#1,なぜこうなった
「さぁ、なんでお前が長谷川さんと付き合ってんのか、説明してもらおうか?」
威圧的に青木 裕に詰め寄るのは彼の友人である林 翔太。
「いや…その…えっと、まだ仮って言うか…。」
「言い訳はいい。ちゃんと言ってみろ?」
一応顔は笑っている。それがよけいに恐怖感を生んでいるのは言うまでもない。
「は、はい。あれは5日前のこと…。」
5日前、裕は長谷川 桃子に呼び出しを食らっていた。場所は生徒会室。桃子は風紀委員会に入る程真面目で容姿端麗。しかし、やはりと言うべきかかなり冷たい性格をしている。そんな彼女に呼び出しを食らったのだ。普通は生活態度が悪いだの身だしなみが整ってないだの言われると思う。現に呼び出された当の本人もそう思っていた。
あぁ、今日はついてなかったな。と思いながらも彼は生徒会室に足を運んだ。
「失礼します。」
生徒会室に入るとそこには彼女1人が待っていた。
「ノ、ノックくらいしなさい。」
何か動揺している様子の彼女。
「す、すいません。…それで今日、俺なにかしましたか?」
「ベ、別になんでもない!…いいからちょっとこっち来て。」
「は、はい。」
言われるがままといった具合に桃子に歩み寄る。
「…ちょっと待ってて。」
「はい。」
明らかに何かがおかしい事には裕も気づいていた。
それからどのくらい経っただろうか。ようやく彼女が口を開いた。
「……好きです。」
超真面目な清楚系美少女に告白されるというリアルではなかなか遭遇できない展開。
「…え?」
こんな反応になるくらい許してほしい。
「なによ。不満?」
「その、驚きというか意外というか何というか…。」
一言で表せば謎であった。思い当たることと言えば、身だしなみの件、それもほんの些細なことで1度だけ呼び出しを食らったことがある。
「そ、そうね。…あなたみたいな純粋な人は初めてだったから…。」
「そう?」
「…ええ…。それで、その…私と付き合ってくれる?」
それだけで恋に落ちるものだろうか。しかし、勇気を出して言ってくれたことにかわりはない。そう思う裕は、"付き合う"か"振る"かではなく第3の選択肢を選ぶことにした。
「少し話を聞いてくれる?」
「えぇ。」
「まず付き合うかどうかに関してだけど、仮で付き合うってことにしてくれないかな?」
「どういうこと?」
「告白してもらって嬉しかった。けどまだ自分の気持ちがよくわからない…だからしっかり考えたいんだ。
「じゃあなんで仮でも付き合ってくれるの?」
「…仮で付き合ってたら長谷川さんのこと知られてもっと考えられそうだから。」
「……そ、そう。ありがとう。」
か細い声で彼女がそう言った。
「はい。と、言うわけです…。」
一連の流れを思い出しつつ裕の顔は自然とニヤけた。でもすぐいつも通りの顔に戻り林の顔色を伺う。最初と変わらず笑顔だ。この日、裕は初めて無言の圧力というものを感じた気がした。
はぁ、と大きなため息をついた林。そしてまた大きく息を吸い、
「あぁぁぁ!先越されたぁぁぁあ!」
友人に先を越されたんだ。このくらいの反応になっても仕方ないのだろう。
「えぇ…。」
次の日。月曜日だ。つまり学校に行かなければならない。
「おはよ、長谷川さん。」
「おはよう、青木君。」
彼女の顔はどこかいつもと雰囲気が違う。何というか、やる気に満ちたような顔をしていた。