流転の土
シェルターの中では朝日が昇ったことがわかりません。そのせいか、起床時間が不安定。ターシャが一番早く起きていたようで、私は三人に優しく起こされて少し眠気の残ったまま地上へ出ました。
エリカに頼った生活を続けていた付けが、回って来ていますね……。
三人は、井戸の中へ入ったりとか未知の道具や力を使って疲れている――と言ってくれましたけれど。ちょっと反省です。
「おお――。これだけあれば、何かできそうだな!」
「レコブロック、全部で十六個あります」
昨日の残りと一晩の製作で、この量。
一メートルの立方体が十六個というのは、中々のペースです。普通に木で家を作ろうとしたら、こんなスピードどころか、そもそも夜間の作業は危なすぎてできないわけですから。改めて、レコブロックは物凄い建築資材です!
本当は圧迫感を無くすためにも、縦三つで三メートルの天井高が欲しいところですが。今は実用性重視です。
とりあえず縦に二つ積んで、高さ二メートルを確保するとして――。
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この状態で二十個が必要! ……あれ。思ったよりも室内が狭いかな……。一メートル×二メートルだから、縦に長いシングルベッドくらい?
まあ建造物の造りについてはマリーさん達『救助要請班』が帰ってきてから考えることですから、今は着々とレコを作り続けて、食料確保のほうへ力を割きましょうか。
「ニーナとニコは焚き火のための枝と落ち葉を。ボクとターシャは畑を耕して農作物を植えよう」
昨日とは違う組み合わせですが、農作物に関してはターシャが詳しいですし、種ごとに条件を変えて生育したいので、畑を耕すのにはほどほどの体力を使います。
「夜と同じさー」
「……ニーナさん、肉は後回しですからね……?」
ニコが不安そうです。畑を耕すよりは森との往来のほうが楽だと思いますが……。大丈夫かな。
「体力的に無理があったら、すぐに帰ってきてくれ。ボクが迎えに行って、背負って帰ってくることもできる」
伝えると、ニコははにかんで笑ってくれました。ターシャと並んで手を振って、二人を送り出します。
――さて、あとはそろそろ、衛生面も考えてお風呂に入りたいところですが……。
飲み水に関してはココの果汁でなんとか水分を確保していますが、あくまで緊急事態、サバイバル的環境での最低限。やはり水は必要です。
かといって地下水道は土まみれ。
まあお風呂に入る水には使えないこともないかもしれませんけれど、そもそもポンプなしで汲み上げること自体が重労働わけで。
土に還らなかった鉄製のバケツもあるにはあるのですが、残念なことに小振りです。
そもそもドラム缶のように大量の水を溜めるものもありませんし。
雨に打たれて行水、もしくは少量の水で――といったところでしょうか。
マリーさん達も状況はそれほど変わらないはずですから、ゆっくりお風呂に入ってほしかったんですけれど。この環境では、少し贅沢を言いすぎているのかもしれません。
「どうかしましたか?」
「いや――――。なんでもないよ」
気を取り直して、ターシャと一緒に畑を耕します。
「鍬があればよかったんだが……」
鍬は持ち手が木製ですから、あの爆発で無事でいることは難しかったのでしょう。先の金属部分だけで幾つか出てきましたが――。
あれ? 土に還っていないと言うことは、先の部分だけでも、まだ使える判定なのでしょうか?
「大丈夫ですよ。そんなに広くないですし」
「……………………え?」
いきなりぐんぐん育たれても困るので、かなり間隔を開けて植えていくと決めたのですが……。主にターシャの意見で。
「えっ、だってメートル法で言って……。二十メートル四方も耕せば十分ですよね?」
「結構な広さだと思うのだが」
「農家的に言えばこの程度、ガーデニングみたいなものですから」
凄いですっ、農家の人!
一緒にシャベルを手に取って、土を掘っていきます。条件別に二カ所――。
半分はレコの崩れた軽い土ですが、半分は大地なので固くて大変です。
「ターシャは、時々実家へ帰っているのか?」
「はいっ。年に二回、収穫と田植えの頃に」
「酪農だけではないんだな」
「家畜のエサも自給自足できるので、そのほうが効率が良いんです」
動物ではなく家畜と言い切るところが、農家らしく思えます。
そうしないと辛くて出荷できないとか聞きますから。名前を付けたりなんかすると最悪だそうで。
さすがに農家出身のターシャは私なんかよりも効率的に耕していって、怪我もしているし私のほうが力はあるはずなのに、二倍以上の速度でザックザク進めていきます。
「……腕の傷は、大丈夫なのか?」
「んー。凄く不思議なんですけれど、昨日ぐらいからあんまり痛まなくなって、傷の治りも早いんですよね」
顎に人差し指を当てながら、不思議そうな顔で言います。
「傷が残るとか……」
「少しぐらいは、仕方が無いかもしれません。命が助かったんですから」
ターシャはしっかり者で強い人です。働き者でもありますし、彼女の器量があれば、事故で負った傷跡が残っていても嫁のもらい手には困らないように思えます。
「さて、何を植えようか?」
「包丁がないので、生で食べられるものか焼いて食べられるものか。できれば生のほうがいいですね」
「トウモロコシのように急成長する保証はないけれど、可能性は高いからな」
同じように成長するのなら、最速でお昼過ぎの休憩には収穫時を迎えそうです。
「こういう植物の急成長は、農家でも見ないものなのか?」
「んー、伝説があるだけですね。錬金術みたいなものです」
確かに、このペースで収穫ができたら農家はウハウハというか……。下手をすると逆に農家に頼る必要が無くなってしまって廃業かもしれません。
「これは、わえの推測なのですが。――この町では沢山のかたが亡くなり、土へ還りました。その結果のココや急成長なのかな――――と」
「巡り巡って、ボクたちは亡くなった人々に生かされている、というわけか」
なるほど。
…………そういう風に考えると、ここを離れたくなくなってきます。
みんなが生きた意味が、この土に全部還っていると思うと、凄く大切にしなければ――と。
かといって、生きていくためには安定した生活基盤が必要で、結局はどこかへ移り住む必要があるのでしょうけれど。
「みんながどう思っているかはわからないですけれど、わえは時々、この場所で生きていくことができたら――なんて、思うんです」
「……そうだな」
私だって同じ気持ち。他の町の状況もわからないですし、視野に入れる必要があるのかもしれません。




