花より
王都は政治と経済の中心地というだけではなく、一大観光地でもあります。
その中のとある街道は面する全ての店が土産物屋で、行き交う人々の活気はそれ自体が観光名物のようにも思えます。
「わぁーっ。――――ニコ! この髪留め可愛くない!?」
「可愛いですね」
「これっ、買ってもい…………、ううん、ちゃんと選んだほうがいいよね」
首を振って元の場所へ商品を戻すと、ニコが不思議そうな顔で小首を傾げます。
そんなに散財を留まるのが意外に思われるとは……さすがにちょっとショックですね。もうちょっとしっかりした大人になりたい。
それに――。
「ねえ、ニコ。ここって綺麗なものが沢山あるよね。可愛いものも」
「はい。でもリタが作った木彫りの熊も可愛いかったですよ?」
「あ、あれは勢いで作っただけだから! それにリアル路線だし、可愛いとは少し違うような気がする……」
荒々しい削りかたになってしまって、むしろ男性の趣味感が満載の仕上がりです。
でも木造家屋の玄関に置きたい感じにはなりました。もちろん口には鮭を咥えています。
「執務室に置くぐらいだから、てっきり可愛いと思っているものだと」
「そりゃ、堅いジュラの木を手彫りした苦労もあって、愛着はあるけど。こう……、髪留めとか、アクセサリーの類いって、ロメールにはほとんど無いな……って」
「ほ、欲しかったんですか!?」
「なんで驚くの!? めちゃんこ目が開いてるからね!?」
「いえ……、だってその、男の子っぽかったので……」
「だからそれは本音じゃないんだってばぁ……。泣いちゃうよ私」
ボクっ子でも中身は二十数年と十数年を過ごした生粋の女の子ですから!
足し算したらオバサ……。
コホン。
お店の人に声をかけてみます。
「あの、試しに着けてみても良いでしょうか?」
「もちろんですよ~」
人の良さそうな若い女性店員さんから許可を頂いたので、気になった髪留めを着けてみます。
短めの髪だから、本当は留める必要は無いんだけれど……。
「ど、どう? 似合ってる……かな?」
……………………………………。
……………………。
…………。
返事がありません。
「ニコ、答えてくれないと恥ずかしいよ」
「はっ。あ、いえ、なんだかそのっ」
「その?」
「か…………可愛すぎて胸がこう……」
「キュンとした?」
「そ、そんな感じです」
嬉しいけれど恥ずかしいです。
不良が猫を拾ったところを見て惚れる女の子みたいな心理でしょうか。
髪飾りを着けるだけで意外性がある女の子とは一体。
「ところで、ニーナとマリーさんはどこへ?」
「あの二人なら向こうの『肉』と書かれている店に入っていきましたよ。東側の特産品を扱っているみたいです」
「肉かぁ。せめて団子であって欲しかったなぁ」
『花より団子』はまだ可愛らしい気がしますけれど、『花より肉』はワイルドすぎるかな。
「だんご?」
「日本の甘い食べ物って言えば良いのかな。こう、柔らかくてモチモチしていて。私は『みたらし』っていう甘いタレのかけられたものが特に好きなんだよねぇ」
「甘いタレ……柔らかくてモチモチ…………。その団子というのは、もしかして穀物で作るのですか?」
「うん。でもお米だから、この世界には無いんだよね」
「いえ、東で採れる穀物を摺って作るものなら心当たりがあります。確か……柔らかくてモチモチで甘塩っぱいタレをかけて食べるとか? もしかしたら二人が入ったあの店に――って、リタ!? 自分で車輪回しちゃダメですよ!!」
「髪飾りなんてただの飾りだから! 偉い人にはそれがわからないの!!」
「うえっ!? ――えっ、それって当たり前じゃ無いですか!? っていうかロメールで一番偉いのってリタですから!」
店に近付くと鼻腔に染み渡るような甘い匂いがしてきました。
このまま、みたらしに塗れてしまいましょう。




