三ヶ月後
パーカー家の皆さんがロメール領を旅立って、三ヶ月後。
私たちはようやく、納品用のコップや食器を作ることに成功しました。
「ウサリア、これでいくつ目だ?」
「えっと……。コップが二十四個、小皿が四つに、大皿が二枚です!」
両親が傘職人で、自分も物作りがしたいと言っていたウサリア。
手先の器用さがズバ抜けていて、最初の一週間で『これもう、仕上げはウサリアの担当だなぁ――』と不器用集団全員が思い知りました。
農家の娘、商家の娘、漁村出身、デザイナー志望。このあたりが不器用集団です。あと……私も。
釘一本打ったことのないお嬢様育ちが、いきなり電動工具無しで商品レベルの木工製作とか無理ですって……。いずれは意地でも克服してみせますけれど。
唯一近いレベルで腕を上げていたマリーさんも、その後一ヶ月ぐらい張り合った末に「ウサリアには敵わん」と白旗。
「マリメロも、二人とも怪我には気をつけてくれよ」
同じことの繰り返しでも黙々と続けられる保母さん志望のマリメロだけが、スピードは遅いものの、今でもウサリアと一緒に、時々ですが作業をしています。
彼女はあまり人と自分を比較したり競い合ったりしないようで、ひらすらにマイペースです。
二人から「はい!」「はいー」と好対照な語尾の返事を頂いて、ターシャの管理する畑へ――。
最近は唐辛子などの香辛料も作り始めています。
「おっ、芽が出ているな」
「はい! マリメロも手伝ってくれていますし、これなら出荷が目指せるかもしれません! ふふっ。畑を持って、出荷をして――。農家を継げなかったわえの夢が、少しずつ実現に近づいてきている感じですっ」
ものすごく嬉しそう。
兄弟が多すぎて、農家から実質人身売買で『口減らし』に売られそうになった、ターシャ。
でも全てを知った上で事情を理解して、家族のことを一つも恨んでいない。その上で自分の夢も持っている。
彼女の精神は見習うべきものがあります。
「未知の食材だからな。ニコの試算ではかなり高く売れそうだぞ」
ココの果汁を使って育てた作物は、収穫するとすぐに腐ってしまい売り物になりません。
ですがココの果汁を『使わないで育てた作物』であれば、そんなことはないのでは? という案をターシャが提示してきて、今はそれの実験中。
今ではトウモロコシや唐辛子、ジャガイモが芽吹いています。
「まずは領主などの爵位階級へ――ですよね?」
「ああ。だが未知の食材というものは、爵位を持つほどの人間が最初に食べることはないだろう。彼らの口へ運ばれるには、まず、その下。執事やメイドといった名家を狙ったほうがいい」
「唐辛子は刺激が強すぎるでしょうか?」
「そうだな。毒物だと思われると売れなくなってしまうから、できればシンプルなジャガイモ。あとは甘みのあるトウモロコシを売ってみたいところだ」
「そして面積を拡大できれば、一般階級へ――ですね!」
やり甲斐があるのでしょう。太陽より眩しいぐらいの笑顔です。
私も木に触れているときは、こういう顔をしているのかなぁ。
――さて。
食器製作からマリーさんが離れたのには、ウサリアの上達についていけなくなった意外にも理由があります。
医療のためというわけではなく――。
「おーい!」
森のほうからニーナの声で呼ばれて見てみると、野生のイノシシ(おそらく血抜き済み)を両手で抱えています。そして隣にいるマリーさんは、鳥を。
ニーナは腕の骨折が治り、それからというもの、マリーさんと二人で狩猟に出るようになりました。マリーさんは趣味が狩猟だったこともあり、解体もお手の物。
…………その、
『いつか人を切ることもあるから、まずは動物で慣れなさい』
というものが、エリクソン家の教えだったそうです。
私はロメール家に産まれてよかった! 冷静な目で『血抜きは頸動脈よりも心臓のほうが楽だ』とか言われても無理なものは無理ですから!
男の子みたいに――ということもあってか、卒倒することはないですけれど。
あんまり向かないなぁ……と。
男の子がみんな食肉解体好きなわけがありませんし。
「凄い。大物だ」
「今日は焼き肉パーティーができるさー!」
取ったどー! という感じです。
彼女は食肉解体も普通にこなせるようになってきています。さすがに最初は『魚とは違うさー……』と、若干引いていましたが。
「ニーナくんが、ほとんど食べてしまうのだろうけれどな」
「さすがにイノシシ一頭は食べないさっ」
「半分ぐらいならいけるだろう?」
「……もうちょっと欲しいさぁ」
二人は良いコンビです。
本来、食肉加工には川が欲しいのですが。
残念なことに川が近くにないため、温泉水の流れる道を作って人口の川としました。
下流にはレコで囲った部屋のような空間を作って、そこから地中に汚水が染みこんでいく仕組み。当然、部屋の中は原則立ち入り禁止です。
町を復興するに当たっては上下水道をどうにか完備させたいところ――。
そしてそこは、デザイン専門、アルしゃんの出番! 彼女が担当するものは食器と、町そのものです。
このまま流れでアルしゃんにも話しかけに行きたいところなのですが……。
本格的なデザインとなると黙ってじっくり考えたいようで、今も上下水道を整備した町作りに向けて、必要となるレコブロックの個数や勾配を考えています。
そのそばにいるのがニコ。計算能力が役立ちます。
ニコは食肉加工以外の全てに関わっていて、いつも大忙し。
――で、私は何をしているかというと。
地下室を工房にして、ひたすら『板』を作っています。
板があれば床もドアも作れますから。
本当は柱も作りたかったのですが、建物には構造体という骨組みがあり、木製の家を建てようとすると複雑な計算が必要となってしまいます。
ならば柱は一旦忘れて、レコブロックと木を上手く組み合わせた『ハイブリッド住宅』を目指しています。
「そろそろ、棚が作れそうだな。これで壁ができる」
大きな本棚のようなものを天井までピッタリのサイズで作れば、柱はなくても壁になります。
今までは内装の壁もレコブロックだったので、まずはそこを木製に置き換えるのが目標です!
これで一軒の家に使うレコブロックの数を四分の一以上減らせる――と、ニコが計算してくれました。
「リタ様ーっ、もう夜ですよー」
ターシャの声で夜を知らされて、作業を中断。
残りはまた、明日――。
地上へ出ると、焚き火の周りに自然とみんなが集まって、談笑しながらの夕食。
終わると同じ『家』に行って、やっぱりみんなで寝ます。
もう、建物だけなら一人一個の家を持てる状況なのですが。
たった八人でチャレンジする復興。心細い思いをしないと言えば嘘になってしまうのは、きっと、みんな同じ。
いつか来る『別々に暮らせる日』まで、しばらくはこのままで……。おやすみなさい。




