男装令嬢、語る
コンクリートハンマーのおかげで、私の歩幅ぐらいの距離を、一気に掘り進めることができました。科学の力は偉大です。
もう明日は無理なぐらい、腕が痛いですけれど……。
ターシャが持ってきてくれたココですら、持ち上げることができません。
「あの。わえが持ちましょうか?」
「……すまない。手が上がらないんだ」
怪我人に介護されちゃってます。
ニーナは片腕しか使えない。ターシャも腕の傷があるので、振動なんて以ての外。ニコは知性派で体力はない。そうなると、私の担当作業になっちゃうんですよね……。
でも昨日までは、私にだけ担当する作業がなかったわけで!
領主の娘として偉そうにしているよりも、こうして働いているほうがずっと楽しいわけです。
…………それで張り切りすぎて、こんなことに。
何事も限度が大切ですね。コンクリートハンマーも、かなりの熱を持っちゃいました。ちゃんと定格運転時間は守っているつもりですが、なにせ時計がないので、感覚になっちゃいます。
ターシャが口に寄せてくれたココから、ジャガイモのポタージュみたいな果汁をグビグビと飲みます。
ココの栄養価ってどうなってるんだろう? 一度飲めばそれほどお腹が空かないから、カロリー換算にすると結構高いのかな? 飲み過ぎたら太っちゃいそうな気さえします。
四人で揃ってココを飲む時間は、どうしても張り詰まってしまう心をゆる~く解放できる、ちょっとした至福の一時。
落ち着いた空気になったところで、私は話を切り出しました。
「みんな、聞いてほしいことがある。――ボクがなぜ雷のような力を扱えるのか、知ってもらっていたほうがいいと思うんだ」
それから、転生前に電動工具を集めに集めたけれど使えなくて、今の世界で使うことができるようお願いした話とか。
男の子みたいに――と言って、本当に男の子『みたい』にされてしまった件を、正直に打ち明けます。
「――――はぁー、凄い話さー」
「私も、転生して、今があるのかな……」
「エリカ様もこうしてスライムになられていますし、わえたちだってそうなのかもしれませんね。ひょっとしたらニコが前は農家で、わえが前は商家だったとか!」
思っていたよりも、前向きに受け止めてくれました。
あとターシャは一人称を『わえ』で行くと決めたみたいです。私に対する言葉遣いは変えられなくても、一人称は変えることができる――と言うことなのかもしれません。
生まれにも関わる話ですから、前世が令嬢で文句がなくて今世も令嬢に産まれるなんてズルい! みたいな話になってしまわないか、少し心配しちゃったんですけれど……。
そういう人たちじゃ、ないですよね。
「じゃあリタって、本当は女の子っぽい喋りかたがしたいのかな?」
ニーナは、面白いことを知ったという風に、訊いてきました。
「まあ、そういうことだ」
「へーっ。私はてっきり、ロメール家でそういう風に育てられたんだと思ってたさ―」
「わえもです」
「――私も」
ああ、そういう風に受け入れられていたんだ……。
男装なんて嫌う人もいると思うのに、なんで全力で受け入れられているのかと思っていたら。
令嬢がその家の決まりでそういう風に育った――となれば、筋金入りですし、歌劇団の男役みたいな感じで受け止められていたのかもしれません。
「不自由じゃないですか?」
「……少し」
おっ、本音出た! いや、少しではないか。めちゃんこ不自由だ!
……でもまあ、ここで格好つけたみたいに口数を絞ることはあっても、本音と違って『問題ない』とか喋っちゃうことには、ならないんだよね。
それに――
「――――でも、こうして四人で集まってみると……。ニーナとターシャの方言や、ニコの可愛らしい語り口。どれも個性があって、ボクのこの喋りかたも、少しずつ受け入れられるようになってきたんだ」
三人とも、自分を偽ろうとはしていません。
私だって喋りかたとか態度が男の子っぽくなるだけで、本音が喋れないわけではない。
特にエリカと語り合ったときは、完全に自分の言葉で喋れていましたし、こうして秘密にすることなく心の内を明かしていけば、問題はないように思えてきました。
「エリカも、こういうボクのことを、好きだと言ってくれたからな」
スライムを見て言うと、透明感のある水色が沸騰しそうなほど赤くなりました。
ヤバいです。照れるエリカスライムめちゃんこ天使!! 可愛い! 天使スライムです!!
そんな私とエリカを見た三人が笑ってくれたのが、今のみんなの関係を表しているような気がしました。




