レコ!
九年間も私と一緒にいてくれた、めちゃんこ可愛いメイドさん。
エリカ。
出会ってから最後の別れまで、ずっと私を守ってくれた彼女の死後を想像してみると、なんとなく、答えが導き出されました。
きっと神様的な御方に会ったエリカは、いくつかのお願いをしたと思うのです。
また友達になりたい。
できればもう一度、役立てる存在になりたい。
でも今度は、メイドと主人の関係じゃないほうがいい。
――多分、こんな感じで。
エリカがそこまで私のことを想ってくれているなんて、勝手で自信過剰すぎる思い込みかもしれません。
けれど、こうしてスライムに転生したエリカを見ると、少しぐらいは『想われているんだなぁ』という実感を持たないと、逆に失礼な気すらしてしまうわけで。
ただ…………、ぶっちゃけると、あの神様的な御方は気なんて全っ然きかないですから!
これらを総合して
『今のリタに必要なのはスライムだ! スライムでも友達にはなれるし、スライムなら役に立てるし、スライムならメイドになれない。よーしっ、スライムになぁーれ♪』
となっても不思議じゃないです! 男の子みたいになりたいと言って、男の子みたいな女の子に転生させる神様ですから!
まさかスライムになるとは!? ――って、多分エリカも驚いただろうなぁ……。人ですらないとは。
「このスライムの名前は、エリカだ!」
高々と両手でエリカを抱え上げて言った私の言葉を、みんなは拍手で迎えてくれて、疑問を呈することは一度もありませんでした。
紋章の話をすると、首を縦に振って納得してくれたのです。
フレミング家も名門ですから。
特に商人の娘であるニコは、フレミング家の使用人とも懇意にしていたらしく、「間違いない」と太鼓判を押してくれました。
紋章は家を表す重要なものですから、商人が見間違えるなんて、あってはならないわけです。
「エリカ。今日からまた一緒だ!」
言うと腕の中でエリカがくるりと回り、目を合わせてくれました。
スライムの頬って赤らむんだー、可愛いなぁ、という純粋な発見と。あ、この子やっぱりエリカだ……という個人的確信が重なります。
「ところで」
私はそんなエリカに、早速の質問をぶつけてみる。
「………………部分的に削って擂り潰すのは、生命的に、あり?」
上での中でエリカがブルブル震えます。もちろん冗談です……よ?
……はい。ちょっと小さくなるぐらいなら許してくれるかなーって考えました。ごめんなさい。だってスライムがどういう生命かわからないですし……ね。
ひょっとして、大きく育ったりするのかな?
そうしたら育った分を削っゲフンゲフン! 冗談です。
◇◆◇◆◇
私が気絶している間に、シェルターの中では、大きな発見があったそうです。
「これは……。木枠だな」
だいたい一メートル四方ぐらいかな。
ただの箱にしては見るからに頑丈で隙間がなさ過ぎるし、何かを保管する目的なら、隙間がないと湿気が溜まって物がダメになりやすいはずです。
不思議に思いながら発見者のニコに問うと、「レコの型……だそうです」と答えてくれました。
「じゃあ、これがあればレコが作れる……!?」
次の質問には、安全な場所の捜索という任務の無くなったニーナが、答えてくれました。ニーナはニコの手伝いをしていたようです。
ちなみにターシャは今、ココを掘りに行っています。
「ここは領主様の家だからね。代々受け継いできたものだと思うさー」
「そうか……。じゃあこの地下室は遙か昔から存在していて、レコの型枠を保管して継承するための部屋だった――。ということかもしれないな」
「領主様の家だけが丘の上にあったのも、きっと、レコで土台を作った上に普通の土をかぶせて、更にその上からお屋敷を建てた――ってことさーね」
「なるほど……」
私の家は丘陵の上にあって、なんで平地に建てなかったんだろう、偉い人はみんな高いところが好きなのかなぁ、なんて思ってたものだけれど。
レコは朽ちることのない構造体。
まずこの型枠を保管するための地下を作ってから、上に建物を建ててカモフラージュをした――というのは、道理が通ります。
領主の家ですから、仮に、この入り口が庭にあったとしても、他人が畑として耕すことはないですからね。隠すには絶好の条件ということでしょう。
それだけ大切なもの、とも受け止められます。
「でも、これでどうやってレコを?」
今度の問いには、二人がにへらと笑って、良い報告があるということをまずは表情で教えてくれました。
「古代語で説明が書いてあったのを、ニコが全部解読してくれたさー」
「全部!? 凄いな……。ニコはきっと、一流の商人になれるぞ」
「……はい。ありがとうございます」
なんか偉そうに言っちゃいましたけど、私のほうが年下なんですよね……。
「ニコは飛び級してるから、本物の天才さーね」
「えっ、ハンドメルト校で飛び級したのか!?」
「えっと……入学試験で、二年時からの扱いに……」
すごっ!
