お日様みたいな子パワー!
春うらら?
本当は暖かなお日様パワーを全身で浴びながらリラックスをして、まったーりティータイムといきたいところですが。
中々そうもいかず。
私とニコは領主邸の執務室に、缶詰でした。お日様浴びたいよぉ……。
「リタ様! ニコ! これも追加でお願いします!!」
あのターシャお母さんですら、やたらと慌ただしいです。こっそり三つ子でも産んじゃったのかな? というぐらい。
差し詰め、子育てに忙しい大家族のママ――といった様子でしょうか。
「本気でこれ全部に目を通すの……か……?」
「が……頑張り……ま、……しょう…………げふぅ」
ニコの息が途絶えかけています!!
「では、わえは畑があるので!! また後で!!」
バタンッ、と勢いよく扉を閉めて出て行かれてしまいました。やっぱりいつもより慌ただしいというか、余裕がないですね。
まあ私やニコも人のことをとやかく言える状態ではありませんが。
ターシャが置いていったのは、大量の書類。
手持ちではなく台車で一台まるまる。どっさり。
「人が増えると、こうなるのか……」
「ロメール育ちを舐めていましたね……」
これらの書類は入国と国籍取得と移住と出店の許認可、『など』!
新しく人が住むということは、元の町と国を離れるわけです。
とはいえパスポートもありませんから、まずは入国を審査しなければなりません。
旅行者は事前にたっぷり時間があったのでどうにかなりましたが……。それを思い返せば、今更ながら今回も一日何名までと制限を付けるべきだったと後悔してしまいます。
だってまさか、いきなり百人単位で希望者が増えていくとは。
嬉しい悲鳴ですが、悲鳴は悲鳴なのでこの書類との戦いは二度と経験したくない思いです。誰か残業代をください。
そもそも旧ロメール領を崩壊させた犯人が見つかっていない今、誰でも構わずに受け入れるなんて危険極まりないわけです。
なので、きっちり目を通します。
――二度と崩壊なんてさせません。
「仕方が無い。見落としがないよう、しっかり一件一件片付けていこう」
「……はい」
そして入国して頂いたとして、その人が住民になって頂いて構わない人か、そうでない怪しい人なのか。
ダリア寮経由で過去百年分の犯罪者リストを頂いてるので、それとの照らし合わせも欠かせません。というかこれが一番大変。
更に、住むことが決まると今度は、どの住居に住むことになるのか。
ざっと三千人分以上を用意したものの、人の好みは多種多様なわけでして。
私が好む木材盛りだくさんの和風モダンな家を好むかたもいらっしゃれば、アルしゃん作の『自由に暴れたガウディ』みたいな建築を好むかたもいらっしゃいます。
まあフリーダムガウディさん(仮)は高コストすぎて軒数が限られていますが。
場所もそれぞれ違いますし……。
で……。なんでしたっけ。
ああ、そう、出店の許可。
ロメールは人材が資源の領土でした。町にはハンドメルト校という名門学校があって、そこでは農業・商業・芸術、分野を問わず有能な人材を多数排出したわけです。
要するに全員が何かお店を出せるレベルの技能持ち!!
