怠け癖とティータイム。仕事が優先……?
あの日から三日が経ちました。
少し語り口は違いますが『ボクっ子』と私は基本的な性格に通じるものがあるようで、あのあと半日弱を休むとすぐにお仕事を開始。
ニコと一緒に、そのまま何時間も書類と対峙です。
怠ける気の無さで言えば私よりも良いのかなぁ。
でも言葉数が少なくて、なんだか暗いムード。休憩も全然取ろうとしません。
このままでは効率が悪くなってしまいますし、時には、まったりティータイムも大切ですよ?
「くっ――」
「どうしたんですか?」
「いや……大丈夫。頭の中で怠け癖が囁いただけだ」
おい。
「あの――。でも、本当に少し休んだほうが。……ほら、頂いた王都産の茶葉もあることですし」
「それならニコだけで飲んでくれ。ボクはいらない」
友達が心配してくれているのに、そうやって邪険にしないでほしいなぁ。
それに、そういう言い方をしちゃったら……。
「……はい。もう少し、頑張ってみましょうか」
「そうだな」
ほら。ニコは一人で休めるタイプではないですよ。
そういうところをしっかり把握して行動しないと、自分だけではなくて周りまで苦しくなってしまいます。
「うるさいんだよ……っ」
下を向いて、ニコに聞こえない程度の声でボクっ子が呟きました。
ごめんなさい――。
私にボクっ子の考えることはわかりません。だからきっと、私が考えていることもボクっ子に百パーセント通じているということではないのでしょう。
頭の中で色んな自分が戦ったり会議をするイメージというのは日本の漫画でよく見られましたが、あの感覚なのかなぁ。それとも悪魔とか天使のささやき……みたいな?
またしばらく無言の作業時間が進んで、一時間、二時間――と時計が進んだ頃。
通路から静かな足音が聞こえてきて、ボクっ子が「ターシャだな」と呟きました。
「ターシャさんを呼んでいたんですか?」
「ああ。大事な用がある」
「――なるほど。それは忙しくても、仕方がないですね」
察して微笑んだニコ。
彼女もターシャとロッキ先生の話は知っていますからね。
それに足音は一人分ではなさそうですし、会話のような声も聞こえてきます。
コンコンとドアが鳴ると、ターシャの優しくて、でも少しふわふわと浮いたような声が続きました。
「リタ様。入ってもよろしいですか」
「ああ。入ってくれ」
ボクっ子が答えると、ターシャとロッキ先生が少し遠慮した様子で執務室へ入ってきました。
いいなあ。
二人に休みを言い渡す役割、私がやりたかったなぁ。
「そこに座ってくれ」
執務室の一部は応接間のようになっていて、大きなソファが並列に置かれています。
ふっかふか! ――と言いたいところですが、私を含めてみんな固めの座り心地が好きなので固めに作って頂きました。
こういうものがない生活を長く続けすぎたのかもしれません。基準が『床や土の上で直接寝る、座る』になっているので、固めじゃないと落ち着かなくなってしまいました。
それでも憩いの場としてはしっかり機能していて、最近は私とニコ、時々ニーナも含めて、お茶を飲みながらお菓子を食べる機会が多い場所でもあります。
人の受け入れがはじまってからは中々他の人たちとここでまったりする時間というのはないのですが、この機会にターシャやロッキ先生とティータイムを設けるというのは大賛成です!
「今、お茶を入れますね」
ニコが跳ねるような調子でガス灯に火をつけて、お湯を沸かそうとし始めました。普段がクールなのでギャップが可愛いです!
「いや、紅茶はいい。すぐに終わる話だ」
………………え?
「――――はい」
ほらっ。ニコ、ものすごく悲しそうな顔をしていますよ!
ターシャだって目が点になっていますし……。
「ターシャ、ロッキ先生。二人にはお願いしなければならないことがある」
お願……い?
休みを言い渡すんじゃないの……?
「ターシャの出身地、ローズ村へ行けるように二人を休ませるという話だが、一度忘れて欲しい」
「えっ!?」
「どうして……でしょうか」
私だって知りたいです。
二人のことは何よりも優先だったはず……っ!
少なくとも――――。少なくとも、『私』は。
「知っているだろう。どれほどの事務処理が間に合っていないのかを――。それに加えて電気が使えなくなった。今はスライムに溜めた分で最低限を補っているが、このままでは木工ができなくなってしまう。基幹産業を失ってしまうんだ」
「そう……ですね」
ターシャが目を伏せて言いました。
……ボクっ子の言っていることは、正しいです。
でも何故でしょうか。私とはやっぱり、やりかたが違うような気がしてしまいます。
それとも私には電気という力があったから、困らなくて済んでいただけ……なのでしょうか。
暗い顔をしてしまったターシャに変わって、ロッキ先生が声を出します。
「わかりました。僕とターシャはすでに田舎へ手紙を送ってしまったのですが、延期のことも追って手紙で伝えれば済む話です」
「ああ。そうしてくれると助かる。――――それから、ボクは仲間の数人を引き連れて王都――リグリア国の王都『セスキア』へ行くつもりだ。そこで事態の打開を図りたい」
王都へ?
しかし王都に電気はありませんし、代用になる力なんてそう簡単にはないと思うのですが。
ロッキ先生の表情は中々読みづらいですが、ターシャと、この状況を見守るニコは腑に落ちない様子です。二人は電気の圧倒的な力をよく知っているので、代替となる力に皆目見当が付かないという理解で共通しているのでしょう。
そもそも悪魔の力とされているわけで……。
「あの――。なぜ王都なのでしょうか。わえには電気に代わる方法があるとは思えないのですが」
「ロメール国の力に対抗するべく、王都でも盛んに新しい技術が開発されていると聞く。その力を盗むなら今しかない」
「盗むだなんて、そんな……」
「もちろん正式に取り引きを交わす。こちらからはスライムを一匹差し出して、力の分析を自由にしてもらう予定だ」
差し出す……、分析……?
「差し出して――って、でも、スライムは相棒のようなものではないですか! 誰も自分の相棒を差しだそうだなんて思いませんよ!」
「マリーの相棒が余っているだろう」
「そんなっ、物みたいに言わないでくださいッ!!」
ターシャが怒っています。
彼女は人一倍の母性を持っていて、スライムのことだって本当に家族のように扱っています。
もちろん他のみんなも……。
「なにを怒っている? スライムはスライムだ。人ではない」
「リタ様――っ」
「なるほど……。ターシャが嫌だと言うのなら、王都セスキア行きの人員から君のことは外しておこう。目の前で取り引きを見るのは辛いだろう?」
それって、優しさなのか……な……?
ターシャは唇をかんで、すごく辛そうで悔しそうな顔をしながら口を開きます。
「………………取り乱してしまって、すみませんでした。私と先生のお休みは頂かなくて結構ですから、リタ様はどうぞ、お仕事を続けられてください」
「言われずとも、そうしている」
ソファで足を組んで、偉そうに――。
そんな作法、この世界の両親から教わっていませんよ。




