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拡大!

 マリーさんたちが帰ってきて、まずは地下水道へ(つな)がる井戸を(ふう)()しました。

 下から一段ずつレコブロックを積み上げて、穴のほとんどを塞ぎます。やはりレコで作られているのか、高さは四つ分でピッタリでした。

 ただ丸穴がレコブロックよりも大きいため、四つを固めて四段ということに。


■■

■■


 上から見ると、この状態。合計で十六ブロックの使用です。

 あとは穴に土を流し込んで、上からパンパンとシャベルで(たた)きながら固く()めて、(かん)(りよう)

 すり鉢状に(くぼ)んでいたので、最後の埋める作業はかなり軽く済みました。

 またここから(ばく)(はつ)なんて、絶対にさせません。


 ――――そして、三日が経過しました。


「マリー、ちょっといいか?」

「ん、どうした」


 マリーさんも調子を()(もど)し始めて、少なくとも表面上は以前の()(じよう)()()いです。……私たちがここで未来に希望を見いだしている数日の間、救助(よう)(せい)班は希望を裏切られ続けたわけで。

 その情報だけを手にここへ(もど)ってくることも、さぞ(つら)かったことでしょう。


「食料の保管庫を作ろうと思うのだが、やはりターシャの悪い(かん)は当たっていたようだ」


 実は、農作物の(しゆう)(かく)について、少し困ったことになっています。

 トウモロコシをはじめ、ジャガイモやオクラ、キュウリ。どれも加熱か生で食べられるものとして育てていましたが、全てココの()(じゆう)をかけたものに関しては急成長を()げました。

 問題はここからです。

 ココは収穫すると、短時間で(くさ)ってしまいます。

 それと同様に、日本から持ってきた数々の種も、一気に実を付けてくれますが、収穫してしまうと食べられない状態になるまでが異常に早いんです。

 収穫しなければ変化なく美味しい状態を()()してくれるようなので、自分たちが食べる分には何も問題がないのですけれど――。


「このジャガイモは本来、日持ちがするのだろう?」

「常温で保存できて、かなり長く置いておかないと新しい()なんて出ない……はずなのだが。()()いてしまうと毒性も強くなって、苦い。これでは食べられないな」


 まあジャガイモはまた植えたら地中で実を作ってくれますから、(じゆん)(かん)と考えるとそう問題はないのですが。

 一応、トウモロコシなど他の作物に関しても、実を植えると芽吹きます。ただ、これでは――。


「ありがとう。ボクからニコに伝えてくるよ」

「ああ。お願いしよう」


 実はこの場所を復興しようという話になって、ニコが『農作物を売ることができれば、お金が手に入って、日常生活に必要なものを(こう)(にゆう)することもできるようになります』と提案してくれたんです。

 これだけポコポコ実が成る状態ですから、全員(いつ)()で賛成して、もちろん期待値マックスだったわけですけれど。

 すぐに腐ってしまったり芽が出て食べられなくなってしまうのでは、(しゆつ)()用には適しません。ココが流通しないのと理由が似ています。


「ニコ――」

「はい?」


 ニコはまだ、地面に元の町の形を(えが)()しています。一万人以上が住んでいましたから、そう簡単に終わる作業ではありません。

 それなのに、そろそろ終わりそうなほど進んでいるので、彼女の記憶力や集中力というものは本当に凄い。

 でも『同じ形に復興するか』というところは、まだ決まっていません。今のところは私の家の(はん)()(ない)に建物を作っていますが……。


「ジャガイモ、こんなに芽が出てしまった。これでは売り物にならない」

「そうです……か」


 明確に気落ちされてしまいますが、でも、まだまだこれから。


「ニコのアイディアは(すご)く良い。商家の人間がいてくれることは、これから必ず役に立つはずだ。(あきら)めずに、次の方法を考えていこう」

「――――はいっ」


 ニコは心なしか、初めて会話した日に比べて明るくなったように思います。

 前から(かの)(じよ)を知っているターシャやニーナもその変化を感じているようなので、きっと心の中の何かが変化や成長をしているのでしょう。心強いです。


「これ、管理していたのはターシャさんですよね。(だい)(じよう)()そうですか? 気落ちしていたりとか……」

「あー、それなのだが」


 こほん。


「『わえは大丈夫です。それに、自給自足をしていけば何事も(おそ)れることはありません!!』――だそうだ。……どうだ、()()てみたけれど、似ていたか?」

「ふふっ……。はい、似ていましたっ」


 花が()くような()(がお)()やされます。ニコの癒やし力は、八人の中でダントツでしょう! こう、守ってあげたくなるのに(はげ)まされる、子供のような感じです。――って、同い年なのに失礼かな。

 次いでニーナに――。


「あーっ、ダメだったかぁー! (へこ)むさぁ……」


 ニーナは自分に正直で、わかりやすさ満点!

