悪役にされそうな令嬢は先手必勝を選ぶ
ここはルビシア王国のとある学園。
中庭の少し背の高い木々に囲まれたベンチである男女が寄り添っていた。
男は美しいルビーレッドの髪で通常よりも装飾の少し多い制服、第一王子のギルベルト。
女はストロベリーブロンドの髪をツインテールにして小動物を思わせる、男爵令嬢のアリス。
近くに護衛を置くこともなく、人目に触れる事も厭わず顔を寄せ合い幸せそうな空気を醸し出している。
その様子を確認していたギルベルトの婚約者であり、黒髪の公爵令嬢ヴィクトリアは溜息を吐いたのち、踵を返した。
「お父様お父様お父様お父様お父様ー?」
学園から早退したヴィクトリアは、父親の在宅を執事に確認、先触れも出さずに執務室のドアを勢い良く開けた。
「どどどどうした? 何があった?」
突然の娘の来訪に公爵は動揺を隠せない。
「一応確認なのですが、わたくしの婚約は王家からの打診でしたわよね? 殿下からの希望でしたわよね?」
「そう…だな。で? 何があった?」
笑みの形は作っているものの、全く変わらないヴィクトリアの笑顔に公爵は少し及び腰になる。
「直接ではありませんが、喧嘩を売られました。馬鹿にされました。呆れ果てました」
「だから詳しい内容を……」
何か腹に据えかねる事があるのは理解出来るが分からない。
「3ヶ月前に編入してきたある平民上がりの男爵令嬢と殿下のイチャイチャを所かまわず見せつけられております」
「……は?」
説明の意味が理解出来ない公爵は、貴族らしく無いぽかんとした返事を返してしまう。
「学院に入った辺りから特に、殿下からわたくしへの態度に少しずつ劣等感が透けて見え、微妙な言動が多くなったと思ってはおりましたが、こんな下らない行動で人を貶めようとする方だとは思いませんでした」
「………それ…は……」
無い。あり得ない。許されない。
やっと思考が説明に追いついてきた公爵。大事な娘を蔑ろにされている事は許される事ではない。
「婚姻後、子供が生まれた後、又は最低2年後に愛妾又は側妃を迎えるなら分かります。火遊びにしても愛妾探しにしても、こちらに分からない様にするならば見逃しました。しかし、そのどちらでも無い。果ては、わたくしがその男爵令嬢に嫉妬して嫌がらせをした等という噂まで立てられて……!」
「…………」
絶句とはこういう事なのだな…と、頭に血がのぼった状態のどこかで公爵は考えた。
「家の為、民の為、国の為と頑張っておりましたが、萎えました」
「萎えたって……」
「殿下と婚姻は絶対にご免です。辞退・解消・撤回・破棄、何でも結構です。このまま学院に居るのも腹立たしいので、最短で隣国へ留学します。そちらで新しい婚約者も探します」
「はぁ?! 何でそこまで話がとんだ?!」
「このままこちらで新しい婚約者を探すのも面倒ですし、殿下の顔を見るのもうんざりです。隣国の錬金術に興味もありますし、あちらの国との繋がりは当家にとっても国にとっても良い事でしょう?」
「それはそうだが…」
「留学の手続きは進めておりますので、1週間後には出立します」
「早すぎないか?!」
「学院でも留学での単位が……等と言われたので、卒業までの単位は全て取りました」
「手際が良すぎる!!」
「お母様とは連携済みですので、諸々の手続きは完璧です!」
「何故、当主の私が知らないまま話が進んでる?!」
「ですから一番大事な部分、婚約を無くす為に頑張って下さい、お父様」
「大事というか、一番面倒な部分ではないか……」
「頼りにしてますわ、お父様」
「………あぁ…」
先程までの作った笑みではなく、ふわりと微笑まれ、否を言える程、公爵は娘に強く無かった。
「ヴィクトリア!! 貴様、親族・婚約者以外の者にエスコートをさせるとは! この恥知らずが!」