ですから『新しい国でも技術一本でやってやらあ!』という気概で移住してくるかたばかりでして、正直、その仕事は何? というわけのわからないものも。
「…………これ、水鑑定士ってどういうことだ」
「水を鑑定するのでしょう……」
「……そのままじゃないか。だいたい、水をどう鑑定するんだろう」
科学的な水質検査ということでしょうか。
「味で分けるそうです……」
おぅ……アナログぅ……。
見るとハンドメルト校の出身のようですが、水鑑定士なんて特殊な職業に携わる人材をどうやって育てたのでしょうか……。
「この国には温泉水しか沸いていないぞ」
「あっ、では……こっちの書類に地質学者がいます。水脈を何度も当てている……と。……もうこの人たちをくっつけてしまえば良いんですよ」
「ははは。じゃあ家も店も隣にしちゃうかーっ」
投げやりに言ったところで、後ろから声がかけられます。
「二人とも適当すぎるさーっ。もっとちゃんとしないと、あとで問題になるさーね」
この人は、私たちの後ろで寝そべって悠々と。
でも――。
「はぁ……。猫の手も借りたいところだが、ニーナの手はちょっとなぁ」
「そうですね。……ニーナさんの手はいらないです。――――ところで、ネコってなんですか?」
「日本の愛玩動物だよ。ボクも飼っていたことがある」
「愛玩動物なら癒やされそうですけれど、ニーナさんでは癒やされませんからね……」
ニコの毒舌は珍しいです。私が毒を一切包み隠さないのも、そこそこ珍しいとは思いますが。
「ちょっ、二人ともそれはないさーっ!」
「安心してくれ。こうして毒を吐くことで精神を保っているんだ。日本では残業を続けると壊れたように会社と上司の悪口ばかりを言う社員がいる、そういう文化だ」
「……あまり行きたくない国ですね」
さすがに言い過ぎたのか、ニーナは頬を膨らませて立ち上がりました。
そのまま私の後ろに立ってきます。
「気が散るだろう。頼むから後ろに立たないでく――ぅわひゃ!?」
「はい、じっとしててー」
急に肩に手が載せられて、背筋にぞわぞわっと電気のようなものが走りました。
「うわっ。めっちゃ鳥肌立ってるさー」
「いきなり触るからだ!」
「いいからいいから。ネコなんかより私の手のほうが役立つって、たっぷり教えてあげるさー」
そう言うとニーナは、私の肩を優しくもみほぐしはじめました。
「ふふん。お客さん、だいぶこってますよー」
「う――うん。そりゃ、これだけの仕事をこなしていたら、そうなる」
「そうそう。仕事ばっかりしてると肩もこるし、頭もこるし、心もこるさーね」
「心……?」
急に不思議なことを言い始めました。
「普段は言わないような毒を、平気で吐いたりしてるでしょー?」
「……ごめん」
「うん――。少しは解れてきたかな?」
「ああ。上手いな」
ニーナの肩もみ、めちゃんこ効きます……っ!!
「マリーに教わったさー」
「へえ……。医学的に心得たものがある、ということか」
「筋肉の繋がりとかツボとか、色々と教わったさーね。ターシャの肩はよく揉んでたんだけど、二人ははじめてさー」
「……なるほど。そういうことか」
ニーナをここへ置いていったのは、ターシャでした。
住民が増えて畑は人手が足りていますし、猟を趣味として仕事が決まるまでは猟をすると名乗り出てくれた人も多くいましたので、ニーナは少し手持ち無沙汰なのです。
「次、ニコも揉んであげるから」
「えっ。私は――」
「こんな状況で遠慮してたら、この先やっていけないさー」
「…………そうです、ね。――では、お願いします」
お日様パワーは得られていませんけれど、ニーナの朗らかなパワーは注入してもらいました。
さて――、一度気合いを入れ直して、その前に紅茶を一杯……。
心をほぐすには、やはり、まったりとしたティータイムでしょう。
そう思って席を立つと、目の前にあった書類の山の一番上のページがふと目に留まりました。
「……この人」
私のつぶやきに、ニコとニーナが首を傾げます。
ほとんどの入国希望者は写真付きの書類を提出してくれています。白黒ですし数年前の写真という人が多いのですが、王都のしっかりしたお店で撮っているので、ブレやボケはなく鮮明です。
「写真の感じからするとかなり新しいようだが――。この顔に見覚えはないか?」
「小太りのおじさんさー」
「うーん……。この人に、何か気になるところがあるのでしょうか?」
二人に違和感はないようですね。
「いや――。ボクにもよくわからない。……ただ、妙な既視感があったんだ」
名前はドン・コール。五十三歳の男性。ニーナの言うとおり、少し太っているかな。
いや、元々太っていた人がいきなり痩せたようにも見えます。
うーん?
悪い病気じゃなければ良いのですが。この国にはまだ医療がありませんから。




