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壁が薄いという伝説

 妹のような存在と言っても、王族。

 マルシアちゃんたち一行には事前からお泊まりをして頂く予定だったのですが、先日にダリア領を訪れたばかりということもあって、さすがに王族をここに泊めても構わないものなのかと不安になります。

 窓のない空間は、いくら内装に木材を使って(ぬく)もりを演出していても、ぶっちゃけると独房のような状態ですからね……。


「あら。思っていたよりも――。広くて良いお部屋ですのね」


 彼女はそういう事情を知っているからこそ、せせこましいところに押し込まれる覚悟をしていたのでしょう。


「現状で開放感を出すには、広くするしかなかったんだ」

「天井の高さも屋敷と同じですし……。ただ、壁も木で組んだのですか?」

「少しでも早く、レコブロックの節約に繋がる建築法を伝えたかったからな」

「どれだけの木材を使ったのか――――。想像すると()(まい)がしますわ」


 レコブロックならネバネバを塗り広げてトンと置くだけで一メートル四方の壁が完成。それも厚さがあって断熱材も防音材も必要なし。マンスリーレオパレ……のようなことには絶対ならないわけです。ゲフンゲフン。

 でも板張りでは問題あり。防音材がない木板だけの壁なんて、よほど重厚で分厚い木材を使わないと防音は多分、無理。もしかするとそれでも無理かもしれません。

 木材に溝加工をして吸音性能を上げるなども考えましたが、工程が大幅に増える上に他所の町では真似ができません。できれば世界中で通用する方法にしたいところです。

 そこで開発したのが――。


「この壁、外と中の感じから察するにかなりの厚みのようですけれど。――まさか惜しげもなく極厚の木材を使ったのでは」

「さすがに、それでは木材が足りなくなる」


 三十センチ以上の厚みがあるので。それでは板と呼べるかすら怪しいです。


「ではどうやって?」


 あらかじめ用意して置いた板と柱の実物を使って、解説します。

 この辺りの段取りはニコの発案と、ターシャの堅実な管理力に因るものです。ただまあ、管理力というのは管理職的な感じというよりも


『ちゃんとハンカチ持った? 宿題忘れてない?』


 という感じの、要するに『お母さん力』ですね。

 ちゃんと注意してくれる人がいれば、私やニーナのようなズボラ人間でも忘れ物をしないで済みます。お母さんは偉大……っ!


「レコブロックは型枠のサイズより小さく作ると強度が落ちる。しかし外壁と内壁の間で密閉された空間の中に、流し込むように使えば――」

「強度は木が持っていてくれる……? そんなに()()くいくのかしら」

「大丈夫だ。今のところは問題ない」

「今のところは、って。完成してどれぐらい()っていますの」

「………………大丈夫だ」

「大丈夫じゃないのですね。まあ、壁で建物を保っているわけではないのなら、思いっきり崩壊するようなことはないでしょうけれど」


 ダリア領は近々大規模な公共事業に取りかかるそうです。

 第一の理由は、町にメンテナンスが必要とわかったこと。

 そして第二に、領主邸の庭を丁寧に探った結果、ロメール家と同じように地下室を発見して『型枠』が保管されていたこと。

 ロメールやその他の領で確認されたように、建造物を崩してしまえば、その土の中からココの実を採取できるので、これでレコブロックを作る条件が揃います。。

 あとはまあ、エリカをはじめスライムたちのネバネバは完全密閉さえすればすぐに腐ったりはしないので、まずはロメール領からお裾分けをする予定です。後々のことは経済状況を見ながら、ネバネバを売るか譲るか決めれば良い――と。

 更に三つ目の理由が、リオネロ領から溢れた人たちに仕事を与えることでした。

 マルシアちゃんは四メートルある天井を見上げて「うーん……」と考え込み、続いて「ラーメン――」と(つぶや)くと、そのまま言葉を続けます。


「内部の間仕切り壁に次いで、外壁も木材に――。この工法なら、有限であるレコブロックがかなり節約できますわね」

「ああ。人口増加にも対応できると思う」

「将来的には木材だけで家を建てるか、レコブロックに変わる建築材料を開発するか――。なんにせよ、十分な時間は稼げますわ」


 と、いつになく『領主と領主』のような会話を繰り広げていると不意に、ターシャの声が聞こえてきました。


「マルシア様ーっ、リタ様ーっ、お風呂のご用意ができましたーっ!」


 夕食の席で緊張がほぐれたのか、私に接するのと似たような感じでマルシアちゃんの名を呼べています。


「マルシア様、行きましょう」


 いつの間にか両手で着替えを持って待っていたメイドさんが促すと、マルシアちゃんは「ありがとう」と上品な感じで一言置いてから、先導して歩き始めました。

 そして一緒に行こうとした私の前には、ピョンピョンとエリカスライムが跳ねています。頭の上には着替えが――。


「エリカ。着替えぐらい、ボクは自分で……」


 言いかけると、エリカの目つきがキリッとして、つぶらな瞳で(にら)むようにこちらを見てきます。


「あー…………、わかった。頼むよ」


 前世でメイドだったエリカの中に、対抗心のようなものが燃えているのでしょう。

 私にはわからない世界ですが、メイドさんにはメイドとしての(きよう)()があるのかもしれません。

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