帰郷!
町が近づいてきて、遠景に煙が立ち上っていることを確認。
なにか大きな問題が起こっていたら焚き火は消えていると思うので、無事な証拠でしょう。ホッとします。
…………でも、他所の町から戻ってくると、本来あるべきものがそこにない違和感が凄い。
改めて、本当にゼロからの復興なんだなぁ、と思い知らされました。
「ん? 馬車がもう一台ある……?」
更に近づくと、土になった町の残骸のところに、馬車が一台、止まっているのが見えました。
ご来客でしょうか。もしも町の崩壊を知らずに来ていたら、とんでもなく驚かれたことでしょう。
亡くなったかたの家族であれば取り乱しても不思議はないありません。
「お帰りなさい」
出迎えてくれたターシャに、私は微笑んで「ただいま、ターシャ」と応えます。
このやり取り、まるで夫婦みたいだなぁ。
――なんて言っている場合でもなく、問わないと。
「そちらの方々は――?」
「行商人のパーカー夫妻です」
優しそうな旦那さんと、もっと優しそうな奥さん。
「はじめまして。ロメール領の……崩壊前の領主の娘、リタ=ロメールです」
「ああ。ではあなたが――! はじめまして。僕は行商人のマルク=パーカー。こちらは妻のアリーです」
奥さんは二十代中盤ぐらいかな。若いお母さんです。
この国は日本に比べると結婚と出産の年齢が少し若く、だいたい二十代前半が適齢期。それでいて寿命はそう変わらないので、ひ孫や玄孫はそれほど珍しくありません。
まあ前の世界が晩婚化しすぎているだけという気もしますけれど。
私も晩婚化したまま死んでしまいましたし。
ええ。未婚ではなく晩婚で若くに死んだのです。生きていても永遠に未婚であった可能性は全力で否定します。根拠は一つもありませんが、生きていたらきっと――っ!
ターシャが更に紹介を続けてくれました。
「それで、こちらのお子さんが、娘さんのアリスちゃんです」
おしどり夫婦とはこういう人たちのことを指すんだろうなあ、なんて自然と思わされる二人によく似た、娘さん。
愛らしい。
「あ、あぅ……あいすぱーかーです!」
愛らしい!!
「挨拶が上手だね。アリスちゃんは、何歳かな?」
「うー……。……さんしゃい!!」
一生懸命指を数えて、さんしゃい、と言いながら立っている指は四本! 数えた意味は!?
アリスちゃんがめちゃんこ可愛すぎ……。
恥ずかしいのか、お母さんの後ろに隠れてしまいました。
「すみません。なにもない町で、お構いもできず」
「いや……私たちは先程到着したばかりで、なにが起こっているのか……。どうしてこんなことに――?」
マルクさんは奥さんより少し年上で、三十代の中頃ぐらいでしょうか。
特に隠すことでもなく自白も頂いてきましたので、事情を説明しました。
「……リオネロ領の悪い噂は聞いていたが、まさかこんなことまでするとは。君たち、大変だったね。怪我はないかい?」
「そこにいるターシャが酷い裂傷を負ったのですが、幸いにも完治目前です。あとは、こっちのニーナが、この通り腕を骨折しています。ですが腫れや痛みも治まって、じきに自然治癒しそうです」
「それがココの実が持つ力……?」
「私たちは、そう考えています」
んー。これはこれで新しい宗教の感じがあるというか、『ココの実教団』みたいになっている気もします。
でも本当に万能なので、この町の体勢ではココの実様を信仰するしかありません。ありがたやありがたや……。
「……あの」
ニコが怖ず怖ずと前へ出てきました。
「きみは確か――」
「ニコ=ラング、です」
「ああっ。やっぱりラングさんの!」
行商と商家。顔見知りでも不思議はありませんね。
「大きくな…………、大きく、なったね」
嘘がつけない商人さんだなぁ。
「ニコと最後に会ったのはいつ頃なんですか」
「もう二年ぐらい前かな」
ということは、ニコは成長が早熟型だったのかもしれませんね。早めに成長期を迎えて、二年前と今の身長が大して変わらない――と。
私も身長の伸び、ほとんど止まったんですよねぇ。
前の人生では十七歳頃まで伸びたのですが。記憶を保ちながら転生したからといって、同じ遺伝子というわけにはいかないのでしょう。顔だって違いますし、そもそも今は人間発電機なわけで……。
「では今回も、ニコの――ラング家と取り引きに?」
「もちろん。それと、領主様に娘を将来預かって頂けないか、陳情に来たんだ」
「預かる……?」
「今は小さすぎるけれど、あと数年もしたら教育を受けなければならなくなる。行商なんかで国中を連れ回していたら、学校へも通えないからね。僕たちが知っている最高の教育はロメール領にある――と、思っていたのだが……」
この惨状を見て、さぞガッカリされたことでしょう。
私たちとしても現状で娘さんを預かれるはずもないわけで。
――――でも、この状況で行商さんを帰すのは悪手です!
私は精一杯の自然な笑顔で、言葉を紡ぎます。
「ボクたちは、この町を復興させるつもりです。もしよろしければ、ロメール製の木工品を商売道具にしてみませんか?」
「木工品を……?」
「少しお時間を頂ければ、商品をご用意致します」
「うーん。……僕たちはこれからリオネロ領へ向かう予定だったのだけれど。あそこには腕の良い木工職人さんがいるからね。高齢になって生産ペースは落ち込んだけれど、作れば作っただけ売れる凄い人だよ」
なんだか……ものすごく心当たりがあります。
「もしかして、トム爺さんのことでしょうか」
「ああ。知っているのかい?」
お二人の目的は、トム爺さんのお店。
でもトム爺さんは、他所の町で細々とやっていくと言って、引退なさってしまいました。
「トム爺さんはリオネロ領を追い出されてしまい――。ただ、私たちはご縁があって、このように――、色々なものを頂きました」
「これは……っ。独特のカーブ、刃の角度。間違いなくトム爺さんの工具だ!」
さすが商人の目。道具まで把握しているなんて凄いです。
「しかし追い出され……、ふむ」
マルクさんは腕を組んで、悩ましげに考え込みます。
そして一分足らずというところで組んだ腕を解いて、私たちに伝えてきました。
「よし。では僕たちは一旦、リオネロ領へ足を運ぶ。商売だからね。あの町は安く売ってくれるから、無碍にはできないんだ。――とはいえ商売である以上、信頼が置けるかどうかということも重要になる。自分の目で町の状態を確認をしてきて、それからもう一度話をさせて欲しい」
伝聞よりも目を信じ、確かな利益を求める。
私たちとしても、そういう人のほうが安心できます。
「ありがとうございます。その頃には、商品を用意しておきます」
握手を交わして、パーカー一家はそのまま旅立たれました。
行商人が町と町の仲介をしてくれるようになれば、経済が回り始めます。私たちの人数で手売りは厳しいですから。
――偶然舞い込んだ、このチャンス。逃すことはできません!
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