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私と、ボク。

 久しぶりに地下シェルターへ潜って、LEDライトの人工的光に照らされた空間の中。

 集まってもらった私を含む七人で輪を作って座ります。

 崩壊後のしばらくは、こうしてここに集まることも多かったのですが。

 できるだけ明るく前を向こうという気持ちでそれぞれが過ごしていたので、ひょっとしたら今が一番暗い空気かもしれません。


「――では、リタ様の中には二人の人間がいるということでしょうか? わえには、そんな風には見えないのですが……」

「そうさー。だいたい、そういうのって性格が違う二人が同居するものじゃないのかな。リタはボクっ子のときも普通に私って喋ってるときも、別の人っていう感じはしないさーね」


 氷屋でスライムを抱きながら泣く私を見ていた二人は、元気づけようとしているのか、少し無理をして声を張っているように感じられました。


「…………ニコは、どう思う?」

「……正直に、言っていいのでしょうか」

「ああ。頼む」


 七人の中でも特に私と一緒に居た時間の長い彼女なら、きっと()(たん)のない言葉が聞けることでしょう。

 それにニコは商人なのに、あまり(うそ)()()くつける人ではないですから。むしろ正直で誠実であることが売りです。


「私は……リオネロ邸でのリタを見た時から、少し違和感がありました。だって、ただ一人称を変えるだけですよね? 神様が――という話もありましたが、それでも、あそこまで追い込まれないと発することのできない『私』という言葉には、何か意味があるような気がします」


 ニコが裏表のない友人で、本当によかった――。


「……わえも、一人称はある程度使い分けています」

「私だって、言葉の使い分けぐらいできるさーね……」


 そう。私という一人称が使えないというのはおかしい。更に言えば、思っていることが方向性は合っていても違う言葉に変換されている。

 神様が『私をボクっ子にした』

 神様が『ボクっ子に私を付け足した』

 ――この二つでは大きすぎる違いがあります。


「でっ、でも、わえはやっぱり人格が二つ共存しているなんて思えません! そんな――っ。それに共存しているのなら、そのままでいることもできるのではないでしょうか!?」

「うーん……。私もそう思うさー」

「……しかし、それでは何故エリカさんが消えてしまったのか、説明が付きませんよ」


 アルしゃん、ウサリア、マリメロの三人は、押し黙ってしまっています。

 というのも私は、この三人の前であまり感情爆発を起こしたことが無いのです。九割九分以上、ずっとボクっ子のまま――。

 だからでしょう。よく知らずに口を挟めない、という表情をしています。

 でもここに集まってもらったのは、暗いお話や推論を語るためではありません。

 もし私が居なくなって電気が使えなくなったら、困るのはここにいるメンバー。そして電気という力を知った上で移住してくれた方々。

 みんなに迷惑はかけられません。

 ということで、今のうちにスライムを大量に増やして電力を蓄えるか、電力無しでやっていける国作りに(かじ)を切るか、どちらかを進めたい。

 そうしないと私はきっと、後悔を残して去ることになってしまいます。


「みんな、ボクの話を聞いてほしい」


 エリカは……。私に沢山の友達が居ることを間近で見届けた上で、消えてしまいましたから。

 …………ひょっとすると、あまり後悔は無かったのかもしれません。――そう、信じさせてください。


「これから先、ボクの中のわた――――――、っ!」


 喉が焼けたように苦しい。急に……痛い……!


「大丈夫ですか!?」

「ニコ、水筒持ってくるさ!」

「はいっ」


 ニーナがすぐに指示をしてくれたおかげで、まもなくニコから水筒が差し出され……。水を飲むと一気に静まりました。

 これは『二人居ると自覚したから、意思の(かい)()や矛盾が起こり始めた』ということでしょうか。

 きっと『ボク』の言いたい言葉と『私』の言いたい言葉が、違っていたのでしょう。喉が焼き裂かれる感覚です。

 …………そういえば最近のエリカは、転生前に比べてかなりゆっくりした生活を送っていました。同時に、スライムたちのお母さんとしても振る舞っていたわけで。

 徐々に、離れていったのでしょうか。

 それともまさか、追い出されたとか、自ら出て行ったとか……?


「けほっ、――すまない。もう大丈夫だ」


 いえ、まず『ボクっ子のリタ=ロメール』というのはどういう人なのでしょうか。

 私と近い性格なのか、それとも全然違うのか。

 エリカの例で言えば、人の記憶を持ったエリカと普通のスライムが共存していた可能性があるわけですから、全く違う人格なのかもしれません。


 ――――仮に。


 私が何も行動しようとせずに、全てを『ボク』に託して、それでもみんなが上手く生きていけると確信できるなら……。

 二回目の人生を生きてしまっていますから。

 誰にも迷惑がかからないのなら、身を引くのは私でしょう。

 一度、やってみましょうか。

 無心に――。いえ、心と体を切り離す感覚で。

 遠くから自分の眺めるように、()(かん)するように――……。


「リタ様、あまり無理をしないほうが」

「そうさー。こんなことを今言っていいのかわからないけど、エリカだって、そんなこと望んでないでしょ」

「……少し、休みましょう。私たちはずっと頑張ってきましたから。少しぐらい休んだって(ばち)なんて当たりませんよ」


 みんなの声が、少し遠くに聞こえるような気がします。

 このまま眠るようにしてしまえば――。



 ………………。



 あれ?

 本当に少し遠い。

 というか、視界の中に私がいます。

 これで私――、いえ、ボクが意思を持って喋るのなら。

 目を瞑った私が、ゆっくりと瞼を開けました。


「――そうだな。特にボクとニコは少し休んだほうがいいのかもしれない」


 確定、ですね。

 今喋っているのは『私』じゃない。

 自分のことをボクと呼ぶ彼女は、一瞬含み笑いのような表情を見せた後、打って変わって淡々と言葉を紡ぎ出しました。


「しかしボクたちが休むことで入国審査が滞っていては困る人が出てしまう。そうなれば治安の悪化にも(つな)がりかねない。まずは審査を終えていない人を一カ所に集めて、安心できる住居を提供するようにしよう。――アルしゃん、頼んでもいいか?」

「いいよー。まかせなさいー」


 ぅぅ……。このボクっ子、きっちり頭が回っていますね。


「それから、もしもボクから電気の力が失われた場合のことも考えておこう。木工に頼らない道を探るか、他の力で電動工具が動かせるように考えるか」


 他の力で電動工具を……?

 電力以外の方法で電動工具を動かせるはずがありません。これは私がいれば出なかった言葉です。

 前世の記憶は伝達していないということでしょうか。

『ボク』は更に言葉を続けます。


「あとはスライムにこうして電気を送って、蓄電を――――――。……ん?」


 元エリカだったスライムを両手で持って、いつものビリビリをやろうとしたようですが。

 スライムが無反応です。


「あれ? おい、まさか――っ」


 最悪かもしれません。

 私は、いなくならなくても、少し離れるだけで電気が使えなくなるみたいです。


「くそっ! なんてことだ!」


 ……あのー、私、ボクっ子でもそんなに口は悪くありませんでしたよ?

 これが私という束縛から解き放たれたフリーダムなボクっ子ですか。ちょっと差が大きいかもなぁ。


「この地下室を探ってみよう。なにか手がかりがあるかもしれない」


 それから七人は、砂の混ざった木くずだらけの地下室を徹底的に、掃除しはじめました。

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