発見
今日も気持ちよくお風呂を頂けると思えば、再建作業にも力が入ります。地上の居住空間も確保できましたし。
……あれ。いつの間にか町を再建する気持ちになっていました。
それだけ状況が好転しているということでしょう。良いことなので、再建するぐらいの気持ちで取り組むとします!
「あのっ」
「どうした?」
急にニコが服の裾を引っ張ってきたので、何かあったのかなぁ、と問いかけました。
「服飾屋の倉庫、場所がわかりました!」
「本当か!?」
こくりと、力強く頷いてくれます。
服があれば洗濯物が回るようになって、より文化的な暮らしができるわけですが、元の町は一万を越える人口だったので町の大きさもそれなりでした。
建物の場所もわからずに探し回るのは効率的ではなかったですし、優先順位も、食料や水、安全圏の確保に比べればずっと低かったので……。
ニコに実際の地面へ道路などの線を引き直してもらって、じっくり場所を調べてもらっていたわけです。
建物を壊すほどの爆風で『土に還らないほど無事な状態の衣服』があるのか。そこは期待が薄いかもしれません。
でも衣服を専門に扱っているとすれば、在庫の数もそれなりにあるはずですから、可能性がゼロということもないでしょう。
「確かこの辺りにあったのは、町で一番大きな仕立屋だったな」
「はい。仕立てにクリーニング、工場で作られた既製品の販売もしていました」
「そうか。――よし、土を掘ろう!」
「……はいっ」
でも、もしここから出てこなければ、服の着替えは遠のくわけで。
ちょっと緊張します。
シャベルで掘っていてはザックリ服を貫通させる可能性もあるので、軟らかい土を撫でるように丁寧によけていって、徐々に掘り進めていきます。
とはいえ、救出作業の時点ですでに、人が埋まる可能性がある二十センチ弱ぐらいの高さまでは嵩が減っていますから、あっという間の作業でした。
「――出ないな」
やはり建物が崩れるほどの爆風で衣類の無事を願うことには、無理があるのでしょうか。
エリカが常に着替えを用意してくれていた頃が、酷く懐かしく思えます。
「あ――っ」
「どうした!?」
ニコが何かを発見したような声を出して、私は期待を抱えながら駆け寄りました。
「これ……」
「木製のケース――か」
掘り出してみると、横にした手のひらと同じぐらいしか厚みのない衣装ケースでした。木製とは言え、この世界の木は頑丈です。それにこれだけ低いところから出てくると言うことは、ひょっとしたら足下とかに置いてあって破損を免れたのかもしれません。
「鍵はない――か。開けるぞ」
しかし中を開けようと手をかけた瞬間、木に名前が彫られていることに気付きました。
「――――リタ=ロメール……。ボクの名前?」
二人でゴクリと喉を鳴らし、中を確認します。
中に入っていたものは、見慣れたハンドメルト校の制服。
そして『依頼 エリカ=フレミング』――と書かれた、メモ用紙。
『いつもお世話になっております。今日は授業で服が汚れてしまう可能性があります。申し訳ありませんが、急ぎ、この四着を夕方までにクリーニングしてくださるよう、お願い致します』
……そういえばエリカはあの日、授業で服が汚れることを最初から言い当てていたなぁ。
いつもより一着多い予備を更衣室へ置いていたから、明日の着替えが無くなっていたのかもしれないですね。
平和に、いつも通りの日常を繰り返していたらきっと、私がお夕飯を頂いている間にエリカはこれを受け取りに――。
私、やっぱり、エリカのお世話になりっぱなしだ。
「…………こういうことを言うのは、あまり好まれないかもしれませんが。商いをする人間にとって、名家の品を扱うというのは、とても誉れ高いことなのです。クリーニングのような預かり物となれば、尚更――。きっと間違いが無いように、これだけは大切に木箱へ仕舞っていたのではないでしょうか」
珍しく長い言葉を紡いでくれた、ニコ。
今日のエリカスライムはニーナやターシャと行動中。この場にいたらギュって抱きしめていたのに、間の悪い子だなぁ。
「……リタ様」
あんなに嫌がっていた男装、スラックス。
エリカは常に予備を用意していましたから、こうしてクリーニングに出すことは日常の仕事だったのでしょう。
瞼を閉じた真っ暗な世界で、私はスライムになる前のエリカの姿を思い出しながら苦しいぐらいに洋服を抱きしめて、ニコの前でボロボロと涙を溢しました。