約8ヶ月の隣国グリンシアへの留学後、卒業式と卒業パーティへの参加の為にルビシアに戻ってきたヴィクトリア。パーティ会場へ入場した途端に、ギルベルトに詰め寄られた。
「……お久しぶりです、殿下。それよりも何故わたくしは出合い頭に罵られているのでしょうか?」
危うく怪訝そうな顔になるのを抑え、笑みを形作るヴィクトリア。
「何故だと? 婚約者である私がエスコートしないなら、貴様は親族又は一人で会場入りしなければならないだろう!」
さも当たり前の様に、ひどい内容を口にするギルベルト。
周囲からの、うわぁ…という視線には気付いていないらしい。
「わたくしは婚約者以外の方にエスコートを頼む事は致しません。そもそも、殿下は婚約者ではありませんし、罵られる謂れはございません」
ヴィクトリアは笑みのまま、きっぱりと言い切った。
「はぁ?! 私の婚約者はお前だろう!」
ぽかん、とした一拍後、顔を真っ赤にしてギルベルトは声を大きくする。
「違います。殿下との婚約は3ヶ月前に白紙撤回されております。婚約の事実はもうございません」
「何だと?! 私は聞いておらん!」
ギルベルトは真っ赤な顔のまま癇癪を起したように怒鳴りつける。
「あはは、自分が婚約者だと思っているのにエスコートしないで罵るって凄いね。このルビシア王国の王族って常識無いの?」
その中、周りの思考を代弁するようにヴィクトリアをエスコートしていたエメラルドグリーンの髪の男が声をあげる。
「クローディオ様…お恥ずかしい所を……」
「ヴィクトリアは何も悪くないよ? ね? そんな困った顔しないで」
「ありがとうございます…」
そっと頬に寄せられたクローディオの手にヴィクトリアは、ほっとする様に頬を緩め、微笑みが零れる。
「何だその顔はっ! 何だその男は!!」
まだ顔を赤くしたまま、自分には向けられた事の無かったヴィクトリアの微笑みに対し、ギルベルトは激怒する。
そんな様子に引く事もなく、ギルベルトに向き合った男は口を開く。
「あぁ、まだここでは名乗ってなかったね。グリンシア王国第一王子クローディオだよ、ギルベルト王子。君には以前会った事がある筈なんだけど……印象薄いのかな? 私は」
「ク…クローディオ王太子殿下……そんな事は……」
あれだけ赤かった顔から血の気が引いたのか、青い顔をしてギルベルトは声を絞り出す。
「あれ、王太子なのは知ってるんだ? そういえば、先日から王宮に滞在させてもらってるけど、君とは全く会ってないね。ここ半年は王宮抜け出して高級宿に泊まり歩いてるんだって? 誰と泊まり掛けで遊んでいるのかな? 陛下や弟君が嘆いていたよ」
「…そっ……それは……」
人のよさそうな笑みを浮かべながら軽口を叩くように、重い内容をぶつけていくクローディオ。
「それよりも、もう婚約者では無いヴィクトリアへの呼び捨てや酷い言動、やめてくれるかな」
「しっ、しかしその女は!」
「だから、私の婚約者に対して失礼だと言っている」
クローディオはその顔から笑みを消し、王族としての威圧を込めてギルベルトに冷たい目を向ける。
「はっ?!」
「さっきから怒鳴ってばかりで人の話をちゃんと聞かないから、理解が遅いんだね。王族としては致命的じゃない?」
冷たい目から一転クローディオは、馬鹿にしたような、呆れたような顔を作り溜息を吐く。
「ぐっ…」
「8ヶ月前に留学してきたヴィクトリアに惚れて、君との婚約解消も私の総力挙げて手伝って、やっと3ヶ月前に婚約者になれたんだ。そんな愛しい婚約者に暴言を吐かれて、“その女”呼ばわりなんて許せる訳ないだろう?」
少しずつ、エスコートの距離を縮め、ヴィクトリアの腰を引き寄せるクローディオ。
そんな二人に気付かず、ギルベルトは呟きを漏らす。
「何だって…?! だって、ヴィクトリアは嫉妬してアリスに嫌がらせを……」
耳聡く呟きを拾ったクローディオはその内容に踏み込む。
「嫌がらせ? いつ?」
