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異世界転移装置「パラレルトランサー」

「ふはははははははは!ふははははははは!できたぁできたぞぉ!っふふふふふ」


 一人の男の不気味な笑い声が夜の研究棟に響き渡る。

 その不気味な声の音源のある部屋に白衣を着た女子がドアをバンっと開ける。


「先輩五月蝿(うるさ)いです!これで何度目ですか!」



「おお!見習い!見ろ!この今世紀、いや人類史最大の発明を!!」



 その先輩と呼ばれた男はバンバンッとその「人類史最大の発明品」らしきものを左手で叩く。



「ーなんですか、それ。ロッカーですか?あと見習いじゃないです」


 するとその男は顔に手を当て不敵に嗤う。中二病のポーズである。



「クククククク…聞いて驚け。これは異世界転移装置、名付けてパラレルトランサーだ!」



「・・・・・・・」



「おおう?驚きで声も出せないか?まぁ無理もない。お前は今、人類史最大の発明を目の当たりにしているのだからな!」


 はっはっはとその男は声高らかに笑う。


「違いますよ。呆れて物も言えなくなっただけです!だいたい異世界転移装置ってなんですか?」


「そのまんまだぞ。このパラレルトランサーで異世界に転移できるのだ」


「はぁ....。あと先輩、パラレルのスペリング間違ってますよ?ParalelじゃなくてParallelです」


「ああ?うぅ。たしかに。良い指摘だ見習い!」



 そう言うとその男は「人類史最大の発明品」にマジックペンで棒を一本無理やり付け足す。



「よし、では早速実験しよう!」


 その男は部屋の電気を消し、直径5cmくらいあるコードをコンセントに繋ぐ。



「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください、先輩。また大学のブレーカー落としたりしませんよね?その箱」


 また、というのはもちろん前科があるからである。


「Parallel Transerだ。ああ。問題ない。ブレーカならまた上げればいい」


「はい?また教授とか先輩たちに怒られますよ」


「教授が怖くて異世界に行けるか!!」



 その男は脇に置いてあった大きなリュックサックを背負い、宇宙服のようなものを上から着用する。


「え?先輩が入るんですか?」


「じゃねぇと異世界に行けたか確認できないじゃないか。それでは見習い、行ってくる!」


 右手でその男は敬礼をしその箱の中に入り、ガチャンっと扉を閉める。閉まる音自体はロッカーそのものであった。

 

「スイッチぃぃぃぃい、オーーーーン!!!」


 その箱は地震でもないのにガタンガタン揺れ始める。


「せ、先輩?ちょ、ちょっと待ってください!本当にこれ大丈夫なんですか!?」


 箱の上にあるアンテナの様な部分から空中放電が起きている。


「あわわわわわ、、、うう、先輩、私も行きます!!!」


 そういうとその白衣の女子は扉をこじ開ける。


「見習い、お前、なにを!?」


 その次の瞬間、どどどどーん!!と轟音と共にバツンっと研究棟のブレーカーが落ちた。


「さぁがぁのぉ!!!お前はまたかぁ!!!!!」







(ーーーえ?なにこの感じ!?ふわふわする。本当に異世界に転移しているの?)


 



「大気成分、異常なし。気圧も問題ないな」



 その男は何かの機械装置の数値を見て安全を確認すると宇宙服の様なものを脱ぐ。




「おい、見習い、大丈夫か?てかなんでお前来たんだ?」


 白衣を着た女子はその男の足元に横たわっていた。



「う、うう。せ、せんぱい?ーーーえ?ってここどこですか?」


 二人は山道のようなところにいた。地面に草が生えていないところを見ると道なのであろう。


「そりゃ、暫定ではあるが異世界であろう?あともうこの世界では俺は先輩ではない。お前と同時にやってきたわけだからな」



「は、はぁ」



 見習いと呼ばれていた白衣少女はいまだに状況を掴み切れていない様であった。



「とりあえず、見習い、偵察に行くぞ」


 そう言って前方の茂みの方へ近づく。



「あのぉ、先輩。先輩が先輩でないのなら、私も見習いではないのではないでしょうか?」


「ああ?んん、まあそれもそうだな。行くぞ結花(ゆいか)


「ーーーっ!なんで下の名前なんですか?ーーーんーもう、あ、奇仁(あやひと)く!?」


「しっ!静かに。おい、あれを見ろ。異常に大きい爬虫類がいるぞ!」


 

 奇仁と呼ばれかけた男は手で結花の口を抑え、茂みの向こう側に指を差す。

 その方向には2mくらいの恐竜のような何かが立っていた。



「ちょ、なんなんですかあれ。恐竜?え?どういうこと?と、とりあえず逃げましょうよ」


「いや、リードがしてあるところを見ると家畜か何かであろう。おそらく大丈夫だ」



 奇仁は何やら記録を取り始める。


 時刻22:13 嵯峨乃 奇仁、門鳴 結花の二名が異世界らしきところに到達。

 異世界の現地時刻は午前10時と推定できる。

  

 22:15 家畜化されていると思われる巨大な爬虫類を発見。



「写真撮っとくか。スマホ、バグってなきゃいいのだが」


「せんぱ、いや奇仁くん、奇仁聞いているの?」


 結花は下の名前を呼ぶのを少し恥ずかしがりながらも奇仁の袖を引っ張りながら言う。


「おおなぜ呼び捨てに変えた?まあなんでもいいが」


 無音のカメラでその爬虫類の写真を撮る奇仁。



「誰か来まし、来たよ」



 恐竜の様な生き物の頭を撫でている。見た目は人間であり、衣服を身につけている。



「ああ?あれはどっから見ても霊長類だな。しかもヒトだな」


「そりゃ、見れば分かるよ。ってあれ、どこか行くよ?」


 結花はどさくさに紛れてタメ口で話すことにしたようだ。


「よしついていこう」


「え?やめときま、やめとこうよ。尾行なんて」


「ストーキングだ」


「一緒じゃない!」



 『恐竜』と『ヒト』を追うこと数分。


「おいおいおいおいおいおいおい!なんだここは!中世ヨーロッパか?まるでドイツのネルトリンゲンではないか!」


 奇仁たちは丘の上に出ていた。その丘から大体1km先に円形の城壁に囲まれた町、のような場所が見える。


「クククククク…とうとう来てしまったのだな、異世界に。実験は成功だ!」


 Hello Worrrrrld!!!!と両手を万歳して奇仁は叫ぶ。


「じゃあ異世界と確認できたのなら帰りましょ」


 結花は本当にドイツのネルトリンゲンに来てしまっている可能性は指摘しなかった。


「ん?あの装置は一方通行だぞ?」


 異世界転移に関して驚くタイミングを逃していた結花であったがそれ以上の驚愕が実は待っていたのであった。


「ーーえ?…えええええぇぇえ!????」


 その驚きの悲鳴は奇仁のHello Worldの声より大きなデシベルであった。



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