ニコの気持ち
美味しい夕ご飯を食べて、いよいよみんなを家の中へご案内です。
「楽しみさーっ」
「家に木を使うなんて、なんだか贅沢ですね。わえはハンドメルト校ぐらいでしか板張りの床を経験したことがないので」
「……私も、そういうところで眠ったことはないです」
ふふ。みんなには『床を板張りにする』としか伝えてありませんから。
壁まで板張りになっていると知れば、更に驚くことでしょう。
「開けるぞ!」
宣言して、ご開帳ーっ。
「おおっ、凄いさー!」
「え! 壁まで木になっていますよ!?」
ふっふっふ。ニーナとターシャは驚きの声を上げ、ニコは驚きのあまり口を開けて唖然としています。
そのあとから入ってきたマリーさんたちも次々に感嘆の声を上げ、床にゴロンと寝転がったり壁の手触りを確かめたり。
各々の反応を見ているだけでも楽しいですね。やり甲斐があります!
「うさ、この匂い好き」
木の香りが落ち着くのは、木造家屋が多い世界に限らない話のようです。そもそも自然のものですからね。
エリカのネバネバを使用しているので科学的な接着剤とかは一切使っていませんし、シックハウス症候群のような心配もありません。
「肌触りがー、すべすべー」
最年長のアルしゃんは横になって、頬で感触を確かめています。デザイナーを目指しているからか、独特の感性を持っていそうです。
「表面にはプレーナーを使ったんだ」
「ぷれーなー、いいプレーだなー」
独特の感性……。
プレーナーは『電動カンナ』の一種で、表面を綺麗にしてくれます。
ただ、日本の職人さんは『薄削り』ができます。
透き通るほどの薄さを、リンゴの皮をクルクル剥いたように一繋がりでカンナから出す――。それは正に職人芸であり、私のようなずぶの素人には到底できないことです。
そもそもリンゴの皮をクルクル剥くこともできないですし。
でも電動のカンナであれば、それほど難しくありません。プレーナーは置いて使う電動工具で、動かすのは木材のほう。台の上をゆっくり滑らせると指定した厚さのカンナがけができます。
「もちろん、しっかりヤスリがけもしたぞ」
カンナがけが職人芸であることに対して、ヤスリがけはザラザラした面で木材を擦るだけなので、子供にだってできます!
そこはもう張り切って、きっちり番手の高いヤスリで仕上げるまでやりました。
番手というのはヤスリの目の細かさを表すもので、高ければ高いほど細かくなります。四十番とかならガツガツ削った感じに。百番を超えて、更に千番や二千番で仕上げればすべすべになるわけです。
この世界にもヤスリはありますから、今度新しいものを入手したいと思います。
――――が、面積が広すぎて。
結局は『電動サンダー』という力に頼りました。電動でサンダーって凄い名前です。
でもこのサンダーは雷ではなくサンディング(研磨)のことを指していて、電動で動くヤスリを木材に当てて使いましょうというもの。
押し当てるだけで動かす力が要りません。
仕上げ向きのオービタルサンダーや削り向きのベルトサンダーなど、やはり、いくつか種類があります。
「あとは、ボクの身長では届かないところと天井にも板を張りたい。それが終わって窓ガラスが手に入れば、木の内装に採光も取れるようになる。――いよいよ、家らしくなってくるぞ!」
目指せ、脱・洞窟!
「楽しみさーっ」
「わえもですぅー」
ターシャが思いっきりリラックスしている姿というのは珍しいかもしれません。ニーナはしょっちゅうゴロゴロしていますが、お母さんは大変ですからね。
頑張ってよかった。
――――って、あれ?
「どうした、ニコ」
唖然としていたニコが、今度は目を伏せて俯き、プルプルと震えています。
感動しすぎて……? いやぁ、そんなに喜ばれると困っちゃいますよぉ。
――しかし私の問い掛けに、ニコは暗い調子でゆっくりと言葉を紡ぎました。
「…………あの、壁に使った木板は、どこから?」
「もちろん倉庫からだ」
「……じゃあ、ガラス板との取り引きに使う木板は?」
あ………………。
これじゃ散財じゃなくて散材だー、なんて……冗談で済まされそうにはないですね。はい。
ニコからただならぬ怒気を感じて、私は木の床で正座をしました。




