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男装令嬢、掘る

 横に掘れば出せますよー、あっはっは…………みたいなテンションで、明るく取り組みはじめた掘削(くっさく)作業ですが。

 まず表面がカッチカチです。

 大切な保管庫ならば、やはり最低限、部屋の壁にはレコ+スライム粘液の壁を使っているでしょう。岩盤というか、もはや地層。そりゃ千年持ちますよ!


「だめだな。これだけやって、ようやく指が入る程度の深さか……」


 諦めて別の手段を探すか、気長に続けていくか――。

 でも、人よりも先にスコップのほうが壊れてしまいそうです。私たちに製鉄技術なんてあるわけがないですし、鉄製品がなくなってしまうと困ります。

 マリー達が帰ってきたとしても八人しかいないわけで、シェルターと『私発電機』があれば当面暮らすことは可能――。


「考え方を変える必要があるな」


 私が言うと、ニコとニーナが座り込みました。ニコは見るからに体力が無さそうですし、ニーナは体力には問題無さそうだけど片腕。痛みも抱えているでしょうから、あまり無理はさせられません。

 確実な手段として、ここだけを生活拠点とすることも考えなければならないかも。

 コロンブスさんの知恵が欲しいです。もの凄い発想で状況を打開してくれそう。

 岩盤と掘る……打開……?


「そうだ!」


 思いついて、すぐ、私が前世から持ち込んだ電動工具を(あさ)ります。

 岩盤掘削(くっさく)機! なんてものを、一般人だった私が持っているわけがないですが――。


「これっ、コンクリートハンマー!」


 …………いやまあ、コンクリートハンマーもなんで持っているのか、という話ですけれど、ね。役に立つからオールオーケーでしょう。結果オーライです。

 こうして散財を正当化することで、次なる散財へ繋がります。要注意! もちろん私が!


「それは……?」


 おっと。商人のニコが低調子な声で、キラキラ目を輝かせています。ギャップ可愛いよぉ。


「コンクリートは、この世界にない――か。まあ、見ていればわかる」


 私はコンクリートハンマーを、よいしょ――っと持ち上げて、コンセントプラグを左手の中に収めました。重いなぁ……。

 形状は、両手持ちの電動ドリルそのもの。マシンガンのような感じで持ちます。

 ただ普通の電動ドリルが回転運動を中心とするのに対して、コンクリートハンマーは回転に加えて『縦に打って(くだ)く』パワーを持ちます。

 両手で使わないと、手首とか色々痛めちゃうそうです。

 私が買ったものは五キロぐらいあるので、持つとそこそこの重さ。

 でも低振動タイプだから、手には優しいとかなんとか。

 はい、全て雑誌の知識です。使ったことはありません。

 刃先に当たるビットには付属のコンクリート用をセット! コンクリートをくだけるなら岩盤だっていけるはず!


「――行くぞ!」


 いざ、はじめての電動工具♪

 ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――。

 はじめてがヘヴィすぎるよ……。

 釘も打ったことが無いのに、いきなりコンクリートハンマーで岩盤掘削って。順番を間違えすぎです。


「…………ふぅ」


 十分ぐらい経ったかな? めちゃんこ重いし、土煙(つちけむり)はモクモクだし、何より振動で手がめちゃんこ疲れるんですけれど!? 低振動タイプとは一体……。

 震えて筋肉を鍛える機械が日本にありましたが、あれの強化版のようにさえ思えます。そりゃあこれを仕事に使ってる人は、筋肉ムキムキになりますよ……。


「すご――っ、凄いです!」

「これは速いさーっ」


 でも電動工具の力は偉大。

 三人でやった数十分よりも、一人でやった十分程度のほうが十倍ぐらい進みました。


「ニコもやってみます?」

「あっ……はい!」


 商売人の魂が燃えているようです。売り物にしちゃダメですけど。

 この世界でこういうものを作れば、ひょっとしたら売れるのかもしれません。

 ただ――。


「重っ……」

「指でレバーを引けば、動くぞ」

「はっ、はい!」


 ドゴゴゴゴゴ……。

 二十秒ぐらい?

 ニコはそっとコンクリートハンマーを床に置きました。


「なんでリタ様は、こんなものをあんなに長く……」


 泣きそうな顔で、手と指がプルプル震えています。


「そういえば、リタ様は運動が得意だって聞いたことあるさ」

「あれは……まあ」


 実は転生後の私、運動が大の得意。

 それこそ『男の子みたいに』……。

 この世界では、ご令嬢はお(しと)やかに――という方向へ育ったほうが男性に受けるということで、あんまり好ましいことでもないのですが。

 ボールを投げたら遠くまで飛んでいくし、蹴れば弾丸シュートですし、見た目は変わらないのにちょっと反則みたいになっちゃっています。


「私もやってみたい!」


 座ったままのニーナが、挙手をして名乗りを上げました。


「気持ちは嬉しいけれど、ダメだ。片手では腕を痛める」

「そっかぁ……。私、役立たずさぁ……」


 明確に気落ちしたニーナの前に座り込んで、視線の高さを合わせます。


「ニーナは四人の中で一番明るい。(きみ)のおかげで、みんなが助かっているんだ」


 (はげ)ましと言うよりも、ただの本音です。

 彼女は私に対してもかなり対等に喋ってくれますし、明るくて、時々私たちを笑わせてもくれます。ニーナがいなければ私たちは、どんどん落ち込んで暗くなってしまっていたことでしょう。


「…………そ、そっか……。あ、ありがとう……さ」


 んー? ちょっと頬が赤らんでいるけれど、エリカみたいなことになってない……よね?

 ふとスライムエリカを見てみると、なぜか得意げな顔をしていました。

 スライムエリカ…………かぁ。私はみんなに転生のことについて、ちゃんとお話ししたほうが良いのかもしれません。

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