入浴
久しぶりに服を脱ぐと、改めてサバイバル環境で生きているなぁ……と実感しました。
これまでは水浴びもできませんでしたから。せめて体を拭うぐらいのことはできたら――、と望んでいたのです。
でもまさか、温泉に入れるとは!
一メートル四方というのは決して大きなお風呂ではありませんが、深さがあるので肩までゆっくり浸かることができます。
「ふわぁぁぁぁぅ」
おおぅ。珍しく女の子の声で息が漏れましたよ。
「はーっ、私、今初めてリタも女の子なんだなって思ったさー」
「あはは……わえも同じく……」
「……私も」
理解して貰えて嬉しいと取るべきか、内情を打ち明けていたのにまだ誤解されていたことを悲しいと取るべきか。
まあボクっ子で運動能力男の子みたいで電動工具使いの人間エレキテルですからね。どこに女の子要素を見いだせと? という話です。ぐすん……。
「本当に、ボクから入ってもよかったのか? もし領主の娘とかを気にしているなら――」
「気にしてるわけないさー」
「スライムに井戸の調査に木の伐採――。リタ様が一番頑張っているのは、みんなわかっていますから」
「……当然」
私、泣いても良いかな? みんなの役に立てればと思ってはいたけれど、そんなに見ていてくれてたなんて。
「あーっ、リタが泣いてる!」
「わっ、だ、大丈夫ですか!?」
「……私もお湯に浸かったら、泣くと思います」
不意に頬を伝った涙を目撃した三人は、それぞれに違う言葉を口にします。
性格も生い立ちもバラバラの四人がこうして仲良く一緒にいられるというのは、不思議なようで、とても心地が良いです。
私に続いて三人が順番に温泉へ浸かり、その間に私はサッパリとした気分で頭のスイッチをオン!
温泉の噴出口が二つあれば、一つは飲用に使えるかもしれません。ここは飲み水としての活用を視野に入れるべきです!
元の世界では飲泉と言って温泉水を飲む文化がありました。私も何度となく飲んでいます。一応、温泉が好きなのは女の子らしさなのかな……?
土木系の方々も銭湯と温泉は好むので、あんまり男女は関係ないかもしれませんね。はい。
実際に浸かってみても極端な硫黄臭さとかはなく、ほとんど真水のお湯? というぐらいの無香。でも色は僅かに緑黄に寄っていて、真水ではないことは確かです。
この世界の温泉水も飲用として検討する価値があるでしょう。
「せーのっ」
「んっ?」
ニーナの声がして振り向いた瞬間、私のスラックスがシュバッと脱がされました。
「なっ、なっ、なっ……!」
「今入ってるターシャで全員浴び終えるし、このまま服も下着も洗っちゃうさーっ」
「いきなりずり下ろすはことないだろう!?」
「ふっふっふ。領主の娘だからって遠慮するなとか言い出したのは、リタさーねぇ……」
ヤバいです。目がキラリンって光っています。ここは一旦逃げ――っ。
「って、うわぁっ。このっ、バカエリカ!!」
足下にエリカがウネウネしながら絡んできて、転ばされてしまいました。水らしい青いはずの体が、思いっきり赤らんでいます……。変態ですか!? 二つの意味で!!
「ちょっ、ちゃんと脱ぐ、脱ぐから!」
「じゃあ抵抗しないさぁー」
「ニーナ、目が怖い……ぞ」
以下、省略。
ザックリ言うと片手で本当に着ているものを全て脱がされたので、ターシャの名台詞『もう片方の腕も折るよ?』で脅しておきました。だって遠慮はいらないですからね!!
あとエリカには電撃ビリビリ嘔吐の刑です。実用も兼ねているからいいだろうと思ったのですが、余計に恍惚とされてしまったので次から物理攻撃に切り替えます。
ニコは狼狽えるだけですし、なんならニコもきっちり脱がされましたし。
一番助けてくれそうなターシャが湯船の中というのが最大のポイントだったと思います。これは計画的犯行で確定ですね。罪は重いですよ?
でもまあ、体を綺麗にして汚れた服を着るのもなんだかなぁ、とは思っていたので、服を洗うことについては賛成です。
「――ところで、服は焚き火で乾かすのか?」
きっとそうだと思いつつ、ニーナに訊きます。すると意外な答えが返ってきました。
「ニコが、やめたほうがいいって」
「そうなのか?」
今度はニコに問います。
「はい。……貿易商のかたが、焚き火で服を燃やすとススが付いたり縮んだり、最悪燃えるからやらない……と言っていました」
「なるほど」
ということは、自然乾燥で朝までこのままかなぁ。
さすがに野性味に溢れすぎていて、落ち着いて寝られそうにありません。暖かめの季節とは言え、夜は少し冷えますし。
せめてドライヤーを持ってきていればよかったのですが、この世界に運び込まれているのは私が『隠し持っていた道具』のようなので、ドライヤーは隠し持っていなかったから、無かったわけです。
「――――あっ、ブロワーがあるな」
「ぶろわぁ? ……それは、一体」
「送風機だ。本当は掃除用の道具なのだが、強烈な風が出てくるからきっとすぐに乾くぞ!」
ブロワーは木くずや落ち葉を飛ばしたりする道具で、大きくて温風機能のないドライヤーとか逆向きの掃除機という感じのもの。
すぐに地下室からブロワーを取ってきて、電源コードを握りスイッチオン! ニコに手で持ってもらった衣類に向けてブワァァァァっと強烈な風が送られ、そのまま持ち続けてもらいます。
「……すっ、凄い風です……っ」
「これも便利さー」
「あとは物干しがあれば、一気に乾かせますね。――あ、でもこれが一つしかないから……。んー。まあ、一つずつ丁寧に乾かしていきましょうか!」
ターシャの言葉に、私は「ふっふっふ」と不敵に笑って見せます。
そう。私が地下から持ちだした箱は、三つ!
「それは手持ちコード式のブロワー、こっちが充電式、そしてこれが吸い取り機能付きだ!! 大容量バッテリーの背負うタイプも、まだ地下にあるぞ! 色々買っておいてよかった!!」
さんざーいっ!
ばんざーいっ!
「なっ、なんで同じようなものをそんなに買ってあるさー?」
「……ひょっとして、仕事で必要だったのでしょうか……?」
「いえっ、きっとリタ様は、こういう緊急時を見越していたんですよ!」
…………ごめんなさい。
うん。とりあえず『使ってみないとわからないよねー』って、全部ポチポチッと……ね? ほら、マウスのクリックボタンって軽いですし! あれは押すためのものでしょう?
……はい。以後、気をつけます。
でもブロワーのおかげで、一気に洗濯物が乾いてくれました。買っておいてよかったです♪




