マリー=エリクソン
ハンドメルト校には、私に加えてもう一人、大人気の生徒がいる。
マリー=エリクソン。
エリクソン家は代々の医者家系で、町で唯一の病院を営んでいる。この町の健康を司るような家だ。
正直、領主なんかよりも『本当にいなくなったら困る』のはエリクソン家だと思う。だってお医者さんいなくなっちゃったら、簡単に死んじゃうし。
「座ってもいいか?」
身長が成人男性並みに高いのに、腰がすっごい細い。それでいてお胸はバーンと前に出ている。
私は、その、………………ボーイッシュなので。
そこに関しては、比べものにならないかなぁ。
いや、無いわけではないんだけどね。……率直に羨ましいです。はい。
ちなみに彼女は私なんかと違って、本当に男らしい性格のようだ。
「ああ。マリーが来てくれると助かる」
どうして素っ気ない物言いになっちゃうかなぁ。
あと呼び捨てにしているけれど、一つ年上の先輩です。
この国では年齢より身分の違いで敬称を使い分ける傾向にあるので、これで通っちゃうんです。
ガーデンテラスだって、去年まではマリーさんのものだったんだよ? それを私が通い始めたからって、マリーさんは私に許可を取る立場になっちゃったわけで。
快活な表情の裏で、実は快く思ってないんじゃないかなぁ、とか、どうしても考えてしまう。
「――マリーは、この場所が好きなのか?」
「観察されるのを好む人は、そういないだろう」
手を広げて、やれやれといった感じで答えてくれました。
そりゃそうです。これじゃまるで動物園か何か。落ち着きません。
マリーさんは続けます。
「ただ、私も去年は、ここで寂しい思いをしたからな。少しぐらいは君の気持ちがわかるつもりでいるんだ。たまには話し相手がほしくなることも、あるだろう?」
なんって良い人……っ!!
みんなこういう感じで近寄ってきてくれたら、お友達になれると思うんだけどなぁ。寂しがってることに気付いてほしいなぁ。この素っ気なさじゃ無理か……。
というか、マリーさんは一つ年上だけど、かれこれ二ヶ月ぐらい、毎日とは言わないけれどそこそこ定期的にお昼をご一緒しているわけで……。
そうっ、これはもう、友達なんじゃないかな!?
「一つ、訊いてもいいかな。……ボクとマリーは、友達なのだろうか……?」
おっ! 今日は珍しく本音に近い言葉がスッと出たよ!
するとマリーさんは少し声のボリュームを落として、周囲に聞かれないように、赤く麗しい唇を耳に近付けてきた。
「私はそう思っているけれど、身分が違う。……今だって人によっては、私がこの場所を譲りたくないと思っている――なんていう風に受け止めているかもしれないんだ。周囲が認めてくれるには、少し時間がかかるだろうな」
ちょっと難しいところはあるけれど、友達……ってことでいいのかな!?
「そうか」
そうか、じゃないよぉぉぉっ!!
嬉しい! とか、ありがとう♪ とか。そういう感情がなんで素直に口へ出てこないのかな私は!?
男の子みたいって、そういうこと!? 口で言わなくてもわかれ、的な!?
「……でもボクは、この時間が好きだ。エリカとマリーと一緒にいる、この時間が」
そうそう。そうやって自分に素直でいなくちゃ。
よく言えました、私! あとちゃんと笑顔できてるのも偉い!
………………って、あれ? なんだかマリーさんの頬が赤らんでいるような? エリカはいつものこととして……。
「すまないが……。そうして言われると、その……。君を取り囲む女の子たちの気持ちまで理解できてしまうよ。……ドキドキする」
本音が裏目入っちゃった!?