表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
びらん  作者: ツヨシ
10/22

10

桜井は待っていた。

そろそろあんりが来る時間だ。

正確に何時何分ということではなく、仕事が終わった後ということだ。

桜井は残業もあるが、その時は連絡を入れることになっている。

その日の残業はなかった。

だからその連絡はあんりには入れなかった。

そうするとあんりは桜井の仕事が終わった一時間後か二時間後か三時間後くらいに訪ねて来る。

決まった時間はない。

しかし二時間が過ぎたころ、展開がかわった。

見知らぬ男が二人訪ねてきたのだ。その二人は警察手帳を見せた。

――まさか!

そのまさかだった。

桜井あんりは高いところから落ちて、病院に搬送される前に死んだ。

死因は頭部と内臓への損傷。

どちらも致命傷にあたるということだった。

兄と妹であり、どちらも同じマンションに住んでいるということで、桜井のショックや悲しみなど関係なしに、警察でいろいろと聞かれたが、状況も目撃証言も高度からの転落死であり、誰かに突き落とされた形跡もないため、最初から自殺と判断されていてので、桜井の拘束の時間はそれほど長くはなかった。

自殺となればその動機はこれまでと同様に不明だが、殺人の動機ならともかく、自殺の動機など警察にとってはどうでもいいことだった。

あんりが死んだと聞いた後は、桜井はショックのあまり呆然とし、妹の遺体確認の時には涙を流したが、それ以外は警察の質問に対してほとんどまともに答えることができなかった。

しかし身内の死にショックを受ける人間など、ベテランの刑事は見慣れたもので、それも含めて桜井がなんだかのかたちで疑われることは全くなかった。


あんりが死んだ。

仲の良い身内が、妹が。

それから身内の死ということもあって桜井は仕事を休み、お通夜、お葬式と慌ただしくすごした。

両親や親族も駆けつけて、その対応にも追われた。

あんりの死は全国ニュースでも取り上げられ、呪われたマンションの六人目の自殺者としておおきく扱われた。

同じマンションに住む兄と言うことで、桜井はマンション中の注目を集め、その上なにがあっても報道優先のマスコミにも追われた。

数日ぶりに会社に行けば、違う部門の話をしたことがない人にも好奇の目で見られ、同じ部署の顔見知りからは腫れ物に触るような扱いを受けた。

職場においても自宅においても、生活環境が大きく変わってしまったのだ。

桜井の最愛の妹を失った悲しみは大きかったが、それにひたる雰囲気ではまるでなかった。

周りが人が、変わりすぎたのだ。


本部いくえはテレビを見ていた。

ニュースだ。

巨大マンションでの六人目の自殺。

それに対してインタビューを受けているのは同じマンションに住む実の兄だ。

妹が死んだばかりの兄にマイクを向けるのはどうかと思うが、それがマスコミというものなのだろう。

さすがに顔は映らないようにしていたが、体はばっちり映っている。

そしてテレビ越しでも見える。

特別な霊的波動が。

若い女性が死んだのは悲しいことだが、これで悪霊に対する糸口が、原付の女についで増えたのだ。

しかも名前もわかっている。

――もうこのまま突き進むしかないね。

本部はそう思った。

本格的に行動し、あの邪悪なるものと正面切って対峙するときが近づいたのだ。

本部の体は震えていた。

それは武者震いであり、強大な敵と戦うための恐怖でもあった。

本部にはわかっていた。

いったんことが動き始めたら、その結果がどちらに転ぼうと、そう時間はかからないのだ。


廊下を歩いていた。

マンションのずらりと並んだ部屋の玄関の前の廊下である。

マンションやアパートには必ずといっていいほどあるやつだ。

篠田が歩いていたのも、そこを歩く多くの人がそうであるように、自分の部屋に帰るためだった。

するとなにかが飛び出してきた。

篠田の部屋の隣の玄関から。

玄関が開いたわけではない。

そいつは玄関の閉まっているドアを通りぬけてきたのだ。

そこにはなにもないかのように。

そして廊下に立ち、園田の方を向いた。

あきらかに人型だが、まるで普通ではない。

白に近い灰色の不気味極まる顔をした女。

その表情は、これまでの人生において篠田が見たことがないほどに、無表情だった。

それだけでも十分すぎるくらいなのに、それ以上に信じられないことがあった。

その成人した顔の女は、どう見ても三歳くらいにしか見えない幼女の身体をしていたのだ。

まるでマンガのような二頭身。

肩幅よりも顔の幅の方が少しだけ大きい。

首のところはどうなっているのか。

見えているはずなのに、なぜかよくわからなかった。

篠田はそれをまじまじと見た。

そいつがあまりにも異常すぎて現実感がなく、怖いという感情がわいてこなかったのだ。

ただ驚きは大きく、固まってしまった状態だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