領主、マルシア
ロメールは辺境の町。王都向けにはまずリオネル領があり、次いで『ダリア領』があります。
そしてダリア領の領主は、貴族ではなく王族。
行き帰りにかかる時間は想定の半分程度ですし、元々五日から七日ぐらいと伝えて出発したので、遠回りをしても心配は掛けないでしょう。
――少し、お話を聞いて頂いたほうがいいと判断しました。
「止まれ」
町に入る前に止められた……?
検疫か検問か。どちらにせよ、なにやら不穏な空気を感じます。
「リオネロ領から来たのか?」
国軍の制服――。
一体、なにがあったのでしょうか。
私は胸元に刻まれた紋章を見せて、伝えます。
「いや、ロメール領からだ。連絡もせずに無礼だとは承知しているが、急用がある。領主のマルシア様と会わせて頂きたい」
しばらく待たされてから、私たちは町の中へ通されました。
しかし馬車の両脇には国軍の兵。
領主の娘だから賓客として警護が付く――という感じでは、ないですね。明らかに警戒の色が滲んでいます。
領主邸に辿り着くと、小さな女の子がトタトタと駆け寄ってきました。
「よっ! 久しぶりです!」
ダリア=マルシア。
十二歳。
「マルシア様。女の子がそのような……。はしたないですよ」
「ロメールの男女に言われたくないのよ」
「お……男女?」
私は領主の両脇をガッシリ掴んで、天高く持ち上げます。
「ぬぁ、にゃにをする!?」
「相変わらず小さいですねー」
「よよよ、幼児扱いするでない!」
「小魚はちゃんと食べていますか?」
「しっかり食べとるわ!」
「牛乳は?」
「………………あれは、人の飲み物ではない」
まあ牛乳を飲むだけで背が伸びるとか胸が大きくなるとかは、神話だと思いますけれどね。経験則で。ぺったんぺったん……。
「リタ様。同じレベルに立っていますよ」
私の後で荷台を降りたマリーさんが、呆れ半分で言いました。
ニーナとニコは、狐につままれたような顔。
「おおっ。マリーではないか!」
「一年ぶりですね。――――少し、小さくなられましたか?」
「マリーまでそんなことを言うのか!? この年齢で背が縮むと思うのか!? 医学的に!」
こほん。
私たちは見知った仲なのでこのノリでいいですが、ニコとニーナには改めて紹介する必要がありますね。
二人に正対して、マルシアをそばへ寄せながら伝えます。
「ニコ、ニーナ。こちらが領主のダリア=マルシアちゃん。五歳だ」
「十二歳ぃぃぃっ!!」
腰の横をポカポカ叩いてくるので、頭を撫でてあげましょう。相変わらずいい高さに頭があるなぁ。
「マルシアは八歳までロメール領にいたんだ。それからも定期的に交流を持っている」
「八歳までいたってわかってるのに五歳って酷くない!?」
「うるさいですよ。淑女はもっと大人しく振舞わなければ、子供に見られてしまいます」
「あ……そ、そうね。淑女は大人しく…………って、これ私の紹介よね!? うるさい!?」
相変わらず面白い子だ。
「要するに、うちで預かっていた。ボクの妹のようなものだ」
「急に医療を学びたいと言いだして、うちで預かったこともある」
私とマリーさんはそれほど面識がなかったのですが、マルシアちゃんは医療の名家であるエリクソン家にも一時期、預けられていました。
「――で、なにをしに来たの? お嬢様二人が平民と一緒に荷馬車で揺られて――なんて、事件としか思えないのですけれど」
ああ、それで警戒を。
「その件は、できれば中で……」
「ふーん――。わかったわ。入りなさい」
しかし招かれた瞬間、どこからともなく『ぐぅ~~』と音が鳴りました。
振り向くと、ニーナが赤面しています。
……まあ、二日半も何も食べていませんからね。
「あなた、お腹が空いていますの?」
マルシアちゃんの問いに、ニーナはこくりと頷きます。
そして連鎖的に、ニコ、私、マリーさんの順番にお腹が……。
「どうやったらお腹の音でハーモニーが奏でられますの……? まあいいです。食事をしながらお話ししましょう」
久しぶりのご飯が王族宅とは――。
最近はココの実と素朴な野菜だけだったので、あまりの美味しさに胃がビックリしなければいいのですが。




