馬車
木工旋盤を使い始めて三日目。
初日で八つ、二日目で十二、三日目で十五個もの木製コップができあがりました。全て合わせて三十五個というのは、そこそこの量だと思います。
商家出身のニコからも「この量なら」と了解を得られました。
私たちはその夜、馬車での移動を開始。
――目的地は隣町、リオネロ領!
まずは『お断り』のお返事と、衣料品にタオル、そして馬車も返さないといけませんからね。
馬車で一日の距離という話でしたが、実際に馬を歩かせてみると、なんだかすこぶる調子が良いようで……。
「マリー、馬車ってこんなに速かったか?」
「いや。私がロメール領へ戻ったときには、この半分ぐらいの速度だった。重い荷台を引いているんだ。人が歩くのと、そう変わらないはずなのだが」
町を離れたのは、四人。
代表者の私。そして商家出身のニコは外せません。
売り子役には快活なニーナが適していると判断して、マリーさんは救助要請時の事情を知る人として同行。
開拓班の四人からは、ターシャが町に残りました。彼女は農作物の管理があるので、離れないほうがいいでしょう。お母さん的な存在でもありますし。
そして救助要請班だった、残りの三人。
優しくて温和な、マリメロ=アンダース。
いつかは衣料品デザイナーになりたいと語ってくれた、最年長のアルテミシア=キャスパー。
手先が器用で将来は物作りをしたいという、ウサリア=アンコート。
彼女たちは隣町へ行くメンバーから外れることを知って、それならば少しでも多くの商品を――と日夜を問わず頑張ってくれました。
なので、私たちが帰るまでは休憩です。
『私発電機』なしで使えるのは、バッテリー式のLEDライトとか電動ドリルぐらい。他のほとんどの電動工具は動きません。
焚き火を絶やしてしまうと半田ごてでの火起こしができないので、その管理だけはお願いしましたけれど。小枝と落ち葉の保管量も増えましたし、一日や二日森との往来をしなかったところで、問題にはならないでしょう。
「そうか……。それなら単純に、馬が元気なのかもしれないな。ボクたちと一緒にいてそうなってくれたのなら、嬉しいことだ」
「リオネロはコスト管理の厳しさで有名だ。十分なエサを馬に与えていなかった可能性は高い。そしてココの実――。もしかすると、今の速さがこの馬の本来の力なのかもしれないな」
私とマリーさんの会話は、なんだか男の子同士みたいで、ちょっと面白いです。
馬のエサは本来、マズくて人間は食べない『飼料』。食味が悪い代わりに栄養価は豊富なはずなのですが、量が少なければ結局栄養は不足するわけで。
今のロメール領では飼料なんて作れないので、みんなと同じココの実やトウモロコシを与えていました。短い間でしたが癒やしのペット的な感じで可愛がることもできたので、身も心も充実してくれたのなら、何より嬉しい話です。
「……恩返し、してくれているのかも。馬にも心があるから」
ニコが控えめな音量で語りました。
この世界の馬と元の世界の馬が全くの同種かはわかりません。
でもまあ、見た目的にはどう見ても『馬』です。サラブレッドの肉付きとは言いませんが、骨格はそれなりに大きいほうで、輓馬らしくあります。
「そうだと嬉しいな」
ひょっとして千年前の馬は、これぐらい速かったのかも? とか。
そういう話をしようと思いましたが、一番古代物語に詳しいニコが歴史考察ではなく『馬の気持ち』を語ったのですから、馬に感謝しつつしばらく揺られたいと思います。




