『なんでもできる』よりも『これしかできない』のほうが役立つこともある
マルシアちゃんが訪れてくれた日に、三つの予定が入りました。
一つ目はガラス板と交換するための木板を確保すること。
そして二つ目は、マリーさんがダリア領を経由して、本格的に医学を学ぶための留学に出ること。こちらはすぐに動ける話ではありませんが、マリーさんはマルシアちゃんに相談済みで、了解を頂いたそう。
二つの国に分かれたと言っても、こちらは通貨も法律もない状態で、人口はたったの八人。まだまだ国なんて名乗れるものではないですし、公の場で立国を宣言したわけでもありません。
ダリア領と旧ロメール領の間に、対立する要素はないでしょう。
三つ目は、更に下流にある港町の状況を実際に目で見ること。この件はニーナが発起人です。
港町が被害に遭っていれば、選択肢は救援や保護を求めてこの町を目指すしかないはず。
でも未だにそういったことが一度もないということは……。
人口百人ほどの小さな町とはいえ、本来なら定期的に魚を売りに来ているはずですからね。
空気よりも重たい可燃性ガスが井戸に流されたならば、より下流の港町はここ以上の被害に遭っていると想像できてしまいます。
それでも、この目で見たい――。
ニーナの気持ちを尊重するべきでしょう。一旦夜を明かしてすぐに実行すると決まりました。
そして、朝。
行くのはニーナとマリーさん。
「それじゃ、行ってくるさーっ」
「あとのことは頼んだ」
戦闘力の高い二人ですが、だからこその組み合わせ。一人で残って狩猟をしても効率的ではないことも、理由となりました。
数日はお肉を我慢ですね。
「さて――。ボクも頑張るとするか」
ここに来て板の取扱量が増えることになりました。
増産体制です。
これまではバンドソーと呼ばれる据え置きの電動工具を中心に使っていましたが、実はこの機械には弱点もあって……。
刃の奥行きが十ミリ程度と短くて、厚みも一ミリか二ミリかという程度。
つまり『刃が弱い』。
手で横から押しただけでたわむような刃で、堅い木を完璧な直線にカットをするのは難しいんです。むしろ曲線カットもできることが長所になるものですし。
知識だけは仕入れてあったことと、そういう短所をできるだけカバーした高いものを買っておいたので、かなりマシなほうだと思いますが。
プロの木工所でも使えるレベルだとか。電源も家庭用の百ボルトではなく、二百ボルトです。
『買うまでしか楽しめないのに、買うことを惜しんでどうするんですか!?』
という感じで、もはやDIYのレベルではないのではないかというほどに高いものを。はい。
それでも結局、薄い刃では『安定性』という点で問題があります。
――そこで新しい電動工具を、地下室で組み立て中です!
「ニコ、D1のボルトを」
「はい」
ニコはもうアルファベットと数字を覚えてしまいました。
「これができたら一気に…………ふふっ……ふふふふ」
「そんなに凄いものですか――?」
「バンドソーに比べると単純で、できることは限られるのだけれどな。厚みが求められない板を真っ直ぐにカットするのなら、『テーブルソー』のほうが断然強力で正確なんだ」
ちょっと出番が遅すぎた感すらあります。
テーブルソーとは、テーブル=作業台に、ソー=のこぎり(電動丸ノコ)が付けられたもの。
電動丸ノコと言えばDIYの基本道具ですが、あれが裏側から取り付けられて作業台の上に刃が出ている状態です。
適当な板と足、そして手持ちの電動丸ノコを使って自作する人もいるようですけれど、回転する刃物が表に出っぱなしというのは本当に怖いので要注意です。裏向けに取り付けていると言うことは、何かの拍子で落下する可能性もあるわけですし。
その点、既製品のテーブルソーはしっかりガードが付いていますし、専用に設計もされています。
「できた――。早速、板を切ってみよう」
「楽しそうです」
「おっ、ニコもやってくれるのか?」
「いえ。リタ様が楽しそうだなぁ――と」
一瞬、DIY仲間が増えた! と思ったのですが。
まあでも、楽しいのは事実ですからね。
ボクっ子に男言葉と、中々頭で思っていることがそのまま口に出ることはありません。それでも感じているままを表情から受け取ってもらえるというのは、とても嬉しいことです。
スイッチを入れると、一般的な丸鋸よりも二回りぐらい大きな回転歯が唸りを上げます。
か、かっこいい……っ!
これを見ながらご飯が食べられそうです!
……ええ、変人ですよ。よく考えたら脳内もそこそこ男の子ですよ。
用意しておいたテスト用の板を、ガイドフェンスという『真っ直ぐ切るための治具』を使ってカットします。治具は正確に加工するための道具といったところでしょうか。
ギュイィィィィィィと少し高い音が鳴って、あっという間に切断。
丸ノコの刃はほどほどに厚みがあって大きく、円形で凄く丈夫です。平紐のような刃のテーブルソーと違ってたわむことがありません。
「ふぅ。一気に行けたな」
「凄い! これ、今までで一番速いのでは!?」
ニコが珍しく興奮気味です。
「真っ直ぐにしか切れない。高さもそれほど高くは切れない。でも切断能力は高く安定もしている。――どうだ、板を大量生産するには必要なものだろ?」
「はいっ!」
「……これを買っておいて、よかったよな」
「もちろんです!」
よしっ。私は正しい!
このテーブルソー、本当に直線カットに関しては圧倒的な性能です。
その後もザクザク切り進んで、同じ大きさの板を大量製作。
今後の作業効率が間違いなく上がると確信しました。
効率や町のことだけを考えると、これほど便利だと最初から解っていれば、もっと早く出番が訪れていたはずという気もします。
でもこうやって一歩一歩進みながら知っていくのは、趣味の醍醐味ですから。
みんなで楽しみながら復興できれば、それが一番でしょう。




