商売は利益を求める行為です
パーカー一家が取引に持ってきてくれたものは、主に布類。
それから裁縫道具。
これらは前回リオネロ領へ行ったときに少し買うことができたのですが、なにせ男の子な私と裁縫と縁のなさそうなニーナ。商家のニコも裁縫はそれほど詳しくないようで、医療の名家に生まれ育ったマリーさんに至っては。
『人なら縫えるかもしれないが』
なんて物騒なことを言い出したので、初心者向けのセットしか購入していません。誰か麻酔をください。
「アルしゃん、どれぐらい買えばいい?」
「んー。布の厚さとか縫い方にもよるから、これ全部買っても足りないー、かも?」
「そうか。では、これを全部」
あれ。私が買っていないのに、全部になってしまいました。
「布はどうする?」
「うーん。多ければ多いほど組み合わせの幅が広がるからー。一番、多いのでー!」
「よしっ。では、これも全部」
…………あれ?
「……あの。お金、足りなくなる……」
ニコが震えるほど困りながら言ってきました。
ですよねぇ。
「とりあえず、仕入れ値と生産数、あと一番大事な売値を決めないといけません……」
「ふむ」
「……まずは、木工品からはじめましょう。これは製造コストも安くて貴重、流通量も少ないので、話をまとめやすいかと」
ニコの言葉に、マルクさんとアリーさん夫妻は、微笑みで答えてくれました。
ラング家とは繋がりがあったそうですし、年齢的に子供とまでは言わないまでも、ニコのことは年の離れた妹や親戚の姪っ子を育てるような気分で見ているのかもしれませんね。
「わかった。では、まずはコップから――」
そうして交渉を開始し、納入数と単価を決めます。
コップは生産のスピードがそこそこに速いのですが、品質が職人芸とまでは言えず。
……そして仕事の話となると、マルクさんも、お父さんの顔から真剣な商人の顔に切り替わります。
「うーん。仕上げは大切だよ? 木工品の食器は、大切に使えば百年以上に渡って使える代物だ。見目が悪いものを大切に、百年も使い続けるかな?」
「……なるほど」
自分の考えが甘かったと思い知らされます。
確かに、大切に長く使うものに、妥協なんて許されないでしょう。
「しかし酷い出来とまでは言えない。特に肌が触れる外側は綺麗な円形で、しっかりヤスリがけもされている。――仕上げのオイルは、トム爺さんから?」
「はい。譲って頂きました」
「実はね。このオイルを納品しているのは僕たちなんだ。だから配合も詳しく知っているけれど……。トム爺さんは熟練の技があるから、一度塗りで仕上げてもムラが出なかった。でもこれは、ムラが出てしまっている」
「回数を分けて塗るべきでしょうか?」
「そうだね。最初は薄く、三回ぐらいに分けて塗ると良いよ。同じものを注文するなら、少し薄めてオイルの伸びが良くなるように調整して、次までに用意しよう」
「はいっ。助かります!」
さすが商人さん。
なんの抵抗もなく、きっちり私たちがお買い上げをすることに……!
でもやっぱり優しいというか、世話焼きというか。私たちのことをちゃんと考えてくれています。
更に、見た目通りの柔らかい物腰で、私たちに肝心なことを問いかけました。
「いいかい? 今の君たちには二つの選択肢がある。一つ目は、今作ったこれを忘れて、新しく作り直す。売れる出来になってから販売しなければ、最初に信用を失うからね。良い商品だけを高値で提供するんだ」
「なるほど……。二つ目は、なんでしょうか?」
「君たちにしかできない、薄利多売だ。木製食器はとても高価だけれど、君たちの力があれば量産が可能となる。一般庶民には中々手の出ないものを安く作れるようになれば、一気にお客さんを掴むことができるよ」
ふむ――。
日本でも百円均一が定着しましたし、薄利多売で上手く利益を上げている企業はいくらでもありました。
電動工具なんていうチート級の道具を扱える私たちだからこそできる、最強戦術かもしれません。
「二つ目の薄利多売は、魅力的ですね」
「ああ。僕としても沢山の取引をこなすことができるから、大もうけだ」
ふむ……。
周囲を見回すと、誰も異を唱えようとはしていません。
――――ニコ以外は、誰も。
「ニコ。ボクたちは商売に疎い。きみの意見を聞かせてほしい」
「……私は、薄利多売には反対です」
重々しい調子で、ニコは出会ってから初めて『反対』という言葉を口にしました。
「量を求めると生産稼働率を求めることになります。でも私たちは八人しかいません。最初はよくても、いつかボロが出て信頼を無くし、事故さえ起こすかもしれません」
「なるほど……。電動工具での事故が起きたら大事になるな。安全を優先したい」
リオネロ領のように夜も稼働させて――というのは、理想とは程遠い形です。
「それに、この力で薄利多売を実現してしまうと、市場の崩壊を招きかねません。私たちが沢山売ってしまったばかりに、今までの職人さんが生活できなくなってしまう――。そうすれば恨みを買うでしょう」
「ふむ――」
ニコの言うとおりですね。
そもそも『質のロメール』と呼ばれてきたのに、復興したら『量のロメール』でした、なんて。なんだか変な話になります。
「極端ですけれど、最初に五個のコップを作ったとすれば、売るのはその中から一つだけ。一番良い物だけを売るんです。それでも続けていつか腕が上がっていけば、作ったものが全て売れる水準に達するはずです。……トム爺さんのように」
私が目指すのは、復興。
その中で電動工具を使ったDIYを活かして趣味を満喫し、いつかは本当にゆったりまったりスローな生きかたを目指したい。
利益を求めて仕事に忙殺されてしまうのでは、リオネロ領主のやり方と変わりません。
それに私たちは、食器作り以外にも家とか色々なものを作らなければならないわけで。
「――ボクは、ニコが正しいと思う。みんなはどうだ?」
確認を取ると、さっきとは打って変わって全員がニコの意見を支持しました。
マルクさんとアリーさんも、微笑ましい姿を見るような表情です。
「さすがラング家のお嬢さんだ。僕たちも、目先の利益を追うより、品質を追求するほうが君たちに合っているように思うよ」
それからアルしゃんが交渉に入り、ニコが調整役に。やっぱりロメール領を復興するためには、ニコの力が鍵になりそうです。
――そしてアルしゃん。
どうも私と同じ『スキル・散財』の香りがするので、彼女だけに交渉をさせるのは今後やめたほうが良さそうです。