「アリスが編入してきて、これまでずっと…」
ふふっ、と笑いが漏れるクローディオ。
「君、本当に面白い事言うね~。そもそもアリスって誰?」
ギルベルトの後ろに半分隠れるように服をつかんでいた、ストロベリーブロンドの女が目を潤ませて小刻みに震えている。
「こちらの男爵家の者で、1年前に編入してきて、私と仲良くしているからと……」
「本当です! ヴィクトリア様にはずっと元平民と見下され…取り巻きの方々を使って嫌がらせを……!!」
私、怖かった……! とでも言わんばかりに目を潤ませて、両手を胸の前で組み上目遣いで明らかにクローディオに媚を売るアリス。
「………」
「………」
何と言っていいか、つい無言になるクローディオとヴィクトリア。
「クローディオ様! 騙されないでください! ヴィクトリア様は……っ!」
「アリスっ! こんなに震えて…こんなに怯えているアリスが言うんだ、間違い無い!」
馬鹿なのかな? ─── 周囲の空気が言っていた。
「……何? コレ。劇?」
やっぱりうまい事周囲の代弁をしてしまうクローディオの顔から、困惑の色は拭えない。
「約3ヶ月程しか見ておりませんので、何とも言えませんが……悪化はしていると思われます」
こんな茶番を見せられるなら一人で帰国すべきだったか、とヴィクトリアは少し反省した。
「クローディオ様! 私はっ…」
「黙れ。私の名を口にする事は許さない」
「ひっ…」
クローディオも落とせる自信があったのか、縋ろうとしたアリスをクローディオは氷点下の目と低音でばっさりと切り捨てた。
軽そうに見えても、自分が許した者以外に馴れ馴れしくされることを好まないクローディオに対してアリスは、一番やってはいけない行動をしてしまっていた。
血の気が完全に引いたアリスを横目に、ヴィクトリアは気を取り直してギルベルトに話しかける。
「あの…お二方ともお忘れかもしれませんが、わたくし8ヶ月前からグリンシア王国に留学しており、こちらには一度も帰っておりません。どのようにして嫌がらせをしたとおっしゃるのでしょうか?」
どうしてそんな思考になったのか、純粋な興味からの問いである。
「そんなもの、取り巻き連中にやらせる事など、公爵家の者であるお前なら簡単に出来るだろう」
それに対してこれである。思い込みにも程がある。もはや妄想の域だ。
「取り巻き取り巻きとおっしゃいますが、具体的にはどなたです? 唯々諾々とわたくしの命令に従う様な程度の低い友人はおりません。それに、留学する際に友人方には内密に、殿下との婚約は無くす方向で動いている旨は伝えておりましたので、わたくしの為に嫌がらせをするような事は絶対にありえません」
溜息も呆れも隠せず、ヴィクトリアは残念な目をギルベルトに向ける。
「あるとすれば、それを知らずに『ヴィクトリア様の為』とか大義名分掲げて、自分が虐めたかっただけのただの馬鹿でしょ」
「あぁ……それか、わたくしを貶めたい又は嵌めたい方か、ですわね」
ヴィクトリアはクローディオが補足した内容に納得し、追加で考えを口にする。
「人を貶めても、自分が上がる事は無いのにね。底辺の争いってホント醜い」
残念、と言わんばかりの表情でクローディオはちらりとギルベルトに視線を向ける。
「ぐぅっ…」
「ギル様……」
返す言葉も出ず、黙り込むギルベルトの腕にアリスはすがりつく。
「そ、それよりも!私に婚約者が居ないのなら、私とアリスにはもう障害は無くなったという事だな!アリス、私と結婚してくれ」
「はい、ギル様っ」
アリスに縋られた事で大事な事を思い出した様に、ギルベルトは突如求婚を行い、アリスは嬉しそうにそれを受けた。
「いや~、おめでたいね」
「ええ、本当に」
確実に“お目出度い頭”と言わんばかりのクローディオに誰も突っ込みは入れられない。だって、心境としては周囲も同意してしまっているから。
