消える護衛と不審な人
最初とは違う男性が、伝令役として国王用の馬車へ駆け寄ります。
いくら馬が速いとは言っても長距離移動ですから。人でも、それなりの勢いで走れば簡単に併走できます。
「異常ありません!」
「そうか」
だから『ありがとう』の一言ぐらいは言いましょうよ。この言葉一つで色々変わりますから。
それとも、こうして国王然としているほうが人が着いてくるのかなぁ。
――あれ?
「ねえ、エリカ。今の人に見覚えない?」
「かなり審査に時間のかかった男性ですね。王都に経歴照会をして先日、お嬢様……いえ『ボク』が判を捺してようやく入国となったはずです」
「あーっ、あの小太りなのに病的に痩せた感じがするオジサン!」
「どうやら元気なようですね」
肉体労働に志願するぐらいですから、疫病の持ち込みとかは無いでしょう。
でも何故か、この人の顔を見ると妙に胸がザワつきます。
どこかで会ったことがあるような。
あと……目が変につり上がっていて、違和感があります。
そして三回目の伝令も彼で「異常なし」とのこと。
「……ん? エリカ、ちょっと馬の数が減ってない? こう、音の数が減ったような気が――」
「念のため、上から見てみましょうか。幽霊の特権です」
「そうだね」
なんとなく、気がする、その程度の違和感ですが折角確認できるのでやらない手はないでしょう。
「ちょっ、これっ、本当に減ってるよ!」
「――半分どころではありませんね。三分の二、いえ、これでは……」
その中で四回目の伝令に、例の男性が走って行きました。
すぐに別の馬車へ移動して……なにかを伝えると、外周で数台の馬車が足を止めて、引き返していきます。
国王用の馬車は警護の馬車に四方を守られていて、集団の中心にあります。だから外周での動きは伝令でしか把握できません。
「エリカ、あの人のところに行ってみよう!」
「はいっ」
二人で例の伝令役男性に近づき、会話を聞き取ります。
彼は自分の元いた馬車へ乗り込む前に他の馬車へ行って、馭者に伝えます。
「もうダリア領の中に入っている。町も近いし、他の馬は戻して良いそうだ」
「そんなことをしたらリタ様たちの乗る馬車しか残らないぞ」
「いや、『ここまでありがとう。治安の良いダリア領に入ればもう大丈夫だ。皆には早くロメールへ戻って休んで欲しい』と」
え――?
「ははっ、さすがリタ様。そう言われちゃ素直に休めねえってもんだ! 今から引き返せば昼には帰れるだろうし、仕事もできる!」
あの『ボク』が「ありがとう」なんて言いそうにないですし、そもそも百五十人の護衛を集めるほど慎重派なのにそんな指示を……。ううん。どう考えたって、ありえません。
伝令役の男性――。
確か、ドン=コール。
彼の口角が不気味に上がりました。この人、何か悪いことを企んでいます……ッ!




