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開拓の一歩目は意識から

 町が崩壊した翌日、私たち八人は四人ずつの二班に分かれて、隣町を目指す『救助要請チーム』とこの地に(とど)まる『開拓チーム』で別々の行動をすることに決めました。


「マリー、頼んだぞ」

「ああ。任せてくれ」


 マリーさんが率いる開拓チームを見送った私は、この地に残る開拓チームです。

 最初は『居残りチーム』というお名前だったのですが。

 この悲惨な状況です。

 まずは名前から前を向いていこうということで、ネーミングを変更。結果、開拓チームになりました。救助要請は目的が名前になって希望感があるので、そのままです。

 開拓チームとなった四人は、私、リタ=ロメールを除けば――――。


 ココを掘り当ててくれた、いかにも体力のなさそうな背丈の小さな女の子、ニコ=ラング。

 左腕に裂傷を負った眼鏡っ娘、ターシャ=ルティック。

 右腕を骨折してしまった、ニーナ=ジルキン。


 …………はい。

 本当に名前だけ前向きで、実質この班は『連れて行けない班』とか『歩くの無理そう班』とか、そんな感じです。私が一番動けるのかもしれません。

 でもね。

 ココを掘ったり、ちょっとした寝床の確保ぐらいなら、できるかもしれません。

 ――昨日の夜、マリーさんはこんなことを教えてくれました。


『土に(かえ)るのは、役目を終えた生物や物。まだ役目が果たせる状態なら、土には還らないんだ』


 つまるところ、スコップやシャベルは鉄製品だから残ったというよりも、頑丈で爆破の衝撃にも耐え、使える状態で残ったから土には還らなかった――と考えるほうが自然で説明が付くようです。

 それなら、衣類とかも残っているかも――!


「……あの、できました」

「――――さすがだな。詳細だ」


 ニコは商家の娘で、地理や語学が得意だそうです。

 破壊される前の町の見取り図を、土に書いてもらいました。


「記憶力も良いんだな。これは助かるよ」

「……配達とか、小さい頃からお手伝いをしていたので……」


 両手の人差し指を胸の前でツンツンさせながら、恥じらって(うつむ)いちゃう。

 どうしよう、めちゃんこ抱きしめたい!

 ……エリカの趣味が移っちゃったかなぁ。でもなんか、小動物的でとても守ってあげたくなる子です。こんな子が看板娘なら、商売繁盛間違いなしだね!

 まあ、呼び込みとかは苦手そうだけど……。押し売りに良い商品はない、って日本で学んだもんなあ。

 三十万円で買わされちゃったハンコセット、今頃どうなっただろうか。入手不可能な象牙とか言っていたから、三万円ぐらいで売れていたらいいな。入手不可能なものをどうやって手に入れたのかは知らないけれど。……我ながら、古典的な押し売りに引っかかったものです。

 運気を引き寄せるって言われたけど、そのあとすぐ死んじゃったからね?


「よし。それじゃあ、ボクとニコで手分けしよう。怪我をしてる二人は、しっかり休むこと」


 提案した直後、裂傷を負ったターシャと右腕を骨折したニーナが次々に言葉を発してきます。


「リタ様が動いているのに、私たちが休むなんて!」

「動かないのは片腕だけです! 少しはお役に立って見せます!」


 あー、こういうの、もう……ねえ?


「町はすでに土となった。こんな状況で領土も何もあったものではないだろう。そうなれば領主がいる意味もない。つまり、無理をしてまでボクを(うやま)う必要なんてないんだ」


 伝えると、二人は少しの間、黙りこくってしまいました。

 ですが納得はしてくれなかったようで、眼鏡っ娘のターシャが言います。


「――私は別の町で、農家の末っ子として育ちました。家は大家族でしたが、畑の大きさは限られているわけで……。いたずらに食い扶持(ぶち)を増やすわけにもいきません。そこで六歳の私は、どこかで大きな農家を営む男性に、養子としてもらわれるはずだったんです」


 この状況で語られた身の上話を無視するわけにもいきません。それに……そのお話には大きな疑問もあります。


「六歳……って、それは本当に、ちゃんとした養子縁組なのか?」

「そんなはずありません。いずれ結婚する――という前提です」


 うわぁ。やっぱりそういうのか……。六歳の子を育てて結婚しようなんて、まず間違いなく、ろくな男じゃないですよ、その人!


