ランチタイム♪
この世界にも高校に相当するような学校があって、対象は十五才から十八才頃まで。頃というのはまあ、あれです。留年的な。
でも義務教育ではなくて、十五才までを家庭教育だけで過ごした私のような子もいれば、三歳頃からずっと何らかの形で学校に通っている子もいます。
だからまあ、今世の私にとって学校はごく最近通い始めたもので、まだまだ慣れません。
例えばこの学校には品の良い食堂があって、そこで新鮮調理のお昼ご飯を食べるのが普通です。校内の飲食費は全て授業料に含まれているため、お金のやり取りはありません。
生徒数は百人にも満たず食堂の広さも十分なのですが……。昼下がりの食堂には、毎日毎日大きな人集りができてしまいます。
購買の美味しいパンが売り切れるとか、そういうわけではなくて……。
「リタ様! 今日は私とご一緒にっ!」
「いえいえ、今日こそは私と!!」
ええっと……。補足します。
ここは『ハンドメルト校』という名の、女子校。
ええ。また女子校です。男の子みたいにって言ったよね!?
まあ、この国の学校制度は基本的に男女別々で、共学というのは相当珍しいそう。そういうルールなら、仕方がないのかな。
でも、この女子人気! ……これだけは、どうにかしてほしかったなぁ。友達が作りづらいよ。
「えーっと……」
一応、せめてもの救いというかなんというか。
私が困っていると、必ずエリカが助けに来てくれる。
「はいはい、どいてくださいねー」
周囲より一段高い身長は見つけやすく、人混みをかき分けながら傍まで来てくれた。
「何度も言いますけど、リタお嬢様は静かな昼下がりを希望されておられるのです。あなた方も名門ハンドメルト校の生徒なら、少しはリタ様の気持ちになってみては如何でしょうか!?」
友達になってほしいという私の気持ちを九年も無視し続けるエリカが、それを言うんだね。この場では救いになるからいいけどさ……。
この学校、かなりの名門なんです。
なにせ特段の特産物を持たない小さな町なので、資源は人材。人を育てることで豊かさを得るというのは中々に難しいそうで、父が伯爵の地位にあるのも、この困難を常に成し遂げられるからだそう。
「解散!」
そして、領主の令嬢をどこの馬の骨とも知れぬ者が勤め上げるはずもなく、エリカの生まれであるフレミング家も、そこそこの名家である。
校内のヒエラルキーでは上位層に君臨していて、発言力は強い。
エリカの号令のような『解散!』の言葉で毎日、この場は開かれるわけです。
じゃあ集まらなければ良いのに――という気もしますけれど。……実はこの原因を作ったのは、他でもない私自身。
入学当初、お友達がどうしてもどうしてもほしかった私は、怖ず怖ずと遠慮気味に誘ってくれた生徒と昼食を共にしてしまいました。
断るなら全て断る、という精神が最初からあったなら、入学から三ヶ月も経過した今頃には、とっくに放っておいてくれるようになっていたように思えます。
人気があるのはとてもありがたいお話なのだけれど、そのせいで友達が作りづらい。本当に困ってしまっています。まあ、全部断っていたとしても面倒ごとが無くなるだけで、そんなんじゃ友達なんてできないと思いますけどね……。
「はぁ――。全く、彼女たちには困らされてしまうな」
ほらそこの私! そうやって男みたいな言葉を使わないの! それが諸悪の根源なんだからね!?
「領主の長女で、その美貌――。女子校で放っておかれるわけがありません」
「そうは言われてもね。――ボクは可愛い恋人よりも、友達がほしいよ」
うわーっ。めちゃんこ恥ずかしい台詞出たーっ!!
もう助けて。神様、私をどうにかして。
「せめてスカートをお穿きになることができれば、もう少しぐらいは、同性として見て頂けたかもしれませんね」
そう! この学校は女子校であって全員スカートの校則なのに、私だけスラックスなの! なんでだぁぁぁぁ…………。
「仕方がないだろう。ロメール家に生まれた女は、嫁入りまでスカートが履けないんだ」
なんなのよ、その『男の子みたいに……』を補足する都合の良いルール! 日本ならもうとっくにスカートとスラックスの選択制が主流だよ! 人権とか、そういう意識はないのかな!?
たまにはミニスカートも穿きたいけれど、この国でミニスカートなんて穿いたら娼婦扱いみたいだし……。
でもね、少しぐらいはお洒落させてほしい。
ロングスカートでいいから、女の子として振る舞ってみたい。
男の子みたいに、なんて頼んでおいて今更、女の子として振る舞いたいなんて、都合が良いだけなのかなぁ。
…………いえいえいえいえ、決してそんなことはないはず!
だって私が望んだのは、電動工具を使えて、友達と沢山遊べる人生だよ!? 全然叶えられてないじゃない!!
「どうかなされましたか?」
「いや、少し考え事をしていただけだ。気にしなくていい」
スカート穿きたいよぉ、スカート穿きたいよぉ、スカート穿きたいよぉぉぉぉ……っ。……なんだかもう、自分が新手の変態みたいに思えてきた。悲しいです。
「そうですか。――それでは、ガーデンテラスへ行きましょう」
エリカと一緒に、いつもの場所へ向かう。
恐ろしいことにハンドメルト校では、伝統的に『ヒエラルキーの頂点に立つ者はここを使うように』と言わんばかりの場所が用意されている。
開放的で(見られ放題で)装飾を奢りに奢った(背景キラキラな感じの)、ガーデンテラスだ。
せめてエリカが友達になってくれればなぁ。
一緒にご飯を食べることさえ、してくれないんだよ? 私が食べている隣で紅茶を注いだりして、あんまり会話もできないエレガントな雰囲気を放たれちゃうし。
毎日こんな昼食じゃ、寂しいよ……。