伝言
馬車を操縦しているのは、マリーさん。
近づいてくるときに誰も手を振ったりしてくれなかったので、少し、様子がおかしいと思ってはいたのですが。
「マリー、どうだった?」
再会の喜びもないまま、無言のマリーさんに問いかけます。
「…………一度、休ませて欲しい。全員、疲れ果てている」
「あ、ああ。焚き火と風呂がある」
「――火に当たらせてもらおう」
いつもの豪気でエレガントな感じとは、かなり違います。どう見ても良くないことがあったとしか。
やっぱり、隣町も壊滅状態だった……かな。
心配しているのは私以外の三人も同じことで、エリカスライムはどうしていいのかわからずにオロオロとしています。自分の存在が混乱をもたらす可能性もあることを、理解しているのでしょう。
私だって今のマリーさんたちに転生云々の話をする気には、なれませんから。
ですが……。
私が「栄養と水分補給のために」とココの実を差し出すと、マリーさんはそれを手で払ってしまいました。
「……どうした」
「――――そんなものがあるから……っ」
意味がわかりません。
ココの実と隣町の状態に、なんの関係があるのでしょうか。
「マリーたちが何を見てきたのか、ボクらにはわからない。――教えてくれ。なにがあった? いや、まず隣町は無事だったのか?」
馬車で帰ってくるのを見た瞬間には、馬車があるということは無事だった、と想像できたのですが。
「…………無事だ。井戸が壊れたこと以外、何も……。何一つとして、影響はない」
「そうか。――では、なにがあった?」
無事だったけれど、喜べない。
――いえ、救助人の一人も付き添っていないのですから、例えば私たちの受け入れを拒否されたとか……?
「――――この世界は、レコブロックと新鮮なココの実、そしてスライムの三つで成り立っている」
「ああ。それはボクたちも実践済みだ」
「だが、今の時代にココの実を収穫できるのは、人里から離れた……獣が多く出て開拓するのが難しい、ごく一部だけ。ココの実がなければ、レコブロックは作れない。スライムだって、かなりの希少種だ」
私たちが、知っている情報を寄せ集めて、実験をして、得た情報と推論。それと同じことを言っています。
「これでは新しい建物を造ることが、できない」
「新しい建物を造る必要なんて……」
「――あったんだよ。隣町……いや、『リオネロ領』では、爆発的に人口が増加しているから」
隣町は、領主『ドナテルド=リオネロ』さんが治める領地です。
この世界でほとんどの町に名前がないのは、単位が町ではなく領であり、領の中で枝分かれしていなければ周辺の支配地域も含めて全て『リオネロ領』や『ロメール領』と呼ばれるから。
そしてリオネロ領は、悪い噂が絶えない領でもあります。
主な資源は人材。例え他所の地であっても、冷遇される立場の子供がいれば領で保護をして、教育を施し、優秀な人材として育て上げる。
……ここまでは、ロメール領と何ら変わりが無いのですが――。
しかし二つの領は『質のロメール』と『量のリオネロ』と、分けて呼ばれています。
「人間牧場――」
マリーさんが口にした言葉も、何度か耳にしたことがあります。リオネロ領をそう呼ぶ人は、少なからずいました。
「量を確保するために、新しい建物を造る必要があった。しかし、ココがない――――。だから」
私に最悪の想像をさせる言葉を残して、マリーさんは黙ってしまいました。
これでは、明るく帰ってこられるはずもありません。
「だから、ロメール領の町を破壊した……?」
「――そうだ。私たちは領主のドナテルドと直接話をした。ロメールの長女が生き残っていると伝えると、こう伝えるように言われたよ。
『不幸な事故に遭われて大変でしたね。もし生存者がいらっしゃるなら、リオネロ領で受け入れましょう。――――領土と引き換えに』
……あと、私とリタ様については、貴族の娘として大切にしなければならないから、直々に妻に娶る――――と」
ドナテルド=リオネロは四十代後半の男性です。
対して私は十五歳、マリーさんは確か十七歳。
大切にしなければならないとか言ってますけれど、単なるロリコンじゃないですか!
「戦争を仕掛けられた――ということだな」
「……はい。返答は五日以内に……と」
腸が煮えくりかえるというのは、今の感情を表すのでしょうか。……許せない。許せるはずがない――っ!
「…………マリー、顔を上げろ。その要求は突き返すぞ」
「――え?」
あの強気で気丈なマリーさんが、諦めた顔をしていました。そんな表情、少しも見たくはありません。
「見ろ。ここにはボクたちが作った家がある。八人が過ごすには少し小さいが、まだまだ拡大中だ。――ボクたちは、ここで生きていく。ここで死んでいった人たちと、共に」
怒りが決意させてくれました。
赦さない――――けれど。
やり返したところで犠牲になるのは、地方から集められた人たちでしょう。そもそも、いくら私の電撃があるからといって、女の子八人でやり返すなんて不可能ですし、危険です。
きっと死んでいった人たちも、復讐のためなら私たちが死んでも構わないとは、思っていない。
焚き火を囲むみんなに向けて、胸を張って声を大きくします。
「ボクはロメール領を再建する! 人を人と思わない破壊者に屈する必要は、一つもない!!」
それから私たちの『リビルドライフ』がはじまりました。
第二章を読んでいただきありがとうございます。
もし本作を気に入っていただけましたら、下へスクロールして評価とブックマークをいただけると嬉しいです。
(特に評価を頂けると、作品が多くの人の目に触れるようになります。評価の星数は一旦入れたあと、いつでも変更が可能です)
次章は『第三章 リビルド・スローライフ』となります。復興を目指し、ついに隣町へ……!




