井戸の下にあるものは
井戸は町の中心にありました。
でも爆発があって、今はどこにあるのかが、よくわかりません。きっと井戸そのものが土に埋もれているのでしょう。
ニコがスコップで地面に線を引いてくれているので、それを頼りに元の町の姿を思い起こしながら、探していきます。
レコが崩れて軽い土になってしまって、埋もれた人の捜索には土の山を低くしなくてはならず。
結果的に広い範囲へ薄く均すのと、同じ状態になってしまいました。これは元の町の状態を隠している一つの理由です。
まあ、均していると言っても水たまりが大量発生するぐらいにはデコボコですけれど。
「んー。この辺りだと思うのだが」
一人言も男の子みたいになってしまいます。
いえ。足下にはエリカスライムがいるので、一人言ではないですね。
「エリカ、井戸の場所を見つけることはできないか?」
そのツノがセンサーみたいに働いてくれたりしないかなぁー、と、一応訊いてみましたが。エリカは、ふるふると顔を横に振りました。
うん、まあ、ほぼほぼ全部が顔なんですけれど。
「人間の頃とは視点も違うだろうから、仕方がないか」
そう言って溜め息を吐いて、一歩踏み出した瞬間。足下の土に『流れ』があることに気付きました。
まるで蟻地獄のように、中心にすぼみがあって、そこへゆっくりと土が吸い込まれていっています。
中心に穴……つまり、井戸がある……?
そーっと歩いて中心の近くへ行き、軽く土を掘ります。
「これは、汲み上げの――」
グシャリと曲がった鉄製の手動汲み上げポンプが、土の中から出てきました。
なぜ、壊れているのに自然へ還っていないのでしょうか?
しかし疑問に思った瞬間――。
「あっ」
鉄製ポンプは、サラサラの土に還ってしまいました。
「ボクに見つけられることが最後の役目だった……? そんなことが――」
ちょっと腑に落ちません。たまたま土に還るタイミングと私が発見したのが同時だっただけでしょうか。
そんな偶然、ある?
誰かに見つけてもらうまでが役割だったとすれば――。
……いえっ、今は井戸水が優先事項です!
「エリカ、シャベルを貸してくれ」
言うとエリカがシャベルを手渡してくれます。スライムに持たせるほど重かったのか? そりゃ、筋肉痛が治っていませんから……。
エリカの小さな体躯では、柄の短いスコップはともかくとして、長いシャベルは使えません。
そういえばこの世界の井戸は、日本でイメージしやすい木製の枠とか、ヨーロッパ的な石造りではなく、一メートルぐらいの幅と高さを持ってドーナツ型に囲いを作っていました。
今思えば、あれもレコ製だったのでしょう。
高さのある囲いがなければ、不用意に落ちてしまいかねませんから。一メートルの高さがあれば、子供は簡単に登れませんし、悪さをしようとしていても目立ちます。
井戸の中心から下へ向かってガッシガッシと掘っていくと、すぐに自分の背丈が埋まってしまいました。
「――あっ。これ、どうやって出るんだ……?」
土の斜面なので、今のところは出られそうですけれど。もう少し深く掘ると本格的に出られなくなってしまいそうです。
さて、この先はどうしましょうか。
「ん、少しずつ沈んで行っている?」
そういえば見つけたとき、土が中心へと吸い込まれているように見えました。
井戸の水が、飲み込むように土を消化しているとか……? 深くて下へ沈んで行っているというならわかりますが、比重はレコが崩れた土のほうが軽いわけで――。
原因はわかりません。
でもさっきまでの、周りの土を吸収できる状態でなくなれば、自然と井戸の中に溜まった土は消えていくのではないでしょうか。
――そうとわかれば。
「一旦、撤退しようか」
斜面を登って、これ以上流れていかないように井戸の周りから土を避けていきます。
「思ったより深いな……」
レコが崩れた軽い土の層を抜けたら、下は固い大地――。これは他のどの場所でも同じでした。
しかし井戸の周辺だけは、明らかに周囲の大地より深く掘り下げているのに、固い大地に突き当たりません。
更に周囲の土を避ける作業を進めていって、さすがにそろそろ休憩かな――と思った頃。
シャベルの端がガツッと固い地面を捉え、ようやく……とホッと一息吐きます。
――って、もう一メートル以上下がってるんですけれど……。
そこから井戸とは反対方向へ横に掘ろうとすると、こっちは固い。井戸に向けばまだ掘れる。
どうやら本当に蟻地獄の状態だったようで、擂り鉢状に大地が抉られていると想像できます。
「じゃあ、この場所が爆発地点ということか?」
井戸であの爆発が起こったとすれば、擂り鉢状に大地が抉れていることも、ひしゃげた鉄製ポンプも、説明が付きます。
…………これ、みんなに話すべきでしょうか。
開拓班として前向きになれている今、爆発を思い出すのは、精神的な負担が大きいのでは――。
悩んでいると、足下にエリカが擦り寄ってきて、頬をスリスリしてきます。ぷよんぷよんの頬でやられると、ちょっと気持ちが良いかも。
顔を見ると、力強く目を合わせてくれました。言葉は交わせませんが、その目は『一人で抱え込んではいけません』と言っているように受け取れます。
「――――そうだな。みんな、対等な友達だ」
私一人で抱え込んだところで、きっと、良いことは何も無い。
話す決心を固めた私に、エリカは笑顔を返してくれました。