 こういう人が一人はいないと、息がつまっちゃいます。


「しかし……。かなり集まったな」

「中からココがゴロゴロ出てくるさ」


 ニーナと、救助要請班の中からマリーを除いた三人には、レコブロックの原料になる土を一カ所に集めてもらっています。

 レコブロックが(くず)れた土の中でほぼ無限と思えるほどココの実が育つのなら、移動させても移動先でココの実ができるだけなのでは? という疑問。つまり町そのものの移動が可能なのでは、と。

 それが救助要請班が帰ってきたその日の話。

 二日目に現象を(かく)(にん)。これでリオネロ領主がこの町を壊して『土をよこせ』と言い出した意味が理解できました。土さえ移動させることができれば、そのまま町を拡大できます。

 そしてココの実が、町の周囲だけでなく世界的に減った件――。ココの実が取れる場所でレコブロックにしてしまい、それから町まで運んで接着をしたと考えると、納得がいきます。

 更に三日目の今日は、実際に土を移動させてもらっています。


「昨日話した通り、使わないココの実は土に(かえ)せばいい」

「おーけーっ」


 救助要請班の四人は、気丈なマリーさんですら本気で立ち直れているかどうかよくわからないわけで、残り三人は今もまだ(つら)そうです。

 そこで太陽のように(ほが)らかなニーナを中心に()え、共同作業をしてもらっています。エリカスライムも、もうなんか癒やしキャラ化しているので、(いつ)(しよ)に。

 一方、私は全体の様子を見て回ったり、伝聞したり――。

 そしてマリーさんと、医学的な見地から『ココの実』や『古代物語』について考察と実験を進めています。


 例えば、ターシャの傷の治りが異常に早い件について。


 ココの栄養素が自己回復力を高めていると考えるのが、最も筋が通る仮説でした。

 それが事実かどうかを本当に医学とか栄養学的な意味で(かい)(せき)することは現状不可能なので、現実的に、ココの有用性を広げる実験をしています。

 まず私が指先を少しだけ切ります。カッターナイフのようなものがないので、DIY工具の入っていた箱を利用させてもらいました。ダンボール箱って、案外切れるんですよね……。

 ほんの少し血が出たところへ、ココの果汁を()り塗り……。

 ものすっごく期待していたのですが、変化無し。むしろ()みて痛い始末。

 これが昨日までのお話。


「次は皮を(つぶ)してみよう」


 マリーさんの提案で、ココの果汁ではなく、皮のほうを潰してみることに。卵の(から)のように固い皮なので、潰すと(くだ)けると思っていたのですが。

 不思議と(ねば)()が出てきました。アロエみたいな……?

 少し(せい)(りよう)を感じる香りがして、期待が高まります。


「塗るぞ。指を出してくれ」

「もうほとんど(ふさ)がっているから、新しく切ったほうがいいんじゃないのか?」

「そんなことはない。まだ新しい()()が一枚できた程度だ。治る余地があるのだから、わざわざ痛みを得る必要はないだろう」


 確かに、傷口はまだ、(えい)()()(もの)で切ったようにスパッと皮膚が()けたままです。


「――いたっ」

「大丈夫か!?」

「おかしいな……。もう傷は塞がっているはずなのに」

(しん)(とう)(りよく)が強い――ということかもしれないな。しばらく様子を見よう」


 それからまた、みんなの様子を見て回り、レコブロックを作って、建物の構造を考えて、(せん)(たく)(もの)を洗って……。


「あれ? 傷口、どこだったかな」


 いつの間にか、皮膚が完全に再生されていました。

 マリーさんへ報告。


「よしっ。次は生傷だ」


 (ごう)(かい)な人ですけれど、実験は(しん)(ちよう)()

 最終目標はターシャの傷口を完全()()させることと、ニーナの折れた(うで)をできるだけ正しい形で早期回復させることですが、大きな傷口で(ため)すより先に小さな傷口で――というわけです。


「今度は私がやろう」

「マリーは手先を使うだろう。ボクがやる」

「いーや、私でいい。二度もやらせられない」


 言い合っていると、(きゆう)(けい)のために『家』を(おとず)れたターシャが「お二人とも、なにを(ゆず)()って――。そんなの、私の傷口の(はし)っこにでも塗ればいいじゃないですか」とため息混じりに言いました。


「いや、しかしボクとしては安全に――」

「そうだぞ。医学的(こん)(きよ)が一つもないのに傷口に何かを塗るなんて、(すす)められない」

「いえいえ。農家は『傷なんてツバ付けとけば治る』の精神ですから、こんなの全然へっちゃらです。私の兄なんて、骨が見える傷にツバ付けて仕事していましたよ」


 お兄さん、最強すぎませんか……?

 ターシャの進言もあったので、私とマリーさんは(えん)(りよ)がちに、傷口の端っこへチョンと、ココの皮を潰した液体を()()。「いたっ」とは言いましたが、一時間後、その場所だけ明らかに傷が癒えていました。


 ――――千年前の人々のほうが、今の人よりも(ちよう)寿(じゆ)


 どうも栄養面だけの問題ではなさそうです。

 でも、どうしてこんなに便利なことが、今の時代には伝わらなかったのでしょう? お婆ちゃんの知恵袋みたいな感じで受け継がれてきても不思議ではないのに。これはまた、新たな謎です。

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