「納得したのか? …………いや、六歳じゃ何もわからないか」

「はい。でもなぜか、凄く嫌――、でした。勘が働いたと言いますか……。しかし私が貰われることで家にお金が回ると聞かされていたので、嫌だとは言えず」

「人身売買――か」


 いやーな話を聞いちゃったなあ。

 でも、これがこの世界におけるリアル……ってことかな。お嬢様育ちの私が、こういう現実を知らずに育ってしまったというだけで。


「そんな噂を聞きつけた領主様が、町をあげて私を引き取り、学校の寮に入れてくれたんです!」

「父さんが?」

「はいっ! ですから領地とか領主とか、私には関係がありません! 恩を返すか、返さないか、それだけなんです!」


 うーん。これは否定が難しいかも……。

 お父さんの評判が良いのは、こういう行動によるものだったのかな。

 ターシャが変な男に売られちゃわなくてよかったよ。っていうか何度考えても六歳はありえないでしょ!? そんなの、絶対びょーきです! びょーき!

 子供として可愛がるなら母性とか父性だけどさ。最初から嫁入り前提とか、ドン引きだよ。ターシャに選択権はないのかという話です。

 そして今度は、ニーナが口を開きました。


「実は、あたしも同じようなもので」

「ニーナもか?」

「この国では、特別珍しいことではないんです。上の子は働き、後を継ぐ。下の子は、売られる。そうして世の中が回っているのです」

「…………すまない。ボクはこの国を、温厚な国民性の、とても言い国だとばかり思っていた。ボクに接する人は、(みな)(みな)、いい人……、もしくはいい人の振りをしていたから」

「リタ様が気に病まれることではありません。実際、この町はそこに一石を投じた町でした。どんな子供でも、教育を施し、独り立ちさせる――。素晴らしい取り組みです」


 今はもう跡形もないガーデンテラス。

 あの場所で浴びていた多数の視線の中には、こういう事情を抱えたものも含まれていたんだ。

 でもその全ては私じゃなくて、お父さんが積み上げた功績なわけで。……恩返しをしようとしてくれるのは、娘として、もの凄く嬉しいのですが。

 やっぱり、リタ様――なんて呼ばれる人間ではないなぁ、なんて思っちゃうわけです。


「よしっ、わかった! じゃあ『二人は自由に行動してもよい』ということにしよう!」


 ターシャとニーナが、「「本当ですか!?」」と声を揃える。

 片や眼鏡っ娘らしく温和で、片や骨折していても力強い頼もしさを持っていて、声の色はかなり異なるけれど。

 意思は共通していると感じられました。


「ああ。だって友達に命令なんて、できないだろう?」

「「…………友達?」」


 二人は不思議そうに首を傾げました。


「ボクたちは今日から友達だ! どう呼ぶかも自由! だが、その……心配ぐらいは、させてくれ。――みんなで、お互いのことを思い合いながら、確実に開拓を進めていくんだ」


 私も力強く二人に伝えると、緊張していた表情が少し(ほころ)んで、笑顔になってくれました。男の子みたいな口調も、今は必要と思えてきます。


「もちろんニコも、友達だからな!」


 ニコは少し離れたところで、恥ずかしそうにこくりと、一度だけ(うなず)いてくれます。

 嬉しい――。ご令嬢とその他なんていう関係、もう、嫌ですから。


 ――――――エリカ、新しい友達が三人もできたよ。

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