宿泊施設とアピール
マルクさん、アリーさん、アリスちゃん。
行商人のパーカー一家が再び町を訪れてくれたのは、六日後のことでした。
「もう建物が増えているな」
「凄いわねぇ……」
「ふえてうーっ」
相変わらずアリスちゃんが激カワ!
「前回は何もおもてなしできませんでしたので……。もしよろしければ、泊まっていかれては如何でしょうか?」
行商人さんは荷物を運ぶ必要があるので当然、大きな馬車を持っています。馬もポニーより立派な体躯です。
町と町の間隔が丸一日以上かかることもあるため、寝袋は必須アイテム。雨が降れば荷台の中で寝ることもあるのだそう。荷物の量が多ければ横にもなれずに、座って――。
それも商品持ちなんて、いくら犯罪の少ない世界でも危険はあります。気を抜くこともできないのだとか。
以上、全てニコからの情報です。
私は更に二の句を継ぎます。
「まあ、今でもおもてなしと言えるほどのことはできないかもしれませんが。美味しい食べ物と屋根のあるお部屋の提供ぐらいなら、どうにか間に合いました」
食べ物はターシャとマリメロが中心に。
それを載せる皿は私とウサリアが。木工食器を新たなロメール名物にしたいので、売り込みを兼ねています。
建物は一応私ですが、色々な視点の意見を集約して、沢山手伝ってもらっています。
「ふむ……。どうだいアリー? 話したいことも多いし、ここはご厚意に甘えても良いのではないかな」
「ふふっ。若い女の子ばかりだからって、変に張り切らないでよ?」
笑顔で冗談を言う奥さんに、旦那さんは割と本気で焦って否定しました。
年上でも、可愛い旦那さんなのかもしれませんね。
そのマルクさんですが……、後ろに背負っている大きな荷物は、なんだろう? 重くないのかな。
「あいすー、さんしゃいになったよー」
前もさんしゃいでしたよー。
「うん。大きくなったね」
頭を撫でてあげると、嬉しそうにはにかんでくれました。この子がもう少し大きくなった頃、町が子供を受け入れられるような状態になっていたら……。と思いますが、さすがに難しいかな。
十年、二十年。そういう長いスパンで考えなければならないかもしれませんから。
パーカー一家を、宿泊施設の中へ案内します。
「わっ。ローテーブルと、これは……椅子?」
「すみません。まだ大きな『足』が用意できなくて、その、座敷に」
用意できたのは、ちゃぶ台のようなものと座椅子が二つだけ。
この世界でも床に座る文化はあります。ただそういう場合は床にカーペットや布を敷き詰めて、快適性を求めるわけです。
この場合はどちらでもないので、できれば西洋式というか、大きなテーブルと椅子が作れるようになりたいところだったのですが。現実的なところを見て、座椅子になりました。
「素敵……。あらまあ、床は木を使っているのね」
無垢板の荒っぽい表情をそのまま出している感じなので、どちらかと言えば男性受けするのかなと思ったのですが。
案外、奥さん受けのほうがいいのでしょうか。
「はいっ。土の上にレコブロックを並べると水平になるので、あとは板を並べました」
でも木製の床というのはこの世界で非常に、珍しいもの。
なにせ木が堅くて高級すぎるので、床に並べる余裕は一般家庭や公共施設にはありません。
名門ハンドメルト校は格式を生み出すためにも採用していましたし、領主の家ともなれば話は別でしたので、私にとっては馴染みが深いのですが。
工法にはマルクさんが興味津々のようです。
トントンと叩いてみたり、木の肌や艶を見ています。
奥さんの肌も綺麗ですし、女性として艶っぽいですし、商家の目は侮れませんね……!
「接着方法はどうしたのかな?」
「試しに、えーっと……この子の」
久々のエリカスライム、ババンッと登場!
流し目で『ふっ、私のおかげですよ』という風ですが。
「この子の…………」
「この子の?」
ね、ネバネバをどう説明すればいいのでしょうか!?
正直に言っちゃう? 今日は吐瀉物の上でゆっくり寝てください――って、言えるわけありませんよね!? だってゲ――。
「…………ス、スライムから抽出した液体が大地とレコブロックの接着剤になったので、木とレコブロックの接着にも使えるのではと思い」
「それで成功した――か。凄い!」
よしっ。嘘を吐かずに誤魔化せました!
本当に無臭ですし、害があるとも思えないので。ほら……、知らないほうがいいことって、ありますよね? 食紅の原材料がコチニールカイガラムシだなんて、知らないほうがいいですよね?
「本当はベッドや大きなテーブルもご用意したかったのですが。特にベッドは、布製品が足りず……」
「いやいや。あ、でもこのクッションは?」
「ザブトンと言います。床に直接座ると痛いので、緩衝材になれば、と」
「へぇ。布く専用のクッションというのは初めて見るなぁ」
まあ普通、座るとなると最初から柔らかいものが敷かれているという前提ですからね。
板張りの上に座る経験というのは中々しないです。
「これ、馬車で使えるかもしれないな。丸めれば枕にもなるし――。陶芸家のように床へ座って仕事をする人たちもいるから、結構使いやすいのかも……?」
おっ。興味を持って頂けました。
そう、これはおもてなしという名の商品お試し会ですから!
ここはニコの出番です。
「……あの、これの中に入っているのは、木の『おがくず』です」
大鋸屑とは、木を切断する際に出る、細かな木くずのこと。
大きなものは『ウッドチップ』とも呼ばれ、競馬の調教で土の代わりに撒いて使うこともあるのだとか。足に良いそうです。
ただ、ここで使ったものは粉のようになったものも含めた、極めて小さな大鋸屑です。
なにせ木が堅いということはトゲのように刺さってしまうので、細かくないと危ない状態でした。ザックザク刺さります。
選別は手作業。
「でも、おがくずは高級品だよ?」
「ここでは木を沢山切るので、丈夫な布があれば量産も可能です」
「それは凄いな……!」
「はいっ。これは売り物になるかと」
ここまでハッキリ言ったので、旦那さんは私たちの意図に気付いて「あっはっは」と楽しそうに笑いました。
ニコも、隠す気はなさそうでしたね。
「いや、実は僕たちも、君たちと仕事をしようと思って戻ってきたんだよ」
言うと、背中に背負っていた大きな袋をドサッと床へ置いて、中を開きました。
「布が足りていないということは、ターシャちゃんから聞いていたからね。あとは鉄の鍋に、包丁、調味料。そんなに良いものではないけれど……」
「こ、これ。買わせてください! リタ様、お金の準備を!」
「わかった!」
はじめて、ニコの指示で動きました。まだ『様』ですけれど、それ以外はもう普通の友人関係です。
硬貨の入った袋を持ってきて、ニコに渡し……。
「あ、あの。なんでそんなに体から遠ざけて……? 臭いものを持っているみたいですよ」
「早く受け取ってくれ! 早くしないと、ボクの散財癖が疼いているんだ……!!」
疼くとか中二病的なうえに、言っていることも割と最低です。
私なら間違いなく『その袋の中身、全部買っちゃいましょう♪』となるので、ニコに管理をお願いするわけです。お金怖いよぉ……。




