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ロメール国、動く

 厳しい冬を越えて、暖かな日差しが町並みに降り注ぎます。


「来たぞ!」


 領主邸の出窓から交易で入手した『手持ち望遠鏡』を(のぞ)き見て、遠くに多数の馬車を確認。馬の頭数が多すぎて土煙まで舞っています。

 光を屈折させる望遠鏡には良質なガラスを使うことが最も重要なことなので、ガラス作りに定評のあるダリア領では名産品なんです。


「ついにこの日が――。んーっ、感激さぁー!」

「食料も施設も、計算上は成り立つのですが……。わえは少し心配です」

「……大丈夫です。二倍で計算しても足りています」


 今日の馬車が運んでくるのは、物ではなく『人』。

 冬の間は人が動きません。

 ですからマルシアちゃん経由で新ロメール国を見に行きたい旅行者を、事前に募っていただいていたんです。

 春になり、そしてロメールとして新しく住民を受け入れられる体勢となってから、旅行を実行してもらいました。


『新ロメール国 観光ツアー』


 そう名打たれて集まった人数は、千五百人。

 さすがに一度に移動できる数ではないので、三回に分けて五百人ずつ。今日はその一回目です。

 今までも物とお金は動いていたのですが、やはり大勢の人が動くと『国』という感じが増しますね。

 とは言っても七人で五百人をおもてなしなんてできるはずもなく、ほとんどは日帰り旅行ですが。


『それでもせめて、ゆっくりと温泉に()かって、美味しいものを沢山食べて頂ければ――』


 これが今回の、私たちの目標です!


「手はず通り、今日はターシャを中心に動くぞ」


 彼女の目は期待と不安が見事に入り交じっている印象です。でも、確かに前を向いています。


「はいっ!」

「よし――。みんなで、おもてなしだ!」


 期待についつい声が高くなっちゃいます。

 町へ出て、まずお出迎えに快活なニーナが走り、最年長のアルしゃんもそれに続きます。

 私が「頼んだぞ!」と声を出すと、走りながら「任せるさー!」、「大丈夫ーっ」と返ってきます。

 彼女たちは初対面の人に臆することがないので、お出迎えには最適でしょう。……若干、お調子者だったりマイペースすぎたり、不安もありますが。


 そして私とニコを除き、残る人はターシャを先頭にして、いざ農地へ――。

 普通の土で育てた日持ちのする野菜は、すでに収穫して保存済みです。

 なので、珍しい食べ物を美味しく召し上がって頂くために必要なのは『調理』となります。


 私たちが五百人分を調理? まあ、無理でしょう……。


 そこで私から発案して、農地に『()り放題』の看板を建てました。

 春は野菜が美味しい季節です。

 ココの実を使って育った野菜を旅行者さんにガンガン収穫して頂いて、すぐに焼きトウモロコシのようにざっくばらんに調理して召し上がって頂いたり、調理専用施設を作っておいたのでそこで思い思いの創作料理にチャレンジして頂く――という企画です!

 つまりは、ただのセルフサービス! 労働力はお客様! ……おもてなしとは、一体。


「で、ボクは本当にここで構えていなければならないのか?」

「もう領主どころか国家元首ですから、落ち着いて構えて頂かないといけません。……心苦しいですが、我慢をしてください」

「なんだかニコとエリカの姿が被るよ……」


 言うとニコは、自分の頭の上に手を当てセルフポンポン。更に胸に手を当ててセルフトントン。

 眉根を寄せた顔で『どこが?』と言いたげにこちらを見てきますが、そういう意味ではないですよ。

 領主の娘としての振るまいと、国家元首としての振る舞い。どちらも本当の私の姿とはほど遠いのに、演技を求められる気分です。それを理解していて求めてくる姿というのが……。


「――ま、なるようになるだろう」

「スライムたちもいますし、みんな頼りになりますから……。きっと、()()くいきます」


 エリカ以外のスライムはサポートに出向いています。彼らはマスコット的な存在でもありますし、相棒として頼れる存在です。

 ――――そう。みんな頼りになる。信じています。

 唯一ここに残ったエリカスライムも、ニコの意見に同感なのか目を細くしてツーンとした態度を取っています。

 二人が言っていることは至極真っ当で、正しいんです。

 ……でもね。


「よし、お忍びで見に行くぞ」

「はっ?」

「お忍びなんて国家元首らしいじゃないか!」


 ニコの目を見て言い切ると、「はぁ……」呆れた感じで()(いき)を吐かれてしまいました。


「いや、ほら! 実際に声を聞かないと(わか)らないこともあるだろう? 日本では将軍が下町へ出向いたり、副将軍が国中を旅したりするんだ。だからボクも――な?」


 でもすぐに(ほお)が緩んで「ふふっ」と笑ってくれました。

 まるで、こうなることを予想していたかのようです。


「……仕方がないですね。では、エリカさんと三人で行きましょう」

「よしっ。――――こほん。『それじゃあ行きますよ、(すけ)さん、(かく)さん!』」

「ごめんなさい。……わかりません」


 ですよね。言ってみたかっただけです。

 近いうちに(いん)(ろう)を作ろうかな。

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