼りない糸を桜井を視ることで確かなものにするのだ。

桜井は自分の部屋に入った。

もう直接見ることはできない。

しかしもう一本の細い糸が見えた。

二本になれば一本とは比べ物にならないほどに、目的へと導いてくれる。

本部はいったん家に帰った。

そして日本の見えた糸を二方向からたどった。

――もうすぐだ。

本部は集中した。

これほどまでに集中したのは何年ぶりだろうか。

そしてようやくたどり着いた。

マンションに巣食う災いをなすものに。

――びらん!

本部はそいつを知っていた。

直接見たわけではないが、そいつの存在を知っていたのだ。

だから最初に正体がわからないのになぜか知っているような気がしたのだ。

霊的な存在は現実のものとは違い、知っているだけで何かを感じ取ることができる。

――びらん。随分前に封印されたはずなのに。

本部はスマホを手に取ると、どこかに連絡した。


草野司は自宅でまそろんでいた。今日は本業もたまに請け負う仕事も休みである。そのにスマホがなった。みれば本部いくえからだった。

――本部さんか。ずいぶん久しぶりだな。

 スマホに出ると本部が開口一番に言った。

「草野さん、びらんはどうなった?」

――びらん? 確か父が随分前に封印したはずだが。

 草野は頭に浮かんだことをそのまま言った。本部が返す。

「いや、びらんは封印されてない。びらんは今、例のマンションにいるぞ」

「例のマンション?」

「ニュースは見るだろう。例の何人も連続して転落死している人が出ているマンションだよ」

――!

草野には思い当たる節があった。例のマンションのことはニュースで見て知っている。あのニュースを見たときは「まるでびらんがいるみたいだな」と思ったことを思い出した。しかもあのマンションには、今自分の息子が住んでいるのだ。本部はもう一度言った。

「びらんはどうした?」

「ちょっと待ってくれ」

草野はスマホを持ったまま家を出た。そして裏の倉に行き、すこし時間はかかったが、すべてを見た。そこにはびらんを封印した箱がなかったのだ。

「ない! びらんを封印した箱がない」

草野が本部にそう言うと、本部が言った。

「やはりないのか。で、それがどういうわけだか例のマンションにあるというわけだな」

草野は一息ついてから言った。

「どういうわけもなにも、あのマンションには今、私の息子が住んでいるんだ」

「なんだって!」

本部は素っとん狂な声を上げた。それほど驚き、同時に腑に落ちたのだ。

「するとあんたの息子がびらんを封印した箱を持ち出し、あのマンションで封印を解いたことになるな」

「そ……そうなるな。ニュースを見てびらんがいるみたいだなとは思ったんだが、自分の息子と関連付けることは思いつかなかった。うかつだった」

「なんてことを。あんたの息子はそんなにバカなのかい」

「子供の頃からあの箱には触れるなと言い聞かせてはきたんだが」

「言い聞かせても、結局は聞いていなかったことになるな」

「そうだな。なんと言ってよいか……」

「で、あんたの息子はあのマンションのどの部屋にいる」

「行くのか」

草野は棟と部屋の番号を告げた。

「あたりまえでしょう。ついでに何発か殴ってくる」

「いくらでもどうぞ。好きなだけ殴ってください。私も今すぐそっちに行く」

「青森から? それは少し時間がかかるな。私が先に行っておくから、あとから来てくれない」

「ああ、そうする」

「それじゃあ、そういうことで、今から行ってくるから」

「ああ、私も今すぐ行く」

「それじゃあ」

「わかった」

電話は切られた。本部は頭を上げた。

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