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王都セスキアへ

 ターシャとロッキ先生の休みを取り消してから、(わず)か三日後の夕刻。

『ボク』はこの短い間にリグリア国の王都、セスキア遠征の()(はず)を整えました。

 仕事ができることに疑いの余地はありません。管理職にも向いているのでしょう。私はどうにも管理とかそういう感覚が苦手なので、きっと不向きです。

 一人で気ままにDIYをしていたい。

 できれば自作のウッドデッキで優雅に紅茶を頂きながら、まったりスローライフを満喫したい。そして周りの人にも、ただ忙しいだけの人生よりも好きなことをしながら長く生きてほしい。そういう性格ですから。


「集まったな」


 王都へはまず、マルシアちゃんの治めるダリア領を経由します。

 そこまではロメール国内でありそれなりに安全でしょうし、ダリア領だって安全な場所。

 このことは『ボク』も理解しているようですが、国民から有志を募って総勢百五十人の護衛を用意しちゃいました。

 うーん……。確かに急に人が増えていますから、治安に保障まではできません。少人数では襲われて(ひと)()まりもないということは、あり得るでしょう。

 でも百五十人も必要かなぁ。


「はーっ、こうやって集まると壮観さーねー」

「……経費が」

「安全には変えられないだろう。ボクたちに何かがある場合の損失を考えれば、妥当なはずだ」


 まあ人命には代えられませんからね。護衛の方々も含めて、規模が大きいほどに安全というのは確かです。

 護衛を除くメンバーは『ボク』とニコ、そしてニーナ。

 リオネロ領へ乗り込んだ時にはここにマリーさんが加わっていましたが、今の彼女はリグリア国で医師を目指す身ですから当然、ここにはいません。

 もしくはターシャが加わると最初の開拓班であった四人が(そろ)うのですが……。

 彼女はかなり怒っていて、農業に専念すると言って『ボク』を突き放しました。

 私に対してはそんなこと一度もなかったので、関係性が壊れてしまわないかと少し心配です。

 ……ターシャから見ると、私とは友達でも『ボク』とは友達じゃないのかな。性格が違うのは確かですし。

 でも私だって、こうして自由に喋られるのとボクっ子になってしまう状態とではきっと、客観的に見たら別人でしょうし。


「さて――、では行こう」


 移動手段はもちろん馬車。ココの実のおかげで馬の栄養状態が良いので、ダリア領まで一日とかからないでしょう。

 これもロメールの特徴です。

 まあ、最近は少しずつ収穫量が減ってきたというか、さすがに三千人分の住居を構えているので、木材を組み合わせてラーメン工法で節約し――と言っても確実に消費はします。

 ザックリした推論としては、土をレコブロックにするためにココの実を使うと、その土は岩盤化して自然の循環らかなり切り離されるので、戻ってこなくなるのでしょう。


 広い草原に、堅い(ひづめ)が土を踏む音だけが(いく)()にもなって響きます。

 幽霊状態の私やエリカが揺れを感じることはできません。まあお尻が痛くならなくて良いのですが。


「しかし――本当に夕刻出発で良かったのでしょうか。これでは夜襲の危険性が上がってしまいます。お嬢様なら早朝を選んだのでは?」

「そうねぇ……。きっと『ボク』は、時間を優先したんじゃないかな」


 ちなみにエリカを相手に『私』がそのままの言葉を発するというのは、あの死の直前にしかありませんでした。

 そのせいもあって、自分で喋っていてまだ慣れていない感じがします。


「たった半日足らずのために危険を冒すでしょうか」

「そのために百五十人も呼んだのでしょう」

「そうすると半日足らずのために相当な経費をかけたことになりますが」

「ニコが困るはずだよねぇ」


 費用対効果はハッキリ言って悪そうです。

 まあ馬の睡眠時間は三時間程度で、それも十分とか十五分とかに分割して寝る習性がありますから、夜でも移動ができるわけですが……。

 荷馬車に押し込まれた護衛の人たちを見ると、結構眠そう。というか寝ている人もちらほら。

 その中から伝令役に命じられた男性が、中央にある『国王用の(ごう)(しや)な馬車』へ寄ってきます。


「周囲、異常ありません!」

「そうか」


 たったそれだけの会話。

 ありがとう、ぐらい言えばいいのに、


「この馬車はお嬢様のお手製でしたね」

「そう! 上手くできているでしょう!?」


 馬車は車輪を除けばほとんどが木製で、その木部を作ったのは全て私。

 国王が国王用の馬車をDIYするという不思議な状態です。

 よく考えてみるとベッドも机も食器ですら全てDIYしたものですから、なんだかんだと結構満喫している気がします。

 いつか木製の家を建てたいなぁ。ちっちゃくて良いから。


「失礼ながら、お嬢様がこれほど器用だとは思いませんでした。シャツのボタンですら私が()めていたのに」

「そっ、それは『私』の意思に反していたから!」

()(いき)を吐きながら『やれやれだぜ』という感じで全部お任せになる姿は、愛らしかったですよ」

「その――、い、嫌ではなかったです……けど!」


 今にして思えばエリカと接していた頃の私は、最近の私よりもずっと偉そうだった気がします。

 崩壊前と後では、自分の意思通りに身体が動いたり、ある程度意思にそった言葉を発することができる割合が格段に増えているのかもしれません。


「そういえば……」


 ふと、エリカが何かを思い出したかのように呟きました。


「お嬢様は時々、私に任せることが当然という態度でいることがありましたが――」

「そんなことあったかな?」

「はい。特に貴族や王族階級の方々と会わなければならない時には、非常に凜々しく不満も言わず、ロメール家の娘らしい振る舞いでした。……ですが今にして思うと、本来のお嬢様とはかけ離れていたような気もします」

「あー……。そうねえ。確かにロメールの一人娘としての振る舞いを心がけるときは、こう、人格を入れ替えるようなつもりでいたかなぁ。ほら、成人まで男の子のフリをしないといけなかったでしょ? そのせいで時々、記憶が無いこともあるんだよね」


 ――――――え?

 あれ。自分で言いながら違和感が……。


「エリカ! 普通の人ってそんな感覚になるのかな!? 振る舞いを変えるだけで記憶無くなったり、するのかな!?」

「ならない……と思いますが」

「私も前世ではそんなこと無かった! 会社で残業が続いて忙しすぎて、ついに社内で寝泊まりするようになった午前四時ぐらいにしかなかったよ!!」

「ぐ、具体的すぎて怖いです。日本とは一体……」


 働き過ぎですよねぇ。

 というのはまあ、置いておいて。

 しっかり休養を取っているのに、振る舞いを変えるだけで記憶が飛ぶなんてどう考えたっておかしいです。

 以前から『私』と『ボク』は時々入れ替わっていた――。その切っ掛けは、私がボクを演じようとしたから?

 再び伝令の人が寄って来ます。

 先ほどとは違う男性ですね。交代でしょうか。

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