それぞれの成果と、青果 2 『ジュールさんは天才です』
森から戻ってきた二人は、服を利用して小枝と落ち葉を拾ってきました。
「木の実は高いところにありすぎて、私たちじゃ無理だったさー」
「誰かを肩車でもしないと、届きませんね」
この中で肩車となれば――。
「ボクがニコを肩車すれば、届きそうか?」
「うぇ!? え?」
ニコ、絶賛戸惑い中。
「無事で力があるのは、ボクだ。そしてニコは軽いだろう?」
「まあ…………、はい」
「ターシャ、この組み合わせで届きそうか?」
単純に高さを求めれば、一番背の高いニーナと二番目のターシャの組み合わせですけれど、私はターシャとそれほど上背の差が無いですし、ニーナを持ち上げるのはちょっと……どうかなぁ。
いえっ、決して太っているというわけではなく! むしろニーナはスレンダーですから!
ただ、単純に自分より体の大きな人を肩に載せるというのは、どれぐらいの負担なのか、想像が付きません。
全身筋肉痛なんてことをやらかして一度戦力外になっていますし、この状況で体を痛めていては、自分が辛いだけでなく、みんなにも迷惑をかけてしまいます。
「リタ様は、わえと同じぐらいの身長ですから――。はいっ、手を伸ばせば、届くものもあると思います!」
「じゃあ、今度やってみよう」
ニコの表情を伺ってみると、不安と楽しみのドキドキ感が入り交じったような顔をしていました。
森はそもそも遠いので、体力の無さそうなニコにはあまり無理をさせず、行けるときに行く――という感じでしょうか。
「ところで、その小枝と落ち葉は何に使うんだ?」
「あーっ、これは火を熾せたらいいなぁ――って」
「ニーナが『肉が食べたい! 動物狩ってくる!』と言って、聞かなかったもので。もちろん、罠も武器もないので手ぶらです」
呆れて溜め息を吐いたターシャの横で、ニーナが苦笑いを浮かべています。
確かに、お肉、食べたいかもなぁ……。
でも動物を仕留めたら、血を抜いて解体しないといけないわけで。
「ニーナは動物の解体ができるのか?」
「南の漁業が盛んなところで育ったから、動物は一回もやったことないさー」
それでよく捕まえようとしましたね……。
でも、この陽気さがニーナのいいところです。
「さすがに生じゃダメってことぐらいはわかるから、火だけでも熾せたら一歩前進かなーって」
「なるほど――。確かに火は重要だ。使えるようになれば狼煙も上げられる」
割と暖かいほうの季節で、ココという生食の栄養源があったから、後回しにしてきましたけれど。
火は文明の根源ですから、ずっと使えないままというわけにもいきません。
「でも、どうやって……?」
「こー……、真っ直ぐな小枝で、スリスリスリ――って」
おおぅ、原始的かつワイルドです。文明を感じません。
「一応、わえは反対したんですけれど」
「やってみないとわからないさーっ」
とりあえず、それはニーナの役割に――――って、この人、片腕なんですけど!?
「それ、誰がやるんだ?」
「あ。――――あ、あははははっ」
誤魔化すような空笑い。
この反応を見る限り、全く考えていなかったようですね……。
別の手段で火を熾すとして――。私にできるのは、電気の放出。
色々と工具の整理はしましたけれど、IHクッキングヒーターがあるわけでもないですし、そもそもIHじゃ熱源ではあっても火ではないわけで。
んー……。
科学の神様、もしくはコロンブスさん、どうか私に知恵を。
「――火……燃える……熱い……熱…………。あっ、ジュール熱!」
「「「じゅーるねつ?」」」
ひらめいた私に対して、三人が疑問符を浮かべた表情をします。
「抵抗のあるものに電流を流すと、熱を持つんだ。――というか、ボクはジュール熱発生器を持っている!」
三人に「ちょっと待っていてくれ」と言い残し、私はシェルターの中へ入って整理した道具の中から、ジュール熱発生器を探し出します。
「あった! 半田ごて!!」
ジュール熱は発見者のジュールさんの名前がそのまま付けられています。
この現象は様々な家電製品で活用されていて、炊飯器とか、アイロンとか、電気コンロ。特に電気コンロは、一番わかりやすいジュール熱の活用方法だと思います。ぐるぐるが赤くなるあれです。
まあ、それらを差し置いて半田ごてを前世から引き継いでいる辺りは、私らしいなぁ――と。家事ができないわけではないのですけれど、興味は工業とか農業のほうへ……。
そしてこの半田ごては、電気ケーブルなどの配線を『半田付け』するための加熱道具です。ザックリ言えば、ジュール熱で合金を熱して溶かす工具。
これのコンセントケーブルを私が握ると――っ。
「外で火を熾すぞ!」
中を興味深そうに覗き見ていた三人に言って、シェルターから外へ出て、落ち葉と小枝を一カ所へ集めるように伝えました。
「枝を山の形に立てて、中に落ち葉を入れてくれ」
こうすることで空気の循環を促す――と、テレビのサバイバル番組で見たことがあります。
ただの見よう見まねですが、無造作に並べておくよりは意味があるでしょう。
「できたさっ」
「よし。火をつけるぞ」
半田ごては一本の棒のようになっていて、持ち手と加熱部分が分かれています。これは電子製品用なので先が細くなっていて、三十から六十ワットと書かれて切り替えスイッチも付いていますが……。よくわからないので、強力な六十ワットのほうで行きましょう。
水分のよく飛んだ落ち葉に接触させ、数十秒ほど待つと――。
ポッと小さな火種ができました。
「このまま他の落ち葉へ移っていけば……っ」
火は最初の落ち葉を燃やして、接触していた次の落ち葉へ――。そして落ち葉全体へとゆっくり広がっていき、バチバチと音を鳴らしながら小枝を赤くしていきます。
「成功だ!」
三人が弾けるような笑顔で喜んでくれました。
コンクリートハンマーと同じく、本来の使い方ではないですけれど、これはかなり役立ってくれそうです!
私が鉄の棒でも持って直接ジュール熱を――という方法も、あったのですが。それではきっと棒を持つ手が焼けてしまうでしょう。
かと言って触れないようにすると、また空気という絶縁体を破壊するほどの力になってしまいます。
持ち手のある半田ごては、その全てを解決してくれました。そんなに高くはないですので、散財というほどでもないですし。
ああ。でもどうせなら三つぐらい、出力温度を分けて買っておくという手も……あった……のか、な?
種類があると全部買いたくなりますし! …………こう、コレクター魂が、ね?