「でもさ、この国って公爵令嬢に言いがかりつけたり、糾弾しようとしたりしても王族なら許されるの? それにそこの男爵家の娘も、確実にヴィクトリアを悪者にする方向で喋ってたよね」
「あぁ…気付いてしまいましたか」
学園の中とは言え、男爵家の者が公爵令嬢を悪者にするために動く事など許される事ではない。
「当たり前じゃない? やめろと言ってるのに追加で情報出してきたり、呼んでもないのにしゃしゃり出てきて泣き真似したり、貶めるつもり満々だったじゃない」
「泣き真似などっ」
「誰が喋っていいと言った?」
「あ……」
懲りずに口を開いたアリスだったが、クローディオからの冷気を含んだ視線と声に声を無くす。
「ギルベルト王子はさ、ヴィクトリアを婚約者だと思ってた訳でしょ? なのに、エスコートせず、男爵令嬢をぶら下げていた。男爵令嬢も身分にそぐわないドレスを着て、王子に寄り添い、ヴィクトリアを悪者にしようとしていた。……これって、公衆の面前で断罪して婚約破棄する流行の小説みたいだね」
「そうですわね…」
もうヴィクトリアの目はだいぶ遠くを見ている。
「で? その辺どうなの? ギルベルト王子。あんな剣幕で来たし、断罪してその場で婚約破棄、貴族籍剥奪・国外追放で、新しい婚約者は男爵令嬢だ~! とかやりたかったんでしょ?」
「……」
ギルベルトは青い顔で手を握りしめ、床に視線を彷徨わせる。
「……ギル様…」
「沈黙は肯定だよね。……ホント下種だね」
クローディオの口だけは笑みを作っているが、明らかに目は笑っていない。
「まぁ、君らの婚姻は認められるだろうね、本人達の希望だから。二人で頑張って男爵領守っていってね」
クローディオの言葉にギルベルトは青い顔を跳ね上げる。
「……何故、男爵領限定と…」
「だって、ヴィクトリアがこの国から居なくなるにしても、私の婚約者を愚弄した罪は消えないし、この一年の君達の行動は王族として看過出来ない所まで来ているって。もしこの卒業パーティで馬鹿な行動をする様ならもう諦める、と陛下のお言葉とお手紙」
はい、どうぞ~と言わんばかりにギルベルトの手に手紙を押しつける。
「なっ……そんな……」
「ギル様が…王子じゃなくなる……?」
「男爵家への婿入りと当分の間、領地からの移動禁止。だいぶ軽い罰じゃない? ……個人的にはもっときつくても良いと思うんだけど…」
「クローディオ様……」
困った様に眉を寄せ、ヴィクトリアはクローディオを見上げる。
「愛し合ってる二人で居られるなら別に罰になってなくない? 子供は望めないかもだけど。私はヴィクトリアとならどこででも幸せに生きていける気がするよ?」
王子を断罪している場とは思えぬ蕩けた瞳で、クローディオはヴィクトリアの頬に手を添える。
嬉しそうにはにかみながら、ヴィクトリアはその手に自分の手を重ねる。
「ありがとうございます。わたくしも、クローディオ様とならば苦労を厭いません…しかしギルベルト様は、王族としての身分剥奪だけでも十分な罰になるかと…」
手はそのままに、ヴィクトリアはちらりと目線をギルベルト達へ向ける。
「そうなの? ……確かに、二人とも凄いショック受けてるみたいだけど…」
心底不思議そうにクローディオも目線を動かす。
「自分と婚約者用の経費を注ぎ込み、贅沢三昧。高級レストランに始まり宝石ドレスに高級宿、権力も使い放題で特に満喫していたこの一年からの格差は、戻れないレベルかと……」
言っているうちに見ているのも辛くなり、ヴィクトリアの目線は空を彷徨う。
「ギ…ギル様……嘘ですよね? ……だって、もっと楽しくしてくれるって、王妃にもなれる…って言ってくれましたよね…?」
ヴィクトリア側の声が届いていたのかいないのか、ようやく内容に追いついたらしいアリスが顔を俯かせ、手を握りしめ小刻みに震えていた。
「……アリス……」
