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大地の下

 太陽が真上を通過してしばらく経った頃。

 実際の地面に製図をしているニコが、ちょんちょんとスラックスを引っ張ってきました。

 背丈も小柄でキレイな撫で肩。子供みたいで可愛いです。一つ年上なので、口には出せませんが。


「どうした?」


 ちなみに私も口調を直したいんですけれど、どうにも上手くいかないです。エリカと最後にお喋りしたときが例外だったようで、まだ偉そうなボクっ子。背丈も小さい方ですし、表情で隠れているみたいですけれど一人で鏡を見ると童顔です。胸もまあ、察して頂けたらという程度なので。

 下手をするとショタっ子みたいになっていそうで、怖いです。


「……領主様のお屋敷で、妙なものが……」


 うちに妙なもの?

 まさか、お父さんの秘蔵コレクションとか――っ! この世界に、そんなもの無さそうですけれど。本や絵……春画(しゅんが)ぐらいなら? まあ、出てこないことを願いましょう。できれば見たくもないですし。故人のそういうところは掘り返しちゃダメです。

 そもそも、それが自然に(かえ)っていないということは『まだ使えます』ということで、うわぁぁぁぁ、想像しちゃダメだこれ。

 私はターシャと一緒に、ココの群生地でココを半分埋まった状態にする作業の最中でした。

 地味ですし掘り出せば腐れてしまうので集中管理はできないですけれど、こうしておけばココの量をある程度把握できます。

 それに白いココを半分土から出しておけば、夜になっても月明かりを受けて目立ちます。暗闇でココを探す労力は必要なくなるわけです。


「ターシャ、ちょっと行ってくる」

「はい。お気を付けて」


 一旦そこを離れ、ニコの後ろを歩いて付いていきます。

 ハンドメルト校から家に帰るまでの、最近はもう歩き慣れてきていた道――。今ではただ広い範囲に土が敷かれているだけで、どこに向かってどこを歩いているのだか、全然わからなくなってしまいました。


「ここ。土の中に、鉄のようなものが……」

「これ――?」


 なんだろう。マンホールみたいな雰囲気だけど、四角い。

 地下があるってこと……?

 うちにそんなものがあるとは、一度も聞いたことがないです。ひょっとしてエリカなら、何か知っていたのでしょうか。


「ニコ、これをどうやって――」

「スコップで掘っていたら、ガツンと当たって」

「そうか……」


 この状況で地下室の入り口のようなものが出てきて、開けない選択肢はないでしょう。お日様もほぼ真上だから、明かりになるでしょうし。


「よしっ、開けてみよう!」

「――うん」


 二人で力を合わせて「「よいしょっ」」と、鉄を引っ張り上げてみる。やはり地下室を閉ざす蓋だったようで、それこそマンホール的な、分厚い板になっていました。

 この世界の鉄は、日本に比べて遙かに希少です。ただ、価値が高いというよりは、あまり必要とされていない――という印象でしょうか。町中で鉄製品を見るのは、農具とか車輪とか、かなり限られています。


「うわっ、(ほこり)――っ!」

「――げふっ、げほっ」

「相当な期間、開けられていなかったようだな」


 太陽光の中、ダイヤモンドダストみたいにキラキラと埃が舞いました。

 ――はい。すみません。ちょっと良い風に言ってみました。

 掃除をしてないお部屋で布団を上げた時みたいな、盛大な埃です。吸い込んじゃダメ、絶対! マスクがほしいなぁ……。


「階段――か」


 入り口はそれほど大きくないですけれど、中はハシゴではなく階段状になっています。領主の家でわざわざ隠されていた空間――。秘密基地風ですし、この先にお宝が眠っている気がしてきました!


「ボクが行ってくる」

「私も……」

「いや、しかし――――」


 どうしようかな。何が待っているかわからないし、付いてきてもらったほうが安全……かも。

 格好つけて『ここで待ってろ』と言える状況でもないですし。

 それにニコはさっき、私に対して『はい』ではなく『うん』と言ってくれました。距離を縮めてきてくれているのに、ここで突き放すこともないように思います。


「ありがとう。一緒に行こう」

「……はい」


 あれ、『はい』に戻っちゃった?

 更にポッと頬を朱に染めて、照れくさそうに(うつむ)かれてしまいました。私はどうやら天然ジゴロのようです。本当に男の子だったら、さぞ楽しい人生だったでしょう。

 ゆっくり階段を降りていくと、二十畳ぐらいはありそうな、広い空間が待っていました。真ん中に何かが積まれているようですけれど、布をかぶせてあって、中身がわかりません。

 でも布! ついに布がありました! それも部屋の大半を占めるぐらいなので、もの凄く大きい!

 見るからに厚手で、かなり丈夫そうです。

 軽くつまんで持ち上げてみると……。うんっ、ずっしりした重さ! 馬車の(ほろ)とか、そんな感じのものかなぁ。


「やったなニコ! この布と木の枝があれば、簡易テントぐらいは作れそうだ」


 ただ、とてもじゃないけれど、バサッと一息で取るなんてことは、できなさそう。女の子二人には重すぎるよ。

 でもニコは、明るい表情で口を開きます。


「……はい。それに、ここ……。明かりさえあれば住めると思う……ます」

「あっ――」


 そうか。二十畳もあるんだし、当面はここに住めばいいんだ。

 言われるまで気付かなかったよ……。

 でも本当に『明かりさえあれば』かな。雨天とか緊急時の避難シェルターにはできても、常用するには真っ暗闇すぎです。今はお日様パワーでなんとか見えていますけれど。


「じゃあ、次は明かりが必要だな」


 言って横へ歩くと、足が何かを踏みました。

 足下を見遣ると太い紐のようなものが転がっています。

 でもこれ……電化製品のケーブルみたいにも見えるなぁ。

 持ってみると、質感も太さも、やっぱり電気ケーブルに感じます。電気のない世界で電気ケーブルがあるって、どういうこと……?

 疑問に思いながらケーブルの先を辿っていくと――。


「コンセントプラグ!?」


 あんまりにも大きな声を出したものだから、私の声が地下空間の中で盛大に反響してしまいました。

 でも、だって驚くって! 少なくとも今世はお目にかかれないと思っていましたから!

 銀色の突起二つに触れると、『ピッ』という電子音が鳴って、分厚い生地の隙間から力強い光が漏れ出します。

 何かに電源が供給された……ってこと? 私、触れただけだけどな。

 試しに手を離してみると、光は一瞬で消えてしまいます。


「……あの。リタ様っ、今のは……!?」


 ニコも少し声が大きくなっている。


「――この布、どうにかして外そう!」

「は、はい!!」


 日本の電化製品がここにあるとしたら――!

 神様的な御方はきっと、転生後の私にちゃんと持たせてくれていたんだ! 電動工具!!

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