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そのフラグ、折らせていただきます

..二人


 領主邸に戻ると、ニコが忙しそうに書類と向き合っていました。


「もう起きたのか?」

「はい。……少しでも早く、皆さんの住む家を決めてあげたくて」

「そうだな。ボクも取りかかろう」


 ニコは夜を寝ずに働いて、お昼になってようやく睡眠。

 せめて五時間や六時間ぐらいは寝てほしかったのですが。


「どれぐらい前に起きたんだ」

「……二時間ぐらい前、です」


 どうやら三時間にも満たない程度、ひょっとしたら一時間半とかそれぐらいで自ら起きてしまったようです。

 それも全ては、新しい国に住もうとしてくれている皆さんに、早く定住の場所を提供したいから。本当に、私の周りは良い子ばかりだなぁ。

 家族がいれば、土地と一戸建ての家を買う人もいます。一方でまとまったお金がなかったり、完全な定住に踏み切っていいのかを慎重に判断したいという場合には、一戸建てを借りることになります。

 そして独身者の多くは、家賃の安い集合住宅を希望していて――。

 ニコはその価格や支払い方法を設定してくれています。もちろん交渉が入る場合もあるので、必要とあればその対応も…………って、これ絶対あとで倒れちゃうパターンですよ! このフラグはへし折らなければなりません!


「ニコ――、少し話を聞いてほしい」


 彼女の隣に座って、彼女に向かって、彼女の大きな目を見ながら言います。


「なんでしょうか……?」

「ボクはニコのことを、大切な人だと思っている」

「……は、はいっ」


 んん? なぜか緊張されてしまいました。

 でもここはストレートに言わなければ!

 倒れてからでは遅いのです。

 過労の国から転生してきた者として、見過ごすことはできません!


「ロメールに住もうとしてくれる人々に、早く安定した生活を送ってほしい。それはボクも同じ気持ちだ。しかし、それでもボクには、ニコのほうがずっと大切だ」

「ええっと…………その……」

「きみは特別な人だ。ボクに守らせてほしい」

「はふえ!?」


 うーん。変な声が出ていますね。

 それでも止まるわけにはいかないでしょう。

 この執務室には仮眠用のベッドが置かれています。もちろんフレームは木製で、徹底的にこだわった木工装飾に(てん)(がい)付きのふっかふかベッドです。

 私のDIYライフの中でも有数の大作と言えるでしょう。


「すまない。抱かせてもらう」

「ふわぅ、ぇえっ!? そっ、そんないきなり――っ」

「そうでもしないと気付いてくれないだろう。ボクはずっと前から伝えたかったんだ」

「そ……そんなに前から……ですか?」

「ああ。そうだ」


 そして小柄なニコを強引に、お姫様抱っこ。


「ベッドへ行くぞ」

「べべべ、ベッドですか!?」

「当たり前だろう」

「あああ、当たり前なんですか!?」


 床で寝かせるほど(ひど)い人ではないですよ。

 何故か目をギュッと(つぶ)ってしまったニコを、お姫様抱っこのままベッドへ連れて行って、そっと優しく降ろします。

 すると(まぶた)を開いて、近い距離で目が合いました。


「今日のリタ……、いつもより更に…………(かつ)()いい、です」


 そしてもう一度瞼を閉じて、ゴクリと喉を鳴らしました。


「これでもボクは女だ」

「……はい。理解しています。覚悟も、もう……」

「覚悟?」

「そ、そのっ。だって…………っ」

「そうか――。睡眠に覚悟が必要なほど、疲れていたんだな」

「………………。はい?」

「本来は仕事をすることに覚悟をするのであって、休むことに覚悟がいるというのは非常に良くない。ワーカーホリック――つまり仕事中毒の状態だ。残業をする。土日も出勤する。有給休暇を取らない。そういうのはもう、日本だけで沢山だよ。ニコを同じ目に合わせたくはない」


 私もそこそこのワーカーホリックだったんですよねぇ。

 一つのことに集中すると周りが見えなくなってしまうと言うか。

 今だって最大限のゆるふわスローライフを心がけて、この始末です。


「だいたい、一年で国を立ち上げるなんて言うのは()(ちや)()(ちや)なんだ。それはわかるだろう?」

「そうですね」

「ボクたちはもっとスローな生き方を心がけたほうがいいと思う」

「そうですね」

「しかしロメールの出身者というのは、揃って規則正しい働きものだからな」

「そうですね」

「いや……、規則正しさを利用して、いっそ法律で働く時間を制限したほうが効率が上がる可能性もあるか」

「そうですね」

「………………どうした、ニコ。さっきから『そうですね』しか言っていないぞ」

「いいえ。ふて腐れているだけですから、どうぞ気にしないでください」


 言葉にトゲを感じますけれど……。

 しかし戸惑いはじめた私に、ニコは思いもよらない行動を取りました。


「う、わっ」


 急に袖を引かれて、私もベッドに引きずり込まれてしまいます。


「……一緒に、寝てください」

「は? いや、しかしボクは――」

「リタのほうが寝ていないじゃないですか! 休まないといけないのに町へ出て、そんなことでは倒れてしまいます! 国王が倒れるなんて一大事ですよ!」

「それは……まあ」


 声を大きくして怒るニコというのは、珍しいです。

 それほど心配させてしまっていたということでしょう。

 実際、私はニコより寝ていませんし、それなのに外へ出て、ターシャとロッキ先生の恋を見届けて……。

 この身体は確かに女性としてかなり強いと思いますが、忙しすぎればいつか倒れてしまうのは私も同じこと。

 ニコの言っていることが正しいですね。


「わかった。一緒に寝ようか」

「……はい」


 ふて腐れていると言った割に嬉しそうな表情のニコを見ると、ほんわかした感情に包まれます。これはよく眠れそう……。

 背中にエリカスライムがくっついてきて、この冷えた感触もまた――って、熱い?

 不思議に思ってエリカを見ると、真っ赤になってハアハアと興奮していました。満足そうです。

 ああ…………。そういうことですか。

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