震えるアリスの存在に、ギルベルトはそっと寄り添う様に近付こうとした。
「………王子様じゃなくなるなんて……男爵領から出られないなんて………そんなの……」
「……すまない…」
アリスの肩にギルベルトの手が触れるかどうかの間際、アリスの声が響く。
「嘘つき! ギル様の馬鹿っ! 大っ嫌い!」
「……アリス! 待ってくれ!!」
怒鳴った後走り去るアリスに手を上げたままの少し固まったギルベルトは、その後を追い走り去ってしまった。
茶番を繰り広げた挙句、走り去るという暴挙に出た馬鹿二人。
周りからのぽかーん、と言う微妙な空気にクローディオの口から呟きが漏れる。
「あ~あ、行っちゃった……この空気どうすんのさ……」
「うぅ……申し訳ございません……」
穴があったら入りたい位の気持ちのヴィクトリアは、羞恥に頬を染め、クローディオに謝罪する。
「ヴィクトリアは悪くないよ? ごめんね」
「………我が国の恥晒しです……」
多少なりとも自分の関わってしまった件だけに、ヴィクトリアの眉間の皺は取れない。
「あー……うん。仕方ない…かな? とりあえず、ヴィクトリアがアレと結婚っていう結果にならなかったから、結果オーライじゃない?」
「本当に早々に見限って正解でした」
クローディオの言葉に達観した微笑みでヴィクトリアは言う。
「私としては留学先にグリンシアを選んでくれて、本当に感謝しているよ。この国としてはヴィクトリアの国外流出はかなり痛い事だと思うけどね」
「そんな事はございません。……でも、ギルベルト様には少し感謝もあるんですよ?」
「え? 何を?」
謝罪される事はあるにしろ、感謝する事など無いのでは? と言わんばかりにきょとん顔のクローディオ。
「王妃教育は厳しかったですし、彼の婚約者の地位も苦痛でしたが、そのお陰で……クローディオ様に添える能力を手に入れる事が出来たのですから…」
ヴィクトリアは少し視線を外し、いつものはきはきした言葉とは違い、ついもごもごと言葉尻が小さくなる。
「ヴィクトリア……」
「グリンシアに関してはまだ学ぶべき事は多いですが、クローディオ様に恥じぬよう、これから、頑張りますね」
照れを振り切る様に晴れやかな笑みで、ヴィクトリアは拳を握る。
「……あぁ! もう! 何て可愛いんだ!! 美しい上に勉強熱心でかつ健気で可愛らしい。どうしてこんなヴィクトリアを手放せるのか、私には想像もつかないよ!」
ぎゅうぎゅうと苦しい程にクローディオはヴィクトリアを腕に閉じ込める。
「…ギルベルト様側からの婚約だったはずなんですが……わたくしの何かが気に障ったのでしょうね。……あの時は、劣等感を拗らせたと思っていたのですが……」
クローディオからの愛情表現に嬉しくなりつつも、ふとした疑問をヴィクトリアは口にする。
「どうなんだろうねぇ……」
(……惚れた女を振り向かせられず、愛を囁く事も出来ずに変な方向に拗らせた所に、あの女がうまい事入り込んで恋心をすり替えたって感じかな……。下手したら、国外追放に見せかけて監禁、とか考えていたかもしれないけど。ま、ヴィクトリアに教える義務も無いし、変な人だった、でいっか。結局は自業自得だし、二度とヴィクトリアには会わせないし)
「クローディオ様?」
抱きしめる手を緩めず、ヴィクトリアの頭に頬ずりしていたクローディオは、腕の中からの小さい抗議に思考から戻る。
「ん? 何でもない。なんか皆空気読んで、茶番を無かった風にしてくれてるし、パーティ楽しもうか?」
「…そう…ですわね」
学園の教師や生徒会役員と連携して、空気の読める方々の通常に近付ける努力が実り始めているらしい。
「ヴィクトリアの友人関係も確認したいしね。では、お姫様。お手をどうぞ?」
「ふふっ、よろしくお願いしますわ」
元々はヴィクトリアがスパスパ切り捨てる筈が、予定外にクローディオが喋りすぎました•••••。