種
お昼前の休憩時間なのですが、ターシャとニーナは森へ行ってしまったまま、まだ返ってきません。
皆で一緒にいるときは大丈夫でも、一度外へ出ると、時間の感覚も狂ってしまうでしょうから……。森は高い木々が日光を遮ってしまうので、それもあって余計に時間はわからなくなるでしょう。
「ボクたちだけで休むというのも、少し気が引けるな」
「そうです……ね」
とはいえ、先を考えるときっちり休まなければならないわけで。
私とニコは新しいレコをエリカのネバネバで大地へ接着して、また新しいレコのための土を型枠に入れていきます。
あと二つあれば、穴はほとんど塞がるかな?
元々が一メートル強の幅がある型枠を出すための搬出路です。だから、そんなに大きくは掘っていません。
レコが四つで縦横二メートルもあれば、穴を塞ぐには十分すぎるはず。これなら夜には間に合いそうです。
「……あっ、あのっ!」
急に、ニコが声を大きくしました。
「どうした?」
「その……。あの道具の山、整理しませんかっ!?」
凄く頑張って言ったんだろうなぁ、とわかる、切実な表情です。
きっと商人の魂が、道具を山積みにしてある状況をどうにかしたい衝動に駆らせたのでしょう。
私は頷いて、ニコと一緒に電動工具のお片付けに精を出すことに決めました。
――ええ、これ、本当はニコじゃなくて私が言い出すべきものです。ものぐさなところがあるので、あんまり気になりませんでした……。
エリカが『ふふんっ。私がいなければリタ様なんて、こんなものよのう』という具合に勝ち誇っています。当たっているだけに、悔しいなぁ。
◇
電動工具を――とは指定したけれど、よく考えてみるとLEDライト付きのヘルメットって、電動工具なのかな?
あの空気を読めない神様が、一つ一つ丁寧に『これは電動工具で、こっちは違う』なんてことをするとも思えません。そもそも、そんな暇はなさそうでしたし。
暇だったのに死んですぐ時空がどうこう言い出したのなら、かなり性格が悪いですから。死んだ! からの『時空がうんちゃらかんちゃら転生がごにょごにょ』。……結構、混乱したんですよ。未だに仰っていた意味、わかりませんし。
そういうのはSF愛好家とか量子力学の学者さんに伝えて欲しいところです。
「――おおっ、これ、耕運機だぞ……。農具まで持たせてくれたのか」
この世界の土だと使う必要があるのか、よくわかりません。でもレコが崩れてできた軽い土だって、いずれ無くなるでしょうし、あって困るものでもないでしょう。
ただまあ、これで『電動工具』という括りがそれほど意味を成さないことは、確定しました。つまるところ仕分けなんて一切せずに、私のコレクションをそのまま持ってきた――ということです!
お嬢様育ちなのに、なんで耕運機なんて買ったのかという謎は、残りますが。
ビバ! 散財!
欲しいから買う! それ以上の理由はいらないのです!
…………私、何世か前の世界では『パンがなければケーキを食べればいいじゃない』と言えるほどの悪役令嬢だったそうなので、多分、散財に関してはお墨付きなのでしょう。……はい。反省します。すみません。
「――あの、これは……? 植物、みたい」
ニコが見つけたのは、ホームセンターでよく売られている植物の種でした。
もう電動ですらないじゃん! でもありがとう、神様的でテキトーな人!
「プチトマト、いちご、ぶどう……マンゴー……。ああ、こっちは大根にトウモロコシ、オクラ、シシトウ、アスパラ……」
さすが私。お嬢様育ちなのに花の種が一つも出てきません!! ちょっとショックです……。
元々から男の子みたいな趣味嗜好してるじゃん……。悲しすぎるので、一時間ぐらい寝込んじゃだめかなぁ……。
「育つ……?」
「んー、十五年以上前のものだからな。土や水、日光の問題もあるだろうし、この世界で無事に育つかは、試してみないとわからない」
「でも、これが育ったら――」
「建物が作れて野菜や果物が育てられるなら、開拓どころか、ここでの生活再建すら視野に入る」
「――じゃっ、やりましょう!」
ニコが気合いを入れて外へ行きました。
ココが育ち、レコになる謎の土で、果たして十五年以上前の日本で買った野菜や果物の種が成長するのでしょうか。
まあ、ダメで元々。やるだけのことは、やってみましょう!




