#7,長谷川さんVS芽衣 前半戦
雨もすっかり止んだ次の日。
「それで、なんで長谷川さんと芽衣が俺の家に?」
「そりゃ青木君が風邪を引いたっていうから心配でお見舞いに…。で、この日野さんは勝手についてきたの。」
穏やかな声色だが確実に悪意のある言い回しをする桃子。
「勝手についてきたわけじゃないよ?幼馴染として心配だったから来たの。それを言うなら長谷川さんの方がついてきたの。」
声は明るいが完全に目が笑っていない芽衣。まさに修羅場といった状況だ。
「えっと…2人ともそんなに仲悪かったの?」
「別に仲悪いわけじゃないよ。ね、日野さん?」
「うん。全然仲悪くないよ。」
いつからこんな関係になったのかというと数時間前まで遡る。
この日、芽衣と桃子の2人は朝のホームルームの時に裕が風邪で欠席したことを知った。そして1時間目の準備をしている最中の事だ。
「「今日、青木君(裕)のお見舞いに行こうかな?」」
こうして桃子と芽衣はお互いの方を向き合った。
「あなたは、日野さん?お見舞いにって青木君のところに?」
「そうですけど?彼女さん。」
芽衣は話し始めからかなり喧嘩腰だった。
「私と青木君が付き合ってるって知っているのになぜあなたが青木君のお見舞いに行くの?」
「私、裕と幼馴染なので。」
芽衣はあえて『裕』と言うところを強調し普段の明るい性格とは打って変わって冷淡な口調で話す。
「でもただの幼馴染でもそんなに仲良いものなの?」
「ただの幼馴染じゃなくてちゃんと将来を約束し合った幼馴染です。」
語弊を招くので訂正すると『将来を約束し合った』と言ってもそれは子供の頃のじゃれ合いといった約束事でそんな正規のものではない。
「いつ?」
反撃に転じるため桃子も強気に出る。
「5歳の頃に。」
「やっぱり。そんなの子供のじゃれ合いのうちじゃない。」
「そんなことない。」
「なんでそう言い切れるの?」
「裕は…優しいから。」
そして2人の間に沈黙が走る。授業開始のチャイムが鳴った。その時2人は我に返る。1時間目は移動教室だった。2人とも教室へと急いだ。
そんな出来事があった結果、今の桃子と芽衣の関係が出来上がってしまったのだ。
「えっと…2人とも…落ち着いて?」
「「落ち着いてるよ。」」
裕の部屋を緊迫した空気が包み込んでいた。