初雪
窓ガラスを入手して早くも四ヶ月が経過。
木工製品の質も随分と安定しはじめ、建築も、もの凄い勢いで進んでいます。
ガラス張りのモダンな住宅を中心に、時々アルしゃんのデザイナー魂が暴走してしまったアートな建築が混ざって、かなり独特の街並みとなったように思えます。
ガラスで光を取り入れるようになると全体の景観は細かな質を求めるようになって、みんなで壁に塗料を塗ったり、木材にコーティングのオイルを塗ったり――。
「見事に平たい屋根の群れ……。スライムの蓄電と、増殖が大きかったな」
私は旧領主邸のあった場所へ新たに建てられた『新領主邸』の窓から町を眺め、一人言を呟きます。
この場所は町で一番高い丘の上で、町の造りは片面へ向かって放射状に広がっています。それも緩やかに下って――。だから本当に、窓から一目で一望できちゃうんです。
「このほうが全体を見通すことができる。看守塔の役割を果たすというニコとアルしゃんの提案も正しかったと思う」
私の後ろには、頼りになる『経済担当大臣、ニコ』と『町作り推進大臣、アルテミシア』の二人。
この四ヶ月の間も定期的に行われたダリア領との交易で、旧ロメール領が国家として活動するのなら周囲から見てわかりやすい組織である必要がある――と指摘を受けたわけです。
なので、思い切って大臣にしちゃいました。部下はいませんが、まあそこは追々。
「まだ人の受け入れはできていない。だが受け入れる形は整いつつある。崩壊前の一万とまでは言えないが、すでに二千人から三千人の受け入れを見込めるだろう」
あの崩壊から僅か七ヶ月。木材でレコブロックの型枠を増やし、八匹のスライムにネバネバを吐かせまくり、木の板と窓ガラスをどんどん製造して……。
「凄いことだと思う。心から感心するよ」
たった七人で、よくここまで――。
すでに快挙と言ってもいいでしょう。
……でも後ろの二人は、振り向いた私から視線を逸らしました。
「本当に平たい屋根ばかりだ。――しかしボクは、常々思っていたのだよ。レコブロックは正四面体で、それを重ねるのなら屋根は平たいほうが効率が良いはず。なのに、なぜ崩壊前の町も他所の町も、三角屋根が多いのだろう……と、ね」
さて――、と窓から離れて、二人へ向きます。
「……………………すっごい雪だ。どうしよう……」
泣きたくて、手で顔を覆ってしまいました。
たった一晩の間に平たい屋根の上にもっさりと雪が積もって、いつ崩壊するかわからない状態。
ニコが眉を顰めながら提案してきます。
「雪下ろしの電動工具とか……」
「さすがにない」
「……ですよね」
ロメール領は温暖なほうで、積もるほど雪が降るというのは珍しいことです。
でも、たまーに、数年に一回の寒波で大雪に見舞われることがあります。
「三千人住める町をー、七人で雪下ろしー?」
あるシャンが絶望的な言葉を口にします。
そんなの無理に決まっているじゃないですか……。雪までかるふわじゃないんですから。
「あっ」
しかし思い当たる物が一つ!
「『ふわっふわのかき氷が作れる機械』なら、電動工具に紛れていたぞ!」
買って使わなかったものを放り込んでしまったのでしょう。
「……それ、三千人分の屋根の雪を全部ふわっふわにできるのですか?」
「わー、メルヘーン」
「ごめん。関係なかった」
打つ手無し。
窓の外からニーナの声が響いてきます。
「雪さーっ! 雪さーっ! ゆーきー、さぁぁっ!!」
ぶんぶんと手を振って楽しそうなのが、ことの重大性を理解していない証拠です。そして誰も踏んでいないふわっふわの新雪へダーイブ!
さすが南国育ち。雪の怖さを知らない子……っ!!
そしてその向こう側では、ターシャが必死にシャベルで雪下ろしを開始していました。現実的な子……っ!!
「ニーナ! ターシャの近くにいてやってくれ!」
「なんでさー?」
「雪下ろしは事故が多いんだ! 特にこの町の建物は、まだ一度も雪を経験していない! いつ壊れてもおかしくないぞ!」
ニーナは『そんなに大変なことなのかなー?』という感じでゆっくり歩いて行きます。
この純白で綺麗な雪が凶器になるなんて、彼女には思いもよらないのかもしれません。
前回の寒波は私が六歳か七歳の頃だったので、ニーナは経験していないのでしょう。彼女は元々住んでいた漁業の町からロメールへ留学していたのですから。
再度、後方の二人へ向き直して、相談を開始します。
「ボクたちには二つの選択肢があると思う。
『一、人力で雪下ろしを敢行する』
『二、時にはあきらめも肝心という教訓を得る』
――どちらがいい?」
「言い方が前向きなだけで、二つ目が絶望的すぎるのですが……」
「あきらめるのはー、うーん……。私はまた新しく作れるからいいけれど、みんなが頑張った成果が潰れちゃうのはー、嫌かなー」
どうしたものでしょうか……。
温泉水で溶かすことが一番の有効手段のように思えますが、さすがに範囲が広すぎますし、暖かい温泉水を暖かいまま移動させることそのものが困難でしょう。
町を眺望できる丘から、みんなで頑張って作り上げた町が崩壊していくのを見守るのは、想像するだけで辛すぎます。もう崩壊なんて経験したくない。
ですが、幸いなことに潰れた建物はまだ一棟もありません。
太陽が昇ってもまだ雪は降り続いていますし、夜になれば更に……ということも予想できます。
諦めるなんて、嫌。
やっぱり今のうちに、なんとかしないと――!




