井戸の謎
火を熾し、農作物の収穫にビックリするぐらいの可能性が見え――。と、良いことばかりが続いた休憩でしたが。
井戸の件を放っておくわけにも行きません。
私たちは四人で井戸の状況を確認し、本当にここが爆発源だったのか、調査することに決めました。
「ボクが掘ったよりも、ずっと下がっているな」
井戸の中の土が、ほとんど無くなっています。とはいえ、水はまだ見えていませんが。
「みんな、井戸の中を覗いたことはあるか?」
「覗くなって教えられるから、一回も無いさー」
「わえも、物心つく頃にはそういうものだと教えられていましたので」
「…………危ない」
ですよねぇ。
この世界で井戸の中を覗くのは、専門の井戸水鑑定士のような人だけ。それも国の中央政府から派遣される、とっても偉い人です。
落ちたら死にかねないわけで、特に子供の頃は念を押して、興味本位で覗いて落ちるなんてことが決して無いように、重々注意されます。
井戸水の汲み上げも手動とは言えポンプ式ですから、そもそも井戸穴には蓋がされていますし。覗く必要は一つもないわけです。
「自然に土が下がっていっているのだから、中に入って待っていればいずれ――と思うのだが、どう思う?」
私の提案に、三人は同時に斜め下を向いて考え込みました。
危険なことは全員が承知。でも、水は必要なもの。飲むだけではなく、水が使えないことは衛生面の問題にも繋がるわけです。
中に入り込んだあとで、外へ出るために上がることを考えると。骨折のニーナと傷を負ったターシャは無理。ニコは基礎体力的に難しそう。そうなると、私しかいない。
このこともきっと共通理解です。だからこそ、誰も『だめ』とは言わないわけで。
「じゃあ――。あの長い紐を腰に巻き付けて、最悪の場合は、わえたちで引き上げる――というのはどうでしょうか?」
「ああ。それが今できるベストだろう」
ターシャの案に乗っかって、ニコが私の腰に紐(電源コード)を巻き付けます。最長の五十メートルのやつです。
ただ――。
「……腰、すっごい細い……」
そんなことを呟いてくれるのは、同じ女の子として嬉しいですけれど。
なんというか紐の結び方が本格的すぎるというか……。
「ニコ、頑丈すぎやしないか?」
「――――はっ、ごめんなさい! つい荷造りのつもりで!」
私、ドナドナされちゃうの?
商家出身なので、貴重な商品を荷台に固定したりとか、そういうこともやっていたのでしょうね。
見守っていたターシャが口を押さえながら笑いを堪え、ニーナは普通に大笑いしています。
『領主の娘、売ります』
どことなーく、いかがわしいですね……。縛られちゃってますし。
「よしっ、まずは降りてみる」
井戸の端に立って、そのまま飛び降りました。
ドスゥ――ンと着地。
いやっ、重いわけではなくて、井戸なのでちょっと音が響いただけです!!
「五メートル以上はあるか。……おーいっ、誰か、深さを測るための紐を持ってきてくれーっ」
井戸の中というのは特殊で、上以外に視界がありません。
どこにみんながいるのかもよくわからないですし、中へ向かって擂り鉢状になってしまっているので、あまり近づきすぎないようにも言ってあります。
抉れた大地の上に載っていた軽い土は全て搬出したので、中心へ向かって土ごと吸い込まれている状況ではなくなっていますが――。
それでも吸い込まれるように落ちてしまう危険性は、まだ残っていますから。
「これでいいですかー?」
ターシャの声に次いで電源延長コードがゆっくり降りてきます。中は狭いから投げ入れられたらちょっと危なかったかも。
コードには一メートル毎に、布きれで印が付けられています。
これ、ニーナのロングスカートの端を、手と石で裂いて作った端布です。私たちに黙って、こっそりと――。
本人は短いほうが動きやすいと言ってくれていますが、感謝しかありません。
「――元の高さからは七メートル弱、といったところか」
一人ではもう登れそうにありません。
足下の土は細かく動いて、徐々に井戸の深さを増していきます。
…………三十分ほど待ったでしょうか。
井戸の壁が急に途切れて、冷たい風が足下を吹きます。
「水路でもあるのか……?」
少なくとも、湧き水を目的に真っ直ぐ掘られただけのものでは、ないですね。
せっかく横にスペースがあるので、足下の土をそこにゲシゲシと掃けさせます。
――――山盛りになった土が井戸穴の真下にあって、私はその上に乗っている状態。
間違いなく井戸と言うよりは地下水路の状態になっていて、水路の高さも三メートルはありそう。水は水路の中央にある窪みを流れています。これに土が流されていったから、嵩が減っていったのでしょう。
壁や天井は岩肌が見えるボロボロの状態で、まるで炭鉱にでもいるかのよう……。
「上から水が流れてきている――。が、これも土混じり……か」
明かりは井戸から入ってくるだけ。さすがに奥のほうは暗すぎて、見えません。
念のため頭に付けておいたLEDライト付きヘルメットを点灯させます――――が、先が少しカーブしていて、その向こう側までは…………ちょっと、不気味すぎて怖いです。
…………帰りましょう。
それから私は三人に引き上げられて、地上へ生還しました。
まさか地下水道なんてことになっているとは……。もしもこれを一人でやっていたら、幅の広い水路から小さな井戸穴へは、登りようがなかったです。




