夕食会です
復興後のロメール領は、ロメール国となる予定です。
決して格上げというわけではないので、立ち上げてすぐ国家破綻なんてことにならないように頑張らないといけません。
当面の主要産業は木工の工芸品となるでしょう。特に食器と板の製作能力はズバ抜けたものがあるはずです。
次いで観光業。
温泉と新しい建築を活かした最先端の癒やしを売りにするつもり……なのですが、率直に言って、こちらは不確定要素が多すぎます。
爆発的な人気となる可能性もある一方で、全く見向きもされない可能性だってある。
堅実な道が木工品の一本だけでは心許ないので、二つ目の道を確保したいところ。
そこで候補に挙がるものが――。
「マルシア、味はどうだ」
農業です。
私たちはマルシアちゃん御一行に、この地で採れた野菜や果実を振る舞うことにしました。
もちろんそれだけでは少し寂しいと思いますから、森で狩った獣肉も合わせて――ですが。
「これ、本当に野菜ですの? 甘くて美味しい――。特にこのトウモロコシはジューシーでどこまでも奥深い味……、率直に、凄いですわ」
「焼きたては特に美味しいんだ」
トウモロコシは野菜ではなく穀物ですが、まあザックリ野菜ということで。日本のスーパーでも野菜売り場ですし。
そしてトウモロコシの魅力は、焼きモロコシだけではありません。私は続けて魅力をアピールします。
「擂り潰してスープにもできるんだ」
「これ、ですの? ココの実のスープよりも黄色いですのね」
「実の色が出ている」
コーンポタージュ……と言いたかったのですが、牛乳もなくレシピを知っているはずもなく。
調味料だって塩や砂糖、この世界独特の香辛料はありますが、それだけで再現できるのは腕の立つ料理人だけでしょう。
でもココの実スープはじゃがいものポタージュに近い味ですから。そこへ擂り潰したコーンを加えると――。
「美味しいっ。これ、調理はどなたが?」
「ターシャだ」
言うと、ターシャが照れくさそうにちょこんと、顔の隣ぐらいまで左手を挙げました。
彼女は農家出身で生野菜や果実に慣れ親しんでいます。この世界『グリフィールド』は日本のあった世界に限りなく近似する世界ですから、野菜や果実の基本的な部分というものは共通するところがあります。
小麦の原種のようなものからは、少し固いですがパンも作れます。穀物らしい風味が強くて、日が経って更に固くなったものをスープに浸して食べると深みのある味に変わり、とても美味です。
「肉に使われているスパイスも、風味が強いですわ。少々、辛味が強いとは思いますが」
「十二歳には少し厳しかったか」
「そのようですわね」
ムキになって反論しないところは、しっかり領主として振る舞っている証でしょう。
更にマルシアちゃんは続けて言葉を発します。
「あちらにいる男性がたを見れば、よくわかるかと」
護衛と馭者の男性陣に、鑑定士兄妹の兄であるエデ。彼らはガツガツと肉を頬張っています。
男性向けの味だったのかもしれません。
「使ったのはニンニクと胡椒だ。どちらも滋養強壮に良い」
「なるほど――。これは確かに高い価値がありますわ。ですが――――」
「日持ちしないのでは出荷ができない……だろ?」
「ええ、その通りです」
「実は今日の料理の中でも胡椒とトウモロコシ、ジャガイモは、ココの実を使わずに育てたものなんだ。あとはまあ、唐辛子も」
「本当ですの!?」
種を蒔いて二ヶ月、三ヶ月と経ったここ最近。ターシャの弛まぬ努力が結実しはじめました。
まだ成育中のものも含めると、かなり多くの種類が生産できそうです。
「ボクたちには人手が足りないから、大量生産というわけにはいかない。しかし希少価値で貴族や王族へ広まれば……」
「とんでもないインパクトで、高値で取り引きされることになりますわ」
「これをダリア領経由で広めて欲しい」
「お安いご用です。――――というか、この出来なら放っておいても広がりますわよ」
大まかな方向性を私とマルシアちゃんがトントン拍子で進めて、隣ではニコがエデ・ロール、ユヤ・ロール、そしてメイドさんの三人を相手に交渉をしています。
三対一で対等に交渉をするというのは本来とても難しいことだと思うのですが、彼女は一つも表情を乱しません。
「凄いですわね、ロメールの人材は。性格も得意分野もバラバラなのに、不思議と調和できる。真っ直ぐに育っている証拠です」
「……そうだな。ロメールで生まれたのはボクとニコ、マリーの三人。しかし他の五人も、他所の町からロメールで学ぶためにやってきていた。――みんな、この町に育てられたんだ。ロメールの血筋を引く人間として、誇らしいよ」
「酷い逆境の中にいるのに、こうして仲間同士で和気藹々と……。率直に言って、羨ましいですわ」
「ん、なにを言っているんだ?」
私の問いに、マルシアちゃんはとても子供らしい声で「え?」と発してキョトンとすると、軽く見上げてきました。
「マルシアもロメールで育った、ボクたちの仲間だ。――少なくとも、ボクたち八人はそう思っている」
「私が……?」
この子は、たった十二歳という年齢で一体、どれほどの孤独と戦ってきたのでしょうか。
「もちろんだ。――――身を張ってこの場所を守ってくれたと、聞かされた。本当に感謝している。ありがとう」
私は、はじめて妹へ頭を下げました。
本当にありがたくて、嬉しくて、誇らしくて。
対するマルシアちゃんは目を潤ませながらこちらを見て、自分でそのことに気付くと指で涙を拭います。
「その――、私はただ、ここの人たちが頑張っているのを見たら、居ても立ってもいられずに」
「ああ。それが嬉しいんだ。――――でも、マルシア。これだけは知っていてほしい。今きみの周りにいる人たちは、きみを支えることに全力を尽くしている。そして……年齢なりの子供でいられないことを、心配してもいるんだ」
チラリとメイドさんの表情を見遣ると、嬉しそうに微笑み返してくれました。
二の句を継ぎます。
「ここに来るときだけでもいい。……ボクだって心配になる。だから――」
言いかけたところで、マルシアちゃんはバッと飛び込むように私の腰に腕を絡めてきました。
「うん――。うんっ。ありがとう、お姉ちゃん」
久しぶりにお姉ちゃんと呼ばれて、私は妹の頭をそっと撫でます。
お互いに別々の利益を計算しなければならず、異なるものを背負っています。マルシアちゃんは両親から受け継いだダリア領。私は崩壊したロメールの復興。
決して馴れ合いだけでできる仕事ではありません。
でも、仕事の話をしていないときは――。
いつも頑張っているのですから、これぐらいのご褒美は当然のこととしてあって良いように思えました。




