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共謀

 領土崩壊を持ちかけたのは、私、リタ=ロメール。

 ……いえ、『ボク』のリタ=ロメール。


「俺の他にも領土崩壊を引き起こした領主が何人か捕まった。だが崩壊をさせた方法が解らない」


 私にも、わかりません。

 どうやって頑強な建物を全て粉々にできたのか――。


「もちろん俺たちが取り調べをされるわけだが――。そそのかした人間の風貌は全員一致で『中性的な少年』だったそうだ。もちろん俺も会ったよ。……近隣の貴族を招いた日に、髪を油でベッタリと固めて短く見せた男にな」

「それがボクであるという証拠は?」

「ああ。貴族の中で中性的な人間は、お前だけではない。だが年齢、容姿、捕まった全ての領主に直接会える人物で年齢は十代――。そこまで考えればリタ=ロメール以外に思い当たる節がねえんだよ。――ナァ? 本当はお前がそそのかしたんだろ?」


 低く汚い声……。

 でも…………私は領主の娘として振る舞わなければならない時に、何度か記憶を失っています。


「リタ――?」


 ニーナが驚きと恐怖を混ぜた声で私の名を呼びました。その隣にいるニコだって、声は出ていないけれど表情は同じです。


「なるほど。それなりに確信は得ているということか」


 そして恐怖を表現している二人とは対照的に『ボク』は、一つも動じていない声で言い、手のひらをガス灯へ向けました。

 すると一瞬、ボワッと炎が広がります。

 人が焼けるほどではないですが、これは……。


「――誰にも知られずに、まずはダリア領を崩壊させる予定だったのだが。こう勝手な行動を取られては仕方がない」

「なっ、なんだそれはァァ!?」

「『(りゆう)()水素』。いや、火山ガスとでも言い換えたほうが良いか」

「火山だと!?」


 硫化水素は火山や温泉に含まれる、一般的に『()(おう)の匂い』とされるものの発生源です。

 ですが……。この世界では火山や温泉の解析はどこまで進んでいないはず。そもそも人体から燃えるほど多量に発生させることは――。いや、まあ、発生はしますけど!

 電気と同じく微量に過ぎません。そうでないと至る所で爆発が起きてしまいます。


「それを俺たちに爆発させたのか!?」

「硫化水素は空気よりも重い。それを地下水路へ流して、充満したところでお前たちに点火させた。もちろん今この場で大量発生させれば――、どうなるかぐらいは理解できるよな?」

「そっ、そんなことをしたらお前も死んでしまうじゃないか!」

「そうだな。しかしそれも悪くはない」

「な……ッ」


 私にはこの人――『ボク』の言っていることが理解できません。

 崩壊の犯人が『ボク』だとすれば、エリカや両親、領民を自ら殺したと言うことになります。

 それともそういう思い出は私だけのもので、『ボク』には関係ないの……?


「ボクは築き上げられたものが壊れる瞬間に、(ひど)く興奮するんだ。大切なものが無残に失われる瞬間は、この上く美しい――」


 ……理解しかねます。


「本当は全てを破壊し尽くしたかったのだが……。しかし執念でボクを殺そうとした君が死に、(たくま)しくも崩壊した町を再興させたリタ=ロメールが道半ばで死ぬというのもまた最高に美しいだろう――。ぁあ、考えただけで興奮するよ」


 ……理解できるはずがありません


「お嬢様――っ」

「うん!」


 エリカに言われると同時に、私は元の体へ戻ろうとしました。しかし――。


「う――うるさいっ。もう少しなんだ。黙っていろ!」


 拒絶されてしまいます。

 私がこの場を治めようと――。死にたくない、死なせたくない、殺したくもない、そういう気持ちを全部合わせても『ボク』の感情には勝てないということ……?

 (ぼう)(ぜん)とさせられた瞬間、耳元で「お嬢様、すみません」と(ささや)くような声が聞こえて、視界の端でエリカがスライムの中に吸い込まれていきました。


「エリカ!!」


 叫んだ声は届いたのか届かなかったのか、わかりません。

 しかし『ボク』の背後にいる相棒スライムに戻ったエリカは、そのままツノを突き出して『ボク』の身体を貫きました。


「な――……、ツノ……だと? エリカ、貴様隠して――――ッ」


 スライムが野生に近い生き物なら、攻撃手段の一つぐらい持っていても不思議ではありません。

 そういえばエリカも今の話に声を出して驚いたりはしていませんでしたね。どこかで予想していたのでしょうか。

 …………ありがとう、エリカ。

『ボク』が膝を折って崩れると徐々に私にも痛みが伝わってきて、声も出ずに蹲っているとプツリと意識が途切れました。

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