表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/106

ラーメンは固めです

「げほっ――。危なかったな……」


 体中が土まみれ。下手をすれば(ちつ)(そく)()するところでした。

 日本に生きている(ころ)に、(しゆ)()程度にでも建築を学んでおけばよかったのですが。

 (となり)で同じく土まみれとなったニコが、冷静に言います。


「正方形だとして、内寸で六十四平米の中に柱が一つは必要なようですね」


 私たちは今『どこまで柱無しの空間が作れるか』を実験中。

 いくらレコブロックが()(ばん)化しても、適切に支えを入れなければ(くず)れるのではないか。そうなれば危険が――という安全上の疑問からはじまったのですが。


「この実験は危険さー……」

「本当だな。うわっ、服の中まで土が」

「ボクも、久しぶりに命の危険を感じた」


 まずは実験用に柱のない二階建てを作り、ニコに加えてニーナ、マリーさん、私が二階を(いつ)(しよ)に歩いてみて、(ゆか)の強度をチェック。

 最中に建物が(ほう)(らく)しました。

 その音を聞きつけたターシャたちが助けてくれたことと、上階が無かったことが幸運でしたが……。

 次からはしっかり見守ってもらいながらやります。本当に窒息してしまいますから。

 それでも発見はありました。


「うわぁ――。壁も何にも残ってないさ」


 普通の建造物なら床が抜けても壁や天井は残ると思うのですが、総崩れです。

 ニーナに続いて、マリーさんが


「あの日にも感じたことだが、押しつぶされるだけの重量もある。崩れた瞬間に軽ければ、あれほどの死者を出さずに済んだかもしれないが――」


 と、物憂げに語りました。

 更に続けます。


「数秒で軽くなるのを感じたが、いくら軽い土と言ったって仰向けに一メートルも埋もれれば、自力脱出はほぼ不可能だ」

「それは俯せでも無理さーね……」


 足元から崩落したのでバランスを崩し、身を守る姿勢を取ることもできずに押しつぶされてしまいました。これでは、埋まった時点で腰の骨を折った人がいても不思議ではありません。


「ふむ――。そういえば今の作りかたは、(かべ)式構造だな」

「壁式?」


 私の呟きに、ニコが応じます。


「ああ。簡単に言えば壁の『面』で建物を支えるという発想だ」

「違う方法もあるのでしょうか?」

「前の世界では『ラーメン工法』というものがあった。そっちのほうがブロックの使用数は減るはずだ」


 ラーメン工法のラーメンは、食べ物でお馴染みのあれではなくて、ドイツ語由来の建築用語です。

(わく)』や『(がく)(ぶち)』を意味していて、その名の通り、建物の枠だけを(じよう)()な構造体で作って、壁は構造体と見なさない――というもの。


「身近なもので言えば、椅子やテーブルの足がそれに当たる」

「あっ、確かに。足だけで支えているのに、凄く丈夫です」

「壁式は箱のように全体を(つつ)()む方法で、ラーメンは骨組みだけで支える工法だ。そしてラーメン工法にとって重要なことは、骨組みの一体化――」


 力が加わっても全く(ぶん)()しないほど強力に接着されていなければなりません。

 これはエリカのネバネバ(せつ)(ちやく)(ざい)でクリアしているように感じられます。崩落も、接着面が外れるということはなく起こりましたし。


「……レコブロックはまだまだあります。少ない使用量ですむ方法があるのなら、やってみましょう!」


 力強く言うと、ニコが(そつ)(せん)してレコブロックを動かしはじめました。(かの)(じよ)に積極性が出てきていることは、とてもうれしく感じられます。

 私も負けてはいられません!


 ――――そんなことをしながら、三日が()ちました。


「できたな」


 柱と(はり)。枠だけで作って壁のない、スッカスカの二階建てラーメン工法。

 建物を見上げるニコが、不安げに言葉を口にします。


「理屈は理解しているのですが……。これで本当に、強度が出るのですか?」


 まあ、ばっちり壁で支えられている建物と、柱と梁でしか支えられていないスッカスカの建物を見て、直感的に『スッカスカでも大丈夫だ!』とはなりませんよね。


「椅子を見れば、座面の裏には横向きに走る補強があるはずだ。これが梁になる」

「本当に、大きな椅子を作る感覚なのですね」

「ああ。そして梁の部分は天井から下へ出っ張ることになるから、高さを従来の三メートルから四メートルに変更した。こうすれば出っ張った梁の部分でも三メートルの高さが確保されるから、(へい)(そく)(かん)は出ないはずだ」

「確かに、以前より開放感があります。観光地を目指すなら、このほうが良いかもしれませんね」

「――――そう。開放感が()しいというのもあったんだ」


 私の(つぶや)いた言葉に、ニコは小首を(かし)げました。


「窓を付けたり穴を開けるだけではダメなのでしょうか?」

「極端な話になるが、この工法なら壁を一面ガラス張りにすることもできる」

「それは……見たことも聞いたこともないですね」


 壁は木で作る。

 もちろん基本路線はその方向で考えますが、せっかくラーメン工法で壁を自由に作れるようになったのに木の壁で(ふた)をしてしまうのでは、レコブロックの消費量(さく)(げん)にしか意味がなくなります。

 でも、もしもそこに壁一面の大きな窓を設置することができたなら。

 一気に開放的になって、前世で言う近代(モダニズム)建築に近付きます。私の知る限りでは、王都にもそのような建物はありません。


「ニコ、板ガラスの値段は知っているか?」

(おお)(ざつ)()に……ですが。木の枠に丈夫なガラスを()め込んだドアは、四百万ソルで取り引きされていました」

「四百万ソルか。やはり高いな」

「壁一面となると数千万ソルに及ぶでしょう。仮にその代金を用意できたとして、商売としては難しいとしか……」


 開放的な造りとするには、ガラスが必要不可欠。

 しかしこれは『投資』でもあるわけで、あとで回収できないのなら、やる必要はないわけです。


「旧リオネル領の炭鉱では、ガラスの原料が取れていたな」


 リオネロ領、今は国が(ちよつ)(かつ)することになりました。

 ドナテルドは罪人として王都へ連行されたそうです。それだけのことをしたのだから、当然の報いでしょう。


「はい。原料はダリア領へ運ばれて加工されます。あそこはガラスの名産地ですから、協力を(あお)ぐことはできるかもしれません」

「なるほど――」


 丁度そういう話をしていると、ターシャが「リタ様ーっ」私を呼びに来ました。


「どうした?」


 急用なのでしょうか。息が切れるほど急いで走ってきたようです。


「ダリア領のマルシア様がお見えです!」

「あー……、なら丁度いい。少し取り引きをしてこよう」

「わえ、王族のかたと直接言葉を()わせる日が来るなんて、夢にも思いませんでした……っ!」


 ターシャは王族貴族に(あこが)れる気持ちが人一倍強いようです。

 この感じだと、私やマリーとマルシアちゃんの関係を知ったら(そつ)(とう)しかねないなぁ。


「ニコも一緒に来てくれ」

「はいっ」


 取り引きなんて()()()んで言っちゃいましたけれど、今のロメールに高価なガラス板との取り引き材料なんてあるかなぁ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