#9,決着をつけたい
翌週の月曜日。裕の風邪はすっかり良くなっていた。そしてまたいつもの通学路。
「おはよ、長谷川さん。」
「おはよう、裕君。」
「…え?」
今、確実に桃子は裕のことを『裕君』と呼んだ。
「どうしたの、裕君?」
「いや、今まで名字で呼ばれてきたから…」
「だってもう明日で付き合い始めて2週間だよ?それより裕君、風邪はもう大丈夫?」
「大丈夫だけど…。」
「どうしたの?」
「いや、下の名前で呼ばれるの慣れてなくて…。」
「日野さんには呼ばれてるのに?」
「芽衣とは小さいときからの付き合いだから当たり前っていうかなんというか…。」
「私のことも桃子って呼んでほしいな…」
桃子は結構本気だ。そのことは裕にも伝わっていた。
「うぅ…。わ、わかったよ。これからは下の名前で呼ぶ…。」
「じゃあ、今呼んでみて?」
「い、今!?」
「ほら、早く。」
せがむように桃子が言う。
「も、桃子。」
恥じらうように裕が返す。
「その様子だと裕君は自分の答えが出たんだね?」
「答え?」
「私とちゃんと付き合うかどうか。」
少しの間沈黙が走る。そして裕が返事をしようとした時だ。
「おはよう、裕!」
あたかも偶然を装った芽衣が2人の間に割り込んだ。
そのまま3人は学校に着いた。結局桃子の問いかけに対する返事はうやむやにされたままだった。この日は1日中クラスに不穏な空気が漂っていた。そして学校にいる間は大きな事件はなく放課後になった。
「さてと、日野さん。今朝のあれは何かしら?」
「何?って私は普通に裕に挨拶しただけだよ?」
「いつもはそんなことしないのに?」
「今日は偶然いつもと違う時間に出ただけ。」
そしてしばらく論争が続いた。裕はずっと黙ってその光景を眺めることしかできなかった。
「じゃあわかった。今度こそ本人にどっちと付き合いたいか、決着をつけてもらいましょ?」
「そ、それは…。」
いつもは強気な芽衣だが今日は少し弱気だった。今朝のことから考えるにもう予想はついているのだろう。
「裕君。私と日野さんどっちを選ぶの?」
2人は裕を見つめていた。
最終回に当たる短編を制作しました。よければ読んでください