この町は人材を資源とする教育の町だったわけで、ハンドメルト校はその中でも特に名門とされています。
貴族家庭に産まれていれば、ある程度の英才教育を受けて自動的にここへ入りますけれど、そうでなければ狭き門。
入学時点で飛び級認定って、とんでもない偉業です。
「ん? じゃあニコは――」
「まだ、十五歳です」
よかった……。
ニコが一番敬語が抜けていないというか、なんか同い年か年下にしか感じられないのよね――なんて思っていたから、私の態度が偉そうになっちゃうのがどうにかならないかと思っていたのだけど。
同い年なら、あんまり気を遣わなくて良いかも! 年功序列主義が叩き込まれた元日本人的に!
「領主様の娘を差し置いて、商家の人間が飛び級なんて……と、お断りしたのですが」
申し訳なさそうに俯くところが健気で可愛すぎです。小柄だし、守ってあげたくなるなぁ。もういっそ抱きしめてしまいたい!
「ボクのことを気にする必要はない。優れた人材を育て上げることが、最たる目的の学校だからな」
うーん。やっぱり、私の偉そうな物言いは問題ありじゃないかな?
でもなぁ。エリカは男の子みたいな私のほうが好きって言っていたし、それを知ってからというもの、ツッコミどころはあっても私自身、前ほどこの性格が嫌だとは思わなったわけで。
そのエリカも、今は転生して傍で見ている。男の子みたいなほうが好きと告白されたのに私が女の子みたいに喋っていたら、ショックとか受けちゃわないかな?
それに、今更女の子みたいに喋ったら、みんなもビックリしそう。
――――しばらくは、このままでいいのかな。
「古代語が読めるなんて、それだけで一生食べていけるほどの力だ。もっと誇ってもいいことだと思うぞ」
でも、やっぱり偉そうなんだよね、私の言葉遣い……。男の子みたいなのと偉そうに感じる言葉遣いとでは、少し違うと思うのだけれど。
「――で、どうこれを使えばレコができるんだ?」
「土を押し込んで……。上から新鮮なココの果汁を染みこませて、そのまま、一時間――。と、書いてありました」
「ココを使うのか?」
「砕けたレコの中でココが育つなら、永久に作れることになるさー。レコ作って、壊して、ココが育って、レコ作って」
「なるほど。これなら供給不足はありえないな。――しかし、崩壊したレコの土と普通の土はいずれ混ざるだろう。土の重量を次々に変えてしまうと、自然への影響が出そうなものだが」
「……砕けたレコは……その、長い時間をかけて、重量を増して、重く固まっていくそうです。…………それに、スライムで固めておけば、最初から、岩盤のように重くなります……し……」
ん? なんだか凄く言いづらそうにしている。
「問題ないさー」
まあ、ニコは喋るのが苦手そうだから、それでかな。ニーナと同じで、少なくとも私が聞いた範囲に問題は無さそうだ。
しかしなるほど。よくできているなぁ。
コンクリートジャングルに比べれば、自然の中で生きている感がずっと強いよ。文明のために消費される自然が回生することは、とても重要なのだと思います。
「――ところで、これをどうやって上に出すんだ?」
ただ、枠は頑丈で、木製だから重さも見た目相応だと思えるわけで。
階段から引き上げるのは難しそう。
というか、もっと根本の問題として、出入り口の横幅が足りないように思えます。
「ここは丘なので、壁を横に掘れば……きっと……」
…………ああ、それで言いづらかったわけかぁ。
私の家は築千年越え。
シェルターの壁は恐らくレコ製。つまり岩盤。
その先の土だって重く固まっているはずです。千年もあれば『長い時間』と呼ぶには十分すぎるでしょう。




