進む道と、誓い
看板を立てる音で全員が集まったので、ここで私の考えを表明したいと思います。
「みんな、聞いてほしい。ボクはこの町を復興させる。――だが、元の町のように……千年前の人類と同じように『レコブロック』頼りきった町には、しない」
ニーナとニコ、ターシャの三人とは、もうかなり意思疎通ができている状態。
この展開も、私が地下にこもって木工品を作ろうとし始めた時点で、想像が付いていたのでしょう。特に驚かれることもなく、受け入れてくれました。
でも、マリーさんを中心とした元救助要請班の四人は、あまり好意的とは言えない反応。代表してマリーさんが問うてきます。
「ココの実が採れなくなるからか?」
「そうだ。恐らくココの実は元々、人類に……。いや、自然の循環の中で欠かしてはいけないものだったのではないかと思う」
「しかし人類はレコブロックの建造物によって安住を得て、人口も激増した。より豊かに発展したと言えるだろう。医療だって、千年前とは比べものにならない進化をしている」
「――そう。安住の地を得て、人口を増やして。もっと増やそうとして隣町を破壊するほどの欲をもたらした」
重く吐いた言葉に、どうしても幾ばくかの怒気が混じり、私の言葉はきっと強く受け止められたのだと思います。
四人は黙ったまま、でも、頷きはしませんでした。
「もちろんバランスは取る。今はココの供給量が過剰な状態だ。建築ラッシュ以前の人口は、今の百分の一。だが町の人口が一万人を超えていたのに、私たちは合わせて八人しかいない。単純計算で千分の一以下だ」
「だが……っ。たった八人しかない今、こんな話をするのはおかしいかもしれないが、百人でもう百分の一に達する。百人程度の人口で町が復興したと言えるのか!?」
マリーさんの語気が荒れています。それは町の復興と未来像を本気で考えている証でもあって、反論をされているのに嬉しくなってしまいました。
「だからこその、これだ」
そして私は、今立てたばかりの看板に左手を添えて、二の句を継ぎます。
「レコブロックだけに頼らず、木を使った家を作っていく」
「千年以上前の生活に戻ると言うのか!? 木は堅くて加工に向かないんだぞ!」
「だからこそ、ボクたちは木を使うんだ。ここには電動工具がある。これまでの常識を覆した町作りが、ボクたちにはできる」
何が正しいかなんて、私にはわからない。
でもきっと人類は、一歩ずつ進歩するべきだったんです。急に神の力のようなものを手にして、たった百年で枯渇するまで使い切る。それはきっと、間違いだった。
世界の人口は今も増え続けています。
この町が犠牲にならずにすんでいたとしても、別の町が、別の誰かが、犠牲になっていた。
――いえ、私たちが知らないだけですでに、誰かが犠牲になっているかもしれない。
「…………っ。こんなことを言いたくはないが、きみのその力は雷のようなものなのだろう? ならば『悪魔の力』と呼ばれるものだ。それを使って復興をすると言うのなら、きみやこの町は……」
「どう言われようが構わない。だが本当の悪魔は、町を滅ぼすような人間だろう。違うか?」
「人間が悪魔だなどと――っ。…………………………いや、きみが正しいのだろう。わかってはいる。私だって両親も祖父母も……姉弟さえも失った。こんなもの、悪魔の所業に他ならない」
その言葉を最後に、マリーさんは口を噤みました。
復興という前を向いているのか、崩壊という後ろを見ているのか。
私だってまだ完全に前だけを見るなんてできていないのに、町を離れて隣町で辛い想いをして帰ってきたばかりのマリーさんたちに『前を向こう』なんて、簡単には言えません。
だからこれは、ただの決意表明。
「ボクは悪魔じゃない。まして、神でもない。――――しかし隣町が新たな町を欲するほど人に溢れているのなら、ここを手に入れられなければいずれ、見放される人間が出てくるのだろう。ボクは、そういう人をこの町に受け入れていきたい」
私とマリーさんの言い合いに、周囲のみんなも不安そうな顔をしています。
「隣町が見捨てるのはきっと、仕事もこなせず役に立たなくなった人間だぞ!」
「役に立つとか立たないとか、そんなものは考え方や見方一つでいくらでも変わる。――人が人を見放すなんて、ボクには理解できない!」
しかし、強く言った私に対してマリーさんは驚いた表情を見せて、次いで少しの沈黙のあと、薄く笑って下を向きました。
「……ふふ。……ははっ、結局、血は争えない――か」
「どういう意味だ?」
額に手を当てて俯きながら頭を振ると、今度は居住まいを正して正対し、私の目を真っ直ぐ見つめてきます。
凜とした声で言葉を紡ぎはじめたその姿は、エリクソン家の令嬢としての振る舞いに見えました。
「やろうとしていることは、人によっては神への冒涜と受け取るかもしれない。しかし私たちの領主であるアルベルト伯爵は『願わくば、全ての人に生きる意味を――』と幾度となく口にしておられた。本当の人格者の言葉だ。…………今、きみの中にその血が流れているのだと、ハッキリとわかった」
お父さん、アルベルト=ロメール伯爵。
私が最も尊敬する人。
その姿を私の中に見てくれたのなら、これほど嬉しいことはありません。
「無茶だとは思う。――だが、きみが。新しい領主となるリタ=ロメールが言うならば、私は最大限の協力を惜しまない」
するとマリーさんは私の前で跪き、手を取って甲を額に当て、この世界での『忠誠を誓う儀式』と同じことをしました。
「ボクに、ついてきてほしい」
「どこまででも」
誰も異を唱えることはなくなり、こうして、復興の方針が決まりました。




