壁を作る
シェルターに開けた大穴の地面部分をできるだけ平らに慣らして、エリカの嘔吐したブツを塗り広げます。
特に匂いもしないですし、澄んだ透明感のある水色です。
気遣いとかそういうのを全部抜きにして、汚さは全くありません。表現には困りますけれど……。
「みんな、『これ』の呼び名を決めないか? そうしないと――」
「んー、普通に言うとゲ○さーね」
そう呼びたくないから、提案したのですけれど!
「わえは、その名前で呼ぶのはちょっと抵抗が……」
だよね! ゲ○を塗り広げるとか、表現的にかなりキツいよね!
「…………そのまま、ネバネバ?」
「ニコの意見が一番、的確ではあるか。見たまんまで、わかりやすさがある」
あとはまあ、キラキラとか。
水の女神様の吐瀉物をキラキラと表現するというお話もありますし。
エリカの吐いたネバネバを塗り広げる。
エリカの吐いたキラキラを塗り広げる。
思ったほど差はないですね。どんなに良く表現しようとしたって、『エリカの吐いた』がインパクト強すぎです。
「とりあえずは、ネバネバということにしようか」
みんなでネチャネチャ塗り広げたネバネバの上に、一メートル四方の土ブロックであるレコを持ってきます。エリカが恥ずかしそうにモジモジしているのはまあ、放っておきましょう。
「置くぞ」
一メートル四方と言ってもめちゃ軽ですから、私一人で楽々移動できてしまいました。軽すぎてぞんざいに扱ってしまいそうになるので、丁寧を心掛けてゆっくりと、エリカのネバネバの上へ置きます。
瞬間、パァッ――と地面が輝いて、その光がレコの外周を一回り――。
まるで魔法のようなできごとに驚いて、思わず尻餅をついてしまいました。
「――できた……のか?」
私の声に反応して、ニーナが前へ出てレコに触れます。
「んっ――、これ、押してもビクともしないさ」
片腕なので持ち上げることはできませんが、押して確認してくれたようです。元のレコなら、押せば簡単に動くはずですから。
「わえが持ち上げてみます!」
次いで、ターシャ。
今のところ腕の傷は、それほど痛んでいないようです。この環境下で化膿とか感染をしないで済んでいるのは、マリーさんの適切な手当があってこそかもしれません。
「ふ――っ。――――全然持てそうにないですね。これっ、成功ですよ!!」
私たちは手を繋ぎ合って喜びました。
「よしっ、まずはこの壁を塞いで、その次は地上に建物を作ろう! マリー達がどんな結果を持ち帰ってきても、大丈夫なように!」
こういう時だけは、男の子みたいな口調でよかったと思います。力強さが違いますから。
すぐに次のレコ作成に取りかかり、型枠へドサドサと軽い土を注いで、ココを一杯投入。このまま一時間ほど放置です!
正直、レコを型枠から外す作業は、めちゃ軽なので簡単。
移動も簡単。
ネバネバ塗り塗りも簡単。
接着は一瞬。
……そうなるとこの一時間だけが妙に長い気がしますけれど、仕方がないですね。
仕方がないので、四人でココの実スープを飲みながら、ほっこり談笑タイムです。ええ、仕方がないのです。
「今日は五個のネバネバを使い切るだけで、日が暮れるだろうな」
「こちらは人手が足りそうですから、わえは森で木の実を採ってこようかなと」
「……木の実、食べたい……です。私は、製図を続けながら、お手伝いをします」
「あっ、じゃああたしがターシャと一緒にいくさーっ。森は動物もいるから、一人じゃ危険さーね」
そんな感じで、働き者の三人は次々に自分の仕事を見つけていきます。
どう考えても、レコの硬化時間は暇ですからねぇ。
では私は、もうちょっとここでほっこり――――。というわけには、いかないですよね。はい。働きます。
「……ボクは、井戸を探そう。水があれば、いよいよ生活ができるようになる」
開拓班の仕事としては、十分すぎるのではないでしょうか?
連れて行けそうにない三人と私という組み合わせで、前向きな希望を得るためにちょっと無理矢理付けた『開拓班』のお名前。
きっとマリーさん達が帰ってきたら、予想外の結果に驚いてくれるでしょう。
もし、救助要請がうまくいかなければ――。
それってつまり、隣町も同じ状態にあるということですから。
無事で住める町を見つけるまで移動民族化するか、それとも同じ場所で生き延びるかの、二択になります。
できれば、生き延びるという表現よりも、しっかり『ここから生きていく』。
なんなら一生ここで健康に暮らせるぐらいになったって、構わないわけで!
そのためには、命の根源となる水の確保が重要です。
レコとネバネバで建物を作ることが可能となりましたから、この勢いで井戸も、復活させて見せましょう!




